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一 章 ・ 女 中

伍. 酔っ払いだらけの祝宴会場

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総司さんや平助くん以外の参加メンバーにも一人一人お酌をする。
賑わっていた祝宴も酔い潰れた者が増えると徐々に人が減っていった。 


警護だけで動き足りなかった者は稽古場に、戌刻(21時頃)から始まる見廻りの準備で部屋に戻る者、卯刻(6時頃)の見廻りの為に寝る者。 
真面目な者が土間から消えて行き、 酔っ払いだけが土間に残っていた。 


藤堂「本当に酒は飲まないんだな?」
「うん、あんまり強くないから…(向こうでは…未成年だし…)」


組頭のテーブルには一くんや土方さんが居なくなったが他は残っていた。
左隣に座っている平助くんが、心配そうにお茶しか飲んでいない私に視線を向ける。
賑わっているせいで隣にいても聞き取り辛いので、平助くんが耳元付近で声を掛けて来た。
少し驚いたが嫌悪感は無いので、ホッとしつつお酒の味を覚えたいとも思わなくて嘘をつく。


(今日は警護だけって知ってたけど…これからは違う…)


賑わっている会場。
みんなの笑顔を眺めていると、これが現実なのだと痛感する。
史実を読んでいるから、これから起きる事を知っている。
だからこそ悩んでいた。


沖田「桜?どうしたの?」
「んー…何でもないよ」


悩んでいたのが顔に出ていたらしく、心配したらしい総司さんが顔を覗き込んできた。
愛想笑いして返事をするが、総司さんにはバレバレみたいで表情が変わらない。


(……言えない)


総司さんの生死も知っているのに言わないのは卑怯かもしれない。
罪悪感を感じてしまい、膝の上でぎゅっと拳を握り締めた。


原田「オラオラ!宴会が始まるぜぇ!!酒持って来いよぉ!!!」


過去を知っている負い目で罪悪感を募らせているせいで、酔っ払っている左之さんの大声に苛々してしまう。


原田「桜ーっ!酒ーっ!酒持って来いよぉお!!」
「私は先に失礼します…」


大声で酒酒と叫び続ける左之さんの言葉を聞きたくなくて立ち上がる。
言い訳なんて思い付かないので一言伝えてお辞儀すると、急いで立ち去った。


**


心配そうに桜を見つめていた平助は、おもむろに椅子から立ち上がると彼女を追いかける。


沖田「僕も…」
近藤「二人で行けば桜が気を遣うだろう。平助に任せよう」
新八「…齢が近い方が話し易いんじゃねぇかな」


総司も続こうと立ち上がったのだが、近藤と新八に引き止められてしまう。


沖田「…僕には桜を心配する権利があります」


総司は意味の分からない断言を言い切って土間から走り去って行った。


近藤「それなら俺にも権利があるんだが…な」
永倉「俺だって桜を心配してんだけど…」


総司の言葉に苦笑を浮かべた近藤は寂しそうに呟くと酒を流し込む。
同じく総司の言葉に不満そうに呟いた新八も煽る様に酒を流し込んだ。


原田「酒、持って来たぜぇ~」


女中も帰されて隊士しか残っていない祝宴会場。
しんみりした空気の中、台所に行っていたらしい空気を読んでない左之が樽を抱えて戻って来た。


永倉「……祝宴会再開と行きますかあ!」


左之の何も考えていなそうな態度に、気を取り直した新八が叫ぶ。
桜が飲んでいた湯飲みを酒の樽に突っ込むと、溢れんばかりの酒を一気に飲み干した。
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