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17 悪役令嬢、推し不在の五日間を耐える
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その日の朝、私の元に届いたのは、レイナルド卿からの直筆の書状だった。
急な任務により、五日間ほど王都を離れるという。
端正な筆致で綴られた言葉には、定例会議の休止を告げる事務的な連絡の後に「気を抜かぬよう。戻り次第、詳細な報告を求める」という彼らしい厳格な追伸が添えられていた。
そして最後には、私を揺さぶる一言。
「貴女なら、私がいなくても立派に運営できると信じている」と。
私はその書簡を、何よりも尊い聖遺物として、恭しい手つきで胸に抱きしめた。
五日間……。
五日間も生身のレイナルド卿に会えないなんて!
絶望に打ちひしがれる私の心の中で、前世のオタク人格が暴れ回る。
けれど、彼は信じていると言ってくれたのだ。
推しに信じられて、裏切るファンがどこにいるだろうか。
私は孤独という名の試練を、情熱という名の燃料に変えて立ち上がった。
折しも学園では、年に一度の祭典である王立学院芸術祭が幕を開けようとしていた。
「アルマデリア様、快挙ですわ!」
ソフィアが、扇を勝利の旗のように掲げて駆け寄ってくる。
学園長から、工房の出展許可が正式に下りたというのだ。
「新しい文化の紹介は、芸術の未来を切り拓く……。学園長もなかなかお話が分かるお方ですわね!」
「準備を急ぎましょう、ソフィア。レイナルド卿が戻る前日までに、完璧な城を築き上げるわよ!」
放課後の準備は、さながら軍事作戦だった。
広々とした教室に、私たちは知恵と情熱を詰め込んでいく。
ユーフィの実演模写、リオンの魔法加工の展示。
そしてエリーゼは、驚くべき提案を持ってきた。
「アルマデリア様、私に、推し活の哲学、を綴らせてください。なぜ私たちは、これほどまでに誰かの幸せを願うのか……その心理を体系化したいのです」
大判の紙に刻まれた彼女の文章は、美しく、そして深かった。
推し活とは、独占欲という名の牢獄を脱し、純粋な幸福を祈る聖域。その想いに形を与えることこそ、人生を彩る芸術である。
記、エリーゼ・ミラベル。
いつの間に立派なインフルエンサーに……!
レイナルド卿の不在三日目。
私は無意識に、彼の筆致を模倣して『宿題をやりなさい』という偽の置手紙を自作し、自らを律するほどに追い詰められつつも、仲間たちの熱気に支えられていた。
そして芸術祭前日の夜。
最終確認を終えた私の前に、月明かりを背負って一人の騎士が現れた。
「……アルマデリア様。ただいま戻りました」
予定より早く任務を終えたというレイナルド。
少し疲れた様子の彼を前に、私の心臓は爆発寸前の魔導釜のように跳ねた。
「お帰りなさい、レイナルド卿……!」
気を抜くと、駆け寄りそうになる足を必死で止め、私は彼を展示区画へと案内した。
レイナルドは展示の一つひとつを、神殿を巡礼するような厳粛さで見つめていた。
「アルマデリア様、貴女の成長に、私は……」
レイナルドが振り向き、私の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、かつての不信も警戒もなく、ただ深い敬意と――それ以上の熱が宿っていた。ように見える。
「……感服いたしました。だが、一つだけ問題があります」
「え……問題、ですか?」
レイナルドは、ユーフィが描いた自身の特大肖像画の前に立ち、苦笑気味に肩を竦めた。
「これほど熱を込めて描かれた私を、明日、他の生徒たちに見せびらかすのかと思うと……少々、惜しい気がしてしまいましてね」
私は、自分の心臓が今日一番の激しい音を立てるのを聞いた。
急な任務により、五日間ほど王都を離れるという。
端正な筆致で綴られた言葉には、定例会議の休止を告げる事務的な連絡の後に「気を抜かぬよう。戻り次第、詳細な報告を求める」という彼らしい厳格な追伸が添えられていた。
そして最後には、私を揺さぶる一言。
「貴女なら、私がいなくても立派に運営できると信じている」と。
私はその書簡を、何よりも尊い聖遺物として、恭しい手つきで胸に抱きしめた。
五日間……。
五日間も生身のレイナルド卿に会えないなんて!
絶望に打ちひしがれる私の心の中で、前世のオタク人格が暴れ回る。
けれど、彼は信じていると言ってくれたのだ。
推しに信じられて、裏切るファンがどこにいるだろうか。
私は孤独という名の試練を、情熱という名の燃料に変えて立ち上がった。
折しも学園では、年に一度の祭典である王立学院芸術祭が幕を開けようとしていた。
「アルマデリア様、快挙ですわ!」
ソフィアが、扇を勝利の旗のように掲げて駆け寄ってくる。
学園長から、工房の出展許可が正式に下りたというのだ。
「新しい文化の紹介は、芸術の未来を切り拓く……。学園長もなかなかお話が分かるお方ですわね!」
「準備を急ぎましょう、ソフィア。レイナルド卿が戻る前日までに、完璧な城を築き上げるわよ!」
放課後の準備は、さながら軍事作戦だった。
広々とした教室に、私たちは知恵と情熱を詰め込んでいく。
ユーフィの実演模写、リオンの魔法加工の展示。
そしてエリーゼは、驚くべき提案を持ってきた。
「アルマデリア様、私に、推し活の哲学、を綴らせてください。なぜ私たちは、これほどまでに誰かの幸せを願うのか……その心理を体系化したいのです」
大判の紙に刻まれた彼女の文章は、美しく、そして深かった。
推し活とは、独占欲という名の牢獄を脱し、純粋な幸福を祈る聖域。その想いに形を与えることこそ、人生を彩る芸術である。
記、エリーゼ・ミラベル。
いつの間に立派なインフルエンサーに……!
レイナルド卿の不在三日目。
私は無意識に、彼の筆致を模倣して『宿題をやりなさい』という偽の置手紙を自作し、自らを律するほどに追い詰められつつも、仲間たちの熱気に支えられていた。
そして芸術祭前日の夜。
最終確認を終えた私の前に、月明かりを背負って一人の騎士が現れた。
「……アルマデリア様。ただいま戻りました」
予定より早く任務を終えたというレイナルド。
少し疲れた様子の彼を前に、私の心臓は爆発寸前の魔導釜のように跳ねた。
「お帰りなさい、レイナルド卿……!」
気を抜くと、駆け寄りそうになる足を必死で止め、私は彼を展示区画へと案内した。
レイナルドは展示の一つひとつを、神殿を巡礼するような厳粛さで見つめていた。
「アルマデリア様、貴女の成長に、私は……」
レイナルドが振り向き、私の目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、かつての不信も警戒もなく、ただ深い敬意と――それ以上の熱が宿っていた。ように見える。
「……感服いたしました。だが、一つだけ問題があります」
「え……問題、ですか?」
レイナルドは、ユーフィが描いた自身の特大肖像画の前に立ち、苦笑気味に肩を竦めた。
「これほど熱を込めて描かれた私を、明日、他の生徒たちに見せびらかすのかと思うと……少々、惜しい気がしてしまいましてね」
私は、自分の心臓が今日一番の激しい音を立てるのを聞いた。
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