いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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二十九話 郊外演習1

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 通常の馬車では出せない速度で西へと進む。郊外演習だ。

 私は知らなかったんだけど、一学年以外は全生徒が参加している訳じゃないみたい。

 特に教養科の上級生は、不参加の人が多いらしい。

 それで単位は大丈夫なのかと思うけど、それが全然大丈夫なんだとか。

 そもそもこの郊外演習は、一年生の為に行われる意味合いが強いそうだ。

「凄いスピードだな。それに揺れないし」
「ルディの家の馬車は、普通の馬車なんだな」
「ユークス。言っておくけど、僕の家の規模じゃ、イルマ様の馬車なんて買えないからね」

 ルディ君とユークス君が、流れる風景を見ながら馬車の性能について話している。

 今回、学園が用意したのは、パパが昔開発してパヘック商会から売り出された馬車だ。

 サスペンションやダンパーを装備し、揺れないし少々スピードを出しても故障する心配もない。その馬車を轢くのも魔馬なので、普通の馬車とは比べ物にならないスピードで進む。

 それに加えて、王都からロックフォード伯爵領、そしてボルトン辺境伯領に続く街道は、綺麗に整備されているので、それも馬車のスピードが速い理由だったりする。

「あ~あ。どうせならサラマンダーを出してくれたらいいのになぁ」
「それは無理よ、フローラ。バーキラ王国にも何台もないんだから」

 とはいえ、そんなルディ君やユークス君にとっては速いスピードでも、私達には不満しかない速度だ。

 先ず、ツバキの轢く馬車のスピードは、こんなものじゃないし、聖域では私達用のグライドバイクだってあるんだもの。フローラが、遅くてイライラする気持ちも分かる。

 それに陸戦艇サラマンダーは、学園の校外行事に使っていいものじゃない。



 王都から未開地までは、たった三日の行程なのだけど、私達姉妹にとってはとても退屈な時間なのには変わらない。

 それと郊外演習が、未開地で行われるのも、何となく理由は分かった。

 王都からロックフォード伯爵領、そしてボルトン辺境伯領と、国王派の有力貴族家の領地で一泊する予定になっている。ボルトン辺境伯領を出ると、ウェッジフォートまで一日で到着する。まあ、私達はウェッジフォートには寄らないし、ウェッジフォートもボルトン辺境伯の管轄だから、ボルトン辺境伯領と言えなくはないが、それは置いておいて、王子や王女が参加する行事で、信頼の置けない貴族派の領地を経由しないというのは大きいのだろう。




 その後、何事もなくロックフォード伯爵領で一泊し、次の日はボルトン辺境伯領で一泊。私達は遂に未開地へと足を踏み入れた。馬車に乗ってるだけだけど。

「ねえねえエトワールちゃん。未開地では魔物が多いの?」
「大丈夫よシャルル。まったくいない訳じゃないけど、魔境に近寄らなければ、そうそう遭遇する事はないと思うわよ」
「そうだね。同盟三ヶ国の騎士達が巡回警備しているし、聖域騎士団の巡回もあるしね」
「そうなんだ。よかった」

 馬車が未開地に入ると、シャルルが不安そうに聞いてきたけど、実際それ程魔物を心配しなくてもいいと思っている。

 パパが言うには、聖域が出来て精霊樹が地脈や大気中の魔力を浄化するようになってから、未開地でも魔境以外では魔物の遭遇率はぐんと下がったらしい。

 まあ、それでもトリアリア王国が、聖域から比較的遠い南の海沿いを開拓した時は、結構魔物の氾濫があって被害を出したそうだけど、ウェッジフォート付近なら大丈夫だとパパは言う。

「最初にウェッジフォートを造った時に、大規模なスタンピートがあったからね。それ以来、あの規模の魔物の氾濫はないかな」って言っていた。

 サラッと大規模なスタンピートがあったって言ってるけど、それをパパ達は何時ものメンバーで殲滅したって言うんだから凄いよね。

 まあ、パパ達の強さは今更だから置いておいて、私達はウェッジフォートへ向かう街道を南にそれて、演習予定地へと向かう。

 ウェッジフォート付近なら、魔物も出没する事なく安全なんだろうけど、それじゃ郊外演習にならない。この郊外演習では、生徒達が協力して魔物に対処し、力を合わせて野営する。魔物と一匹も遭遇しないのでは意味がない。

 特に、教養科の貴族子女と普通科の平民出身の生徒は、レベルを上げるという目的があるのだから。

 騎士科は知らない。だって、騎士を目指す貴族のボンボンは、だいたい子供の頃から護衛付きでパワーレベリングしているから。まあ、角ウサギやゴブリン、コボルトなんかの弱い魔物に、トドメを刺すだけらしいけどね。

 バスク君は、近衛騎士団を目指しているだけあって、そんな促成栽培みたいなパワーレベリングじゃなかったって聞いた。ロードラッシュ伯爵家は、一応国王派で武に偏った家柄らしく、普通に魔物とは戦ってレベルを上げてたんだって。だから、対人戦以外にも魔物との戦闘も問題ないと言っていた。

 まあ、バスク君も武術研究部に入ってから、春香やフローラにこてんぱんにやられながら、訓練に励んでいるから大丈夫だろう。


 そして大きな問題もなく、私達は野営地へと到着した。

 それぞれ学園から支給された、魔物除けの魔導具を設置し起動させる。

 この手の魔導具も、パパが作った物なので、この未開地に出没する魔物程度なら余裕で防げる。


 そして、それぞれクラスごとに分かれてテントを張り、郊外演習の準備をする。

 教養科は、貴族家の令嬢達に自炊の準備など無理なので、従者や護衛が代わりにしているけど、騎士科や普通科は勿論自分達の事は自分達で行う。

 その後、グループの中から人選し、それぞれ装備を整え、今日の夕飯の獲物を狩りに行く。まったく獲物を狩れない場合には、学園側から支給されるけれど、減点になるらしい。

「さて、自分達の食べる分だけなら簡単だね」
「フローラ、今日は魔境に入っちゃダメよ」

 手早く装備を整えたフローラが張り切っている。でも今日は魔境に入るのは禁止されているので、一応言っておかなきゃ。

「分かってるよ。でもこの辺の魔境は小さくて強い魔物もいないよ」
「フローラ。私達は平気でも、まともに戦った事のない人もいるんだから、強い弱いじゃないよ」
「分かったよ、春香お姉ちゃん」

 普通科は特に平民ばかりなので、魔物と戦った経験のない人がほとんどだ。そんな人達をサポートして欲しいって先生達からお願いされてるから、安全第一でいかなきゃね。





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いずれ最強の錬金術師?の15巻が発売されました。

よろしくお願いします。





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