いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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後日談百三十一話 撃退

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 待ち受ける僕達への初手は矢による奇襲だった。

 まあ、随分と手前から動きを察知していたので、奇襲とは呼べないかもしれないけれど、問答無用で矢を射かけたんだから奇襲と言ってもいいだろう。

 魔法師団と僕とアカネの魔法障壁に阻まれ、放たれた矢はパラパラと落ちる。

 落ちた矢をチラッと見ると、鏃が濡れているのに気が付いた。

 いきなりの奇襲攻撃に加え、毒矢を使う奴らに、みんなが激怒したのが分かる。

「タクミ! 奴ら、島民も居るのに毒矢って、どうなのよ!」
「……ギッタンギッタンにしてやるニャ」

 ほら、特にアカネとルルちゃんが激怒している。

「あ、アカネ、出来るだけ抑えてね。ルルちゃんも」
「分かってるわよ。極力魔法は使わないわ」
「ルルも、ナイフは使わないニャ」
「そ、それなら大丈夫かな」

 アカネは愛用の杖を脇に構え、ルルちゃんは胸の前で拳を打ちつける。

 そんな時、余計な声が聞こえてしまった。

「ちくしょう! 突撃だ、野郎ども!」

 ことごとく矢が防がれ、苛立ち焦れた族長が突撃の号令をしたんだ。ただ、その後が良くなかった。

「手足を切るくらいは構わねえが、女は殺すなよ!」

「ルルッ、行くわよ!」
「はいニャ!」
「あっ!」

 アカネが駆け出し、バリケードとして置いてあったサラマンダーと防壁の隙間から外へと飛び出して行った。

 それに呼応するように、聖域騎士団の精鋭が駆け出した。

 多分、族長の一人だろう奴が発した言葉は、アカネやルルちゃんだけじゃなく、聖域騎士団全員を激怒させた。

 今回、この遠征に出陣している聖域騎士団は約三百人。およそ千五百人集めたアイツらと比べると、人数では相手が圧倒的に上だけど、五倍程度の差なんて意味がないくらい、レベルも装備も奴らとは全てが違う。

 その結果は、一方的な戦い。こっちがその気なら蹂躙と呼べる結果になっていただろう。



 おっと、僕も働かなきゃ。

 みんなの後を追って防壁の外に出た僕に、矢が数本襲いかかる。

 飛来する矢を抜き放った二本の愛剣で斬り捨てる。

 聖剣ヴァジュラと聖剣フドウ。

 光と雷の属性を持つヴァジュラと、光と火の属性を持つフドウの二振りの聖剣。この島の戦力を相手にするには過剰戦力なんだけど、扱い慣れた剣の方が手加減もしやすいんだ。

 矢を斬り捨てた僕は、フドウを腰に納めヴァジュラを右手に駆け出す。

 突き出される槍の穂先を避けながら切り、間合いを詰め左手で掌底を撃ちこむ。勿論、手加減に手加減した一撃だ。本気なら弾けてバラバラの肉片になりかねない。とはいえヴァジュラで峰打ちなんて危ない。

 ヴァジュラとフドウは片刃だし、素材がオリハルコン合金なので少々乱暴に扱っても平気なのだけど、峰打ちとはいえアイツらが持っている鉄の剣よりも遥かに強い武器になるからね。

 相手の攻撃を避けながら掌底や蹴りで無力化していく。

 ローキックなんか手加減してても一発で脚の骨は折れるか粉砕するけれど、僕達を殺し女性の団員を攫うつもりで襲いかかって来ているんだ。因果応報、自業自得だ。死ぬよりはマシだろう。


 周りを見渡すと、聖域騎士団が縦横無尽に駆け、襲撃者達を蹴散らしている。

 槍や剣も騎士団の盾を強く当てると、穂先や剣身が砕け折れる。

 盾を持たない騎士団員も、その鎧に攻撃が当たる事はない。そもそもの自力が違い過ぎる。

 レベル差により身体能力に大きな差がある。それに聖域騎士団にレベルに驕る人間は居ない。常に各種戦闘系スキルを研鑽する事を忘れない。例えまぐれで攻撃を当てられたとしても、装備する防具も材質は大陸一だし、それに付与されている魔法も合わせると擦り傷一つ付けるのは難しい。


 聖域騎士団の団員達は心配なさそうだ。そう思い、更に視線を前方に移すと、アカネとルルちゃんが大暴れしていた。

 純粋な魔法使いタイプのアカネだけど、今日は杖術一本で片っ端から蹴散らしている。

 ルルちゃんは手に革の手袋かグローブのようなものを着けている。多分、レーヴァが作った装備だろう。そうなるとその革は間違いなく上位の竜種だ。今のルルちゃんが本気で殴れば、奴らの胴体に風穴が空くだろうな。

 そのルルちゃんは、猫の獣人族である種族特性を活かした超スピードファイター。襲撃者達は、そのルルちゃんの姿を捕捉する事も出来ず、訳も分からず吹き飛ばされていた。

 小柄なルルちゃんが、パンチやキックで花火のように大人の男を打ち上げ、襲撃者達が地面に叩きつけられる光景はマンガみたいだ。



 そんな光景を視界の隅で見ながら、僕も手近な奴を相手取る。いや、基本一人一撃なので相手取るってほどでもないかな。

 族長勢力による襲撃は急速に収束していく。それはそうだ。人数が五倍だったとしても、僕達が一人頭五人倒せば終わるんだから、あっという間に終わる。


 地面に転がる襲撃者達を見渡し、そこに大声で命令を下していた男達の姿が見えないのに気付く。

 すると少しスッキリしたようなアカネとルルちゃんが近付いて来て教えてくれた。

「族長達でしょう。開戦早々に逃げ出したわよ」
「ああ、騎獣に乗ってたもんね」
「タクミ様、追っ掛けるニャ?」
「いや、いいよ。後片付けが先だね」
「そうよね。面倒だわ」

 それぞれの地区の族長達は、余りの力の違いに、開戦早々に逃げ出したという。アイツらと取り巻きだけ騎獣に乗ってたから逃げ足だけは早かったみたいだ。

 ルルちゃんが追い掛けるかと聞いてきたけれど、今はそれよりも後片付けが優先だ。僕はそう言って地面に転がる大勢の襲撃者を見て溜息を吐く。

 重傷者が多いし、亡くなっている者も残念ながらいる。取り敢えず、そのまま放置すると死にそうな奴らへ、僕とアカネで最低限の回復魔法をかけていく。



 そこにガラハットさんがモルド神父とシスター見習いのコリーンちゃんや、他の地区の教会関係者の人達を連れてやって来た。

「襲撃者達について、今後の話をしようと思っての」
「ああ、そうですよね。このままって訳にはいかないか」
「はい。私達には戦う術がありませんので」

 ガラハットさんが、騎士団員が一先ず拘束している襲撃者達の処遇について相談してきた。ただ、モルド神父は自分達には荷が重いと困り顔だ。

 それはそうだよね。聞くところによると、この襲撃者の大半は各地区の族長達の私兵だけど、中には無理矢理徴兵された人も混ざっているそうだ。

 狩りの腕が良い島民は、それなりに優遇されていたらしく、そんな人達は小競り合いの時なんかの臨時の戦士として徴兵されるんだとか。

「族長達の私兵の中には、非道な振る舞いをしてきた者も少なくないのです」
「うーん。このまま残すのは問題か。でも貴重な労働力でもあるんですよね?」
「いえ、彼等は自分達の為にしか狩りはしませんでしたから」
「なら居なくなってもいいのか」

 モルド神父としては、このまま集落が元の状態に戻るのは避けたいようだ。当然の話だ。

「シルフかウィンディーネに選別してもらうか」
「それがいいでしょうな。罪が軽く島に戻しても問題のない者と、罪が重くそのままでは戻せぬ者は選別せねばなるまい」
「ええ、それに逃げ出した族長達もそのままには出来ませんしね」
「うむ。まあ、そっちは急がんでもよかろう」
「はい。人数も少ないですから」

 ガラハットさんと話し合って、いつも精霊頼りなのは申し訳ないけれど、シルフかウィンディーネに罪の軽重を選別してもらう事に決めた。逃げた族長達は後回しでいいだろう。今更、あの少人数でなにか出来ると思えないしね。

 族長達は、それぞれ東西南北の自分達の屋敷に戻っている途中みたいだしね。もう纏まる事もなさそうだ。

 だからといって何も無しには出来ないけど。





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