不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百四十六話 みんなで工事

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 草原地帯に聳える高い城壁。つい最近、というか昨日、俺の気まぐれでアウロラと名付けられた城塞都市から目と鼻の先に俺は来ていた。

 楽しそうな子供の声が聞こえる。そう、今日はミルやララに加え、孤児院のポーラちゃんも一緒だ。

「「「わぁーい!」」」
「ミル! ララ! 勝手に遠くに行かないのよ! ポーラちゃんもね!」
「ポーラちゃん! 待ちなさい!」

 街の外に出てテンションが高い子供達を、ミルとララの母親であるルノーラさんが追いかける。その後をポーラちゃんの付き添いで来ているシスターのアーシアさんも居る。

 ミルとララ、ポーラちゃんは、それぞれ猫系の従魔であるクロとシロ、マロンに乗っているので、この辺りにイレギュラーで魔物が出没したとしても平気なんだけどな。

 アーシアさんも従魔であるグリースを連れている。グリースは、普段はアイリッシュウルフハウンドっぽい見た目だけど、大きくなると双頭のオルトロスとなる。まあ、この辺りじゃ番犬としては十二分の実力だ。



 はしゃぐ子供達は、ルノーラさんとアーシアさんに任せて、俺はセブール達と村を造ってしまおう。

「旦那様、この範囲で外壁をお願いします」
「了解。……街道を壊さないように気をつけてっと」

 セブールから村の範囲をマーキングしてもらい、俺は村の範囲を生えている草を取り除き、平面に押し固める。その時、既にある街道を壊さないように気をつけながら地面を均す。

 そして基礎工事を一瞬で終えると直ぐさま外壁で村を囲った。

「よし。こんなものか」
「はい。十分だと思います」

 高さ三メートル、幅三十センチの外壁を確認。セブールからもOKをもらえたので、次の作業に移るか。

 冒険者用の村は、既にある街道が村の中央を走る形で外壁を囲った。門は東西に二ヶ所。村の規模としてはそれ程大きくない。それは普通の村のように、農地などが必要ないからだ。

「えっと、井戸はこの辺りとあそこら辺の三ヶ所でいいか」
「はい。あとはポンプを設置すれば問題ないと思います」
「森神様。申し訳ないのですが、この広場予定地近くにもお願いできますか」

 俺が地下の水脈を確認しながら、サクサクと井戸を造っていると、冒険者ギルドの支部長グランツから広場予定地の近くにも欲しいとお願いされる。

「それは構わないが」
「冒険者がある程度自由に使える水場があると助かるんだ」
「なる程。ここまで護衛で来る冒険者なら、最低でも安宿には泊まれるだろうけど、宿が一杯で野営を強いられる場合もあるかもな」

 行き来する商人が増えるだろうとはいえ、それ程多くの人間が滞在する事は想定していない。宿が一杯で泊まれないからといって、村の外で野営は危険だ。

「では私は宿の縄張りをしてまいります」
「じゃあ俺もダーヴィッド殿下と相談しながら冒険者ギルドの縄張りをするか」

 セブールとグランツが、宿と冒険者ギルドの支部建設予定地へと向かった。それを俺は見送りながら、井戸にポンプを取り付ける。

 井戸用のガチャポンプは、俺の空間収納の中に売るほどあるからな。



 井戸を完成させた俺の所に、ミルとララ、ポーラちゃんがやって来た。

「お兄ちゃーん! ミルもお手伝いする!」
「ララもお家建てる!」
「ポーラもお手伝いできるよ!」
「ミル! ララ!」
「ちょっとポーラちゃん!」

 どうやらお手伝いがしたいらしい。あとから追いかけて来たルノーラさんとアーシアさんが止めようとするけど、クロやシロ、マロンに乗ったミル達は止まらない。

 ダーヴィッド君達も、普段からアウロラの街でシロ達に乗る子供達を見慣れているから驚きはしないが、だからといって止めに入るなんて無謀な事はしない。

 シロやクロ、マロンも普段はともかく、子供達が乗っている時は虎よりも大きいし、魔物のランク的にも魔王国の兵士が束になっても抑えきれるか分からないレベルだからな。アーシアさんの従魔であるグリースもデカい双頭のオルトロスだけど、あいつはシロやクロ、マロンの子分的な立ち位置らしく怖さはないみたいだ。

「そ、そう。なら、お手伝いしてもらおうかな」
「「「わぁーい!」」」
「シグムンドさん、すいません」
「シグムンド様、ポーラが申し訳ありません」
「いえいえ、魔法の練習と思えばいいんですよ」

 子供が大人のお手伝いしたがるってあるよな。ルノーラさんとアーシアさんが申し訳なさそうに頭を下げるが、これは丁度いい機会だと考えよう。

 本来なら小さな子供に村造りのお手伝いなんてあり得ないんだろうけど、ミルとララ、ポーラちゃんなら話は違ってくる。

 ミルとララは、魔法に高い適性を保つエルフだ。ポーラちゃんは人族だが、孤児院の子供の中でも一際レベリングに熱心な子で、魔法の素養も高かった。それに加えてミルとララは、魔力で繋がる眷属でもある。セブールやリーファのように血を分けた眷属ほどの規格外の力はないが、それでもエルフという種族の理を超える力を得ていた。この子達の場合、普通の子供がお手伝いするのと同じに考えちゃいけない。


 とはいえ俺のように、何も無いところから創造するのはまだ無理だ。なので建物の元になる材料が必要になる。

「ダーヴィッド君。雑貨屋の場所と縄張りは出来たかな?」
「は、はい! ここです。地面に線を引き、一応図面も用意しました」
「ありがとう。ミル、ララ、ポーラちゃん、ここに資材を出すから、この図面の通りに造ってみようか」
「任せて!」
「何回もお兄ちゃんが建物建てるの見てるもん!」
「ポーラも頑張るよ!」
「ルノーラさんはサポートお願いします」
「分かりました」

 ミルとララは、俺が色々と造るのを見ているので、魔法を発動するイメージがしやすいだろう。攻撃以外にも日常生活の中で色々と魔法を使うから、ミルとララもそれが普通だと思っている。

 セブール曰く、生活の中で魔法を便利使いする奴なんてほぼ居ないらしいけどな。



 必要量の資材を積み上げてから、ミルとララとポーラちゃんに、造り方のアドバイスをする。

「じゃあ壁を一面ずつ造ってみようか」
「「「はーい!」」」

 子供達が魔力を制御し壁が一枚立ち上がる。俺は歪みや傾きがないよう補佐しながら、立ち上がった壁が倒れないよう強化しておく。

「上手い上手い。この調子で壁を立てていこう」
「でしょ!」
「このくらい簡単だよ!」
「ポーラも出来た!」

 さりげなく分からないようポーラちゃんのサポートをしつつ雑貨屋の壁を完成させ、扉部分などは俺が正確に繰り抜き、屋根を造る。

 ある程度工事が進んだ時点で、俺は助っ人を呼んでいた。

『マスター。この建物の仕上げですね』
「トム、わざわざすまないな。窓枠や扉、天井や壁板や床板をお願い」
『了解しました』

 元ウッドゴーレムのトム。今はクラフトマン系に進化し、農業から木工細工まで熟す、うちの古参組みだ。

 今回は、建物の中で木材が使われる部分をトムに任せる。植物魔法が使えるトムなら、木材の扱いなんて自由自在だからな。

 トムが合流してから建築スピードは加速した。

「やったー!」
「お兄ちゃん! つぎ!」
「つぎはどこ?」

 俺やルノーラさんがフォローしながらでも一軒の雑貨屋が完成した事が嬉しいのか、子供達は次の建物を建てると張り切っている。

「シグムンドさん、本当にすいません」
「いや、これも魔法の練習と思えば、ねっ」
「お兄ちゃん! 早く早く!」
「はいはい」

 さすがに宿屋は建物が大きいから任せられないので、竜人族の駐屯用の建物や魔王国の兵士用詰め所、冒険者ギルドの支部を俺やルノーラさんがサポートしながら建てていく。


「そうだ。ダーヴィッド君、グランツ殿、宿屋の窓はガラスを入れるのか、それとも板戸にするか、どうする?」
「ガラスは贅沢でしょう」
「そうだな。冒険者の宿なんて板戸が普通だ」

 宿屋の窓枠に入れるガラスをどうするか、ダーヴィッド君とグランツ支部長に聞くも、この世界ではガラスは高価なので、普通宿屋の窓には使われないらしい。

「なら高級宿にだけガラスにするか。強化の付与をしておけば、そこらの冒険者が攻撃しても破れないだろう」
「草原地帯に護衛で来る冒険者が攻撃しても破れないガラス窓って方が怖いが、森神様だしな」
「ええ。それでいいと思います」
「了解。じゃあ高級宿の内装はダーヴィッド君頼むね」
「お任せください。職人は手配済みです」

 さすがに高級宿に板戸はと思った俺は、そっちはガラス窓にして、少々の事では破れないよう付与する事を提案した。カーテンや壁紙やベッドや調度品などは、事前の打ち合わせ通りダーヴィッド君が手配してくれる。高級宿の壁が剥き出しの石って流石の俺もダメなのは分かる。

 さて、魔道具を設置していかないとな。

 灯りの魔道具は、天井に設置するシーリングライト型。持ち運び出来るタイプだと、その気が無くても出来心でついってありそうだ。盗まれないように工夫するつもりだけど、盗まれ難いようにするのも大事だ。

 村の規模が小さいから早く終わりそうだな。








 冒険者ギルドの支部長であるグランツは、目の前の光景に呆然としていた。

「なぁ、ダーヴィッド殿下。幼児が魔法で建物を建ててるんだが、これは魔王国じゃ普通なのか?」
「そんな訳ないじゃないですか。魔王国でも魔法は戦いの時に使うだけですよ。それにこんなに繊細な魔法の制御、我が国でも出来る者はほとんど居ないのではないですかね」
「だ、だよな」

 グランツの目の前では、ミルとララ、ポーラの三人が、シグムンドやルノーラが影ながらサポートしているとはいえ、魔法だけで立派な建物を形造っている。

 それを楽々と熟す魔力量にも驚きだが、正確で繊細な魔法の制御にも驚きしかない。

「それに殿下や竜人族の長老は平気な顔してるが、あの子達が乗ったりしてるの、ヤバイ魔物だよな? あの魔族のシスターが連れているのだって、伝説級の魔物じゃねぇのか?」
「ああ、シロちゃんとクロちゃんとマロンちゃんですね。それとシスターアーシアの従魔のグリース君です。当然、強い子達ですよ。深淵の森をミル嬢達を乗せて行動できるくらい」
「予想以上にやべぇやつだった」

 冒険者ギルドの支部長グランツが、シロ達を見て顔を引き攣らせるのも仕方ない。それだけのランクの魔物なのだ。

 ただ普段からアウロラでよく見ているダーヴィッドや、集落でスパルトイやマザーキラープランツなどと共存している長老からすれば、どうって事はない。

 そもそも長老は信仰対象の黄金竜がアウロラにいる事を知っているのだ。高ランクの魔物程度と感覚がおかしくなっていた。

 グランツも竜人族の集落を通過した時に、よく観察していれば、そのヤバさに冷や汗が止まらなかっただろうが、疲れていたグランツは集落を通過した時、馬車の中でぐっすり眠っていて気付かなかった。

「支部長。シグムンド殿の眷属は基本、我々の手に負えない存在ばかりですよ。深淵の森の主人というのはそういう事です」
「……あ、ああ、そうだったな。古竜が暮らす街だったな。その古竜に頼られるのが森神様だったな」

 改めてシグムンドのヤバさを理解したグランツ。ダーヴィッドに関しては、最初がタイラントアシュラベアのアスラにビビらさせているので、あとは少々の事でも、シグムンドだから仕方ないと無理矢理納得できるようになっている。



 深淵の森素材の取り引きという重要案件を任されているグランツ。基本的にアウロラの合同買取所に常駐し、冒険者用の村の支部も統括するのだが、後に他の支部へと仕事で向かう際、竜人族の集落の現状を見て、顎が外れる程唖然としてしまうのは少し先の話。





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