不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百五十一話 調整作業

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 魔王国の兵士に連れて来られたのは、背後手に手枷を嵌められ口には猿轡され、不満そうな表情を隠そうともしない男達五人。

「ダーヴィッド君、二人を解放して剣でも持たせてくれる」
「分かりました」

 手枷と猿轡を外された二人の男が悪い顔で目配せしているけど、余りにもバレバレで呆れる。

 グランツ支部長は、どうすればいいか戸惑っているが、オオ爺サマやジータは勿論、セブールやダーヴィッド君までが落ち着いているので口に出せないみたいだ。

「勝った方にご褒美あるかもよ」

 こいつらは重犯罪者。西方諸国連合で罪を重ね、逃げて来た草原地帯でも罪を犯そうとした愚か者共だ。魔王国に送られて死罪の予定だが、わざわざ魔王国に送って処分ってのも面倒なんだよな。だから一応勝った方に恩赦って訳じゃないけど、鉱山送りにしようかと思っている。

 まあ、鉱山送りも死罪と変わらないと言われればそうなんだけどな。俺やセブールに処分されるよりマシだろう。



 そして案の定、開始の合図が掛かる直前、枷を外され剣を渡された二人は、突然俺に向かって襲いかかって来た。

「死にさらせ!」
「バカがっ! わざわざ武器をくれるなんてなぁ!」

 魔力と気配を抑えてるからかな。見た目は弱く見えた? さすがにそれは無いと思うんだけどな。まぁ、俺は丸腰だしな。狙いやすかったのかもしれないな。

 多分、そんな思考からか、剣を持った馬鹿共は、これだけ居る中で俺を狙って襲って来た。

「あっ、バカだ。こいつら」
「身の程知らずですね」
「ホッホッホッ」
「人間は愚かですね」
「……はぁ、今すぐ全員この場で処刑してやりたい」

 グランツ支部長とセブールが呆れている。オオ爺サマなんて面白そうに笑い、ジータはこいつらの愚かさに嫌悪感を隠さない。ダーヴィッド君はストレスで爆発しそうだな。後で何か贈っておこう。

「はぁ……」

 パシッ!

 余りの遅い攻撃に、襲われる側なのに溜息が出る。

「「ヘッ!?」」

 俺は何でもないように二人の剣を素手で掴んで止める。普通の人間が、俺を傷付けられる訳がない。

 バキッンッ!

「「なっ!?」」

 そのまま少し力を入れて、剣を粉々に粉砕してやると、信じられないものを見たという感じで驚愕の表情で固まるバカ二人。

 俺は両手の中指で驚き動きが止まった男達の額を弾く。うん。デコピンってやつだ。

 ビシッ!

「あっ、片っぽ死んだな」

 結界の調整が目的だから、手加減はしているけれど、それでも一応殺す気でデコピンしたんだ。そうじゃないと結界が機能しているか分からないからな。で、結果、片方の男の頭が陥没して吹っ飛んだ。うん、即死だな。

 もう片方の男は瀕死だがギリ生きている。

「これって、個々の生命力を考慮した結界にしないとダメっぽいな」

 死に掛けている男に回復魔法を掛けながら、どう結界を修正するか思案する。

「失敗だな」
「ふむ。一定量のダメージをカットするという方向性ではダメなようじゃな」
「ですね。個人差って結構大きいみたいだな」
「その人間の生命力を測り、死なない程度のダメージを割り出すとなると、かなり術式が複雑になりますな」

 一定量のダメージをカットするって考え方はダメみたいだ。生命力の違いを測ってダメージを調整する方向で組み込むか。セブールが言うように、かなり複雑な術式になるな。

「え~と、一定量以上のダメージをカットするのはそのままの方がいいな」
「そうじゃな。ワシやシグムンド殿はともかく、ジータ達がある程度本気を出して闘える環境が望ましいと思うぞ」
「ですよね。この闘技場で魔物を相手に闘う事はないだろうから、人間基準で最悪死なない程度っと」

 オオ爺サマと話しながら術式を組んでいく。ところどころでオオ爺サマやセブールからのアドバイスが入り、その都度微調整を重ねる。

 この闘技場は、あくまで冒険者達のガス抜きが目的なので、ローマのコロッセオのように人間が猛獣と戦うような事はない。まあ、この世界なら魔物を相手って事だな。ただ、人間といっても種族間の差異が大きいのもこの世界だ。その辺りの調整が難しい。

 真面目なジータだが、この手の魔法は苦手らしい。もともとが南の邪神が封印された大陸に棲んでいた属性竜なので、細やかな魔法を使う必要がなかったという理由がある。

 そして実は、あの口から生まれたんじゃないかと思うお調子者、風竜の竜人ゲイルは意外と細やかな魔法が得意だったりする。

 風竜時代から風に任せて世界をふらふらしていた変わり者の竜だったゲイル。人間の観察も好きで、竜の魔法以外にも色々と知識を身に付けていたらしい。

 まあ、今もゲイルは比較的人間に好意的だしな。ふらふらと西方諸国まで遊びに行く事も多いくらいだ。あいつ、古竜達のお世話係りとして誕生したのに、何やってるんだよと思わなくもない。実際、真面目なギータや氷竜のグラース、水竜のメールなんかによく叱られているからな。



 なんて思考は横道に逸れまくるが、その間にも結界の修正はどんどん進む。いや、もはや修正じゃないな。作り直しだ。

 よく考えたらこの世界は色々と面倒なんだよな。同じ種族の中でも個人差があるのは当たり前だ。だけどこの世界は、そこにレベルの差が能力の差として追加される。俺が孤児院の子供をパワーレベリングするのも、それを利点と考えての事だからな。

 となると一定量のダメージをカットするだけじゃ足りない。舞台に立った者の生命力が半分以下にならないようにするべきだな。これ、いちいち細かく鑑定する必要はないな。大雑把に生命力を把握して、それが半分になったら、それ以降のダメージをカットするって感じでいいか。

 普通に考えて、生命力が半分って大怪我だしな。中級のポーションなら回復できるだろうけど、初級のポーションでは足りないだろう。

 まあ、何も決着が相手に大ダメージを負わせる事じゃない。その前に気絶する者も多いだろうし、心折れる奴らも居るだろう。そんな奴らには初級ポーションで十分事足りる。

「よし! こんな感じかな」

 追加で罪人が要らないようにしないとな。




 グランツは目の前の光景を見ながらも、いまだ信じられない気持ちで一杯だった。

「魔法使いじゃねえ俺が解らないのは当然だが、それでもこれが普通じゃない事くらい分かるぜ」
「グランツ支部長は、最近草原地帯に来ましたから仕方ないですよ。もう考えるのは諦めて、シグムンド殿や黄金竜様は、神に近い存在だと思っておけば気が楽ですよ」

 闘技場の舞台に施される、余りにも複雑な術式に、現役時代近接戦闘が専門だったグランツが見ても、それが尋常ならざるモノだと理解できた。

 そう呟いたグランツに、ダーヴィッドが諦めて受け入れる事ですと肩を叩く。

「そもそもデコピン? って森神様は言ったが、指一本で軽く弾いただけで、ダメージをカットする結界を破ったって、どんだけだよ」
「グランツ支部長。あれ、シグムンド殿は手加減に手加減を重ねてますからね。勿論、死なない程度のダメージに収まる結界のテストですから、普通なら死ぬ威力なのは間違いないですが、あんなのシグムンド殿からすれば、蚊を叩き潰すより優しい一撃なんじゃないかな」
「……聞きたくなかったぜ」

 ダーヴィッドや最初からアウロラに暮らす者なら、シグムンドの強さが自分達の想像の外にある事は知っている。

 オオ爺サマ達古竜が、邪神の結界を護らなくてもよくなった経緯も何となく伝わっているし、あの人化前の黄金竜バージョンのオオ爺サマが、シグムンドに助けを請うた事も知られている。

 合同買取所絡みで草原地帯と関わるようになったグランツ支部長も、ぼんやりとはシグムンドの凄さは知っているつもりだった。

 タイラントアシュラベアのアスラや多くのゴーレムを眷属とし、冗談のような規模の城塞都市や岩山の城を創りだしたのだ。尋常な存在ではないのは当然ながら、それを実際肌で感じる事がなかった。

 少し前までは、オオ爺サマも古竜の状態で草原地帯に居たのだが、今では人化してアウロラ内の屋敷で暮らしているので、古竜の姿もまだ見た事がない。まあ、古竜に関しては、他の古竜達がそのうち飛来してくるだろうが、あいにくグランツ支部長はタイミング悪くその機会がなかった。

「グランツ支部長。シグムンド殿は、深淵の森の支配者ですよ。いえ、草原地帯を含めた大陸東部の支配者ですね。神の如き力があって当然です」
「は、ははっ、そうなのか?」

 ダーヴィッドとグランツ支部長が、シグムンドという存在について話しているうちにも結界の修正が終わったようだ。勿論、ダーヴィッドやグランツに理解できる訳もない。

「よし! こんな感じかな」

 シグムンドの指示で次の囚人二人の枷を外し剣を渡す。

 さすがに先程の惨状を見ていただけあり、シグムンドに襲いかかる事はなかった。

 二人は必死で戦い始めた。死罪待った無しの罪状ながら、それでも己は死にたくないらしい。それなら真っ当に生きればいいのにと呆れた表情になるダーヴィッドだった。





 二回目のテストの決着はダブルノックアウト。両者その場に倒れる。

「よしよし。両方とも死んでいないな」
「ふむ。瀕死まではいっていないので成功じゃろう」
「あきらかに想定以上のダメージをカットしていました。成功だと思います。ただ旦那様、片方は腕が斬り落とされています。これは不味いのでは?」

 結果に頷く俺とオオ爺サマだが、セブールから一人の腕が斬り落とされた部分が問題だと指摘があった。

「直ぐに繋げて中級ポーションをかければ大丈夫だろうけど、上手く繋がらない場合もあるか」
「はい。あと首を斬られた場合、おそらく斬り落とされる途中で剣が弾かれると思われますが、首は少しの傷でも死に繋がりますから」
「その辺は大丈夫だ。一定量以上のダメージをカットするという事は、それ以上ダメージが入らないってのに加え、そのダメージで死ぬ事はないようにしてある」
「なる程、回復魔法まで組み込んであるのですね」
「死なない程度の最低限だけどな」

 一応、致死のダメージを受けないように術式は組まれている。この辺は結構曖昧でも成り立ってくれるのが魔法のいいところだ。だからセブールが心配するような首チョンパは心配要らない筈。

 ただ首には肌の近い場所に動脈が流れている。それを傷付けられないようになっている筈だけど、これは検証しないといけないな。組み込まれた回復魔法も、どの程度思う通りに発動するかだな。

「一応、首を斬り落とすつもりで攻撃してみるか」
「そうじゃな。結界の術式が上手く発動すれば、死にはせんじゃろう」
「その前に、四肢も完全に斬り落とされないよう微調整してみるか。と、あと1人だったな。ダーヴィッド君、お代わり頼めるかな」
「分かりました。あと三人程連れて来させます」

 やっぱりこういった繊細な魔法は面倒だな。



 その後、ダーヴィッド君に連れて来られた罪人を目一杯使って結界の修正をしていった。オオ爺サマのアドバイスもあり、何とか満足できる結界が完成したんじゃないだろうか。

 俺は観覧席と舞台を隔てる防御結界と、冒険者が決闘で死なないようにする安全装置としての結界、この二つの結界を魔道具にしないといけない。

 防御結界の方は、魔族なら一人で魔石への魔力補充が可能だろうが、色々と複雑になった安全装置としての結界の方は、魔石を幾つかに分散しても一人じゃキツイかもしれないな。まぁ、ダーヴィッド君なら余裕だろう。

 さて、闘技場の建物自体の強化も付与してしまおう。






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