不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百五十二話 闘技場は盛況のようで

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 闘技場の結界は魔道具に置き換えられ、問題なく稼働しているらしい。

 因みに、セブールやグランツ支部長からもの言いがついた転移だけど、結局術式に組み込んだ。大ダメージを受けたら、回復と同時に舞台の外に排除したいからな。



 ダーヴィッド君曰く、今のところ中級ポーションが必要な怪我は少なく、ほぼ初級ポーション一本もしくは二本で済んでいるそうだ。

 この草原地帯まで護衛依頼を受けて来る冒険者は、それなりにランクが高いそうで、中級ポーションでも借金する者はほとんど居ないんだってさ。

 で、今日はその後の様子をダーヴィッド君とグランツ支部長に聞いていたんだ。

「へぇ、盛況なんだ」
「はい。ケンカの類いはほぼ無くなりました。闘技場の稼働率が高くて、専任の兵士が必要なくらいです」
「冒険者ギルドも職員を追加で派遣するよう依頼したぞ」
「それ、盛況過ぎない?」

 闘技場が賑わって、ケンカの類いが無くなったのは喜ばしい事だ。オオ爺サマと相談しながら、ああでもない。こうでもないって結界を張った甲斐がある。ただ、ケンカの代わりに、護衛依頼に影響しない形で用意した闘技場が、そんなに盛況とはこれいかに。

「森神様。冒険者って奴は、自分が強いと思っている奴が多いのさ。自分よりランクが高い相手でも、勝負すれば勝てると思っている奴はそれなりにいるんだ」
「それに加えて、娯楽に飢えた者達に、いい賭けの対象ですから。盛り上がるのは仕方ないですよ」
「なる程。しかし初級か中級のポーションで回復できるとはいえ、痛みはあるだろうに。それでも盛況って、余程暇な奴らが多いって事か。依頼の途中なんだから少しは自重しろよ」

 まあ、己の身ひとつで生きる冒険者は、俺が考えていた以上にバトルジャンキーだったようだ。

 そこにこの世界の娯楽の少なさも相まって、闘技場での決闘は最高に興奮する見せものとなったみたいだ。

 もう思い出す事もほとんど無くなった、俺の前世においても、格闘技は古くからショービジネスとして確率してたからな。碌な娯楽もないこの世界に持ってくれば、大人気になるのも仕方ないか。

「もう専門の闘士が出てきそうだな」
「闘技場で闘う事を専門とする戦士で闘士ですか。……それ、いいかもしれませんね」
「あ、ああ、そりゃ受けるぞ。絶対大当たりする。冒険者の中には、戦う事ばかりが得意でランクを上げられない奴らも居るからな。そんな奴らにピッタリだ」

 おや、話がおかしな事になってきたぞ。

 俺はまるでローマの剣闘士(グラディエーター)を思い出し、闘士と口にすると、ダーヴィッド君とグランツ支部長が目を輝かせて乗り気になった。

「闘士、う~ん、剣闘士かぁ。グラディエーターと言った方がいいか。確かに大怪我する可能性はあるが、結界があるから死ぬ事はないし、魔物を相手にするのと人間と戦うのでは、勝手が違うだろうしな。グラディエーターになりたいって奴は多そうだな」
「その通りだ、森神様。高ランクの冒険者は、戦闘力以外にも商人や貴族との交渉能力や礼儀作法も求められる。戦闘に能力が極振りされた奴らの受け皿になりえるぞ」
「まあ、ダーヴィッド君のところと冒険者ギルドで上手くやってくれるなら俺は何も言わないよ」

 闘技場でギャンブルかぁ。もともと冒険者ギルドでも決闘となると賭けになるのは自然な流れだから、グラディエーターを募って賭け試合をするのは自然な事なのかもしれないな。

 今のところ草原地帯の人間が少ないから、それ程大きな儲けにはならないだろうしな。



 ただ闘技場での決闘人気が加熱しているのは間違いないようだ。ここアウロラや外の農地の住民も、娯楽として観覧に行っているようだしな。

「グラディエーターの闘いは観覧する者から金を貰うのか?」
「一般席は安く観れるようにするつもりです」
「森神様が貴賓席になるボックスシートも造ってくれてたからな。金がある奴は良い席を買えばいい」

 アウロラや外の農地の住民も当然現金は所有している。未だ物々交換も行われているが、雑貨屋や古着屋などの店もポツポツと増えているし、冒険者用の村には、宿屋や雑貨屋、鍛治の工房もある。お金を使う環境が整いつつある。

 とはいえまだまだ娯楽にお金を使うには早いんじゃなかろうか。

「シグムンド殿、心配なさらなくとも最初は屋台の串焼き一本以下の観覧料にする予定です」
「そうだぜ。アウロラや外の農地の子供が小遣いで観れる値段だ」
「それなら大丈夫か。冒険者用の村が出来たお陰で、外の農地の住民も現金収入が増えているしな」

 もともと魔王国が農作物を大量に買ってくれるので、外の農地の住民は西方諸国の農民と比べても裕福だ。お金を使う場所が増えるのはいい事かもな。

「シグムンド殿。実は既に闘技場の噂は、西方諸国の冒険者達の間で拡まっているみたいなんです」
「おう。そうなんだよ森神様。その所為で、護衛依頼でもないのに、冒険者用の村を目指す奴らが増えてんだ」
「もしかして、強ければ結構儲かるのか?」
「おう。賭け金からの報酬は護衛の依頼料なんかよりずっと良いぞ」

 もう既に冒険者が単体で集まりつつあるらしい。強ければグラディエーター一本で稼げるとなると、本格的に冒険者稼業から転職する者も出てきそうだな。

「勿論、盗賊か冒険者か分からねえようなのは、竜人族の集落と、冒険者用の村の門と、ダブルチェックしているぞ」
「その辺の人員も竜人族や魔王国から追加派遣する予定ですね」
「冒険者用の村、宿泊施設を増やすべきか」

 一旗上げたい冒険者が集まると、今の宿屋だけじゃ到底足りない。宿泊施設を増やすかと俺が呟くと、ダーヴィッド君とグランツ支部長からはストップがかかった。

「いえ、今は冒険者用の村の広場の一部を野営用に貸し出すだけで十分だと思いますよ」
「ああ、魔物や盗賊の心配は無いからな。野営で十分だろう。建てるとしても、冒険者ギルドから建築のギルドに依頼して建てるから、森神様は魔道具の貸し出しだけお願いする形でいい。もう少し状況を見て、それからでも遅くないでしょう」
「まあ、魔道具だけでいいなら俺は楽だけど、警備用のゴーレムは増やした方がいいか」

 魔道具だけ提供するなら俺は楽だしいいが、それよりも冒険者用の村とはいえ、そんなに闘技場が盛況で人が増えるとなると、治安悪化への対策は必要かな。ああ、あと公衆トイレは絶対必要だな。

 俺はそう考えてたんだけど、治安に関してのダーヴィッド君とグランツ支部長の表情は何か違うみたいだ。

「あのよ森神様。あの竜人族の集落でビビらされ、冒険者用の村にも森神様のゴーレムは別にしても竜人族や魔王国の戦士や兵士が駐屯しているんだ。余程のバカでも悪さなんて考えないと思うぜ。まぁ、それでもたま~に居るのは事実だけどよ」
「そうですね。ジーラッド聖国が竜人族の集落を攻めてくれたのもよかったですね。何も出来ずにボロボロになって敗走したのは、西方諸国に知られていますから」
「なる程。あれもいい脅しになったのか。なら俺の方からの戦力は必要なさそうだな」
「はい。魔王国も戦争が終わって兵士が余り気味ですから、派遣する人員には事欠かきませんから」

 今のところ、治安維持にこれ以上の戦力は必要ないらしい。たまに出る馬鹿は、俺やセブールも密かに処分すればいい話だしな。

「ただ剣闘士、闘士、グラディエーターでしたか。そんな面白そうで儲かりそうな話、後で商業ギルドが知るとうるさそうですね」
「そんなのあいつらがバカなんだから、放っておけばいいんだよ。今更奴らが、噛ませろって頭下げると思うか?」
「……いえ、ありませんね」
「だろう。まぁ、モーガン本部長はかなり下からの突き上げがあるだろうがな」

 ダーヴィッド君が面倒そうに、闘技場でグラディエーターによる試合が盛り上がると、商業ギルドが噛み付いてきそうだとうんざりした様子で言うが、グランツ支部長は問題ないと言いきる。

 商業ギルドの本部長モーガンが、今更ダーヴィッド君やグランツ支部長に頭を下げて、一枚噛ませろなんて頭を下げる訳がないと。

 どうなんだろうな。ダーヴィッド君やグランツ支部長は知っているか分からないが、俺やセブールは、この前のジーラッド聖国が攻めて来た背景にモーガンが居た事も知っている。

 それで大損こいて自分の商会が傾きかねない状況なんだ。恥も外聞も捨てて、闘技場の運営に噛ませろって言ってくる可能性もあると俺は思う。



 その後、ダーヴィッド君とグランツ支部長が二人で盛り上がっちゃって、俺に闘技場と冒険者用の村を繋げて欲しいとお願いしてきた。

「村の外壁を拡げて、闘技場ごと囲むって可能ですかい?」
「まぁ、そんなのは簡単だし、あっという間だよ」
「「じゃあ、お願いします!」」
「お、おお。分かったよ」

 冒険者用の村の南側近くに闘技場を造ったので、外壁を拡げて闘技場ごと囲むなんて簡単だし手間もかからない。それこそ基礎工事も含めて五分も掛からないだろう。俺がそう言うと、ダーヴィッド君とグランツ支部長が声を揃えて食い気味にお願いしてきた。

 俺としては子供達の手前、粗暴な冒険者が増えるのは嬉しくはないんだが、アウロラの住民の娯楽にもなるならと快諾する。

 何ヶ所か追加で公衆トイレを用意した方がよさそうだな。そこらでされちゃたまらない。井戸も増やすか。







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