ガルシェバル=ヴォル=カデス

桂圭人

文字の大きさ
5 / 10

ガルシェバルVSガルマ=ガレクト

しおりを挟む
紅蓮の支配圏《熾烈の王座》――その深部にある王座の間は、常に熱を孕んでいた。
床の大理石は赤く脈打ち、空気は甘く焦げた匂いを帯びて揺らめく。
玉座には、ガルシェバル=ヴォル=カデスが座していた。
二八二センチの巨躯を赤黒の法衣に包み、胸元の焦げた紋章が静かに光を放つ。背後に広がる翼は灰を散らし、かすかに震えている。琥珀と血が溶け合った双眸――一方は氷のように冷ややかで、もう一方は狂おしいほど燃え盛っていた。

扉が開く。

現れたのは、白髪を乱し、黒と群青に裂けた外套を纏う男――ガルマ=ガレクト。
感情を欠いた白色の瞳。指先の金属質のリングが、微かな音を立てる。コートの裂け目から覗く歯車状のネックレスが、低く軋んだ。

二人は、言葉もなく視線を交わす。

最初に沈黙を破ったのはガルシェバルだった。低く、静かで、それでいて芯に熱を宿した声。

「……来たか、虚理の暴君よ」

ガルマは薄く笑う。歪んだのは唇の端だけだ。

「熾烈王。愛を罰と呼ぶ者。君の王座は相変わらずだな――息苦しいほどに熱い」

ガルシェバルはゆっくりと立ち上がる。
腕の鎖が鳴り、幻の熱が室内をさらに灼いた。近くにいるだけで心拍が早まる錯覚。ガルマの表情は変わらないが、白い瞳の奥にわずかな揺らぎが走る。

「熱い? これは愛の温度だ。君のような冷たい知の亡者に、理解できるものか」

ガルマは一歩、前に出る。ブーツの音が大理石に乾いた余韻を残した。

「理解? 僕はすべてを理解する。君の情念も、支配も、破滅的な抱擁も。――ただ、それを嗤うだけだ。愛などという甘い幻想で世界を縛り、焼き尽くす。愚かしい」

ガルシェバルの冷たい片眼が細められ、もう一方の眼は激しく燃え上がる。

「愚かしいのは君だ、ガルマ=ガレクト。知を暴へと堕とし、理を歪めて悦に入る。その支配は空虚だ。そこに熱はない。愛もない」

ガルマは首を傾げ、指先で虚空をなぞった。
金属質の記号が一瞬、宙に浮かんでは消える。

「熱も愛も、ただの認識の歪みだ。僕はそれを正しく書き換える。君の“愛”も、いずれ僕の《認識侵触》で崩壊するだろう。罰を愛と呼び、愛を罰と呼ぶその倒錯――美しいが、無意味だ」

ガルシェバルの翼が大きく広がり、灰が舞い散る。
室温は急激に上昇し、空気そのものが歪んだ。

「無意味だと? ならば試してみろ。君の虚理の冠で、僕の情念を崩してみせろ」

右手を掲げると、白金の拳銃《ガル=ガボス》が虚空から実体化する。
静かな銃口が、真っ直ぐにガルマを捉えた。
ガルマは微動だにしない。
代わりに、外套の裂け目から歯車が音を立てて回転を始める。白色の瞳の半分が、歯車の文様に侵食されていった。

「試すか。いいだろう。だが熾烈王――君は僕を愛する。僕の理が君を焼き、僕の暴が君を抱く。そして君は、それを罰と呼ぶ」

ガルシェバルは、わずかに微笑んだ。
恋人に向けるように甘く、それでいて灼けつくほど熱を帯びて。

「違う。僕はそれを愛と呼ぶ。君を焼き尽くし、灰にしても――なお、君を抱くだろう」

二人の間で、紅蓮の炎と崩壊の残響が交錯する。

ガルシェバルは静かに呟いた。

「愛とは、己を燃やし、他者を照らすことだ。影を恐れるな、ガルマ」

ガルマは答える。冷たく、しかしどこか愉悦を含んだ声で。

「知は暴に堕ち、暴は理を語る。そして――愛は、ただの歪みに過ぎない」

王座の間は、灼熱と崩壊の狭間で震えていた。
二人は互いを焼き、互いを歪め、互いを支配しようと――永遠に抱き合い続ける運命にあった。

翌日、二人の遺体がゴミ収集車に回収されました。


「ウザイから消えろ」――ケプラー

「何書いてるか分かんねぇなこの文章な」――ヴェルム
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...