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しおりを挟む「ん~、でもだいたいみんなそうだと思うよ。半年くらいは社会人って感じしないからね」
「そんなもんなのかな。スーツ着て電車に乗るの嫌なんだよね」
「私もそんな時あった。っていうか今でも嫌だもん。日曜の夜とか結構憂鬱」
気まずい雰囲気にならずに普通に話せたのは楓くんが良い子だからだ。きっとそうだ。
(・・・ご飯・・・どんな場所だろ)
昼から居酒屋はないと思っているけど、正直落ち着いて座って話せるところならどこでも良い。案外あっさり終わるかもしれないけど、こんなに普通に接してくれてるから来てくれただけでもありがたいと思わなければ。
「それ分かる。俺なんて月曜の朝とかベッドから出たくなくて休む理由考えたりするもん」
「そうなの?」
「うん。この時点でまだ学生気分満載だからね」
やり取りをたくさんしていたからか、はじめましてではあるけど馴染みがある感じがする。楽しそうに話す彼を見て、メールから感じ取れた雰囲気そのままだと私は思った。
「だんだん慣れていくしかないね」
「そうなんだよね。っていうか、えりちゃんは苦手な食べ物なしでいいんだよね?」
「あ、うん。前にメールで言ったとおりだよ。何でもいけるかな」
他愛もない話をしているうちに、乗っているタクシーが大通りを過ぎて、どうやら脇の小道に入っていったらしい。
「よかった。俺も何でもいける。けど、甘いのは苦手」
「ケーキとかだっけ?」
「そうそう。モンブランとか甘過ぎて苦手」
彼が運転手に言った住所は、私はよく知らなかった。そもそもここの土地勘自体あまりない。駅周りは分かるけど駅から離れて少し先を行くと、もう何が何だかわからない。駅周りが栄えすぎて、少し道をそれると古臭いビルや昔ながらのお店が余計に古く近寄りがたく見えてしまう。
「私は好きだけどな」
「酒入りのチョコレートとか好きそうだよね」
「うん、そのとおり・・・。話変わるけどここらへん、楓くんはよく来るの?」
どこに向かうのかまるで分からない。楓くんの方を見ていたけど、少し不安になって私は窓のほうに視線を向けた。
「来るよ~。ここ結構穴場なんだよね。ぜんぜんギンギラしてないけど、もうすぐ着くお店、昼は予約なしで行けるし、今の時間帯ならだいたい空いてるから」
(ギンギラ?)
「もう着くよ」と一言付け加えた楓くんに、思わずすぐ振り返って彼を見ると、私の側にある窓の外を見ていた。
(・・・え)
「お客様、着きました」
「ありがとうございます」
そして止まったタクシーの窓の外。
よく見ると門構えの立派なお屋敷のような所だ。
「え、ここって」
「うん。ここで昼飯食べる」
「・・・・」
「降りよう」
「あっ、うん」
彼に促され先に降りた私は、ポカンと口を開けて目の前のお店を眺めていた。楓くんの風貌からするに洋のほうかと思ったけど、まさかの和。
そして少ししてから降車した楓くんを確認した運転手はドアを閉め、そのまま走り去って行った。
「中に入ろう」
「うん・・・あ、タクシー代」
「あぁ、気にしないで。俺が連れてきたから」
何かを忘れていると思って何だろうと考えていた私は、走り去るタクシーを見てそれが何かを思い出して、慌てて財布を出そうとしたけどやんわりと拒否されてしまった。
(・・・恥ずかしい)
後で返さなきゃと思いながらお礼を言って財布をしまったあと、普段足を踏み入れない高級そうな和食のお店の門に少しばかり躊躇。
「っ・・・・あ」
そしてそんな私を見た楓くんは『入ろう』と促すように私の腰に手を当てた。
「料理美味いから、酒も進むよ」
「・・・お、お酒?昼間から?」
「うん」
にこっと笑った彼は、さっきまでの雰囲気とはガラっと変わり、なんだか大人っぽい雰囲気に。
そしてどこか、妙に甘さを含んだ、そんな声で、私の耳元でこう言った。
「今日はずっと一緒に居るでしょ」
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