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ぷりん

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9 ベッド

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 楓くんはドアを開けたままベッドのある部屋に行ってしまった。

 (・・・開けたまま)

 「で、煩くないのかな・・・」

 彼が居なくなった方を見つめて数秒してからすぐに鏡に向かい合った私は、電源をオンにして風力を最大にした。

 ◇◇◇


 「あ・・・ごめん、時間かかってる」
 「いいよ。もう終わりそう?」
 「う、うん。あとちょっと」
 
 楓くんがただ様子を見に来たのか、それとも時間がかかって痺れを切らしたのか分からないけど、少し経ってお風呂場にやってきた。

 「えりちゃんって、人に髪触られるの苦手?」
 「え?」
 
 喋りかけてきた楓くんの声を聞こうと、ドライヤーの風力を弱くした私は、鏡越しに映る彼の姿を見ていた。
 近付いてくるその姿に、髪をとかす手を止めると、楓くんからまた質問。

 「苦手?」
 「・・・いや、特には」

 確かに知らない人とか気持ち悪いおじさんに触られるとかは無理だけど、楓くんはなんでこんなことを聞いてくるのだろうか。

 「俺が乾かしていい?」
 「・・・へ?」
 「えりちゃんの髪、乾かしていい?」
 「・・・う、うん。い、いいけど・・・」

 いきなりの質問に戸惑いながらも、聞かれてそのまま微弱の風が流れているドライヤーを彼に渡した私は、ポカンと口を開けて、髪になびく温かい風を感じていた。

 「長いと乾かすの大変だよね」
 「・・・うん」

 なんだろう、なんか妙な違和感。
 そう感じたのは、楓くんの手つきを鏡越しで見ていたからだ。腑に落ちないような、困った顔でその手つきを見ていると、楓くんはそんな私に気が付いた。

 「どうかした?」
 「いや・・・なんか乾かし方が美容師さんみたいで」 
 「美容師さん?・・・あぁ、高校生の時美容師になろうと思って色々練習してたんだよね。だからだと思う」
 「そ、そうなんだ」

 「うん」と言って笑った楓くん。
 私はこの時、なんで美容師を目指すのを止めたのかまでは聞かなかった。なろうとしたきっかけは何となく分かるけど、止めた理由はなんとなくでも分からない。彼は今総合商社に勤めているらしいから、美容師に今さらなりたいなんて思ってないかもしれないけど…。

 「はい。乾いた」
 「・・・ありがとう」

 (っていうか、楓くんが美容師なら凄いモテてそう・・・お兄さんと顔似てるのかな)

 あっという間に乾いた髪は自分でやる時と仕上がりが違う。なんかいつもより髪がサラサラする気がしてならない。しかも…。

 (ちゃんと、ブローしてくれた・・・)

 ドライヤーを元の位置に戻してから、サラサラになった髪に触れた私は彼にもう一度お礼を言った。「どういたしまして」と嬉しそうに返事をする彼と一緒にお風呂場を出て、私達はベッドの方へと向かった。


 ◇◇◇


 「・・・・これって」 
 「ただの炭酸。氷いれる?それとも酒飲みたい?」
 「・・・・あ」

 お風呂で水分を消費したから、喉が渇いている。楓くんが準備してくれるのを見て返事に迷っていると、冷蔵庫から別にお酒を出してくれた。

 「缶のお酒もあったんだ」
 「うん。普通にビール」

 お風呂に入る前に出してくれたお酒とは違う、見た目ですぐに分かるどこにでも売ってそうな缶ビール。
 
 (・・・っていうか、どういう風にエッチにいくんだろ)

 お酒飲んで少し酔ったほうがいいかなとか、テレビ見たりして少し時間潰すのかなとか、お酒の缶をじっと見ながら頭の中はもうエッチのことを考えていた私。

 「ビールにする?」
 「え?あ、う、うん・・・」
 「飲みたそうに見てたけど」

 『ぜんぜん違うこと考えてました』なんて言えるわけもなく、焦って『うん』と返事をして楓くんから缶を貰おうと私は手を伸ばした。

 「ありがと」 
 
 (手・・・触っちゃった・・・)

 貰う瞬間に触れた楓くんの手にでさえ、簡単に意識を持っていかれる。
 
 (どうしよ)

 っていうか、ビールとか、色気なさすぎ。お風呂上がりに飲むことはあるけど、こんな場面で選んでしまった自分が恥ずかしい。

 (・・・なんて思われたかな。っていうか意識してるのってやっぱり私だけ・・・)
 
 もういいや、とっとと開けて飲んでしまおうと、缶口をプシュッと指先で開けた私は楓くんをチラッと見た。

 「立って飲むの?」
 「へ?」
 「ベッド座ったら?」

 渡された時に、少し振れてしまっていたのだろうか、開けて少ししてからシュワっと泡が出てきた。そしてそんなことに気付かず楓くんの顔を見ていた私は、彼の質問に顔を赤くしてしまった。

 「・・・か、楓くんは・・・」

 (恥ずかしいっ)

 「なに」
 「何を飲むの」
 「・・・・」
 「早くしないと先に一人で飲むよ」
 
 彼から目を離しても僅かに垂れてきたビールに目がいかない。少し拗ねたように言うだけ言ってから背を向けてベッドに向かおうとした私だったけど、何故か後ろから腕を掴まれてびっくりして振り返った。

 「え?」
 「ビール」
 「・・・・」
 「俺もビール飲む」

 そう言った楓くんの手には、ビールなんて握られていない。何を言ってるんだろうと思ったけど、背丈のある彼から見下された私は、掴まれた腕から彼の熱が伝わってきて、まだ飲んでいないのに缶の口から溢れ出ていた泡から微かに香るアルコールの匂いにつられて、酔いが回ったように感じてしまった。


 ◇◇◇


 「・・・か、楓くんっ」
 「なに?」
 「・・・それ・・・私のビール・・」

 ビールを飲むと言った楓くんは、何故か私が手に持っていたビールに口をつけていた。

 「知ってる」

 あのままベッドのほうに移動して座ってから、私のビールを取り上げた彼はリモコンでテレビの電源を入れた。そして今は彼の股の間に座り、一緒にテレビを見ている。

 「ビール1本しか入ってなかった」
 「・・え?そうなの?」
 「うん」
 
 本当に?とでも言いたかったけどここは我慢。そんな事で争ったって仕方がない。

 「・・・楓くん、私にもちょうだい」
 
 こんな時間帯だから、面白いテレビはしてない。映画だけ放映してる番組に切り替えてみたけど、ちょうどやっていたのはお互い知らない映画だったから、ほとんどBGMのように垂れ流している状態だった。

 「えりちゃんってビール飲むの?」
 「え?なんで?飲むよ私だって」

 タオルだけまとっていた身体には布団がかけられている。

 「家で?」
 「うん」 

 そしてその布団で隠された足元は、身体に巻いていたタオルがはだけてお互いの素肌が触れ合っていた。
 なんとなく甘い雰囲気になりそうでならないどっちつかずの雰囲気に、まだビールを口に出来ていない私はいささかぶりっ子のように口をとがらせてみた。まさか自分がこんなことをするなんて。
 
 「一人?」
 「・・・うん」
 「たくさん飲む人?」
 「どうだろ・・・でも一人の時は1本だけで終わらせるよ」
 「そっか」

 「どうぞ」と、ようやく渡されたビールの缶は最初に比べると明らかに軽い。楓くんもビールはよく飲む方なのかと思ったけど、無表情で飲んでいたからあんまり好きではなさそう。
 
 「ありがとう」

 やっとありつけた水分に、一気に飲むのは危険だと思ってゆっくり口を付けた私。その時『あ、』と思って少し意識したのは間接キスという言葉で、飲み口から唇が離れて、ちょっとだけ顔が火照った。

 「美味しい?」
 「ん」
 
 少しばかり余韻に浸っていると、両手で持ったその缶を楓くんは取り上げて、ベッドのところにあるテーブルに置いた。

 「・・あ」
 
 もうちょっと飲みたかったなと思ったのも束の間、布団の下に移動した彼の手がタオルをすり抜けながら私の腰辺りに触れて、下腹部のほうに向かった。
 
 「・・・楓く」

 突然のことに、一気に身体に酔いが回ったように呼吸が浅くなる。
 
 「さっきキスしてなかった」

 楓くんの方を向いた私は、片膝を立てた彼と視線が合った。やっぱりビールは好きじゃなかったのかもしれない。それとも酔いが回りやすいのだろうか。彼のその目元は、なんだか熱を帯びているようで、顔が火照っていた私はそこから目が離せないでいた。

 「していい?」
 「・・・ん」

 微かにした返事は一瞬彼の唇で塞がれてしまった。そして少しだけ唇を離した楓くんは、続けてこう言った。

「口、開けて」
 
 
 
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