浮気した彼氏のせいでNTRれた私

プラネットプラント

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初恋は・・・

「って、なんであんたも脱いでんの?!」

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 裸で抱き締められるために服を脱ぐ。
 彼氏以外のために服を脱ぐのは勇気が要った。
 何度拒否しても夏川先輩の選択肢はヤるかこちらのどっちかしかなかった。しつこいまでにそのどっちかを選ばせようとする夏川先輩の意図はわからない。
 だけど、夏川先輩が何度も(元彼女の5人以上に)浮気をされたという話を聞いて、浮気された経験談を何度も出されると、私への気遣いで言ってくれているのだと気付いた。
 私が浮気され慣れていないだろうからと。
 そんな気遣いはいらなかった。
 気遣いしてくれるなら――どうされたかったんだろう?
 あいつが浮気していると告げて欲しかった?
 あいつの浮気をやめさせて、私が浮気に気付かないまま円満にしておいたほうが良かった?
 それとも、浮気に見て見ぬふりをして、あいつが浮気をやめるのを待っていて欲しかった?
 最悪、あいつの浮気に気付かなかったからと私が学校中の笑い者になるまで放置していて欲しかった?
 どれが良かったんだろう?
 浮気されたただの間抜けに見えないようにするにはどうしたらよかったんだろう?
 夏川先輩は部活が忙しくてかまえないと言う理由を付けて、振られることが当たり前にしていた。
 私は帰宅部で、浮気がバレて別れる良い口実がない。夏川先輩みたいに何かに打ち込んでいればそれをすれ違いの口実にできたのに。
 ノロノロと脱いでいて、ふと目の端にとんでもないものが見える。

「って、なんであんたも脱いでんの?!」

 敬語も丁寧語も吹っ飛んだ。
 見えたのは無駄な贅肉のない細マッチョな身体。あいつよりも筋肉が少ないように見える。
 胸より下は見ないようにする。
 それが私の精神安定のためだ。
 事故で見えちゃったら、持たない。
 パンツは履いてる。パンツぐらいは履いてる。夏川先輩もそれくらいの良識は持っている。
 自分に言い聞かせて、不自然のないように視線をやや高めに夏川先輩を見る。

「何って、裸で抱き締めるためだよ」

 この人は慌てるってことはないの?
 見ず知らずの女の子に裸を見られても平気なの?
 どう言う神経しているんだろう?
 アンサー――彼女の浮気相手の恋人とヤりたいと言う神経です。
 私には理解できない頭の構造の持ち主。それでいい。

「裸なのは私だけじゃないんですか?」

 夏川先輩は服着てると思ったから良いと思ったのに、これじゃ、話が違う。

「マグロちゃんだけを裸にするなんて、紳士のスポーツを嗜む者としては看過できないな」

 テニスって紳士のスポーツだっけ?
 その前に夏川先輩って紳士だっけ?
 紳士だったら、もっと違う方法使うんじゃない?
 私は自称紳士の夏川先輩を疑わしく思った。

「あんたのどこが紳士なんですか?! 紳士なら彼氏に裏切られた女の子とヤりたいとか言いませんよ! あんたの言う紳士は変態紳士なんじゃないですか!」
「これも紳士の嗜みだよ」
「どこが?!」
「浮気される自分に魅力がないって思い込まされてしまう女性を救うのは、紳士のすることだよ。女性として自尊心を喪失させられたらそれを回復させてあげるのも紳士の務めだから」
「・・・」

 良いことを言っている筈なのに残念すぎる。
 言っていることはまともなのに、思いつく行動があまりにも残念すぎる。
 やっぱり、残念なイケメンだ。

「・・・」

 私は夏川先輩から目をそらして、ベッドを見る。濃い寒色の掛け布団カバーと同色のボックスシーツ。
 あいつのとも似ている配色だけど、違う色。買う場所は近所だろうから同じだと思う。それなのに同系色でも違う色。
 それは部活が同じでも性格が全然違うのに似ている。
 浮気をして傷付けるタイプと浮気をされて傷付けられるタイプ。
 全然違う二人。
 裏切っておいて自分のことしか考えないあいつと、裏切られた私を同じ被害者なのに心配してくれる夏川先輩(素直じゃないけどね)。

「ここに横になればいい?」
「ああ」

 脱ぎ終わったら、胸と脚の間を服で隠すようにして、掛け布団とシーツの間に滑り込む。
 夏川先輩のベッドはあいつと違う匂いがした。
 夏川先輩の匂いだ。
 ほとんど話したことがない夏川先輩と一緒のベッドに横になっているのが不思議だった。
 一時間前はこうして話したことすらなかったのに。
 ベッドの軋む音と傾きで夏川先輩が上って来たのがわかる。掛け布団が開けられ、室温の空気が私の肌を撫でる。

「抱き締めるだけだから安心して」
「うん・・・」

 見るんじゃなかった。
 イケメンとこれからヤりますって、絵面だった。
 ヤらないのに、気まずい。
 ヤらないからよけいに気まずい。
 こんな状況でこんな角度でこんな夏川先輩を目にすると、体温が上がってしまう。
 仕方ないじゃん。
 恥ずかしすぎる。
 掛け布団をかけられると、夏川先輩の匂いが強くなる。
 贅肉のない羨ましい夏川先輩の腕に抱き締められて、何故か自分の匂いが気になってきた。
 夏川先輩の匂いがわかると言うことは、私の匂いも夏川先輩にわかると言うことで――私、今日はちゃんと消臭スプレーして、マウスウォッシュしてきたかな?
 夏川先輩の体温が温かい。
 後は考えない。
 夏川先輩に良識がないことは気にしない。
 気にしちゃだめ。
 気にしたら負け。
 自己主張されていないからそこは評価するけど、それだけだ。
 夏川先輩に良識を求めた私が馬鹿だった。
 夏川先輩は私とズレた神経を持っているから、理解できなくて当たり前。
 だから、気にするな。

「・・・」
「・・・」

 現在精神統一中。
 抱き締められているから間近で夏川先輩の顔を見なくてもんだけど、温かさや感触が気になる。
 気にしちゃだめだ。
 私は抱き枕。
 等身大の抱き枕。

「・・・」
「・・・」

 抱き枕に徹しようと思ったけど、そう思えば思うほど夏川先輩を意識してしまう。
 鼓動が早くなって、大きく鳴っている。ドキドキと鳴る音が夏川先輩に聞こえてしまいそうなくらいだ。
 軽く抱き締められているだけだから、私の鼓動は夏川先輩に伝わっていない筈。
 気付かれたら、ただのブリっこなビッチだ。ヤりたくないと言って、裸で抱き締められるほうを選んだのに、それでドキドキするほど意識しているなんて、何言われても仕方ない。
 小さくなれ、私の鼓動。
 今こそ平常心。
 私の名誉を守るために静まるのだ!
 ・・・。
 ・・・無理か。
 お寺でよくやっている瞑想?で無我の境地ってとこに行こう。
 心頭滅却すればって言うし、きっと役に立つ筈。

「・・・」
「・・・」

 心頭滅却できなかった。 
 無の境地に行こうと試行錯誤していたけど、やっぱり無理だ。
 もともとこんな状況で平常心を保つことなんて誰にもできないって。彼氏でもないイケメンに裸で抱き締め合っている状況自体がおかしいんだから、平常とは言えないでしょ、これ。

「なんか黙ってこうしているのも、気まずいね」

 居心地が悪くてモゾモゾしたせいか、夏川先輩が声をかけてくる。

「ですね・・・」
「マグロちゃんって、春原のクラスメイトだよね」
「そうですよ」
「なんで春原と付き合ったの?」
「? 付き合った理由ですか?」
「ああ」
「理由は・・・。なんかよくわかりません。今から考えるとこの人と付き合いたいって、強く感じたものはないんです」

 あいつと付き合いたいって思ったのは、中学校の時の男子たちと違って好意が持てたから。
 男子中学生って、小学生が図体デカくなっただけ。遊びたい、楽しみたい、って面倒事は女子に押し付けて、無責任。
 身体が大きいだけに可愛げがない。
 かっこよく見えても張りぼての子ども。

「些細なことかもしれないんですけど、重い荷物を持っていたら代わりに持ってくれたとか、挨拶をするのが楽しいとか、ご飯を美味しそうに食べるとか、誰の悪口も言わせないとか、そういったものが積み重なって、そういうの好きだなと思ったんです」
「だから、毎日お弁当を作ってあげていたんだね」
「え? どうしてそれを?」

 応援に行ける試合の時にはお弁当の差し入れを持って行っていたが、毎日作っていたお弁当は一時間目の前に教室で食べていたから夏川先輩が知っている筈がない。

「春原が部活中に言っていたよ。毎日、お弁当を作ってくれるからとても助かるって。とてもおいしいって自慢するから、みんなで締めたよ」

 私の疑問に答える夏川先輩は楽しい思い出を語っているようだった。
 あいつや部員たちを本当に可愛がっているんだな。
 まさしく、輝く青春の一ページって感じ。
 帰宅部だからわからなかったけど、体育会系の上下が厳しいのも仲間意識が強いからなんだろうな。
 夏川先輩はこんなに部員思いの人なのに、どうしてあいつはこの人の彼女と浮気して、その信頼を裏切ったんだろう。
 気付くと私は夏川先輩とあいつと付き合っていた時のとりとめのない話をしていた。
 楽しい思い出はたくさんあった。
 裏切りを予測できそうなものはどこにもなかった。
 話せば話すほど、なんでと言う思いが強くなってくる。
 なんで、あいつは私を裏切ったの?
 なんで、あいつは夏川先輩を裏切ったの?
 なんで、あいつは浮気をしたの?
 なんで、あいつは浮気をやめようとしなかったの?
 なんで、あいつは夏川先輩と私を傷付けると思わなかったんだろう?
 あいつを責めたい気持ちが、ようやく考える時間を与えられて整理できるようになる。
 いつの間にか会話はなくなっていた。
 夏川先輩は無言だった。
 私は悔しくて奥歯を食いしばっていた。夏川先輩はあいつの先輩で、私とは顔見知り以下の間柄だ。責めるのも、泣きつくのも、そんな間柄じゃない。
 だから、私は何も言えない。
 その代わりに、宥めるように私の背中を撫でる私よりも大きな手の温もりをもっと感じていたいと思った。
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