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元カノ襲来
それなら、浮気するな!
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恐れていたことが起こってしまった。
お弁当を作る代わりに代金を要求したら、夏川先輩は「払う」と即答してきた。
コンビニ弁当と同じくらいの値段が駄目だったんだろうか?
でも、それ以上の値段なんてつけられない。料理歴2カ月ちょっとの私のお弁当だよ?
素人のお弁当でもプロ並みのものもあるけど、料理歴2カ月の私のお弁当なんか材料費くらいの価値しかない。
だから、コンビニ弁当並みの値段にしたけど、夏川先輩はそれを承知してしまった。
なんてことだ!
あいつと夏川先輩との地獄のような昼食風景が続くことに落ち込んでいた私に更なる試練が待っていた。
上級生(見慣れない顔だから)から呼び出しを食らってしまったのだ!
夏川先輩に憧れているなんて可愛らしいものならまだマシ。私が夏川先輩の傍にいることに腹を立てた陰険な女子でもまだ良かった。
学校の人気のない一角に私を呼び出したのは夏川先輩の浮気した彼女。夏川先輩の言うところの元カノ。残念ながら、本人はそう思っていないらしい。
化粧っ気の少ない、気の強そうなお友達を引き連れて私の前にいる。
彼氏を盗ったとか、夏川先輩に乗り換えたとか言われるのを避けたかったのに。他にも理由はあるけど、そんな風に見られたくないと夏川先輩と付き合うのを拒否していた。私は別に夏川先輩が好きなわけじゃないから、付き合いたいとも思わないし。
それでも、付き合えば面倒事に巻き込まれるとは思っていた。夏川先輩は彼女の途切れない人らしいから。
それなのに、浮気した元カノに呼び出されて、二対一だなんて・・・ついてない。
「夏川先輩は愛海(まな)の彼氏だってわかっててやってんの?! 愛海が可哀想でしょ!」
それなら、浮気するな! と浮気した元カノを背後にかばって、批難してくるお友達に言いたい。
言いたいことはたくさんあるけど、一言聞いただけで、お友達は元カノが浮気したのを知らないらしい。
「もしかして、愛海さんて夏川先輩の彼女だった人ですか?」
私はとぼけてみせた。
確定しているけど、天然を装って確認。
「そうよ! 愛海は夏川先輩の彼女よ。あなた夏川先輩に彼女がいるってわかっていて悪いと思わないの?! 他にも一年の男子はべらせて、あなた、どう言う神経してんのよ!」
「・・・そこで泣いているのが愛海さんですか?」
そっちの神経こそ、どうなってるのか聞きたい。
それも彼氏の部活の後輩で彼女持ち相手に浮気だよ?
何、考えてんの?
夏川先輩とあいつの力関係からしてもおかしいでしょ?
逆らえると思ってんの?
逆らって、夏川先輩に嘘を言いつければ、あいつの立場が悪くならないって言うの?
自分が浮気しておいて、被害者ぶって泣いているなんて頭どうかしてるんじゃない?
それに、一年の男子はべらせてって、それが私の彼氏だったほうなんですけど。あんたのお友達にNTRれた彼氏なんですけど。
「あなたのせいで愛海は泣いてんのよ?! 愛海を泣かせる自覚もなければ、愛海に悪いって思わないの?! 流石、他人の彼氏を盗むだけあるわね!」
はあ?!
勝手に被害者ぶって、私を悪人に仕立て上げて何言ってんの?!
あいつをNTRれた私がどうして、NTった浮気女に悪いって思わないといけないの?!
いつから浮気された被害者のほうが悪いってことになったの?!
彼氏をNTっておいて、謝りにも来ないくせに何言ってんの?!
あったま来た!
「亮と浮気したくせに何、被害者面してんですか!! 彼氏をNTRれたのは私のほうなのに、他人の彼氏を盗んだ加害者のくせに、どう言う神経で私の前に現れんですか?! それで夏川先輩を返せって、あんた何様ですか?! 浮気したのはそっちなのに、どうしてまだ付き合っているって思えるんですか?! と言うか、亮に彼女がいるって知っていて浮気したんでしょ? あんた、自分がヤってること最低なのに、何、自分のことを棚上げしているんですか?!」
「?!」
お友達は想像通り、事情が分かっていなかったようだ。目を白黒させている。
「!!」
夏川先輩の浮気した元カノは、私が自分が浮気したあいつの彼女だって気付いていなかったみたい。可愛いらしい大きなお目々をまん丸に見開いている。
謝りに来ていればこんなに驚くことなかったのにね。
自業自得。
「愛海?」
お友達が驚いている彼女に気付いて声をかける。
「・・・」
でも、夏川先輩の浮気した元カノは答えられない。
そんなにショックだった?
自分の浮気がバレて、それを責められるとは思ってもみなかった?
返り討ちに遭うとは思わなかったの?
「何か言ったらどうですか? 彼氏をNTRれた私に言うことあるでしょ? ないんですか? 夏川先輩と付き合ってもいない私に夏川先輩を返せって言って来ていますけど、私の彼氏をNTっておいて何も言うことないんですか? 土下座の一つくらいしたら許してあげるからしてくださいよ」
「彼氏をNTったって、愛海。あなた・・・」
もう一度言ってやったら、お友達の頭もようやく追いついてきたようだ。夏川先輩の浮気した元カノに信じられないとばかりに問いかける。
夏川先輩の浮気した元カノはばつが悪そうだった。
「・・・あなたは春原くんの彼女?」
お友達の問いかけに答えずに私にやっと話しかけてくる。
「そうですよ! あなたと浮気しせいで別れた元カノですよ!」
私の言葉の勢いに押されたのか、夏川先輩の浮気した元カノは殴られるのを避けるように身体を縮めて後ずさる。
「浮気なんてする気はなかったの! 春原くんは悩みを聞いてくれて、それでその場の勢いで・・・」
しかし、首を横に振って、誰も悪くないのとばかりに言うのがあざとい。
でも、あいつが浮気したくて浮気したんじゃないとわかってホッとする。
「愛海!!」
浮気を肯定する発言にお友達はショックを受けたようだ。せっかく、可哀想な彼女の代わりに怒っていたのに、それが無駄どころか、逆だったと知って顔が青褪めている。
「あいつは人が良いですからね。誰のことも悪く言わないし、誰のことも責めたりしない。だから、話しやすかったのはわかります。だけど、あいつに彼女がいることは知っていたでしょ? テニス部の中では有名なことらしいし、夏川先輩の彼女だったなら、あんただって知っていたでしょ?!」
「春原くんに彼女がいたことは知っていたわ」
消えそうな小さな声だったけど、確かに認めた。
「やっぱり・・・」
「だから、安心して悩みを相談したの。誠実だったし、勘違いして変な気を起こさないだろうから。だけど、どうしてそうなったかはわからないけど、気付いたら・・・」
彼女がいたから安心だった?
それって、何?
浮気する気はなかったってこと?
それとも、あいつが弱みに付け込んで手を出すようにでも見えたって言うの?
「愛海・・・!!」
あいつのことを何もわかっていない。
あいつは人がいい分、夏川先輩の元カノの相談に付き合ってあげていたんだろう。他人を悪く言わないあいつの態度に夏川先輩の元カノも警戒心がなくなったに違いない。
だけど、だからと言って、他人の彼氏をNTっていいというわけじゃない。NTRなんて最低だ。
あいつは八方美人だから、人に嫌われたくないからと相談にのっているうちにNOと言えなかったんだろう。
「偶然、浮気したって言うんですか? 彼女持ちだから安全だって、相談して、優しくされているうちに間違いが起きたって言うんですか?」
「・・・」
「・・・」
二人とも蒼白な顔で黙っている。
相談にのってもらうなら、彼女がいない人にして欲しい。それか家族にして欲しい。
彼女持ちが安全だって言うのなら、家族だって安全だからいいじゃない。
安全な相手に相談にのってもらいたいなら、家族にのってもらえばいいじゃない。
家族だって弱みに付け込んで手を出さないじゃない。
家族が手を出すなんてありえないもの。
でも、彼女持ち=家族と同様に安全ってことは、浮気しないってことでしょ?
浮気してしまっているってことは、彼女持ちは安全≠家族は安全ってことでしょ?
それとも、親身に相談していたら、家族だろうがなんだろうがヤっちゃうってことなの?
「それは間違いなんかじゃないです。間違いは相談した相手の選択です。あいつはあんたの父親や兄弟なんかじゃないんですよ? 彼女持ちなら安全だから相談するってあんたの論理なら、相談して優しくされたら親兄弟とだってヤるってことになるんですよ? あんたは親兄弟とだってヤるんですか?」
「そんな・・・」
絶句しているようだけど、
「あんたの言ってることはそう言うことです。彼女持ちだと知って相談して、気付いていたらヤっていた。そのことで相手の彼女に申し訳ないって気持ちがないのは、親兄弟とヤっても罪悪感なんか持たない人だけでしょ? あんた、私に夏川先輩を盗られたって呼び出して、さっきから自分の言い訳ばかり言って、本当の被害者である私に一言でも謝っていますか? 彼氏をNTRれた私に罪悪感を持っていないから謝らないんでしょ? 謝っていないくせに、なんで言い訳ばかりしているんですか? 謝る気も何もない倫理観の持ち主だって思われたって仕方ないでしょ?」
「・・・おとなしく聞いていれば・・・。あなた、言って良いことと、悪いことがあるのがわからないの?! 愛海だって悪いと思ったから、親友の私に隠していたのに、なんてこと言うの?!」
お友達の忠誠心は浮気女にはもったいないくらいだった。
「霞・・・」
「彼女持ちと浮気したくせに、相手に謝るどころか浮気されて別れを告げた男が言い寄っている相手に詰め寄っているのがいい証拠でしょ? あんたとあいつが浮気してから何日だっていると思っているんですか?! 私があいつの浮気を知ってから、もう3日以上経っているのに、あんたは謝りに来もしなかったじゃない! あんたにとって、他人の彼氏をNTったことなんてそんなもんなのに、自分の元カレが他の女子の傍にいるからってなんで文句言いに来るのかわかんない! それがあんたと私の倫理観の違いだって言うなら、私も理解できる。それ以外に説明できるんですかっ?!」
「・・・」
「愛海・・・」
薄化粧なのか、化粧をしていないのかわからない可愛い系美少女は顔を顰める。お友達がそんな彼女を気遣う。
気遣って欲しいのは最初から私だ!
そんな嘘吐きな浮気女じゃない!
「・・・帰って。謝る気がないなら、さっさと帰って。・・・あんたみたいに謝る相手に謝りもせず、自分勝手に被害者面する人間の顔なんか見たくもないっ!!」
「あなた、自分が何言っているのかわかってんの?!」
美しい友情。
でも、それに値しないような相手だけど。
「わかっていますよ。あんたの被害者面したお友達に彼氏をNTRれた間抜けな女ですよ! それを気にした夏川先輩に気遣われすぎて、付き合わないかって付きまとわれている被害者ですよ! 私のこの不幸の原因は全部、あんたのお友達が原因だってこともわかっていますよ」
「愛海はそんなんじゃ・・・」
まだ、言うか!
「霞、やめて」
「愛海・・・」
気遣い合う美しい友情。
でも、反吐が出そう。
悪いことをやっておいて謝らない浮気女。自分が悪いとは考えない浮気女をかばう番犬のようなお友達。
浮気女は夏川先輩がテニスを愛しすぎた馬鹿だって理解していないし、彼女のいるあいつに相談して浮気しておいて、その彼女である私に謝りにも来ないで、別れた夏川先輩の周囲にいる子に牽制しに来るってありえないでしょ?
なんでそれがわかっても、まだかばえるの?
二人とも頭おかしいんじゃない?
「そこの彼女、あんたにはもったいないくらいの良いお友達ですね。――あんたは耳障りの良いことばかり言っているようだけど、その言葉以外は自分のことばかり。夏川先輩と付き合っていたって、夏川先輩の望んでいることも何も知ろうとせず、自分の思った通りにならない夏川先輩に腹を立てて、他人の彼氏をNTって気晴らしをする――」
「気晴らしなんかじゃないわ!」
「気晴らしですよ! それとも、お遊び? ホント、自分のことしか考えてないじゃない。あいつも夏川先輩もあんたにとってはどうでもよかった。浮気相手の彼女なんか更にどうでもよかった。だって、傷付く相手がいようがいまいが、どうなろうとかまわないってこと、ヤっておいて気にも留めていないじゃない!!」
「!!」
夏川先輩の元カノ――自分勝手な浮気女は図星を刺されて逃げ去った。
勝った!!
「愛海っ!」
そのお友達が勝利に浮かれる私をキッと睨む。
「あなたって、サイテイね! どうしてそこまで言えるの?! 愛海だって夏川先輩に傷付けられて弱っているのよ?!」
私を蔑んで言うけど、最低なのはあんたのお友達でしょ?!
浮気した挙句、その浮気相手の彼女に謝ることもせずに、元カレが付きまとっている女子に別れろってお友達を連れて来て言わせてんだから。泣いてるのだって、ウソか本当かわからないし。
浮気女を撃退したのに、心はまた沈む。
あいつの浮気の理由もわかって、浮気女に仕返しもできたのに何故だろう?
「その最低に叩き落してくれたのは、あんたの大事なお友達ですよ。彼氏をNTった相手に優しくできるほど人間できていませんよ!」
ああ、そうか。
彼氏をNTRれて、その浮気の代償に差し出された最低な身の上だからか。
お弁当を作る代わりに代金を要求したら、夏川先輩は「払う」と即答してきた。
コンビニ弁当と同じくらいの値段が駄目だったんだろうか?
でも、それ以上の値段なんてつけられない。料理歴2カ月ちょっとの私のお弁当だよ?
素人のお弁当でもプロ並みのものもあるけど、料理歴2カ月の私のお弁当なんか材料費くらいの価値しかない。
だから、コンビニ弁当並みの値段にしたけど、夏川先輩はそれを承知してしまった。
なんてことだ!
あいつと夏川先輩との地獄のような昼食風景が続くことに落ち込んでいた私に更なる試練が待っていた。
上級生(見慣れない顔だから)から呼び出しを食らってしまったのだ!
夏川先輩に憧れているなんて可愛らしいものならまだマシ。私が夏川先輩の傍にいることに腹を立てた陰険な女子でもまだ良かった。
学校の人気のない一角に私を呼び出したのは夏川先輩の浮気した彼女。夏川先輩の言うところの元カノ。残念ながら、本人はそう思っていないらしい。
化粧っ気の少ない、気の強そうなお友達を引き連れて私の前にいる。
彼氏を盗ったとか、夏川先輩に乗り換えたとか言われるのを避けたかったのに。他にも理由はあるけど、そんな風に見られたくないと夏川先輩と付き合うのを拒否していた。私は別に夏川先輩が好きなわけじゃないから、付き合いたいとも思わないし。
それでも、付き合えば面倒事に巻き込まれるとは思っていた。夏川先輩は彼女の途切れない人らしいから。
それなのに、浮気した元カノに呼び出されて、二対一だなんて・・・ついてない。
「夏川先輩は愛海(まな)の彼氏だってわかっててやってんの?! 愛海が可哀想でしょ!」
それなら、浮気するな! と浮気した元カノを背後にかばって、批難してくるお友達に言いたい。
言いたいことはたくさんあるけど、一言聞いただけで、お友達は元カノが浮気したのを知らないらしい。
「もしかして、愛海さんて夏川先輩の彼女だった人ですか?」
私はとぼけてみせた。
確定しているけど、天然を装って確認。
「そうよ! 愛海は夏川先輩の彼女よ。あなた夏川先輩に彼女がいるってわかっていて悪いと思わないの?! 他にも一年の男子はべらせて、あなた、どう言う神経してんのよ!」
「・・・そこで泣いているのが愛海さんですか?」
そっちの神経こそ、どうなってるのか聞きたい。
それも彼氏の部活の後輩で彼女持ち相手に浮気だよ?
何、考えてんの?
夏川先輩とあいつの力関係からしてもおかしいでしょ?
逆らえると思ってんの?
逆らって、夏川先輩に嘘を言いつければ、あいつの立場が悪くならないって言うの?
自分が浮気しておいて、被害者ぶって泣いているなんて頭どうかしてるんじゃない?
それに、一年の男子はべらせてって、それが私の彼氏だったほうなんですけど。あんたのお友達にNTRれた彼氏なんですけど。
「あなたのせいで愛海は泣いてんのよ?! 愛海を泣かせる自覚もなければ、愛海に悪いって思わないの?! 流石、他人の彼氏を盗むだけあるわね!」
はあ?!
勝手に被害者ぶって、私を悪人に仕立て上げて何言ってんの?!
あいつをNTRれた私がどうして、NTった浮気女に悪いって思わないといけないの?!
いつから浮気された被害者のほうが悪いってことになったの?!
彼氏をNTっておいて、謝りにも来ないくせに何言ってんの?!
あったま来た!
「亮と浮気したくせに何、被害者面してんですか!! 彼氏をNTRれたのは私のほうなのに、他人の彼氏を盗んだ加害者のくせに、どう言う神経で私の前に現れんですか?! それで夏川先輩を返せって、あんた何様ですか?! 浮気したのはそっちなのに、どうしてまだ付き合っているって思えるんですか?! と言うか、亮に彼女がいるって知っていて浮気したんでしょ? あんた、自分がヤってること最低なのに、何、自分のことを棚上げしているんですか?!」
「?!」
お友達は想像通り、事情が分かっていなかったようだ。目を白黒させている。
「!!」
夏川先輩の浮気した元カノは、私が自分が浮気したあいつの彼女だって気付いていなかったみたい。可愛いらしい大きなお目々をまん丸に見開いている。
謝りに来ていればこんなに驚くことなかったのにね。
自業自得。
「愛海?」
お友達が驚いている彼女に気付いて声をかける。
「・・・」
でも、夏川先輩の浮気した元カノは答えられない。
そんなにショックだった?
自分の浮気がバレて、それを責められるとは思ってもみなかった?
返り討ちに遭うとは思わなかったの?
「何か言ったらどうですか? 彼氏をNTRれた私に言うことあるでしょ? ないんですか? 夏川先輩と付き合ってもいない私に夏川先輩を返せって言って来ていますけど、私の彼氏をNTっておいて何も言うことないんですか? 土下座の一つくらいしたら許してあげるからしてくださいよ」
「彼氏をNTったって、愛海。あなた・・・」
もう一度言ってやったら、お友達の頭もようやく追いついてきたようだ。夏川先輩の浮気した元カノに信じられないとばかりに問いかける。
夏川先輩の浮気した元カノはばつが悪そうだった。
「・・・あなたは春原くんの彼女?」
お友達の問いかけに答えずに私にやっと話しかけてくる。
「そうですよ! あなたと浮気しせいで別れた元カノですよ!」
私の言葉の勢いに押されたのか、夏川先輩の浮気した元カノは殴られるのを避けるように身体を縮めて後ずさる。
「浮気なんてする気はなかったの! 春原くんは悩みを聞いてくれて、それでその場の勢いで・・・」
しかし、首を横に振って、誰も悪くないのとばかりに言うのがあざとい。
でも、あいつが浮気したくて浮気したんじゃないとわかってホッとする。
「愛海!!」
浮気を肯定する発言にお友達はショックを受けたようだ。せっかく、可哀想な彼女の代わりに怒っていたのに、それが無駄どころか、逆だったと知って顔が青褪めている。
「あいつは人が良いですからね。誰のことも悪く言わないし、誰のことも責めたりしない。だから、話しやすかったのはわかります。だけど、あいつに彼女がいることは知っていたでしょ? テニス部の中では有名なことらしいし、夏川先輩の彼女だったなら、あんただって知っていたでしょ?!」
「春原くんに彼女がいたことは知っていたわ」
消えそうな小さな声だったけど、確かに認めた。
「やっぱり・・・」
「だから、安心して悩みを相談したの。誠実だったし、勘違いして変な気を起こさないだろうから。だけど、どうしてそうなったかはわからないけど、気付いたら・・・」
彼女がいたから安心だった?
それって、何?
浮気する気はなかったってこと?
それとも、あいつが弱みに付け込んで手を出すようにでも見えたって言うの?
「愛海・・・!!」
あいつのことを何もわかっていない。
あいつは人がいい分、夏川先輩の元カノの相談に付き合ってあげていたんだろう。他人を悪く言わないあいつの態度に夏川先輩の元カノも警戒心がなくなったに違いない。
だけど、だからと言って、他人の彼氏をNTっていいというわけじゃない。NTRなんて最低だ。
あいつは八方美人だから、人に嫌われたくないからと相談にのっているうちにNOと言えなかったんだろう。
「偶然、浮気したって言うんですか? 彼女持ちだから安全だって、相談して、優しくされているうちに間違いが起きたって言うんですか?」
「・・・」
「・・・」
二人とも蒼白な顔で黙っている。
相談にのってもらうなら、彼女がいない人にして欲しい。それか家族にして欲しい。
彼女持ちが安全だって言うのなら、家族だって安全だからいいじゃない。
安全な相手に相談にのってもらいたいなら、家族にのってもらえばいいじゃない。
家族だって弱みに付け込んで手を出さないじゃない。
家族が手を出すなんてありえないもの。
でも、彼女持ち=家族と同様に安全ってことは、浮気しないってことでしょ?
浮気してしまっているってことは、彼女持ちは安全≠家族は安全ってことでしょ?
それとも、親身に相談していたら、家族だろうがなんだろうがヤっちゃうってことなの?
「それは間違いなんかじゃないです。間違いは相談した相手の選択です。あいつはあんたの父親や兄弟なんかじゃないんですよ? 彼女持ちなら安全だから相談するってあんたの論理なら、相談して優しくされたら親兄弟とだってヤるってことになるんですよ? あんたは親兄弟とだってヤるんですか?」
「そんな・・・」
絶句しているようだけど、
「あんたの言ってることはそう言うことです。彼女持ちだと知って相談して、気付いていたらヤっていた。そのことで相手の彼女に申し訳ないって気持ちがないのは、親兄弟とヤっても罪悪感なんか持たない人だけでしょ? あんた、私に夏川先輩を盗られたって呼び出して、さっきから自分の言い訳ばかり言って、本当の被害者である私に一言でも謝っていますか? 彼氏をNTRれた私に罪悪感を持っていないから謝らないんでしょ? 謝っていないくせに、なんで言い訳ばかりしているんですか? 謝る気も何もない倫理観の持ち主だって思われたって仕方ないでしょ?」
「・・・おとなしく聞いていれば・・・。あなた、言って良いことと、悪いことがあるのがわからないの?! 愛海だって悪いと思ったから、親友の私に隠していたのに、なんてこと言うの?!」
お友達の忠誠心は浮気女にはもったいないくらいだった。
「霞・・・」
「彼女持ちと浮気したくせに、相手に謝るどころか浮気されて別れを告げた男が言い寄っている相手に詰め寄っているのがいい証拠でしょ? あんたとあいつが浮気してから何日だっていると思っているんですか?! 私があいつの浮気を知ってから、もう3日以上経っているのに、あんたは謝りに来もしなかったじゃない! あんたにとって、他人の彼氏をNTったことなんてそんなもんなのに、自分の元カレが他の女子の傍にいるからってなんで文句言いに来るのかわかんない! それがあんたと私の倫理観の違いだって言うなら、私も理解できる。それ以外に説明できるんですかっ?!」
「・・・」
「愛海・・・」
薄化粧なのか、化粧をしていないのかわからない可愛い系美少女は顔を顰める。お友達がそんな彼女を気遣う。
気遣って欲しいのは最初から私だ!
そんな嘘吐きな浮気女じゃない!
「・・・帰って。謝る気がないなら、さっさと帰って。・・・あんたみたいに謝る相手に謝りもせず、自分勝手に被害者面する人間の顔なんか見たくもないっ!!」
「あなた、自分が何言っているのかわかってんの?!」
美しい友情。
でも、それに値しないような相手だけど。
「わかっていますよ。あんたの被害者面したお友達に彼氏をNTRれた間抜けな女ですよ! それを気にした夏川先輩に気遣われすぎて、付き合わないかって付きまとわれている被害者ですよ! 私のこの不幸の原因は全部、あんたのお友達が原因だってこともわかっていますよ」
「愛海はそんなんじゃ・・・」
まだ、言うか!
「霞、やめて」
「愛海・・・」
気遣い合う美しい友情。
でも、反吐が出そう。
悪いことをやっておいて謝らない浮気女。自分が悪いとは考えない浮気女をかばう番犬のようなお友達。
浮気女は夏川先輩がテニスを愛しすぎた馬鹿だって理解していないし、彼女のいるあいつに相談して浮気しておいて、その彼女である私に謝りにも来ないで、別れた夏川先輩の周囲にいる子に牽制しに来るってありえないでしょ?
なんでそれがわかっても、まだかばえるの?
二人とも頭おかしいんじゃない?
「そこの彼女、あんたにはもったいないくらいの良いお友達ですね。――あんたは耳障りの良いことばかり言っているようだけど、その言葉以外は自分のことばかり。夏川先輩と付き合っていたって、夏川先輩の望んでいることも何も知ろうとせず、自分の思った通りにならない夏川先輩に腹を立てて、他人の彼氏をNTって気晴らしをする――」
「気晴らしなんかじゃないわ!」
「気晴らしですよ! それとも、お遊び? ホント、自分のことしか考えてないじゃない。あいつも夏川先輩もあんたにとってはどうでもよかった。浮気相手の彼女なんか更にどうでもよかった。だって、傷付く相手がいようがいまいが、どうなろうとかまわないってこと、ヤっておいて気にも留めていないじゃない!!」
「!!」
夏川先輩の元カノ――自分勝手な浮気女は図星を刺されて逃げ去った。
勝った!!
「愛海っ!」
そのお友達が勝利に浮かれる私をキッと睨む。
「あなたって、サイテイね! どうしてそこまで言えるの?! 愛海だって夏川先輩に傷付けられて弱っているのよ?!」
私を蔑んで言うけど、最低なのはあんたのお友達でしょ?!
浮気した挙句、その浮気相手の彼女に謝ることもせずに、元カレが付きまとっている女子に別れろってお友達を連れて来て言わせてんだから。泣いてるのだって、ウソか本当かわからないし。
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あいつの浮気の理由もわかって、浮気女に仕返しもできたのに何故だろう?
「その最低に叩き落してくれたのは、あんたの大事なお友達ですよ。彼氏をNTった相手に優しくできるほど人間できていませんよ!」
ああ、そうか。
彼氏をNTRれて、その浮気の代償に差し出された最低な身の上だからか。
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