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過ぎいく夏
「こんな状態で話せるかー!!」
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暴れたくても、夏川先輩の膝の上に座るような状態で腕ごと抱き締められていて、手は肘から先しか動かせない。しっかり背中が夏川先輩の身体に押し付けられているから、振りほどきたくても身体をモゾモゾとさせることしかできない。
「コレ、どう見ても話す体勢じゃないですよね?」
「声が出せるから話せるよ」
「いやいやいやいや。話せる状態じゃないって。この状態で話せって、無茶ぶりしすぎ」
夏川先輩は低い声で聞いた。
「どうして?」
右耳のあたりの髪が揺れて、首筋に何かが当たる感触がする。夏川先輩の両手は私を拘束してるし、何かわからないがゾワッとした。
「☆△□~!!」
男の膝の上に抱き締められたまま座っているのも緊張するけど、首筋にあたったものが齎した寒気で心臓が止まりそうになる。
そして、止まりそうになった心臓は今度はうるさいくらいに鳴り始める。
「実花ちゃんは話したいんでしょ? じゃあ、僕はこうしているから実花ちゃんは好きに話して」
夏川先輩が話すたびに耳に息がかかる。
心の平安の為にもこの体勢は駄目だ。膝の上に座らされて後ろから抱き締められるって、彼氏にされたいことでも、あいつにもされたことのないものをされて私の精神力がゴリゴリと削られる。
心臓も仕事しすぎて破れそう。
解放してもらわないとあと数分で死ぬかもしれない。
いやいやいやいや。なんでこんなことになってんの?!
普通、ここで座るのは私の座っているソファの空いているところか、夏川先輩専用のバランスボールでしょ?!
彼氏でもなければ、好きでもない相手に抱きかかえられて平然と話していられない!
「こんな状態で話せるかー!!」
「じゃあ、どんな状態なら話せるの?」
また夏川先輩の息が首筋にかかる。心臓が縮みあがる。
「とりあえず、あのバランスボールにでも座っていてください」
「うまく座れないと思うよ」
運動部でエースをできるあんたならできるでしょ?!
って、このままの状態で座る気だったの?!
「私と一緒じゃなくて。一人で、です」
「実花ちゃんと一緒にいられないから拒否するよ」
ひぃいっ!!
なんで拒否するのよ、この人!
私は嫌だって言ってるでしょ?!
「一緒にいたくないんで、あっちに行ってください」
「あっちに行ってもいいけど、話すのはもういいんだね」
ん?
話すのはもういいって、その場合のあっちって、バランスボールじゃなくて、あんたの部屋?!
あんたの部屋なんかに行ったらおしまいじゃない!
私はあんたの部屋なんかに行きたくないの!
ここでサヨナラして、学校でも友達以下に戻りたいの!
「ちょっと待ってー! なんでそうなるの?! 話したいから、あんたにあっちに行って欲しいって言ってるんですけど!」
「なら、僕は話をしたいからこうしているよ」
話をしたいからって、コレはないでしょ! コレは!
あんたとはこんなことをする仲じゃないでしょうが!!
コレは自分の立ち位置とか、常識がないところとか、つき付けてあげないといけないみたい。
「あんたのそういう自分勝手な行動やめてくれます?! テニス馬鹿だから、そのあたり、わかっていないんでしょうからはっきり言いますが、彼女に浮気されたのを知ったからって、どうして私とヤりたいとか言い出すんですか?! それにあいつのことを勝手に許したり、私に付きまとって強引に付き合っているって見えるようにしたりしたんですか?! はっきり言って、迷惑です!」
「え? 迷惑だった?」
心底、意外そうな声が返ってきた。
駄目だ。夏川先輩に常識はなかった。
流石、テニス馬鹿。テニス以外の常識がなくて、どうしようもない。
「どこが迷惑じゃないと思ったんですか?! 全部、迷惑しかかけてないでしょ?!」
「それじゃあ、どうすればよかった?」
「・・・」
夏川先輩がどうしてくれたら、よかったんだろう?
前にも同じことを考えた気がする。
浮気されているのを教えてもらえたらよかった?
あいつに夏川先輩の彼女と別れるように言ってもらえたらよかった?
夏川先輩の彼女のほうにあいつに近付くなと言ってもらえたらよかった?
「あの時、俺(・)は小鳥遊と別れて、春原の浮気で傷付いている実花に付き合いたいって言うべきじゃなかったと思う」
「え? それって、夏川先輩のしたことじゃ・・・?」
「それとこれは違うよ。自分の彼氏を寝取った女の元彼なんかに声をかけられて付き合いたいと思う?」
どこがどう違うのかわからないけど、夏川先輩の中では違うらしい。
自分の彼氏をNTった女の彼氏と付き合いたくないってのは同感。自分の彼氏をNTった相手の彼氏と付き合うなんて、自分の彼氏と私がそのカップルに弄ばれているような気がする。なんでそんな自虐的な真似がしたいのかわからない。
マゾじゃないし、そんなのと付き合いたいなんて思わない。
そうじゃなくても、自分の彼女がNTった男の彼女が相手だよ?
謝るのが先で、付き合うとかそんな気分になる筈がない。
それに、付き合いたかったからって彼女を使って破局させたようにも見えて嫌だ。
浮気された者同士だなんて考えなら尚更嫌だ。
何、その傷の舐め合い?!
自分たちが負け犬だって認め合ってるみたいじゃない!
浮気されるのは負け犬なんかじゃなくて、付き合う相手が浮気するかどうか、人を見る目がないだけなのに負け犬って、何?
浮気は浮気するほうが100%悪い。
別れてからなら彼女のいない相手と付き合うにしろ、遊ぶにしろ、浮気にならないのに、都合が悪くなった時に戻れる彼氏をキープをした状態でするから悪い。
そんな100%悪意がある相手じゃなくて、それに気付かなかったほうを負け犬って言うのは、騙すより騙されるほうが悪いって言っているのと同じだから、負け犬だなんて思いたくない。
「それは・・・無理無理。絶対無理! だって、――」
弄ばれるなんて嫌だし、腹黒(ヤンデレ)の策略も傷の舐め合いの付き合いも嫌だ。
私は誰かを好きになりたい。相手にも好きになってもらいたい。そんな恋がしたい。
だから、それ以外は無理。
「わかってる。言わなくていい」
夏川先輩はわかってるとばかりに静かに言った。
「え?」
夏川先輩って、エスパーだっけ? エスパーでもないのに、わかるっていうの?!
何を推測したのか聞く前に夏川先輩の言葉が続く。
「そんなのに前から好きだったとか聞いても相手に幻滅しかないってのはわかってる」
「・・・」
あ。付き合いたかったからって彼女を使って破局させた(腹黒)説か。
夏川先輩もコレくらいの常識はあるんだ、と生温かい目になった。しっかりと抱き締められているから、後ろを振り返ることができなくて夏川先輩の顔は見えない。
「コレ、どう見ても話す体勢じゃないですよね?」
「声が出せるから話せるよ」
「いやいやいやいや。話せる状態じゃないって。この状態で話せって、無茶ぶりしすぎ」
夏川先輩は低い声で聞いた。
「どうして?」
右耳のあたりの髪が揺れて、首筋に何かが当たる感触がする。夏川先輩の両手は私を拘束してるし、何かわからないがゾワッとした。
「☆△□~!!」
男の膝の上に抱き締められたまま座っているのも緊張するけど、首筋にあたったものが齎した寒気で心臓が止まりそうになる。
そして、止まりそうになった心臓は今度はうるさいくらいに鳴り始める。
「実花ちゃんは話したいんでしょ? じゃあ、僕はこうしているから実花ちゃんは好きに話して」
夏川先輩が話すたびに耳に息がかかる。
心の平安の為にもこの体勢は駄目だ。膝の上に座らされて後ろから抱き締められるって、彼氏にされたいことでも、あいつにもされたことのないものをされて私の精神力がゴリゴリと削られる。
心臓も仕事しすぎて破れそう。
解放してもらわないとあと数分で死ぬかもしれない。
いやいやいやいや。なんでこんなことになってんの?!
普通、ここで座るのは私の座っているソファの空いているところか、夏川先輩専用のバランスボールでしょ?!
彼氏でもなければ、好きでもない相手に抱きかかえられて平然と話していられない!
「こんな状態で話せるかー!!」
「じゃあ、どんな状態なら話せるの?」
また夏川先輩の息が首筋にかかる。心臓が縮みあがる。
「とりあえず、あのバランスボールにでも座っていてください」
「うまく座れないと思うよ」
運動部でエースをできるあんたならできるでしょ?!
って、このままの状態で座る気だったの?!
「私と一緒じゃなくて。一人で、です」
「実花ちゃんと一緒にいられないから拒否するよ」
ひぃいっ!!
なんで拒否するのよ、この人!
私は嫌だって言ってるでしょ?!
「一緒にいたくないんで、あっちに行ってください」
「あっちに行ってもいいけど、話すのはもういいんだね」
ん?
話すのはもういいって、その場合のあっちって、バランスボールじゃなくて、あんたの部屋?!
あんたの部屋なんかに行ったらおしまいじゃない!
私はあんたの部屋なんかに行きたくないの!
ここでサヨナラして、学校でも友達以下に戻りたいの!
「ちょっと待ってー! なんでそうなるの?! 話したいから、あんたにあっちに行って欲しいって言ってるんですけど!」
「なら、僕は話をしたいからこうしているよ」
話をしたいからって、コレはないでしょ! コレは!
あんたとはこんなことをする仲じゃないでしょうが!!
コレは自分の立ち位置とか、常識がないところとか、つき付けてあげないといけないみたい。
「あんたのそういう自分勝手な行動やめてくれます?! テニス馬鹿だから、そのあたり、わかっていないんでしょうからはっきり言いますが、彼女に浮気されたのを知ったからって、どうして私とヤりたいとか言い出すんですか?! それにあいつのことを勝手に許したり、私に付きまとって強引に付き合っているって見えるようにしたりしたんですか?! はっきり言って、迷惑です!」
「え? 迷惑だった?」
心底、意外そうな声が返ってきた。
駄目だ。夏川先輩に常識はなかった。
流石、テニス馬鹿。テニス以外の常識がなくて、どうしようもない。
「どこが迷惑じゃないと思ったんですか?! 全部、迷惑しかかけてないでしょ?!」
「それじゃあ、どうすればよかった?」
「・・・」
夏川先輩がどうしてくれたら、よかったんだろう?
前にも同じことを考えた気がする。
浮気されているのを教えてもらえたらよかった?
あいつに夏川先輩の彼女と別れるように言ってもらえたらよかった?
夏川先輩の彼女のほうにあいつに近付くなと言ってもらえたらよかった?
「あの時、俺(・)は小鳥遊と別れて、春原の浮気で傷付いている実花に付き合いたいって言うべきじゃなかったと思う」
「え? それって、夏川先輩のしたことじゃ・・・?」
「それとこれは違うよ。自分の彼氏を寝取った女の元彼なんかに声をかけられて付き合いたいと思う?」
どこがどう違うのかわからないけど、夏川先輩の中では違うらしい。
自分の彼氏をNTった女の彼氏と付き合いたくないってのは同感。自分の彼氏をNTった相手の彼氏と付き合うなんて、自分の彼氏と私がそのカップルに弄ばれているような気がする。なんでそんな自虐的な真似がしたいのかわからない。
マゾじゃないし、そんなのと付き合いたいなんて思わない。
そうじゃなくても、自分の彼女がNTった男の彼女が相手だよ?
謝るのが先で、付き合うとかそんな気分になる筈がない。
それに、付き合いたかったからって彼女を使って破局させたようにも見えて嫌だ。
浮気された者同士だなんて考えなら尚更嫌だ。
何、その傷の舐め合い?!
自分たちが負け犬だって認め合ってるみたいじゃない!
浮気されるのは負け犬なんかじゃなくて、付き合う相手が浮気するかどうか、人を見る目がないだけなのに負け犬って、何?
浮気は浮気するほうが100%悪い。
別れてからなら彼女のいない相手と付き合うにしろ、遊ぶにしろ、浮気にならないのに、都合が悪くなった時に戻れる彼氏をキープをした状態でするから悪い。
そんな100%悪意がある相手じゃなくて、それに気付かなかったほうを負け犬って言うのは、騙すより騙されるほうが悪いって言っているのと同じだから、負け犬だなんて思いたくない。
「それは・・・無理無理。絶対無理! だって、――」
弄ばれるなんて嫌だし、腹黒(ヤンデレ)の策略も傷の舐め合いの付き合いも嫌だ。
私は誰かを好きになりたい。相手にも好きになってもらいたい。そんな恋がしたい。
だから、それ以外は無理。
「わかってる。言わなくていい」
夏川先輩はわかってるとばかりに静かに言った。
「え?」
夏川先輩って、エスパーだっけ? エスパーでもないのに、わかるっていうの?!
何を推測したのか聞く前に夏川先輩の言葉が続く。
「そんなのに前から好きだったとか聞いても相手に幻滅しかないってのはわかってる」
「・・・」
あ。付き合いたかったからって彼女を使って破局させた(腹黒)説か。
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