浮気した彼氏のせいでNTRれた私

プラネットプラント

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過ぎいく夏

私、保護者。夏川先輩、子ども。

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 夏川先輩は気になった水槽の前で立ち止まるとじっとそれを見る。一緒に来たはずなのに、私の存在なんか忘れてしまっているようだ。
 そして、見終わると次の水槽へと移動して行く。
 私はまるで保護者のような気がしてきた。

「夏川先輩は何が好きなんですか?」
「ペンギンかな」

 水槽を見ている夏川先輩に話しかけてみたら、まともに返事が返ってきた。どうやら、声が聞こえる程度の集中しかしていないらしい。

 それにしても、ペンギン。
 夏川先輩ぽくない。
 夏川先輩が好きそうな生物はと言われても、思い付かないけど、ペンギンは意外だった。ちょこちょこと可愛らしく歩くところとか、子煩悩なところとか、全然夏川先輩のイメージと合わない。
 それにしても、ペンギンならここまで来なくても、最寄り駅から行ける動物園にもいる。ここまで来る必要なんてないのだ。

「ペンギンって、動物園にもいるじゃないですか」
「でも、動物園だと上から見るだろう? 水中のペンギンって面白いんだよ。まるでテニスをしているみたいに見えるし」

 動物園は水中のペンギンが見られなかったっけ?
 ここ数年、行ってないので思い出せない。
 動物園なんて中学に上がったら、行く場所じゃないし。デートでも水族館とか遊園地でしょ。あいつとは遊園地くらいしか行ってないけど。

 テニス繋がりでペンギンが好きなのか。
 好きな理由がわかって、すごく納得がいった。
 動物までテニスと関連するかどうかで選ぶなんて・・・テニス馬鹿は伊達じゃない。

「またテニスですか。スケートはやるけど、テニスなんかしてないって、ペンギンから苦情来ますよ」
「ペンギンの羽――フリッパーの一撃はすごいんだよ? 人間の骨も砕けるそれで叩かれたボールは何キロ出るかずっと気になってるんだ。きっと強烈なサーブを打てるのに、スケートしかしないなんて宝の持ち腐れだよ」

 一撃がすごいからって、そんな理屈を突き付けられても、ペンギンだって困るでしょ。
 そんなにペンギンがテニスをしないことに不満があるなら、からかってやろうと思った。

「そんなことはペンギンに言って下さい。もしかしたら、ペンギンはテニスが嫌いかもしれませんよ」
「そんなはずない。あの一撃が出せるのにテニス嫌いなんて」

 夏川先輩は筋金入りだった。
 どうして、そんなことにこだわるのかわからないけど、羽?(腕?)を振る威力があるからテニス好きだと思われているなんて、ペンギンたちも不憫な・・・。
 その理屈は夏川先輩の胸にしまって、ペンギンたちは自由に暮らさせてあげて。
 無理矢理、テニスなんかさせようとしないであげて。

「実はバトミントン派かもしれません」

 まぜっかえしてあげると、夏川先輩は楽しそうに目を細めた。それは胡散臭い笑みじゃなく、自然な笑顔だった。

「バトミントン派か。それならわかる」

 嘘?!
 夏川先輩が納得した?!

「納得しちゃうんだ」

 開いた口がふさがらない。

「納得できるからね。卓球派でも」
「いいんだ。テニス以外でも」

 てっきり、テニス以外は認めないと思った。

「まあね。サッカー派だっていうのは納得できないけど、ホッケー派でも納得するよ」




 好きだと言うだけあって、ペンギンの水槽の前で夏川先輩は目をキラキラさせて見ていた。あいつと浮気した夏川先輩の彼女に呼び出し食らった苦情を部活中に言いに行った時と同じような表情だった。
 テニス馬鹿発動時と同じ顔を見て、本当にペンギンが好きなんだと思った。
 水槽の中ではペンギンたちが水面でぷかぷか浮いていたり、水中をミサイルのような速さで泳いでいる。こんな大きさの水槽だと狭いんじゃないかと思うくらい、スピードを出している。互いにぶつかったりしないのか、見ているこちらが心配になってくる。それに水槽にぶつかって死にそうで怖い。
 他の客がどんどん流れて行く中、夏川先輩だけは魅入られたようにペンギンの水槽の前から動かない。

 こうして見ていると、夏川先輩もごく普通のイケメンに見える。 宇宙人のような発想と人の話を聞かない性格で、外堀を埋めまくった挙句、私を脅してセフレという名の彼女にしたゲスで鬼畜なところがあることなんか嘘のようだ。
 柔らかな髪質の爽やかな王子さまがペンギンの水槽に見入っているなど、写真に残したくなるような光景だ。その登場人物と一緒に水族館に来ていると過去にされたことを忘れて、自分が本当の彼女のような気分になってしまうのがつらい。
 ここに来た時だって、梅木町駅で無理矢理ついて来させられたし、絶対に彼女なんかじゃないのに。

 家族連れがやって来て、小学校低学年くらいの男の子がペンギンの水槽の前に立つ。食い入るように見ているので、まるで小さな夏川先輩のようだ。
 お母さんはまだ幼稚園児くらいの子どもの手を引いていて、その子の横にしゃがんで「ほら、みーちゃん。ペンギンさんだよ」と言っている。
 子どもが「ぺんぎんさん、とんでる」と舌足らずに言う。
「飛ぶんじゃなくて、泳いでいるんだよ」とお父さんが言って、ペンギンがよく見えるように子どもを抱き上げる。ペンギンは子どもの頭のほうを通過していたから、そうするとよく見えるようになったのか、子どもが「ぺんぎんさん、はーい」とはしゃいだ。

 家族連れを見ていると、うだうだ考えていたことがどうでもよくなった。
 現実の関係がどうであれ、今の私と夏川先輩はこの家族と大差ない。
 私、保護者。夏川先輩、子ども。
 それ以上は考えないようにした。
 薄暗くて、夏川先輩しか知り合いのいない場所にいると、いつもと違って意識してしまう。意識してしまうから、恋人同士のような気になってしまうし、そうじゃないことに落ち込むんだ。
 これだからイケメンは厄介だ。あいつと一緒に出かけた時は話したり笑って、恋人と一緒にいるのがとても楽しかったのに、ほとんど話していなくても夏川先輩だったら、恋人と一緒にいる気分にさせられてしまう。

 できるだけ意識しないように、保護者気分でペンギンの水槽を眺める。
 ペンギンたちは私の苦悩など知らないように(実際、知らないけど)遊んでいるかのようにヒュンヒュンと水の中を飛び回っている。家族連れのお父さんが泳いでいると言ったけど、ちょっと羽ばたくぐらいしか動いていないから、泳いでいるようには見えない。

 夏川先輩と同じように見惚れていた男の子が飽きて家族と移動していった頃、ようやく夏川先輩も動いた。
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