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第二章
②
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「ローーイ!!」
後ろからバタバタと足音を立てて走ってくる奴がいる。と思ったら、名前を呼ばれた。
広いロビーの中程で立ち止まり、後ろを振り向いて相手を確認する。
「ショウどうしたの?そんなに急いで。何かあった?」
ロイは目の前まで来て足を止め、肩で息をしている友人、ショウ・ミズキ(水木尚)に問いかける。
「あ、いや。……ちょっと時間あるか?」
少し時刻は巻き戻り、大学の四限が丁度終わった頃。だいたい午後四時三十分。
講義が終わった学生があちこちでグループを作り談議をしているという、周りの状況を気にするショウに、ロイは小首を傾げた。
「別に用事はないけど。何?」
今日はバイトもないし、後は帰るだけであるので、素直に答える。
「あー、うん。食堂……いや、外の茶店行こう。うん。その方が良い。少し付き合ってくれ」
そう言うと、ショウはロイが返事をする前に腕を掴み歩き出していた。
「お前さ、とう……アキラ・トウジョウって知ってるよな?っていうか、仲良いよな?」
大学から五分程の所にある喫茶店に着くと、奥のテーブルに付き、ようやくロイの腕を離したショウは唐突に聞いた。
ロイは、ショウが真剣に何事かを考え込んでいた為、手を離してほしくても言えず、やっと離してもらえたことにホッとしていた。
が、座った途端この質問を受け、驚いてショウを見る。
「俺もさ、日本から留学して来てんじゃん?そんで、仲良くなってさ。二人でいたら日本語で話せるし。……最近大学で見かけなくって、どうしたんだろうって思って。何人かの奴に聞いたけど、知らないって言うし。一人は行方不明になってるとか言うし。確かにここんとこアパートにも戻ってないみたいだし。……ロイが、一番仲良い風に見えてたからさ。ごめん。強引に引っ張ってきちまって」
ショウは一気にしゃべると頭を下げた。
「あ、うん……」
人が一人、学校に来なくなっているのにあまり騒がれていないのは、特に珍しい事ではないからかもしれない。実際、毎夜何人も消えているのにも関わらず、半分以上の死体は受け取り手がないままである。人が消えても気付かない人間ばかりの街であるように思えてしまう。家族が一人もいない、という人が中にはいるのかもしれないが。
「俺さ、初めこっち来たとき、すげーって思ったよ。ビルとかすごい一杯あるし。あ、俺日本の田舎から来てっからさ。人もめちゃめちゃ多いし。けどさ、人が多いとその分個人に無関心なんだなぁって思った。大学で仲良くなった奴らもさ、人が一人いなくなってる……大学来なくなってんのにさ、知らねぇって。無関心なんだよな。経済がいくら進んでたってさ、人間味全然無いよな。機械みてー……日本も似たようなもんか。ってーか、都市ってみんなそうだと思うけど。……って悪い。都市の悪口言う為にここに来たわけじゃないんだよな」
やっとここで、ウエイターが注文を取りに来た。
もしかしたら、ショウのマシンガントークに、入って来れなかったのかもしれない。
二人して紅茶を頼む。
「一昨日、アキラの実家に電話してみたんだ。日本語少しだけ教えてもらってたから。帰ってないって言われた。僕はアキラがいなくなる二・三日前から合わなくなってたから、しばらくわかんなかった。気付いてなかった。ごめん」
「あ、いや、俺だって気付いたの三日前だしさ。実際、いつからいなくなってんのかもよくわかってねぇんだ。俺の方が謝る方だよな。ごめん。他の奴らの悪口言う前に、自分が反省しろって感じだ」
先程のウエイターが二人の紅茶を置くと、何も言わずに去って行く。ひどく無愛想なウエイターだ。
「いなくなったのは、多分五日前だと思う。詳しくはわからないけど」
「そっかぁ。警察届けるか?」
思案顔のショウ。
「相手にしてくれないよ、全然。今起きてる妙な事件で手一杯って感じだったし。ショウ、僕探偵に頼んだんだよ、一昨日」
「探偵?!」
ロイの言葉に驚いたショウの声。
「うん。私立探偵。アイリザークさんって人なんだけど。他も行ったんだけど、結局受けてもらえなくてね。その人だけが受けてくれたんだ」
「声大きいよ」と言い、少し笑いながら言うロイ。
「そっかぁ。ロイはもう動いてたんだ。俺も一緒に動けば良かったな。しばらくバイトで時間取れなかったんだよな、すまん」
と頭を下げるショウ。
「謝ることじゃないよ。僕は未だに親にお金もらってるからね。バイトもそんなに頻繁にしてないから、時間あるんだ。ショウ。夜遅いバイトだったら、帰る時、気を付けた方が良いよ」
「あー、うん。そうするよ。っとやべ。これからバイトなんだ。また何かわかったら教えてよ。俺こっちの事よくわかんないし。良かったら今度アイリザークさんっていう探偵さんにも合わせてよ」
そう言うとショウは慌ただしく紅茶を飲み、伝票をつかんで立ち上がる。
「あ、僕の分……」
「あ、俺払うよ。俺が強引に連れて来たんだし。その上ロイを置いて帰ろうとしてるし。という訳で、明日な!」
「うん。ありがとう」
ショウはレジでお金を払うと、走って去って行ってしまった。
ロイは冷めてしまった紅茶を飲み干すと、のんびりと喫茶店を後にした。
そのロイと入れ違いに、一人の女性が店へと入ってきた。
「こんな所で何してるの?シアン」
ウエイターに対して、こんな問いかけを口にする女性。
「え?見てわかんない?ウエイターだよ。アイリスこそ、リグと一緒じゃなかったの?」
シアンと呼ばれたウエイターはのほほーんと答える。
「知らないわよ、リグなんか。気付いたらいなかったんだもの。……ねぇ、それより、さっきの子たち、ここで何話してたの?」
アイリスは手近なテーブル席へと付きながら問う。
「アイリス、どこから見てたの?人のプライバシーは話せないよ」
のんびりと答えるシアン。
「ついでに盗み聞きでもできれば良かったんだけどね。ザークが関係しているはずよ。教えなさい」
にーっこりと笑って命令口調で言うアイリス。
「リグは知ってるんじゃない?」
「あんたの弟が私に教えてくれてたら、こーんな所であんたとおしゃべりなんかしてないわよ。アジスタも来てるみたいだし、何か私だけカヤの外じゃない?」
不服そうに答えるアイリス。
「へぇ……アジスタも来てるんだ?」
驚いても、のんびり口調のシアン。
否、実際は驚いてなんかいないのかもしれない。
「あら、知らなかったの?来てるわよ。いやーね、この三兄弟。自分の居場所もハッキリさせておかないなんて」
呆れた感じのアイリスに、
「なら、ザークについて気になってるのなら、自分で聞きに行けば良いでしょう?姉弟なんだから」
と嫌みを返すシアン。
後ろからバタバタと足音を立てて走ってくる奴がいる。と思ったら、名前を呼ばれた。
広いロビーの中程で立ち止まり、後ろを振り向いて相手を確認する。
「ショウどうしたの?そんなに急いで。何かあった?」
ロイは目の前まで来て足を止め、肩で息をしている友人、ショウ・ミズキ(水木尚)に問いかける。
「あ、いや。……ちょっと時間あるか?」
少し時刻は巻き戻り、大学の四限が丁度終わった頃。だいたい午後四時三十分。
講義が終わった学生があちこちでグループを作り談議をしているという、周りの状況を気にするショウに、ロイは小首を傾げた。
「別に用事はないけど。何?」
今日はバイトもないし、後は帰るだけであるので、素直に答える。
「あー、うん。食堂……いや、外の茶店行こう。うん。その方が良い。少し付き合ってくれ」
そう言うと、ショウはロイが返事をする前に腕を掴み歩き出していた。
「お前さ、とう……アキラ・トウジョウって知ってるよな?っていうか、仲良いよな?」
大学から五分程の所にある喫茶店に着くと、奥のテーブルに付き、ようやくロイの腕を離したショウは唐突に聞いた。
ロイは、ショウが真剣に何事かを考え込んでいた為、手を離してほしくても言えず、やっと離してもらえたことにホッとしていた。
が、座った途端この質問を受け、驚いてショウを見る。
「俺もさ、日本から留学して来てんじゃん?そんで、仲良くなってさ。二人でいたら日本語で話せるし。……最近大学で見かけなくって、どうしたんだろうって思って。何人かの奴に聞いたけど、知らないって言うし。一人は行方不明になってるとか言うし。確かにここんとこアパートにも戻ってないみたいだし。……ロイが、一番仲良い風に見えてたからさ。ごめん。強引に引っ張ってきちまって」
ショウは一気にしゃべると頭を下げた。
「あ、うん……」
人が一人、学校に来なくなっているのにあまり騒がれていないのは、特に珍しい事ではないからかもしれない。実際、毎夜何人も消えているのにも関わらず、半分以上の死体は受け取り手がないままである。人が消えても気付かない人間ばかりの街であるように思えてしまう。家族が一人もいない、という人が中にはいるのかもしれないが。
「俺さ、初めこっち来たとき、すげーって思ったよ。ビルとかすごい一杯あるし。あ、俺日本の田舎から来てっからさ。人もめちゃめちゃ多いし。けどさ、人が多いとその分個人に無関心なんだなぁって思った。大学で仲良くなった奴らもさ、人が一人いなくなってる……大学来なくなってんのにさ、知らねぇって。無関心なんだよな。経済がいくら進んでたってさ、人間味全然無いよな。機械みてー……日本も似たようなもんか。ってーか、都市ってみんなそうだと思うけど。……って悪い。都市の悪口言う為にここに来たわけじゃないんだよな」
やっとここで、ウエイターが注文を取りに来た。
もしかしたら、ショウのマシンガントークに、入って来れなかったのかもしれない。
二人して紅茶を頼む。
「一昨日、アキラの実家に電話してみたんだ。日本語少しだけ教えてもらってたから。帰ってないって言われた。僕はアキラがいなくなる二・三日前から合わなくなってたから、しばらくわかんなかった。気付いてなかった。ごめん」
「あ、いや、俺だって気付いたの三日前だしさ。実際、いつからいなくなってんのかもよくわかってねぇんだ。俺の方が謝る方だよな。ごめん。他の奴らの悪口言う前に、自分が反省しろって感じだ」
先程のウエイターが二人の紅茶を置くと、何も言わずに去って行く。ひどく無愛想なウエイターだ。
「いなくなったのは、多分五日前だと思う。詳しくはわからないけど」
「そっかぁ。警察届けるか?」
思案顔のショウ。
「相手にしてくれないよ、全然。今起きてる妙な事件で手一杯って感じだったし。ショウ、僕探偵に頼んだんだよ、一昨日」
「探偵?!」
ロイの言葉に驚いたショウの声。
「うん。私立探偵。アイリザークさんって人なんだけど。他も行ったんだけど、結局受けてもらえなくてね。その人だけが受けてくれたんだ」
「声大きいよ」と言い、少し笑いながら言うロイ。
「そっかぁ。ロイはもう動いてたんだ。俺も一緒に動けば良かったな。しばらくバイトで時間取れなかったんだよな、すまん」
と頭を下げるショウ。
「謝ることじゃないよ。僕は未だに親にお金もらってるからね。バイトもそんなに頻繁にしてないから、時間あるんだ。ショウ。夜遅いバイトだったら、帰る時、気を付けた方が良いよ」
「あー、うん。そうするよ。っとやべ。これからバイトなんだ。また何かわかったら教えてよ。俺こっちの事よくわかんないし。良かったら今度アイリザークさんっていう探偵さんにも合わせてよ」
そう言うとショウは慌ただしく紅茶を飲み、伝票をつかんで立ち上がる。
「あ、僕の分……」
「あ、俺払うよ。俺が強引に連れて来たんだし。その上ロイを置いて帰ろうとしてるし。という訳で、明日な!」
「うん。ありがとう」
ショウはレジでお金を払うと、走って去って行ってしまった。
ロイは冷めてしまった紅茶を飲み干すと、のんびりと喫茶店を後にした。
そのロイと入れ違いに、一人の女性が店へと入ってきた。
「こんな所で何してるの?シアン」
ウエイターに対して、こんな問いかけを口にする女性。
「え?見てわかんない?ウエイターだよ。アイリスこそ、リグと一緒じゃなかったの?」
シアンと呼ばれたウエイターはのほほーんと答える。
「知らないわよ、リグなんか。気付いたらいなかったんだもの。……ねぇ、それより、さっきの子たち、ここで何話してたの?」
アイリスは手近なテーブル席へと付きながら問う。
「アイリス、どこから見てたの?人のプライバシーは話せないよ」
のんびりと答えるシアン。
「ついでに盗み聞きでもできれば良かったんだけどね。ザークが関係しているはずよ。教えなさい」
にーっこりと笑って命令口調で言うアイリス。
「リグは知ってるんじゃない?」
「あんたの弟が私に教えてくれてたら、こーんな所であんたとおしゃべりなんかしてないわよ。アジスタも来てるみたいだし、何か私だけカヤの外じゃない?」
不服そうに答えるアイリス。
「へぇ……アジスタも来てるんだ?」
驚いても、のんびり口調のシアン。
否、実際は驚いてなんかいないのかもしれない。
「あら、知らなかったの?来てるわよ。いやーね、この三兄弟。自分の居場所もハッキリさせておかないなんて」
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