FULLMOON

藤野 朔夜

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第三章

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「アジスタが来てるんだ、この街に」
  夜。路地を少し入った暗がりで、それまで前を歩いていたリグが立ち止まり、振り返って唐突に話しだす。
「アジスタが?私は昨日シアンを見かけましたが。……って、リグ。もしかして!」
  考えを巡らせるザーク。
「あぁ、そのもしかして、だろうな」
  答えるリグにあまり表情はない。
「としたら、今回の事件は彼が……?」
「十中八九な。俺もしっかりとはわかんねーよ。お前と違って牙の跡見てないし。けど、シアンは違うしさ。アイツだったらあり得るんだよ。昔からこういう事よくあったろ?」
  リグの返答に、苦い顔をするザーク。
「止めることはできないんですか? 」
  ザークの問いかけに、今度はリグが苦い顔をする。
「無理だな。アイツが俺らの話を聞くとは思えん」
  きっぱりと言い切られた言葉に、ザークは溜め息を吐く。
  「俺は、アイツの気持ちわかるんだよ。しょうがねぇよな、って思えちまうし。シアンもそう思ってるみたいだけどな。アイリスも……。お前だってわかるだろ?俺らと同じ吸血鬼んだしよ」
「私は……」
  ザークが何かを言いかけたのをさえぎって、リグが大通りの方へと顔を出す。
「リグ?」
「お前のトコに依頼に来た大学生、聞いてたみたいだぞ。今の会話」
  どうするよ?という顔で振り返るリグに、
「今の会話、本当のことだと思われるでしょうか?」
  不安気にするザーク。リグが知っている事については、考えないようにしたようだ。
「さぁな、どう考えるざなんて知らねぇよ」
  素っ気ない返事をするリグに、それもそうだなとザークは考える。
「ここで話してて、また聞かれても嫌だからな。移動しようぜ。近いだろ、お前の家」
  そういうと、スタスタと歩き出すリグ。
「え、あー……はい」
  実はあまりリグを家へと招きたくはなかったが、もう仕方ないと考え、ザークは後に続く。

 ※

「んで、そのアジスタなんだがな……」
  ザークの家。
  ソファに落ち着いたリグが、キッチンへと飲み物を淹れに行ったザークへと話しかけようとした途端、窓が叩かれる。
  ここは五階でるのだが。
「……玄関から入れんのか、お前は」
  叩かれた窓を開けたリグは、呆れたように言葉を紡ぐ。
「相変わらず、人間の住んでいる家の構造がよくわからなやくてね。ほら、俺あんましあの家出ないからね。何十年ぶりかに外出して来たんだけど。……やぁ、ザーク。アイリスにはもう会った?」
  ポンポンと言葉を紡ぐ窓からの訪問者は、三人分のコーヒーを持ってキッチンから出て来たザークに気付き、声をかける。
「お久しぶりです。姉さんにはまだ合ってないですが……?」
  訪問者はスタスタと部屋の中へはいり、ソファへと腰掛けた。
「へぇ、そうなんだ。アイリスのことだから、真っ先に君に会いに来てるかと思ったよ。あ、コーヒーもらって良いかな?」
「相も変わらずよくしゃべる奴だな」
  窓辺で呆れ返っているリグ。
  ザークは、訪問者へコーヒーを渡しながら、
「リグ、窓閉めてくださいね」
  と言い、訪問者の正面へと座る。
「えと、それで、どうしたんですか?」
  訪問者へと問いかけるザークの隣に座りながら、
「コイツが来てるってことは、やっぱアジスタだな」
そうリグが言う。
「まぁ、ね。そうなんだけどねー。ところでリグ、どーして俺の事をさっきからお前とかコイツとか言うかな?名前を忘れるほど長く会わなかったわけじゃないと思うんだけどね」
  ザークの問いにはハッキリしない返事を返し、リグへと恨めしそうな視線を送るその男に、
「あのなぁ、今はそんな事どーでも良いだろ……」
  と言うリグ。
「いーや、良くない。弟にお前呼ばわりされてても笑ってられるほどお人好しじゃないんでね」
  真剣に言うその男、シアン。
「あーはいはい。以後気を付けますよ、兄さん」
  投げやりに言うリグへ、まだ何か言いつのろうとしたシアンをさえぎって、ザークが口をはさむ。
「話を戻しても良いですか?シアン」
「あー、はい。良いよ。まったく、ザークはこんなに良い子なのに、俺の弟ってば。母さん甘やかししぎたんだな、きっと。……で、え-と、なんだっけ?」
  お約束なボケをかますシアンに、ザークは苦笑する。
「今回の事件の事でいらしたのではないですか?」
「あ、そうそう。今回もねー、アジスタが暴れ出したから親父に行って来いって言われて出て来たんだけどねー。今回なんか変でさ。アジスタとコンタクトが取れないんだよね、これが」
  深刻さのかけらもなく話しだすシアン。
「は?」
  不思議そうなザークとリグは無視して、シアンは続ける。
「今回さぁ、今までより派手だったから、何かおかしいなぁ、とは思ってたんだけどねー。と、いう事で、何かわかったら俺にも情報くれ、って事を言いたかっただけ。俺の方も情報そっちに渡すからさ。アキラ。トージョーっていう日本人探してるんだろ?」
  のんびりと話すシアンに、突然質問されたザークは、
「え、あ、はい、そうです。何故知っていらっしゃるのですか?」
  驚きながら答える。
「俺の情報網はすごいのだー。んじゃま、そういう事で。また来るよ」
  そう言って、またもや窓から出て行くシアン。窓からバイバイと手を振る姿には、やはり深刻さなど微塵もない。話し方からそうだったのだが。
  そのまま空高く上がり、どうやら建物の屋根づたいに帰って行くつもりらしい。
「……アイツはまた、言いたい事だけ言っていきやがって」
  リグが窓を再度閉めながら、ボソリと呟く。
「確かに、今までは全てシアンが押さえていましたよね。それにこんな騒ぎになったのは初めてじゃないですか?」
  考えにふけりながら、ザークはリグへと問いかける。
「まー、そういや、そうだよな」
  ザークに答えるリグは、シアンが出て行った窓から彼が消えて行った方角を見ている。
「アイリスも、何か一人で動き回ってるようだしなぁ。未だにお前会ってねぇんだろ?今まで何度も逃げてるから、怒ってんじゃねーの?」
  ザークの隣に戻りながら、深刻な雰囲気を壊すかのようにリグは言う。
「……別に、逃げていつつもりはありませんよ。原因は、アイリスではなく、リグですからね」
「何で俺が原因になんだよ!」
  怒るリグを無視して考え込むザーク。
「ザーク!!おいっ、ザーク!」
  ソファに座っているザークに何度も呼びかけるリグ。
  無視されるのに、段々と怒りの表情を表すと、ドカリとザークの隣に座る。ザークの肩をつかみ、自分の方へと向かせると、
「ザーク、それはシアンに任せよう」
  と唐突に言い放った。
  思考にふけっていて、言われた言葉がすぐには理解できなかったザーク。頭の中で、リグの言った言葉を反芻しているらしい。優に二・三秒経ってから反応した。
「任せようって、リグ。そういう訳にはいかないでしょう」
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