FULLMOON

藤野 朔夜

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第四章

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  ピンポーン
  午後の日差しが暖かい中、リビングのソファにザークとリグは座っていた。
  正確には、昨夜の事でリグを怒りつつも、追い出せないでいるザークが、ムッツリとした表情で書類をまとめている横で、ザークの不機嫌なんてお構いもしないリグが、のんびりとコーヒーを飲んでいたのだが。
  来訪者を知らせるザークのアンテナは、二人がエレベーターを降りた時すでに発動していた。更には、二人の内一人は自分が知っている人物だとわかっていたのだが、インターフォンが鳴るまで待っていた。
  まぁ、鳴る前にドアが開けば、不審に思われてしまうだろう。
   それに、二人が来た理由が、何となくわかっているから、先に延ばせるなら延ばしたかったという気分もあった。
  今回は連れがいることと、二度目の訪問という二つの理由から、すぐにインターフォンは押され、ザークの思いは儚く消えた。
「いらっしゃい、ロイ君。ご友人も一緒のようですね。すぐに暖かい飲み物を用意しますから、中へどうぞ」
  先程の不機嫌さなどなかったかのように、にこやかに対応に出るザーク。
  一人はザークの依頼主ロイで、もう一人は友人のショウ・ミズキだ。
「あ、ザークさんすみません。突然。友人も気になるからって……」
  突然友人を連れて来訪したことに頭を下げるロイ。
「構いませんよ。丁度一度目の報告をするために連絡しようとしていた所でしたから」
  ロイに会う事を先延ばしにしようとしていたことなど、おくびにも出さず、ザークは言う。
  二人を連れてリビングに入ると、リグは気を利かせたのかいなかった。
  が、別の部屋にいるという事は、ザークのアンテナに引っかかっている。当分出て行く気はないようだ。
「ソファへどうぞ。コーヒーしかないのですが、大丈夫ですか?」
  先日の失敗を活かして、今回は先にコーヒーを淹れることを伝える。
「あ、はい。大丈夫です」
  ロイとショウは頷いて、ザークに勧められるまま、テーブルに書類が置いかれていない側のソファへと座る。
  手早くコーヒーを淹れ、戻ってきたザークからカップを受け取りながら二人は礼をする。
「すみません、突然押し掛けたりして。俺はショウ・ミズキと言います。アキラと同じ日本人で、それでアキラの事が気になって……」
  申し訳なさ気にショウは自己紹介をし、なんと言ったらいいのかわからなくなったのか、言葉を途切れさす。
「大丈夫ですよ。ご友人が気になるのは普通のことですし」
  優しい笑顔を向けて答えるザークに、ショウはホッと息を吐く。
「あ、あの、それで……報告って」
  何かわかったのかもしれない、とロイが勢い込んでザークに話しかける。
  ふと、ザークの笑みが消えた。
「良い報告が出来たら良かったのですが……」
  とザークは言葉を濁す。
  警察で調べた事など、この短い期間で分かったことを報告する。
  わかった事、というかわからなかった事報告の気がするな、とザークは思う。
「アキラ君の消息は一切つかめていません」
  そう締めくくったザークに「そうですか」と二人は肩を落とす。
「まだ二日ですから、調べていない場所などあると思っています。楽観手になれ、とは言いませんが、……あきらめませんよね?」
  柔らかなザークの問いかけに、
「はい。あの、ザークさんがもう不可能だ、というところまで調べてもらっても良いですか?」
  ロイはハッキリと返す。
「わかりました。では、引き続き調査します」
  頷いたザークへショウが言葉を発する。
「聞きたいことがあるのですが」
「はい、何ですか?」
  内心ついに来たか、と思いつつも、表面的には笑顔で答えるザーク。
  ショウは、えーっとと戸惑いながら質問を口にする。
「吸血鬼って、この世にいますか?」
  出たのは単刀直入の言葉。
「いると思いますか?ではなく、いますか?というのは、私がしっかりとした返答を持っていると考えているのですか?」
  本来なら、そんな部分は無視すべきところだろう。
  いるかいないか、曖昧にぼかして、もっともらしい意見を言い……と思います。としてしまえば、それで答えになるのだから。
  それなのに、ザークはその部分をきっちりと問う。そういう言い方をするのには、それなりの理由があるのだろう?と。隠さずに、全部話してしまえ、と。
  ショウは、そういう形の質問になっていたことに、意識はしていなかったのだろう。狼狽して、ロイにどうする?という目を向けている。
「あ、あの。いけないことだとはわかっていたんですけど。ザークさんを見かけて、話しを立ち聞きしてしまいました。あの。本当にすみません」
  あわてて言うロイは、わたわたとしている。
「そうですか」
  ザークは考え込み始め、二人は何も言いだせなくなってしまった。

  ザークはどう答えるかで迷っている。
  でも、曖昧に答えられないと思ったからこそ、先の質問をした。
「吸血鬼はいるぜ、ここに二人」
「リグ!!」
  答えたのはザークではなく、別の部屋にいて出ては来ないと思っていたリグだった。
  どうやら、会話は聞いていたらしい。
  咎める視線を送るザークに、
「どーせ、いずれはわかることだ。答えぼかしても意味ないだろう」
はっきりキッパリとリグは言い切る。
「んで?他には?」
  ザークの反撃より先に、リグはショウへと視線を向ける。
  他に質問はないのか?と。
「……何故、ご自分を吸血鬼だと?」
  ロイは驚いてリグを見ていたが、ショウはリグの視線に答えるように質問をする。
「そりゃ、俺がそういう家に産まれたからさ」
  リグの返答は簡潔だった。
「ザークさん、も?」
  ショウが考えるように言葉をザークへ向ける。
「私は違う。……否、吸血鬼ではある。が、元々は少々変な力を持った人間だ」
  半ば投げやりなザークの答えは、いつもの口調さえどこかに投げ飛ばしてしまっている。
「少々変な……って」
  頭にハテナでも浮かんでいそうなショウ。
「吸血鬼でも持ち得ない力だ」
  リグはさらりと答えると、ザークの隣に座る。
  挑戦的な瞳はショウを見据えている。質問があるなら答えてやる、と。
「じゃぁ、ザークさんはどうやって吸血鬼になったんですか?」
  そのリグの瞳に怯みもせず、質問を重ねていくショウは、なかなかに肝が据わっている。
  ロイはただ聞き役に回っている。情報がすごすぎて入り込めないというよりは、パニックを起こしているようだ。
「俺がした」
  リグの答えは一つだけ。それに関連した、次にされるであろう質問には自ら答えようとはしない。聞かれたから答える、そのスタンスを貫き通すつもりなのだろう。
「血を吸えば、仲間になるって?」
  吸血鬼伝承のポピュラーなものだろう。
「それはあり得ないな。そんな事が起こるなら、とっくにこの街は吸血鬼だらけだ。やり方は教えられないな」
  今までの犠牲者の数を考えれば、そんなことはわかるだろうと、リグは呆れたように返答する。
  やり方についての質問には答えられない、と釘をさして。教えたところで意味もないだろうが、やはり教えるべき事ではないから。
「……何故ザークさんを吸血鬼にしたんですか?」
  質問を途切れさせずするショウ。この機会に、知り得ることは知っておこう、という考えだろうか。
「それについて答える義務はない。俺とザークの問題だ」
  答えたくない事はキッパリとはねつけるリグ。
「吸血鬼は、他に何人も?」
  面倒臭くなってきたのか、ショウの質問から丁寧な語尾がなくなる。
「あー、いるさ」
  面倒臭そうに答えているようにも見えるが、リグは律儀に返事を返す。簡潔すぎる返事だが。
  ザークはリグに任せて、会話に入る気はないようだ。というより、あきらめたのだろう。何か言うことを。
「何人?」
「さぁな。数えたことがない。世界中に散らばってるからな」
「なら、この街には?」
「俺が知ってる限りなら……俺たちを抜かしてあと三人」
「その内の誰かが、今起こっている事件の犯人ってことに?」
「何故、俺たちがそんなことをしなくちゃならない?」
  止まらない問答に、リグが初めて質問を返した。
「吸血鬼は血を飲むのでしょう?」
「あぁ、飲むな。けどそれは、事件のように頻繁じゃない」
「では、吸血鬼以外の魔物が?」
「俺たち以外に血を飲む魔物、か。いるかもしれんが、俺は会ったことがないな。だいたい、人間が起こしている可能性もあるだろう」
  魔物とハッキリと言われた瞬間、ザークの肩がピクリと動いた。その些細な変化をリグは見落とさない。
  静かな声だが、少し怒気が混じったように感じたのは、ザークだけだろう。
「人ができる事には思えません」
  ショウはそんな二人の変化には気付かない。
「どうだろうな。実は簡単なことかもしれないぞ」
「どうやってやると?」
「そんなことは犯人を捕まえればハッキリするさ」
  リグは、犯人についてはぼかすつもりらしい。
  人間には捕まえられない犯人だと知りながら、犯人は人間かもしれないと突きつける。俺たちを魔物と言い、忌み嫌うことに、そして全てを魔物ののせいにすることに微かな怒気をはらませながら。
  事実、俗に言う吸血鬼事件で殺されたとほぼ同数の人間が、毎夜この街から消えているのだ。自ら姿を消す者、犯罪に巻き込まれる者。それらのことから、人間が起こす凶悪な事件から目を背けて、不可解だからと魔物のせいにするな、ということだ。
  ショウはどうやら、それ以上リグに質問できなくなっているようだ。
「わかりました。そうですよね。あなた方が犯人であるかのように言ってしまい、申し訳ありません」
  ショウは小さく頭を下げる。
  吸血鬼がいるということを信じたかどうかは別として、二人が犯人を知っているかもしれないということの真相には辿り着けていないのだが。とりあえず、納得することにしたようだった。
「否、まぁ、こっちも面白かったしな」
  後半、魔物という単語に怒気をはらませたものの、リグは意外と楽しんでこの問答をしていた。
「えと、じゃあ俺たちはこれで。色々と答えてくださって、ありがとうございました」
  ショウはそう言うと、まだポカンとしている状態のロイを促して、腰を上げる。
  二人を玄関まで見送りに立ったザーク。会話はない。
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