FULLMOON

藤野 朔夜

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第四章

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  考えながらリビングに戻ってきたザークを見て、
「どうした?」
  優しい口調でリグは問いかける。
  先程の傲岸不遜な瞳の色は成りを潜めて、瞳の色さえ優しさがにじみ出ている。
「いえ、あれで良かったのだろうかと、思いまして」
「さぁな、そんなことは時間が動かないとわからないことだ」
  自分が言いたい放題言ったにも関わらず、何とも無責任な言い草だ。
「人の倍以上生きていても、人のことはわかりませんね」
「俺たちは人じゃないだろう」
  苦笑するザークに、わからなくてもそれが当然だと、リグは言う。
「ある一定時間までは、私は人でしたよ」
「けど、人の中からはみ出てた」
  リグの答えに、ザークの表情は暗くなる。
「悪い、忘れろ。俺がお前をキズつけるのは駄目だよな。わかってるんだ……くそっ……ザーク」
  慌てたリグは、ソファから跳ねるように立ち上がり、ザークの傍へと行く。
  遠い昔、ザークと共に在りたいという願いから、彼を人でないモノに変えたのはリグだ。
  ザークは人でありたいと、ずっと願っていたのに。
  リグの傲慢が、ザークから時間を奪った。
  人であり続けるザークの心は、同じ姿で、長い永い時間を過ごしてきた。
  独りではなかったけれど……それは、とても苦しいことだったのだ。
  けれど、リグにはそのザークの心がわからない。
  人の中で生き続けようとするザークに、時には怒りを覚えてさえいるのだ。
  闇に属することを頑なに拒んだザークの心を、リグは完全に理解することができなかった。けれど、ザークが力を使えば、自分は永遠に闇の中に封印されたのに、ともリグは思う。
  不安定で、ずっと揺れ動いていたザークの心。
  人に愛される為に、利用されることをあえて選びとってさえいた。
  愛してもらえないことに哀しみ、自分を必要だと言ったリグに、ザークは心が傾いているのを感じながら。
「わかっているんです、リグ。……私は光の中では生きられない」
「違う。そうじゃない。ザークは光なんだ」
  己を抱きしめてくれるリグにすがりつくザーク。
  ザークの存在意義はリグと、たった一人の姉のアイリスの二人だけだった。
  強い、圧倒的な力でザークに抵抗を許さず、闇へと導いたリグ。
  本当はザークは、闇を欲していた。光の中で生きられない自分の存在を、破壊してしまいたかったから。
  闇を欲したザークのように、リグは光を欲した。闇の中で生きながら、決して手に入ることはないとわかっていても、光を求めた。
  リグの中の光がザークであり、ザークの中の闇がリグなのだ。
「私が、ひかり……?」
  顔を上げて、リグに問いかけるザークは戸惑っている。
  気味が悪いと、親にさえ言われ続けてきたザークは、自分が光などと考え付くはずもない。
「ザークにとっての闇の象徴が俺みたいに、俺の中での光の象徴がザークなんだよ」
  リグの瞳は、いつもの傲慢な光ではなく、滅多に見せない優しい色を宿していた。
「んで俺は、あの時でザークといられる時間を終わりにしたくなかったんだ。お前の沈んだ顔しか見れないまま、なんて嫌だったんだよ。待てば、お前は転生してくるかもしれない……会える可能性は低いけど。だけど、待つのも嫌だったんだ。我が儘だよな、本当に。こんなことで帳消しになんてなる訳ないとわかってるけど、愛してるんだよ、ザーク。俺の我が儘ムリヤリとおしちまうくらいに、傍にいて欲しかったんだ」
  ぶっきらぼうではあるが、ザークはリグの言葉を素直に受け止めることができた。
  何故、今まで拒もうとしていたのかさえわからなくなる程に。
  リグが、自分に執着する理由が、やっと理解できたと、感じたのだ。
  そしてまた、ザーク自身もリグへと執着する心があることを、無視できないでいた理由が、リグの言葉でやっと理解できたのだ。
「あなたは、言葉が少ないから……」
  理解できずにいた理由を、リグのせいだとザークは呟き、もういいと思った。
  頑なに、リグを拒もうとしていた理由は、リグの本心が見えなかったからだから。
  リグの執着は、いつまで経っても自分のものになろうとしないことに対してのモノだと、ザークは思い込んでいたから。
  リグも、やっとザークが手に入ったと思えた。
  やっとお互いの心がわかり合えたと感じられたことに、二人してホッとする。
「ごめん」
  一言だけ、静かに謝るリグ。
「もういいです。謝ってもらうことなんて、何もないですから」
  いつもの柔らかい笑みを見せるザーク。
  この長い年月も、辛いだけではなかったから。
  ザークがいたからリグは生きてきた。また、ザークもリグがいたから、離れて世界を彷徨っていても生きてこられた。
  自分の居場所はココだと。リグの傍なのだと、もう既に知っていたはずなのに。それを認めるまでに、本当に長い年月を費やした。自分の方こそ謝るべきだと、ザークは考える。
「リグ、私の方こそ、ごめんなさい」
「ザーク?」
「気付いていたのに、認めるだけだったのに、全てをあなたのせいにして、逃げていました。悪いのは……私の方です」
  俯いて話すザークの言いたいことを悟ったリグは、苦笑する。
「すぐに認めるなんて無理だろうな。俺だってきっと無理だ。これからも、今までのように、否、今まで以上に傍にいる。それで良いだろ?」
  いつもからは考えられないほど、優しいリグの声音。
「あなたは、私を甘やかしすぎる」
  少し抗議めいたザークの言葉にリグは笑うと、軽いキスを送る。
「可愛いからね、俺のザークは。あの頃とあまり変わってないよ?」
  からかい交じりに言うリグに、ザークは少しスネた顔をする。
「成長していませんよ、私は。あの頃から、心も成長を止めたんです」
  なんて。
「うん。なら俺と成長していけば良い。俺もきっと、あの頃のままだ」
  必要としあう分だけ、心は寄り添いあうものだから。
  今まで以上に傍にいれば、もう二度と迷わないだろう。
「愛してるよ、ザーク」
  今まで以上に、そしてこれからも、ずっと……。
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