FULLMOON

藤野 朔夜

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第六章

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  冬の日差しは角度が小さい分、室内に入りやすい。風の通らない室内においては、日のあたる場所は暖かい。
  ザークはふと、空を見上げた。
  室内では暖かいかもしれないが、室外では当たり前だが寒い。風がないだけまだマシだろう。
  この季節にしては、空は綺麗に晴れていた。夜ならば、綺麗に星が見えたかもしれない。排気ガスで覆われたこの街では、多くの星を望めないだろうが。
「どうかしたかい?」
  空を見上げて立ち止まったザークに、連れは声をかける。
「すみません。……呼ばれた気がしたんです」
  ザークは連れに顔を向けると、苦笑して答える。
「空に、かい?」
  そう、だから自分でも苦笑するしかなかったのだ。連れの苦笑を見ながら、ザークは思う。
「ええ。……空に、というよりも、どこか遠くから、といった感じかもしれません」
  確信のないままザークは言い、連れの元まで足を進める。
「今までに出会った誰か、とか?」
  ザークと再び並んで歩きながら言う連れに、
「そうですね。誰か、まではあいにくとわかりませんでしたが」
  ザークは答える。
  ザークも連れも、ザークの感覚を軽視しない。ザークが元々、産まれた時から持っていた能力なのだ。間違える事はまずない。ザークが誰かの声を聞いたのならば……。
「助けを求める声、とか?」
  そういうことかな、と連れは考えた。
「いいえ。そういうニュアンスではありませんでしたけれど……」
  本当にかすかな声だったのだ。とザークは言う。かすか過ぎて、自分を呼んでいるのだと気付くのにも時間がかかったるほどだったのだ、と。
「ふーん。じゃあ、これから気を付けておいた方が良いかもね」
  連れはさして興味もないようで、そう言うと別の話しを始める。
  ザークも自分以外がわからない感覚的な事を、いつまでも連れに話す気はなかった。
「ところで、リグ置いてきちゃったけど良かったの?」
  もう大分経っているのだが。ザークが今隣にいる彼に家から連れ出されて。
  今更なことを言う連れには、リグが今頃どうしているかなんて、容易に考え付くだろう。なのに、わざわざ聞いてくるあたり、人が悪い。それに、ザークだけを連れ出したのは、その質問をした彼自身だ。
「今頃スネているか、私を探しているかのどちらかだと思いますが……」
  どういう顔をして答えれば良いかわからず、困惑気味な顔をしているザークを気にもとめず、連れは笑いを噛み殺している。
「本当にね、リグってば行動パターン……っわっと……」
  滔々と話し始めた連れは、言葉を途切れさせ、いきなり大きく前方へ飛んだ。今まで連れがいたザークの隣には、脚が生えている。中空に……。
「シーアーンー」
  地を這うような声がした後、ザークの隣から脚が消え、代わりに男が一人現れる。
「やぁ、リグ。どうしたんだい?いきなり」
  蹴られる所を難なく回避した連れ……シアンは、ニッコリと笑って男……リグへと白々しく問いかける。
「ザーク、こんなんに付き合わなくて良いから。帰るぞ」
  名を呼んでおきながら、シアンには目もくれず問いかけを思いっきり無視したリグ。ザークの腕を取って体を回転させようとする。
「コラコラコラコラ。兄に向ってこんなんとはなんだ。しかも無視しない。それから、ザーク連れてっちゃ駄目だよ。何のために連れてきたと思ってるの?」
  ザークとリグの間に割って入りながら、シアンはニッコリとリグ……弟に言う。
  そのニッコリがリグにはムカツキの原因なのだが……わかっていてやっているらしい。
「何なんだよ」
  触らぬシアンに祟りなし、というか、いつも傍若無人なリグにしては、シアンが関わると一歩二歩どころか、百歩ほど下がろうとする。だからこそシアンは余計にリグにちょっかいをかけるのだが。どうやらリグはそれをわかっていないし、苦手意識が先に出てしまうらしい。あからさまに嫌そうな顔をする弟を見て楽しんでいる兄というのも……。
「ザーク!」
「はい?」
  二人を観察しながら、思考の海へと潜っていたザークには、リグとシアンの会話は耳に届いていなかった。
「聞いてなかったの?あ、何?リグに見惚れてたとか?っていうか、何気に人に見られているのはザークだけどね。このシチュエーションってザークを俺とリグが取り合ってるみたいだし。あ、実際そうか」
「うるさい」
  珍しいねェ、と話し出すシアンに、リグの一言。
  シアンに言われて、周りを見渡してみれば、なるほど。
  通行人が何事かと歩道に立ち止まっている三人を、邪魔そうに見ていく。確かに、三人を見渡した後、ザークをもう一度見直してくる。一様にその後頷いて去って行くのは、男二人が取り合っているのが女でなかったとしても、ザークの綺麗さに納得するからか。
「うるさいとは何だ。俺は……」
「とりあえず、移動しませんか?」
  またも珍しく、言葉をザークにさえぎられて面食らったシアンは「あ、あーそうだね」とだけ言い、他の言葉を飲み込んだ。
「付き合う必要ないってのに……」
  ブツブツ言いながらも、リグは結局同意することになる。
  三人で近場の喫茶店に入り、人々の視線から逃れることを優先する。喫茶店に入っても、人目を引く三人ではあるのだが。
「んで、一体なんなんだよ?」
  シアンの正面を避け、ザークの隣に座った瞬間リグが問う。
「注文して、物が届いてからね。人に聞かれたくない類の話しだから」
  シアンはそう言うと、ウエイターを呼ぶ。
  シアンのウエイターとは違い、愛想の良いウエイターは「かしこまりました」と笑顔で三人分のコーヒーの注文を受けて去っ行った。
  手早く淹れられて出て来たコーヒーの香りに誘われるように、シアンの指がカップへと伸びる。そんなシアンに、
「おい」
  不機嫌を隠そうともしないリグの声がかかる。
「まったく、なんでそうせっかちなのかな。ゆっくりコーヒー飲ませてくれたって良いんじゃない?外寒かった上に予定外な言い合いまでさせられて……ちょっとはゆっくりしたいんだよね」
  早く話せの催促をブツブツ嫌がりながら、殊更ゆっくりとコーヒーを飲む。
  言い合いについては、シアンに原因があるのだが。
  苛立って、机をコツコツと叩きだしたリグの手を、横からザークが押さえ、
「私も、そろそろ聞きたいのですが?」
  シアンへと切り出す。
「そお?うん、そうだよねぇ。……アジスタの居場所がわかったんだ」
  あからさまな態度の違いとか、今はそんなことはどうでもよくなる発言をシアンはした。
「え?」
  絶句する二人。ゆっくり探すしかないと、言っていたのはつい昨日だったはずなのだが。
  シアンは続ける。
「なんかもう、よくわかんないんだけどさ、そこにアイリスもいるっぽいんだよね。それから、例の留学生。俺はアイリスに、アジスタがここに来ているのを知らないって言ったことがあったんだけど、それってアイリスとアジスタが繋がりあるっぽかったから、そう言ったんだよね」
「繋がり?」
  いつまでもぼけていられる話しではないと悟ったのか、話しが姉の事になったから頭がフルスピードで回転し始めたのか。ザークの問いにシアンは頷く。
「俺はアジスタを追ってここに来た。でも実際姿を見せたのはアイリスだった。そんで、アイリスがアジスタがここにいる、って言ったんだ。隠れて姿を見せようとしないアジスタが、アイリスにだけ姿を見せていたとしたら?」
「けど、俺は一回アジスタに会ってる」
  シアンの言葉が途切れたのを機に、次に爆弾発言をしたのはリグだった。
「何だって?どうしてそれを俺に報告しない?そしたらこんな苦労はしてなかったかもしれないのに」
  普段ボンヤリした感じに見られるシアンの瞳が吊り上る。
「んなこと言われても。俺にはどーでも良いことだったしな。……その後アイリスにも会ったな、そういえば」
「え?」
「実はリグ、色々と隠し事してるんじゃないだろうね?今のうちに全部吐いておきなさい」
  ザークは瞳を見開いてリグを見、シアンは剣呑な目付きのままリグをねめつける。
「……。だから、ロイってザークのトコに来た奴が、アジスタのいる路地に入ろうとしていたから止めたんだよ。ん時にアジスタと話しして、その直後にアイリスに会った。そん時は珍しくアイリスがザークの情報持ってなかったから、そっちの方に気ぃ取られてて気付かなかったけど、出て来たタイミングおかしいんだよなぁ、今考えると」
  それだけだ、と話すリグ。
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