27 / 35
第九章
②
しおりを挟む
「よう、ザーク。また夜歩きか?」
次の日、彼は唐突に陽気に僕の前に姿を現した。
僕は彼が来ることを予想していなくて、動揺した。あぁ、また家を追い出されてしまった、なんて考えていたから。
気配を消して近付かれたのか、声をかけられるまで彼の存在に気付かなかった。圧倒的なオーラがあるのに。
「リ、グさん……」
「お、ちゃんと覚えてたか」
名を呼んだ僕に、彼は嬉しそうに笑う。
昨日の今日だ。こんな規格外の人外を忘れろと言う方が、難しい。
彼は躊躇なく笑い、金色の瞳は僕をとらえていた。驚くほどに優しい眼差し。
僕はまた、怖いと言う感情に支配される。嵐のように荒れ狂う心を静めて、冷静になろうとしても、無理だった。
「なぜ……」
掠れてしまった声は小さくて、それでも彼はちゃんと拾ってくれた。
「ん?なにが?」
今、ここで彼に囚われてはいけないんだ。冷静になれ。必死に僕は心で思う。
「無理して、人でいることはない」
彼の言葉は遠慮容赦なく、僕の心の闇に突き刺さった。
「無理です。無理なんだ……!!それは考えたらいけないことだ!」
「どうして?何故?何がいけないことなんだ?」
動揺して一歩下がる僕を追いかけるように、彼は二歩近付いた。
何故、どうして……彼が僕に問いかけた言葉ばかりが頭の中を巡る。冷静になんて考えられなくなった僕はまた、彼の前から姿を消すように走り出していた。
囚われたら終わりだ。
囚われたら、僕はもうこの世界にいられない。
けれど僕はなぜ、何故この世界にこだわるのだろうか……。
母に愛して欲しいという思いがあるのは確かだ。けれど、その願いが叶うことがないこともわかっていたし、あきらめていた。
だけど、僕を見てくれた母がいたのも事実。母の目にとまるなら、利用されていようとなんでも良かった。
「ザーク、昨日は悪かったな」
予想どおり、彼はまた僕の前に現れた。
予想していたから、僕は動揺も恐怖も今日はちゃんと抑え込めた。
「いいえ、私もすみませんでした」
そう言った僕に、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
僕の固い言葉のせいだろうか。
でも、昨日走って逃げてしまった事は、謝りたかった。
「否、ひとつ聞いて良いか?」
「はい……」
大丈夫、僕は冷静でいられる。囚われない。
「何故、人の世界にこだわる?」
予測していた問いだった。昨日、僕を支配した謎。
僕は彼に嘘を述べることはしなかった……否、したくなかったのだ。
だから、覚えている限りの生い立ちを話した。理解されなくても良いんだ。ただ、知って欲しかった。誰かに話しをしたかったのかもしれない。否、彼に話したかったのだ。
僕自身、この人の世界に留まり続けたい理由がわからないでいた。だから、彼がわからなくて当たり前だと思っていたし、彼に話すことで何か見極めれるような気がしていたのかもしれない。
「そんなの、お前利用されてるだけだろ?」
淡々と母と自分のことを話す僕に、彼は心の底から母のことを怒っているのだと、怒気をはらんだ言葉でわかる。
何故彼は、こんな僕のことを思って、怒ってくれるのだろう?
僕自身あきらめたといいながらどこかに持っていた感情を、彼が代弁してくれているような錯覚。
「母親が、今はたまにお前を見てくれているのかもしれないが、こんな夜に家を追い出されてんだろ?またすぐに見てくれなくなるのはわかることだろ?」
僕自身その恐怖はいつも抱えていた。夜に家を出されるたびに、思っていた。
「たしかに、そのとおりだと思います。けれど……」
「変だろ、それは。わかんねぇよ、俺には。お前の母親は、一度はお前を捨ててるんだ。そんな奴と、何故一緒にいたがる」
僕の言葉を遮って、彼は言いつのる。たしかに、確かにその通りなのだ。だけど……。
僕はまた、疑問の渦の中に飲み込まれる。どうして……か。
彼と僕は理解し合えない。わかったのは、それだけ。
彼と共にいれば、僕は彼と共に生きることを選択してしまいそうで。彼といれば、辛い思いはしなくて良いのだろうか。なんて、すでに囚われかけている。
「そうですね」
それでもやはり僕は、彼に背を向ける。
彼とは根本的に何もかもが違う。生きている世界が。
彼との議論は平行線で、交わることはない。
僕はたとえはみ出てたとしても、人間の中にいたかった。
そうだ、この日から、数か月彼を避けていた。会わないように、自分の気配を消して。少しでも彼の波動を感じる場所には近付かなかったのだ。
僕の心には闇が巣くっていた。
彼に完全に囚われるのが恐かった。
「あー、いや……」
僕の内心のしまったを感じ取ったのか、彼は戸惑う様子をみせた。
そんな仕草は本当に人間と一緒だ。
「少し話せるか?」
簡単に僕の心に入り込んでくるくせに、優しい瞳は相変わらずで。
僕は素直に頷いていた。
会ってはいけない、なんて思いながら、僕は彼が僕の前に突然現れてくれることを期待してもいた。矛盾してる僕の心。
あれからずっと、同じことを考えては打ち消して、打ち消しては考えて。繰り返し繰り返し。
「光ってのは、なんか遠くから見ても暖かいよな」
高台から暗い闇へと侵略されていく町を見下ろしながら彼は言う。
「リグさん……?」
「闇の住人である俺がこんなことを言うと変、か?」
自嘲気味の彼に、僕はどう返したら良いのかわからなくなる。彼といるとわからないことだらけだ。
「俺はさ、闇の中で産まれて、闇の中で生きてきた奴だからさ。……だからこそ、光を求めるんだ」
「え?」
考えながら話す彼に、僕は戸惑いを隠せない。
「わかりづらいか。あー、俺たち闇の住人には光がないんだ。光を持って産まれないからな。けど、無いものだから欲しくなる。こう思った時にさ、ザークの言ってた言葉が理解できた気がしてな」
金色の煌めきは僕を捕える。
「無いモノだけど、手を伸ばせば手に入るんじゃないか、ってとこにあると欲しいって欲望は生まれるよな。近くに在れば在るほど。近くになきゃ気付かないから、そんな欲求生まれないだろうけどさ。それが本来手に入るべきものだったとしたらなおさらだよな」
彼の話す言葉が理解できていくにつれて、僕は驚いて彼を凝視するしかできなくなってた。
「わかりにくいか?」
「いいえ……」
問われて、必死に出した言葉は掠れて、小さな呟きになってしまった。
「これでも色々考えたんだ。ザークの言った言葉何度も思い返して、な。俺は光が欲しくて、ザークを欲しいと言ったんだ。ザークは家族からの愛が欲しくて、家族と共にいたいって言ったんだろ?」
「……はい」
彼の言葉に、頷く以外できそうにない。
「俺がザークを愛したところで、それは家族の愛にはならない。ザークが欲しいのは家族愛であって、他人に愛してもらうことじゃないって事だろ?」
「……」
確認を求めるような彼の声。頷くだけの僕。
「うん、まぁ、それでさ。待つことにしたんだ。俺の時間軸とお前の時間軸は違うからさ。お前が生きてここにいれば、俺にとって待つことは苦痛じゃない」
「リグさん……」
僕はずっと驚きっぱなしだ。
彼はずっと僕のことを考えていてくれていた。嬉しいという感情が心に生まれる。
ふと彼は、金色の優しい瞳を煌めかせて僕に近付いた。軽く触れるだけのキス。
「俺はいつでもお前の声は聞こえるから。何か有ったら呼べば良い。辛かったら、いつでも俺を呼べば良い。いつでも助けにいく」
彼の言葉はとても優しい。
理解し合えないと、あきらめた僕。なのに、彼は理解し合えると言ってみせ、更には待つとまで言ってくれた。
どうして、彼は僕にこんなに優しいんだろう。
「本当は、問答無用で連れ去りたい。でもそれはお前が嫌がるだろうし、俺も本望じゃない。俺は、お前の心ごと欲しいからな」
僕の疑問は、人を愛せばわかると言われた気がした。
僕は初めて欲しがっているだけで、自分が相手に与えていないと気付く。母に僕を見て欲しいと思いながら、僕自身があきらめたと良い訳して、母を見ていなかった。
「僕が少しでも変われば……歩み寄れるでしょうか?」
「さぁな、それはやってみないとわからない。やってみるか?」
頷いた僕に彼は笑みを見せると、キツクなったらいつでも呼べよとまた言い、闇の中へと消えて行ってしまった。
僕は一抹の寂しさを感じていた。けれど、呼べばいつでも来ると言ってくれた彼の言葉がとても心強かった。
僕は大丈夫だ。
何の根拠もないけれど、そう思ったんだ。
「ザーク」
呼ばれて振り返ると、そこに姉の姿。夜になんて出歩かない人なのに。
「姉さん?」
こんな時間にこんな場所、とても不自然に感じた。
「誰かと一緒にいたの?」
僕の疑問には気付かなかったのか、問いかけながら僕に近付いてくる。
「いいえ」
僕は彼のことを、姉には何故か話したくなかった。
「そう?なら良いけれど。さぁ、帰りましょう」
疑問を浮かべたままではあったけれど、まぁ良いわと言うように、姉は踵を返す。僕がついて帰るのはさも当たり前というように。
「姉さん、でも……」
「大丈夫よ。私と帰れば。ほら、帰るわよ」
姉は本当に、母の血を受け継いだ娘だった。こんな時はいつも思う。
姉はたまにぼくを見てくれる。
僕は自分が生きてきた道を、悲観しすぎていたのかもしれない。まだ、たいして生きてもいないのに。
次の日、彼は唐突に陽気に僕の前に姿を現した。
僕は彼が来ることを予想していなくて、動揺した。あぁ、また家を追い出されてしまった、なんて考えていたから。
気配を消して近付かれたのか、声をかけられるまで彼の存在に気付かなかった。圧倒的なオーラがあるのに。
「リ、グさん……」
「お、ちゃんと覚えてたか」
名を呼んだ僕に、彼は嬉しそうに笑う。
昨日の今日だ。こんな規格外の人外を忘れろと言う方が、難しい。
彼は躊躇なく笑い、金色の瞳は僕をとらえていた。驚くほどに優しい眼差し。
僕はまた、怖いと言う感情に支配される。嵐のように荒れ狂う心を静めて、冷静になろうとしても、無理だった。
「なぜ……」
掠れてしまった声は小さくて、それでも彼はちゃんと拾ってくれた。
「ん?なにが?」
今、ここで彼に囚われてはいけないんだ。冷静になれ。必死に僕は心で思う。
「無理して、人でいることはない」
彼の言葉は遠慮容赦なく、僕の心の闇に突き刺さった。
「無理です。無理なんだ……!!それは考えたらいけないことだ!」
「どうして?何故?何がいけないことなんだ?」
動揺して一歩下がる僕を追いかけるように、彼は二歩近付いた。
何故、どうして……彼が僕に問いかけた言葉ばかりが頭の中を巡る。冷静になんて考えられなくなった僕はまた、彼の前から姿を消すように走り出していた。
囚われたら終わりだ。
囚われたら、僕はもうこの世界にいられない。
けれど僕はなぜ、何故この世界にこだわるのだろうか……。
母に愛して欲しいという思いがあるのは確かだ。けれど、その願いが叶うことがないこともわかっていたし、あきらめていた。
だけど、僕を見てくれた母がいたのも事実。母の目にとまるなら、利用されていようとなんでも良かった。
「ザーク、昨日は悪かったな」
予想どおり、彼はまた僕の前に現れた。
予想していたから、僕は動揺も恐怖も今日はちゃんと抑え込めた。
「いいえ、私もすみませんでした」
そう言った僕に、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
僕の固い言葉のせいだろうか。
でも、昨日走って逃げてしまった事は、謝りたかった。
「否、ひとつ聞いて良いか?」
「はい……」
大丈夫、僕は冷静でいられる。囚われない。
「何故、人の世界にこだわる?」
予測していた問いだった。昨日、僕を支配した謎。
僕は彼に嘘を述べることはしなかった……否、したくなかったのだ。
だから、覚えている限りの生い立ちを話した。理解されなくても良いんだ。ただ、知って欲しかった。誰かに話しをしたかったのかもしれない。否、彼に話したかったのだ。
僕自身、この人の世界に留まり続けたい理由がわからないでいた。だから、彼がわからなくて当たり前だと思っていたし、彼に話すことで何か見極めれるような気がしていたのかもしれない。
「そんなの、お前利用されてるだけだろ?」
淡々と母と自分のことを話す僕に、彼は心の底から母のことを怒っているのだと、怒気をはらんだ言葉でわかる。
何故彼は、こんな僕のことを思って、怒ってくれるのだろう?
僕自身あきらめたといいながらどこかに持っていた感情を、彼が代弁してくれているような錯覚。
「母親が、今はたまにお前を見てくれているのかもしれないが、こんな夜に家を追い出されてんだろ?またすぐに見てくれなくなるのはわかることだろ?」
僕自身その恐怖はいつも抱えていた。夜に家を出されるたびに、思っていた。
「たしかに、そのとおりだと思います。けれど……」
「変だろ、それは。わかんねぇよ、俺には。お前の母親は、一度はお前を捨ててるんだ。そんな奴と、何故一緒にいたがる」
僕の言葉を遮って、彼は言いつのる。たしかに、確かにその通りなのだ。だけど……。
僕はまた、疑問の渦の中に飲み込まれる。どうして……か。
彼と僕は理解し合えない。わかったのは、それだけ。
彼と共にいれば、僕は彼と共に生きることを選択してしまいそうで。彼といれば、辛い思いはしなくて良いのだろうか。なんて、すでに囚われかけている。
「そうですね」
それでもやはり僕は、彼に背を向ける。
彼とは根本的に何もかもが違う。生きている世界が。
彼との議論は平行線で、交わることはない。
僕はたとえはみ出てたとしても、人間の中にいたかった。
そうだ、この日から、数か月彼を避けていた。会わないように、自分の気配を消して。少しでも彼の波動を感じる場所には近付かなかったのだ。
僕の心には闇が巣くっていた。
彼に完全に囚われるのが恐かった。
「あー、いや……」
僕の内心のしまったを感じ取ったのか、彼は戸惑う様子をみせた。
そんな仕草は本当に人間と一緒だ。
「少し話せるか?」
簡単に僕の心に入り込んでくるくせに、優しい瞳は相変わらずで。
僕は素直に頷いていた。
会ってはいけない、なんて思いながら、僕は彼が僕の前に突然現れてくれることを期待してもいた。矛盾してる僕の心。
あれからずっと、同じことを考えては打ち消して、打ち消しては考えて。繰り返し繰り返し。
「光ってのは、なんか遠くから見ても暖かいよな」
高台から暗い闇へと侵略されていく町を見下ろしながら彼は言う。
「リグさん……?」
「闇の住人である俺がこんなことを言うと変、か?」
自嘲気味の彼に、僕はどう返したら良いのかわからなくなる。彼といるとわからないことだらけだ。
「俺はさ、闇の中で産まれて、闇の中で生きてきた奴だからさ。……だからこそ、光を求めるんだ」
「え?」
考えながら話す彼に、僕は戸惑いを隠せない。
「わかりづらいか。あー、俺たち闇の住人には光がないんだ。光を持って産まれないからな。けど、無いものだから欲しくなる。こう思った時にさ、ザークの言ってた言葉が理解できた気がしてな」
金色の煌めきは僕を捕える。
「無いモノだけど、手を伸ばせば手に入るんじゃないか、ってとこにあると欲しいって欲望は生まれるよな。近くに在れば在るほど。近くになきゃ気付かないから、そんな欲求生まれないだろうけどさ。それが本来手に入るべきものだったとしたらなおさらだよな」
彼の話す言葉が理解できていくにつれて、僕は驚いて彼を凝視するしかできなくなってた。
「わかりにくいか?」
「いいえ……」
問われて、必死に出した言葉は掠れて、小さな呟きになってしまった。
「これでも色々考えたんだ。ザークの言った言葉何度も思い返して、な。俺は光が欲しくて、ザークを欲しいと言ったんだ。ザークは家族からの愛が欲しくて、家族と共にいたいって言ったんだろ?」
「……はい」
彼の言葉に、頷く以外できそうにない。
「俺がザークを愛したところで、それは家族の愛にはならない。ザークが欲しいのは家族愛であって、他人に愛してもらうことじゃないって事だろ?」
「……」
確認を求めるような彼の声。頷くだけの僕。
「うん、まぁ、それでさ。待つことにしたんだ。俺の時間軸とお前の時間軸は違うからさ。お前が生きてここにいれば、俺にとって待つことは苦痛じゃない」
「リグさん……」
僕はずっと驚きっぱなしだ。
彼はずっと僕のことを考えていてくれていた。嬉しいという感情が心に生まれる。
ふと彼は、金色の優しい瞳を煌めかせて僕に近付いた。軽く触れるだけのキス。
「俺はいつでもお前の声は聞こえるから。何か有ったら呼べば良い。辛かったら、いつでも俺を呼べば良い。いつでも助けにいく」
彼の言葉はとても優しい。
理解し合えないと、あきらめた僕。なのに、彼は理解し合えると言ってみせ、更には待つとまで言ってくれた。
どうして、彼は僕にこんなに優しいんだろう。
「本当は、問答無用で連れ去りたい。でもそれはお前が嫌がるだろうし、俺も本望じゃない。俺は、お前の心ごと欲しいからな」
僕の疑問は、人を愛せばわかると言われた気がした。
僕は初めて欲しがっているだけで、自分が相手に与えていないと気付く。母に僕を見て欲しいと思いながら、僕自身があきらめたと良い訳して、母を見ていなかった。
「僕が少しでも変われば……歩み寄れるでしょうか?」
「さぁな、それはやってみないとわからない。やってみるか?」
頷いた僕に彼は笑みを見せると、キツクなったらいつでも呼べよとまた言い、闇の中へと消えて行ってしまった。
僕は一抹の寂しさを感じていた。けれど、呼べばいつでも来ると言ってくれた彼の言葉がとても心強かった。
僕は大丈夫だ。
何の根拠もないけれど、そう思ったんだ。
「ザーク」
呼ばれて振り返ると、そこに姉の姿。夜になんて出歩かない人なのに。
「姉さん?」
こんな時間にこんな場所、とても不自然に感じた。
「誰かと一緒にいたの?」
僕の疑問には気付かなかったのか、問いかけながら僕に近付いてくる。
「いいえ」
僕は彼のことを、姉には何故か話したくなかった。
「そう?なら良いけれど。さぁ、帰りましょう」
疑問を浮かべたままではあったけれど、まぁ良いわと言うように、姉は踵を返す。僕がついて帰るのはさも当たり前というように。
「姉さん、でも……」
「大丈夫よ。私と帰れば。ほら、帰るわよ」
姉は本当に、母の血を受け継いだ娘だった。こんな時はいつも思う。
姉はたまにぼくを見てくれる。
僕は自分が生きてきた道を、悲観しすぎていたのかもしれない。まだ、たいして生きてもいないのに。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる