31 / 35
第十章
③
しおりを挟む
そうだ。あの時俺はザークに出逢ったから、狂わないですんだ。
ザークに救われたのは、俺。
狂いだしそうな凶暴な心内を抱えて、俺は人の中に立っていた。
別に誰を狙おうとか、思ってたわけじゃないし、このまま闇にのまれてたまるか、という思いもあった。
でも、俺をさいなむ凶暴性が、簡単に消えるわけでもなく。
このまま狂ってしまおうか、なんて考えてもいた。
「人に害をなすつもりでないならば、私はあなたを見付けたことを無視しましょう」
凛と通る幼い声。
目を見開いてみた相手は、本当に幼くて。それでも内に秘めた力の強さの波動と、声と同じ凛とした光輝くオーラに目を惹かれた。
こいつだ。直感で確信した。
俺は、コイツを待っていたんだ、と。
ここにいたのは、コイツと俺が出逢うため。
不思議と今まで抱えていた凶悪な心は霧散していた。
「お前に逢わなかったら、俺は狂って、闇に堕ちて、もうこの世界にはいなかった」
あの時を忘れたことなんて、なかった。
ザークと初めて出逢った時、簡単に霧散した俺の凶暴性。
ザークといることで、俺は闇にのまれず、狂わず、生きられた。
「だから、自分が全ての元凶だなんて言うな」
頼むから、俺のそばからいなくなるな。
お前がいなければ、この身は簡単に闇に堕ちて、凶悪で凶暴な本性をさらけ出して、今アイリスが起こしたことよりも凄惨に、この世を混沌に突き落す。
あの時、そうなっていたならば、シアンなりアジスタなりが、止めに来て俺はこの世からいなくなってただろう。
「僕だって、リグがいなくなるのは嫌だ」
小さな声だったけれど、たしかにザークは自分の心を主張した。
自分が生きる為に、自分を犠牲にして生きていた子供は、自分を主張できない子供だった。
けれど、今たしかに、自分の主張として、俺といたいと望んでくれている。
「ありがとう」
ザークが、アイリスをどうするかは、まだわからない。
多分ザークは、悩んでる。迷っている。
ザークが死をアイリスに与えられないならば、俺はアジスタに頭を下げに行かなければならない。
けれど、ザークの心を考えれば、家へと帰って行ったあの長兄に、頭を下げるなんてことはどんだけでもしてやる覚悟だ。
今すぐにでも、引きずり出して、自分が引き起こしたのだろう?と詰め寄って……頭下げてないじゃないか、俺。
「アジスタに、頼むか」
ポツリと俺は呟いた。
ザークはきっと、なんのことかわかったはずだ。主語はなかったけど。
俺はお前を守るためならなんでもできる。
だからもう、アイリスのことで悩むな。
アジスタに会いに行くかと、立ち上がりかけた俺をザークが制した。
「僕が、……僕が、アイリスを……終わりにします」
はっきりと、きっぱりと。静かにザークは言いきった。
「無理するな。無理することじゃない」
ザークの瞳の薄茶色の中の金が揺らめく。
「無理じゃない。僕を救ってくれていた姉を、僕はちゃんと救いたい」
静かな声が、ザークの決意を表していて。
止めても無駄なんだと、気付いた。
アイリスを救うのはもう死しかない。そう言ったのは俺だけど。それはたしかなことで。
ザークも感じ取ったから、だから姉を救うという表現をしたのだろう。
本来訪れるべきだった死を、アイリスは受けずに、闇の住人として長い年月を生きてきた。
狂う心を、必死につなぎ止めていたのだろう。
だから今、爆発している。
アイリスを、解放してやることが、救いになる。解放してやらなければ、アイリスはずっと暗い中を、狂いながら生き続けることになるのだ。
狂気にのまれる、闇の住人になるとは、そういうこと。
闇の世界にいるだけなら、問題はないんだ。狂気にのまれたことが、大きな問題。
「アイリスを、解放してやってくれ。俺が言うのは間違っているのかもしれないが。一歩間違えれば、俺も同じだったから」
ザークをそっと抱きしめる。
この子がいたから、俺は生きていられるんだと、痛感して。
アイリスに、ごめんと心の中で呟いた。
それでも、この子を手放せやしないから、ごめん。
ザークに救われたのは、俺。
狂いだしそうな凶暴な心内を抱えて、俺は人の中に立っていた。
別に誰を狙おうとか、思ってたわけじゃないし、このまま闇にのまれてたまるか、という思いもあった。
でも、俺をさいなむ凶暴性が、簡単に消えるわけでもなく。
このまま狂ってしまおうか、なんて考えてもいた。
「人に害をなすつもりでないならば、私はあなたを見付けたことを無視しましょう」
凛と通る幼い声。
目を見開いてみた相手は、本当に幼くて。それでも内に秘めた力の強さの波動と、声と同じ凛とした光輝くオーラに目を惹かれた。
こいつだ。直感で確信した。
俺は、コイツを待っていたんだ、と。
ここにいたのは、コイツと俺が出逢うため。
不思議と今まで抱えていた凶悪な心は霧散していた。
「お前に逢わなかったら、俺は狂って、闇に堕ちて、もうこの世界にはいなかった」
あの時を忘れたことなんて、なかった。
ザークと初めて出逢った時、簡単に霧散した俺の凶暴性。
ザークといることで、俺は闇にのまれず、狂わず、生きられた。
「だから、自分が全ての元凶だなんて言うな」
頼むから、俺のそばからいなくなるな。
お前がいなければ、この身は簡単に闇に堕ちて、凶悪で凶暴な本性をさらけ出して、今アイリスが起こしたことよりも凄惨に、この世を混沌に突き落す。
あの時、そうなっていたならば、シアンなりアジスタなりが、止めに来て俺はこの世からいなくなってただろう。
「僕だって、リグがいなくなるのは嫌だ」
小さな声だったけれど、たしかにザークは自分の心を主張した。
自分が生きる為に、自分を犠牲にして生きていた子供は、自分を主張できない子供だった。
けれど、今たしかに、自分の主張として、俺といたいと望んでくれている。
「ありがとう」
ザークが、アイリスをどうするかは、まだわからない。
多分ザークは、悩んでる。迷っている。
ザークが死をアイリスに与えられないならば、俺はアジスタに頭を下げに行かなければならない。
けれど、ザークの心を考えれば、家へと帰って行ったあの長兄に、頭を下げるなんてことはどんだけでもしてやる覚悟だ。
今すぐにでも、引きずり出して、自分が引き起こしたのだろう?と詰め寄って……頭下げてないじゃないか、俺。
「アジスタに、頼むか」
ポツリと俺は呟いた。
ザークはきっと、なんのことかわかったはずだ。主語はなかったけど。
俺はお前を守るためならなんでもできる。
だからもう、アイリスのことで悩むな。
アジスタに会いに行くかと、立ち上がりかけた俺をザークが制した。
「僕が、……僕が、アイリスを……終わりにします」
はっきりと、きっぱりと。静かにザークは言いきった。
「無理するな。無理することじゃない」
ザークの瞳の薄茶色の中の金が揺らめく。
「無理じゃない。僕を救ってくれていた姉を、僕はちゃんと救いたい」
静かな声が、ザークの決意を表していて。
止めても無駄なんだと、気付いた。
アイリスを救うのはもう死しかない。そう言ったのは俺だけど。それはたしかなことで。
ザークも感じ取ったから、だから姉を救うという表現をしたのだろう。
本来訪れるべきだった死を、アイリスは受けずに、闇の住人として長い年月を生きてきた。
狂う心を、必死につなぎ止めていたのだろう。
だから今、爆発している。
アイリスを、解放してやることが、救いになる。解放してやらなければ、アイリスはずっと暗い中を、狂いながら生き続けることになるのだ。
狂気にのまれる、闇の住人になるとは、そういうこと。
闇の世界にいるだけなら、問題はないんだ。狂気にのまれたことが、大きな問題。
「アイリスを、解放してやってくれ。俺が言うのは間違っているのかもしれないが。一歩間違えれば、俺も同じだったから」
ザークをそっと抱きしめる。
この子がいたから、俺は生きていられるんだと、痛感して。
アイリスに、ごめんと心の中で呟いた。
それでも、この子を手放せやしないから、ごめん。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる