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《18》月とミドリガメ(2)

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「瑛美、おはよう!」

 鈴を転がしたような可愛らしい声のほうを向くと、思った通りの人物がいた。

「ひかり! おはよう。また髪色変えたの?」
「うん。今回はハイライトいれてみたんだぁ。少しピンクも入れてもらったの。わかる?」
「わかるよ。ひかりに似合っててすごく可愛い」
「ありがとうっ!」

 ぱぁっヒマワリが咲くように笑顔になったのは同期の本郷ほんごうひかり。ぱっちりとした大きな二重瞼に、くるんと上向きになったまつ毛。胸下まで伸びるサラサラのロングヘアは丁寧に手入れされていることがよくわかる。
 社内で知らない人はいないほど人気者のひかりは、この会社の社長の一人娘で広報部に所属している。

「瑛美はいつも同じ髪色にパーマをあてているよね。飽きないの?」
「うーん。なんか冒険するのが怖くて。髪型もメイクも服も、いつも同じようなのばっかり」
「まぁ準備が楽ではあるよね」

 他の社員の出勤の邪魔にならないように、オフィスの観葉植物の陰に入りながら、同期二人で何気ない会話を繰り広げる。

「そういえば産休に入っていた奈央ちゃん、無事に女の子の赤ちゃんが生まれたみたいよ」
「そうなんだ、知らなかった。今度、お祝い贈らないとだね」
「お祝いって何が喜ばれるだろう? タオルとか? 可哀想な独身アラサーには、貰って嬉しいものが何か想像つかないよー」

 はははと笑い合いながら、同期のめでたいニュースを喜ぶ。
 同期で唯一結婚をしていないのが瑛美とひかりだ。社長令嬢であるひかりは、色々と家の都合もあって結婚に慎重になるのはよくわかる。見た目も愛らしくて性格も良いひかりは、引く手あまたなのだから。

「瑛美は最近どうなの?」
「仕事も恋愛も相変わらずだよ。変化があるとすれば、着付け教室に通い始めたくらい」
「へぇー! お着物かぁ、素敵! 瑛美似合いそうだね」
「のっぺり顔だものね」
「そんなこと誰も言ってないし。もう、自分を卑下するようなこと言わないのー」
「だって本当のことだもの」

 互いの肩をポンポン叩き合いながら始業前の楽しい時間を過ごす。
 ひかりは同期でもあり、社内で唯一瑛美が気兼ねなく話せる友達でもある。

「お互いお仕事頑張ろうね。またお昼一緒に食べよ!」
「うん。ひかりも無理しないでね」
「ありがとう。じゃあまたねっ」

 そう言って手を振り、ひかりと別れて自分の机へと向かう。

「おはようございます」
「おはよう。寒くなってきたねー」

 企画部の社員と挨拶を交わす。
 窓際の奥の席に座る大和の横顔を少しの間見つめてから、自分の席に腰かけた。
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