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《20》月とミドリガメ(4)
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いつもと変わらない態度の大和にほっと安堵しながら、着々とレッスン内容をこなしていく。
「自装はだいぶ様になってきたかな。じゃあ今度は細かなところまで気をつけて、着付けていけるように練習していこうか」
補正から長襦袢、そして着物を着て帯でお太鼓結びをするところまでやり方を学んだ。
着付け教室に通い始めてから自覚したのだが、瑛美はどうも肩や肩甲骨が柔らかく、可動域が広いので上達が早いらしい。
大和の指導方法は普段の仕事で身に馴染んでいるので、師弟間の呼吸も合っていて呑み込みが早かった。
「今日の仕上げにもう一度着物を着るところからやってみよう。今度は今から言う三つのことを注意して着付けてみて。それができなかったらペナルティな」
「ペナルティって?」
「まぁ、できていたらいいだけのことだ」
そう誤魔化して大和は着付けの大切なポイントを提示した。
一つ、着物の裾線は床スレスレになるように着ること。
二つ、着物を支える腰紐は、指一本がギリギリ入るくらいにしっかりと締めて結ぶこと。
三つ、背中にある線、背中心は必ず背中の真ん中にくるように着ること。
時間制限もなく、全身鏡も使ってよいとの条件で、着付けを始める。
(ペナルティって言うからとんでもないことを言われるのかと思っていたけど、全然難しいことじゃない。お稽古三回目の私でもこれならできそう)
大和に教わった手順、やり方を思い出しながら手を動かして紐を締めていく。
まだまだスムーズにとはいかないものの、それなりには形になってきた。
「大和先生できました」
「うん」
完成した瑛美の着姿を頭から足先まで確認していく。
「裾線はまぁギリギリ合格かな。前はもう少し上げて裾窄まりにするとなお良い。腰紐は……うん、しっかり結べてる」
お腹周りに結ばれた腰紐に指を入れながら締めつけ具合を確認する。
「後ろ向いて。背中心は……残念、ズレてるな」
「え、でも私鏡できちんと確認して、真ん中に整えたはずなんですが」
「ほら、俺が指で押さえているところ。中心から右にズレているだろ?」
「ほんと……どうしてですか?」
「瑛美は左向きに後ろを振り向いて鏡を見ていたからだ。体を捻らせた状態で真ん中になるように整えても、体が真正面に向いたときにはズレてしまう……まぁ、初心者がよくやるミスだな。背中心は鏡ではなく指で線を確かめて背骨に来るように調整しないと」
大和の指摘にぐうの音も出ない。まさに初心者に陥りやすい罠にまんまと引っかかってしまった。
「でも三回目にしては上出来だ。瑛美はセンスがある。来週もしばらく自装の練習をして、ある程度習得したら他装に切り替えていこう。では今日の稽古はここまで。お疲れ様」
「お疲れさまでした」
時計を見ると二十一時半を回っていた。時間感覚がなくなるほど、集中していた事実に驚く。
「じゃあ、上行くか」
さも当たり前のように言う大和に瑛美は怖気づく。脳裏にはひかりと大和が談笑する食堂での場面がよぎった。
「大和先生、あの……」
「瑛美、ペナルティって言っただろ。拒否権はない」
力強く言い放つと、さっさと荷物を持って瑛美の手を引いた。
「自装はだいぶ様になってきたかな。じゃあ今度は細かなところまで気をつけて、着付けていけるように練習していこうか」
補正から長襦袢、そして着物を着て帯でお太鼓結びをするところまでやり方を学んだ。
着付け教室に通い始めてから自覚したのだが、瑛美はどうも肩や肩甲骨が柔らかく、可動域が広いので上達が早いらしい。
大和の指導方法は普段の仕事で身に馴染んでいるので、師弟間の呼吸も合っていて呑み込みが早かった。
「今日の仕上げにもう一度着物を着るところからやってみよう。今度は今から言う三つのことを注意して着付けてみて。それができなかったらペナルティな」
「ペナルティって?」
「まぁ、できていたらいいだけのことだ」
そう誤魔化して大和は着付けの大切なポイントを提示した。
一つ、着物の裾線は床スレスレになるように着ること。
二つ、着物を支える腰紐は、指一本がギリギリ入るくらいにしっかりと締めて結ぶこと。
三つ、背中にある線、背中心は必ず背中の真ん中にくるように着ること。
時間制限もなく、全身鏡も使ってよいとの条件で、着付けを始める。
(ペナルティって言うからとんでもないことを言われるのかと思っていたけど、全然難しいことじゃない。お稽古三回目の私でもこれならできそう)
大和に教わった手順、やり方を思い出しながら手を動かして紐を締めていく。
まだまだスムーズにとはいかないものの、それなりには形になってきた。
「大和先生できました」
「うん」
完成した瑛美の着姿を頭から足先まで確認していく。
「裾線はまぁギリギリ合格かな。前はもう少し上げて裾窄まりにするとなお良い。腰紐は……うん、しっかり結べてる」
お腹周りに結ばれた腰紐に指を入れながら締めつけ具合を確認する。
「後ろ向いて。背中心は……残念、ズレてるな」
「え、でも私鏡できちんと確認して、真ん中に整えたはずなんですが」
「ほら、俺が指で押さえているところ。中心から右にズレているだろ?」
「ほんと……どうしてですか?」
「瑛美は左向きに後ろを振り向いて鏡を見ていたからだ。体を捻らせた状態で真ん中になるように整えても、体が真正面に向いたときにはズレてしまう……まぁ、初心者がよくやるミスだな。背中心は鏡ではなく指で線を確かめて背骨に来るように調整しないと」
大和の指摘にぐうの音も出ない。まさに初心者に陥りやすい罠にまんまと引っかかってしまった。
「でも三回目にしては上出来だ。瑛美はセンスがある。来週もしばらく自装の練習をして、ある程度習得したら他装に切り替えていこう。では今日の稽古はここまで。お疲れ様」
「お疲れさまでした」
時計を見ると二十一時半を回っていた。時間感覚がなくなるほど、集中していた事実に驚く。
「じゃあ、上行くか」
さも当たり前のように言う大和に瑛美は怖気づく。脳裏にはひかりと大和が談笑する食堂での場面がよぎった。
「大和先生、あの……」
「瑛美、ペナルティって言っただろ。拒否権はない」
力強く言い放つと、さっさと荷物を持って瑛美の手を引いた。
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