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最弱の魔法使いの強引な勧誘に押しきられました
しおりを挟む声の方を見ると、そこで六人の冒険者が立って話をしている。最初は大人が五人と子供一人に見えたが、どうも一人は子供ではなく唯一の女性──というか少女だ。
少女は上着に清楚な感じのジャケットを着ているが、下が短めのプリーツスカートなせいか俺より幼く見える。腰には杖が装備されている事から魔法使いだろう。そして腰まである長い金髪で華やかな印象を受け、顔もかなり可愛い。
少しくらいのミスはテヘペロで許されそうだ。と思っていたら、現実は甘くないようだ。
「だから。言ってるだろ? 今日からは、このルーカスを仲間に加えるから、もうお前は必要ないんだよ」
「でも、でも。一ヶ月は一緒に冒険してくれるって約束したじゃないですか! 私一人で今後どうしたらいいんですか」
「しらねーよ!仕方ねぇだろ。俺達だって命かかってんだ。ここから先は弱い奴を庇いながらの戦いはキツイんだよ」
パーティーのリーダーらしき男の金髪少女に対する当たりは結構キツイ。とは言え、冒険者は弱肉強食の世界だ。ソロでは危険が伴うしパーティーを結成するにも、当然誰もが有能な奴を欲しがる。可愛いだけでは戦えない。
男達はやがて少女を突き放すように「じゃあな」と、ぞろぞろギルドを出て行ってしまい、後に残された少女は一人途方に暮れていた。見てて辛い光景ではあるが、俺も毎回あんな感じだったわけだし。むしろ卵を投げつけられる俺よりはマシだろう。
「あの子、またクビにされたのか……」
「あの子の事、知ってるんですか?」
「ああ。こう言っちゃ悪いが、坊主と同じくらい多くのパーティーをクビにされてるからな」
ハマンの話では彼女は冒険者歴半年程だと言う。女性なので『華』という意味でも受け入れてくれる所は結構あるみたいだが。魔法使いなのに肝心の攻撃魔法が最弱魔法の『石つぶて』しか使えないらしく、飽きたり代わりが見つかると直ぐに辞めさせられているのだとか。なるほど、それは俺並みに火力が無い。
「それより坊主、お前もクビになっちまったんだろ? 男は女と違って『華』にもなれねぇからな……さすがに俺も紹介出来る奴がいないぞ」
俺は苦笑いを返すしかなかった。さすがのハマンでも手詰まりとなるとソロでやるか、場合によっては冒険者を諦めて故郷で農業をやるしかないのだろうが。
「さすがに俺も心折れそうです。もう最悪、冒険者を辞めて────」
「すいません!」
誰だ俺の話を遮るのは!と思ったら先程の金髪少女だ。突然過ぎて俺とハマンは言葉を失った。
「話を盗み聞いてました! 申し訳ありません。あなたも今一人なのですか? クビになったのですか?」
頭突きでもかます勢いで俺に詰め寄ると、なかなかに失礼な質問をしてくる金髪少女。確かさっきまでギルドの隅で意気消沈していたように見えたのだが? その雰囲気は既に感じられない。
「え? まぁ、そうだね」
「そうなんですね! では、パーティーメンバーとか募集してたりしませんか? 私、今しがたクビになりまして。それでですね────」
少女の怒涛の押しに少し圧倒される。隣でハマンも呆れたような顔をしている。それより、どうやら彼女はこんな俺をつかまえて〝仲間にしてくれ〟と言っているのか?
「ちょ、ちょっと待って。君、俺の事知らないの? 自分で言うのもなんだが、雑魚で有名なレクセルだぞ」
「知ってます! 雑魚セルさんですよね? 私、よく知ってます。前から思ってたんです! 大変だなぁ……って」
「ま、まあ。君の方も大変そうだけどね」
少女が興奮したように顔を近付けてきたので俺は半歩程後退りするも、更に距離を詰めてくる。ちなみに本人を前に「雑魚セル」と言う奴らは基本的に敵だと思っているのだが。少女から悪気は感じない。
「はい! 私も大変です!」
この少女は天然なのか?それともふざけてるのか。どちらにしろ、打たれても直ぐに立ち直る超絶ポジティブガールだという事は間違いない。
その後も少女の一方的なトークは続いた。彼女は己の事をルカストレア・パールゲイツと名乗った。長い名前だなぁ……と思っていたら「ルカと呼んでください」と言うので、そう呼ぶ事にした。
そしてルカは俺の事をしっかり認知していた。俺がスライムも倒せない雑魚で、通称『攻撃力ゼロの男』である事や、最近ではどこのパーティーにも入れてもらえないという事など。全てを知った上で声をかけてきたようだ。
「私は攻撃手段が『石つぶて』しかありません。でも、スライムくらいは倒せます! どうですか? 最高のパートナーじゃないですか? 雑魚セルさん!」
「レクセルです……」
「前から思ってました! 私は誰かの迷惑になっているのが正直ストレスだったんです。だから同レベルか、もしくは下のレベルの方と組めたら……と。そこで雑魚セルさんです!」
「レクセルだってば……」
「私とパーティーを組んでくれませんか!?」
ドンドン話を進めて相手を圧倒していくスタイルのようだ。しかし彼女のペースに流されたわけではないが、悪い話ではないのかもしれない、と思う自分もいた。
確かに俺はスライムも倒せずに最後は誰かに頼っている。その点、彼女はスライムくらいは自分で倒せるというのだ。つまり俺よりは強いじゃないか。
何より彼女の言葉『誰かの迷惑になっている……』の所に凄く共感してしまった。俺も多くの人に迷惑かけて申し訳ない気持ちで一杯になっていた所だしな。
まあ。どうせ彼女の方から志願してるのだから、俺は何の気兼ねもいらないんじゃないだろうか。彼女となら無理に頑張らなくてもレベルに合わせてゆっくり進めるのじゃないか?
そう。これが同レベル同士の気軽さなのだ。何故、今までその考えに至らなかったのか!
と、まあ。既に若干流されてる気もするが確かに最高のパートナーと言えなくはない。
「まあ、そうだな。確かに言われてみれば……」
「やった! よろしくお願いしますね。雑魚セルさん」
「俺の名前はレクセルな。後、まだ組むとは一言も言ってないのだが?」
「気が合いそうですね!」
おいおい、グイグイくるなぁ。なんだかんだ押し切られ、俺は魔法少女のルカとパーティーを結成する事になった。その様子を黙って見ていたハマンは、ガッハッハと大きく笑い、俺の背中をバンバン叩きながら「良かった良かった」と喜んでいる。
まあ。別にいいや────
「おっと。ところで坊主。さっき、何を言おうとしたんだ?」
「あぁ……それはもういいです。それよりも僕達にも出来る仕事を選んでくれませんか?」
「まかせろ!」っと言い残し、ハマンは店の奥へと消えていった。冒険者を辞めるなんて考えはやめだ! もう少しだけ頑張ろう……と、いうか。彼女が俺にもう一度チャンスをくれたのだ!と、考える事にする。
ハマンを待つ間、年齢を訊ねた所。彼女は意外にも俺より一つ年上だった。人生でも冒険者でも能力でも俺より上なわけか。
ところが彼女は俺に対等に……むしろ、こんな俺に敬語で接してくれるので、冒険者を始めて今までバカにしかされてこなかった俺には、それが少し新鮮で心地よくもある。
しかし、そんな心地好さも長くは続かなかった────
「あれ? 雑魚セルじゃねーか……」
声のした方を見ると、先ほどまで一緒なパーティーメンバーだった魔法使いのブッシュが入り口に立っていた。ほんの少し遅れてリーダーのマルコ。そしてマリンがギルドに入ってきた。
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