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悪い夢の続きを見る(3)
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魘されるお姿を見ながら、薬を調合します。死を望むほど苦しんでいたのかと、改まったとき再び雫が落ちました。一粒器に入りかけ、混入はいけないと堪えます。
正直、悲しく苦しいです。
しかし、表面的な告白だけで心を覆すほど、私の忠誠心は柔ではありません。そして、見境なく責めるような子どもでもないのです。
調合を終える頃、風日向はお目覚めになられておりました。
変わらずお辛そうでしたが、悪夢からは脱出されたようです。皺の少ないお顔になっておられました。
「ご主人様、お薬の調合ができました。お体、起こせそうですか?」
少し考える様子を見せてから、風日向さまは身を起こされます。
静かに茶碗を傾ける姿は、酷く弱々しく見えました。抱えすぎて壊れてしまうのも頷ける――そんな風に映ったのです。
どうして殺したのか。何があったのか。気になることは多くあります。しかし、それ以上に気になることが私にはありました。
「ご主人様、殺した相手の子供だから、私に優しくして下さったのですか?」
両親との時間より、長かったせいかもしれません。私への愛情が、優しさが、贖罪だとは思いたくなかったのです。
「……いや、気付いたのは少し前だよ。篝の顔が似てきたから」
「覚えておいでなのですか? 私の両親の顔を」
「篝のご両親だけじゃない。全員覚えてるよ」
けれど、懸念は素早く溶けていきました。
殺した相手を全員覚えているなんて、優しい人にしか出来ません。きっと、殺害にも正当な理由が存在しているのでしょう。
「どんな人が対象となるのですか?」
自然と出た問いに、答えは返りませんでした。沈黙こそが優しさを裏付けるのだと、気付いておられないのでしょう。
いつもそうでした。風日向はいつも、私の為に口を噤まれます。
結局のところ、風日向さまはお薬を半分残されました。
正直、悲しく苦しいです。
しかし、表面的な告白だけで心を覆すほど、私の忠誠心は柔ではありません。そして、見境なく責めるような子どもでもないのです。
調合を終える頃、風日向はお目覚めになられておりました。
変わらずお辛そうでしたが、悪夢からは脱出されたようです。皺の少ないお顔になっておられました。
「ご主人様、お薬の調合ができました。お体、起こせそうですか?」
少し考える様子を見せてから、風日向さまは身を起こされます。
静かに茶碗を傾ける姿は、酷く弱々しく見えました。抱えすぎて壊れてしまうのも頷ける――そんな風に映ったのです。
どうして殺したのか。何があったのか。気になることは多くあります。しかし、それ以上に気になることが私にはありました。
「ご主人様、殺した相手の子供だから、私に優しくして下さったのですか?」
両親との時間より、長かったせいかもしれません。私への愛情が、優しさが、贖罪だとは思いたくなかったのです。
「……いや、気付いたのは少し前だよ。篝の顔が似てきたから」
「覚えておいでなのですか? 私の両親の顔を」
「篝のご両親だけじゃない。全員覚えてるよ」
けれど、懸念は素早く溶けていきました。
殺した相手を全員覚えているなんて、優しい人にしか出来ません。きっと、殺害にも正当な理由が存在しているのでしょう。
「どんな人が対象となるのですか?」
自然と出た問いに、答えは返りませんでした。沈黙こそが優しさを裏付けるのだと、気付いておられないのでしょう。
いつもそうでした。風日向はいつも、私の為に口を噤まれます。
結局のところ、風日向さまはお薬を半分残されました。
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