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六章
70(ステファン)
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「はじめからあなたを愛してなんかいない!愛したことなんてないのよ!だってあなたの体が欲しかったんだもの!」
ロヴィーサが目を剥いて奇妙な笑顔を貼り付けたまま金切り声をあげている。
「もう待たないわ!結婚する前に産んでしまえばいいの!そうしたら何回も儀式ができるもの!勿論結婚した後も産み続けるわ!あの子に会える!あの子がたくさん産まれるの!」
私は何を見せられているのか。
私が信用し甘んじて身を預けた相手が狂気に冒された様を見て、激しい後悔と焦りが湧き上がる。
ロヴィーサの侍女には扉を塞がれていた。話を切り上げ立ち去ろうにも逃げ場がない。
「最低でも男の子と女の子ひとりずつ必要よ。だって、名前を決めていたんだもの!だからステファン、愛しあいましょう?さあ。私とアニトラ、一人ずつちょうだい」
「……なんだって?」
私は改めてロヴィーサの寝室の扉に背をつけて佇む侍女アニトラを見遣る。中年に差し掛かろうとしている未婚の侍女が、仄暗い微笑みを浮かべて私を見つめていた。
その眼差しは重く湿り、邪悪な企みが秘められていてもおかしくないと思わせる圧がある。
「……」
まさか、私にあの中年女を抱けというのか?
何の為に?
「ま、待ってくれ。待ってください。そんな趣味があるなんて、聞いていない……!」
「私の赤ちゃん!来て!降りて来て!!」
ロヴィーサがガウンを脱ぎ捨て、裸で私に飛びかかろうとした────その時。
「!」
激しい衝撃と共に、私の腹から腕が生えた。
「……ガハッ」
激痛では済まない痛みに全身を刺し貫かれる。
腹から生えた血塗れの手が、その指が、胸倉を掴む。
ロヴィーサが悲鳴をあげた。
同時に侍女が腰を抜かした。
耳元に、冷たい吐息が吹き掛けられる。
それから肩の辺りで声がした。
「ねぇ、君。生きたいよねぇ?」
嘲笑う、男の声だ。
私は徐々に首を巡らせ、相手の顔を見た。雪よりも白い肌に黝い血管の浮く、白い瞳の怪人が牙を剥いていた。
「命をあげるよ。だから、存分に役に立ってくれ」
次の瞬間、私を背後から羽交い絞めにした上で私を刺し貫いていた怪人が、更に私を痛めつけた。私の喉の左側面に喰らい付いたのだ。
激痛に次ぐ激痛の中、刺し込まれた牙から何かが体内に注ぎ込まれる。その怒涛の勢いに恐れ戦き、私は血を吐きながら悲鳴を上げていた。
ロヴィーサも悲鳴を上げていた。侍女は笑っていた。
「────」
眼前が白に染まる。
何かが体内を駆け巡る。
脳内が熱く掻き乱される。
女の笑い声が聞こえる……女の、名前を私は知っていたはずだ。だが、その女は愛していない。私は騙され、捕われ、弄ばれ、彼女……カタリーナと引き離された。愛してきた。私だけのカタリーナ。
カタリーナ。
愛してしまった。
大切な……たった一人の、私の妹。
あの女は狂ってしまった。もう誰も、邪魔しない。
愛しているんだ。
君を────迎えに行くよ。
ロヴィーサが目を剥いて奇妙な笑顔を貼り付けたまま金切り声をあげている。
「もう待たないわ!結婚する前に産んでしまえばいいの!そうしたら何回も儀式ができるもの!勿論結婚した後も産み続けるわ!あの子に会える!あの子がたくさん産まれるの!」
私は何を見せられているのか。
私が信用し甘んじて身を預けた相手が狂気に冒された様を見て、激しい後悔と焦りが湧き上がる。
ロヴィーサの侍女には扉を塞がれていた。話を切り上げ立ち去ろうにも逃げ場がない。
「最低でも男の子と女の子ひとりずつ必要よ。だって、名前を決めていたんだもの!だからステファン、愛しあいましょう?さあ。私とアニトラ、一人ずつちょうだい」
「……なんだって?」
私は改めてロヴィーサの寝室の扉に背をつけて佇む侍女アニトラを見遣る。中年に差し掛かろうとしている未婚の侍女が、仄暗い微笑みを浮かべて私を見つめていた。
その眼差しは重く湿り、邪悪な企みが秘められていてもおかしくないと思わせる圧がある。
「……」
まさか、私にあの中年女を抱けというのか?
何の為に?
「ま、待ってくれ。待ってください。そんな趣味があるなんて、聞いていない……!」
「私の赤ちゃん!来て!降りて来て!!」
ロヴィーサがガウンを脱ぎ捨て、裸で私に飛びかかろうとした────その時。
「!」
激しい衝撃と共に、私の腹から腕が生えた。
「……ガハッ」
激痛では済まない痛みに全身を刺し貫かれる。
腹から生えた血塗れの手が、その指が、胸倉を掴む。
ロヴィーサが悲鳴をあげた。
同時に侍女が腰を抜かした。
耳元に、冷たい吐息が吹き掛けられる。
それから肩の辺りで声がした。
「ねぇ、君。生きたいよねぇ?」
嘲笑う、男の声だ。
私は徐々に首を巡らせ、相手の顔を見た。雪よりも白い肌に黝い血管の浮く、白い瞳の怪人が牙を剥いていた。
「命をあげるよ。だから、存分に役に立ってくれ」
次の瞬間、私を背後から羽交い絞めにした上で私を刺し貫いていた怪人が、更に私を痛めつけた。私の喉の左側面に喰らい付いたのだ。
激痛に次ぐ激痛の中、刺し込まれた牙から何かが体内に注ぎ込まれる。その怒涛の勢いに恐れ戦き、私は血を吐きながら悲鳴を上げていた。
ロヴィーサも悲鳴を上げていた。侍女は笑っていた。
「────」
眼前が白に染まる。
何かが体内を駆け巡る。
脳内が熱く掻き乱される。
女の笑い声が聞こえる……女の、名前を私は知っていたはずだ。だが、その女は愛していない。私は騙され、捕われ、弄ばれ、彼女……カタリーナと引き離された。愛してきた。私だけのカタリーナ。
カタリーナ。
愛してしまった。
大切な……たった一人の、私の妹。
あの女は狂ってしまった。もう誰も、邪魔しない。
愛しているんだ。
君を────迎えに行くよ。
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