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「私の目から見てマチルダには何ら問題はない。礼儀正しく清楚で美しい令嬢だ。あの幼稚な娼婦のような伯爵令嬢と実の姉妹とは驚いた」
「ビ、ビッ、ビヨネッタが……!?」
「ああ。私の目の前で侯爵令息にしな垂れかかり、振り向きざまに舌を出して笑っていた」
「……本当に私の可愛いビヨネッタでしたか!?」
母は諦めなかった。
そこへ、私に求婚しかけた侯爵令息レオポルドと腕を組んで満面の笑みを浮かべながら当のビヨネッタが歩いてくる。
「お父様、お母様!私、レオポルド様と結婚します!!」
「素晴らしい女性です!私に人生をかけてビヨネッタを幸せにする栄誉をどうかお与えください!」
すっかり満開のお花畑という二人だけの世界を作り出し、その中から意気揚々と手を振っている。私が見えていないのか、それとも、私を徹底的に無視しながら私に見せつけるのが楽しいのか。
だけどもう、私は涙すら沸いてこない。
寒気がするほど愚かな人たちにただ呆れてしまう。
「ということで、私は彼女とは踊らない」
「え?あ、はい……」
クラウディオ殿下の端的な拒絶に、両親が唖然としながらも答えた。
驚いたことに、婚約をしたばかりの二人は浮かれすぎてクラウディオ殿下が誰であるか咄嗟に判断できなかったようだった。
まず私を、それからクラウディオ殿下を続いて品定めするように眺め、自分たちの方が優れていると感じたらしく鼻で笑う。
これには両親も大慌て。
でもビヨネッタの方が先手を打った。
私から奪い取ってくれた軽薄な侯爵令息の腕に絡みつきつつ、甘ったるく高い歓声をあげる。
「まあ!お姉様ったら!その方どなた!?」
「すぐさま男を捕まえるとは、恐ろしい女だ。騙されるところだったよ。妹のビヨネッタはこんなに純真で可愛い──」
今となっては私に声をかけてくれたレオポルドという名の侯爵令息だって妹と同類なのだとわかった。
私を蔑むような目でぶつぶつ言っている。その声に被せるようにしてクラウディオ殿下がはっきりと名乗った。
「私はこの国の第二王子クラウディオだが、何か?」
「はっ!?」
「────え?」
驚いた二人はまず私の両親へと視線を送り、それが事実であると確認を取る。
それからまたクラウディオ殿下に視線を戻し、妹は見事に卒倒の名演技を決め、レオポルドは単純に興奮が冷めたようだった。
「はぁ……っ」
しどけなく崩れ落ちる妹をレオポルドが咄嗟に抱きとめたけれど、妹はその腕から巧みに身を捩って転げ落ち、ふわりと床に倒れ込んだ。
「え……?」
レオポルドが現実に直面している。
クラウディオ殿下が腕組みをして頷いた。
「あれだけ手あたり次第に男を口説いていれば疲れも溜まるだろう。体が丈夫なのは結構だが、この城は娼館でもなければベッドでもない。全く見苦しい。起きろ」
「……」
妹は頑なに気絶したふりをしている。
「……ビヨネッタ!ビヨネッタ!?」
母が駆け寄り傍に跪いて体を揺すった。妹は微動だにしない。
「王医を呼んでもいいが、下らない仮病に手を煩わせるのは本意ではない。こんな嘘に付き合って善良な姉娘のマチルダを冷遇するとは。呆れるな」
クラウディオ殿下は辛辣だった。
両親もレオポルドも冷や汗をかき始めている。妹だけは倒れ込んだまま微動だにしない。
クラウディオ殿下が改めて私に向き直り、打って変わって思いやりの篭った声音で言った。
「マチルダ、辛い思いをしてきただろう。付き合う人間は選ぶべきだ。君が疎まれて当然だ。残念だが君の家族はまともじゃない」
「ビ、ビッ、ビヨネッタが……!?」
「ああ。私の目の前で侯爵令息にしな垂れかかり、振り向きざまに舌を出して笑っていた」
「……本当に私の可愛いビヨネッタでしたか!?」
母は諦めなかった。
そこへ、私に求婚しかけた侯爵令息レオポルドと腕を組んで満面の笑みを浮かべながら当のビヨネッタが歩いてくる。
「お父様、お母様!私、レオポルド様と結婚します!!」
「素晴らしい女性です!私に人生をかけてビヨネッタを幸せにする栄誉をどうかお与えください!」
すっかり満開のお花畑という二人だけの世界を作り出し、その中から意気揚々と手を振っている。私が見えていないのか、それとも、私を徹底的に無視しながら私に見せつけるのが楽しいのか。
だけどもう、私は涙すら沸いてこない。
寒気がするほど愚かな人たちにただ呆れてしまう。
「ということで、私は彼女とは踊らない」
「え?あ、はい……」
クラウディオ殿下の端的な拒絶に、両親が唖然としながらも答えた。
驚いたことに、婚約をしたばかりの二人は浮かれすぎてクラウディオ殿下が誰であるか咄嗟に判断できなかったようだった。
まず私を、それからクラウディオ殿下を続いて品定めするように眺め、自分たちの方が優れていると感じたらしく鼻で笑う。
これには両親も大慌て。
でもビヨネッタの方が先手を打った。
私から奪い取ってくれた軽薄な侯爵令息の腕に絡みつきつつ、甘ったるく高い歓声をあげる。
「まあ!お姉様ったら!その方どなた!?」
「すぐさま男を捕まえるとは、恐ろしい女だ。騙されるところだったよ。妹のビヨネッタはこんなに純真で可愛い──」
今となっては私に声をかけてくれたレオポルドという名の侯爵令息だって妹と同類なのだとわかった。
私を蔑むような目でぶつぶつ言っている。その声に被せるようにしてクラウディオ殿下がはっきりと名乗った。
「私はこの国の第二王子クラウディオだが、何か?」
「はっ!?」
「────え?」
驚いた二人はまず私の両親へと視線を送り、それが事実であると確認を取る。
それからまたクラウディオ殿下に視線を戻し、妹は見事に卒倒の名演技を決め、レオポルドは単純に興奮が冷めたようだった。
「はぁ……っ」
しどけなく崩れ落ちる妹をレオポルドが咄嗟に抱きとめたけれど、妹はその腕から巧みに身を捩って転げ落ち、ふわりと床に倒れ込んだ。
「え……?」
レオポルドが現実に直面している。
クラウディオ殿下が腕組みをして頷いた。
「あれだけ手あたり次第に男を口説いていれば疲れも溜まるだろう。体が丈夫なのは結構だが、この城は娼館でもなければベッドでもない。全く見苦しい。起きろ」
「……」
妹は頑なに気絶したふりをしている。
「……ビヨネッタ!ビヨネッタ!?」
母が駆け寄り傍に跪いて体を揺すった。妹は微動だにしない。
「王医を呼んでもいいが、下らない仮病に手を煩わせるのは本意ではない。こんな嘘に付き合って善良な姉娘のマチルダを冷遇するとは。呆れるな」
クラウディオ殿下は辛辣だった。
両親もレオポルドも冷や汗をかき始めている。妹だけは倒れ込んだまま微動だにしない。
クラウディオ殿下が改めて私に向き直り、打って変わって思いやりの篭った声音で言った。
「マチルダ、辛い思いをしてきただろう。付き合う人間は選ぶべきだ。君が疎まれて当然だ。残念だが君の家族はまともじゃない」
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