恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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40(フィオナ)

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「嫌です!絶対に嫌!私はあなたのような冷たい人と結婚なんてしたくありません!!」

忌まわしい結婚式まであと8日。
まるで特注の家具を受け取りにでも来たかのように、突然現れたフランクリン様は父に対して念を押した。

、と。

「ドレスは予備を数着用意した。グレンフェル伯爵。当日までに言い聞かせられないようであれば、結婚式が無事に執り行われるよう薬を使う。そのつもりで心して躾け直せ」
「!?」

これにはさすがの父も狼狽を見せ、珍しくフランクリン様に意見する。

「そこまでしなくても……」
「否、結婚式は神聖な儀式だ。不手際があっては一生、僕たちは教会に睨まれる事になるぞ」
「しかし、イデアもいますから……」

するとフランクリン様は憮然と父を睨んだ。

「イデアは式に出席しない!特別なシスターになるための修行とかでしばらく聖堂に篭っているそうだ。くそっ。顔も見られないとは……っ」
「フランクリン様、却ってよかったのです。イデアはいずれ我々に──」

そこでフランクリン様は父に手袋を投げつけた。手袋は父の額に直撃し、物理的な威力ではなく、屈辱という痛手を父に負わせたようだった。

私は隣に立つ母に縋りつく。

「お母様……!嫌です、私……っ!」

父に手袋を投げるような人の妻になんてなれません。
見たでしょう?

必死にそう視線で伝えても、母は小さな微笑みを浮かべたまま首を横に振るばかり。

「結婚の直前は何かと不安になるものよ、フィオナ。少しお部屋で頭を冷やしていらっしゃい」
「お母様……!」

愕然とする私の手首を、母が表情にそぐわない強い力で握り込む。

「本当に、もうそろそろフランクリン様に感謝しなくては。あなたがこんなに聞き分けの悪い子なのに、こうして足繁く通ってくださるのよ?どうしていい子になれないの?」
「……っ」

息を詰める私に母は小声で恐ろしい事を囁いた。

「叱って下さるのは今のうちだけよ?結婚したら、あなたはもう妻なのだから」
「……!」

私は母の手を振り払い、言われた通り自分の部屋へと走って逃げた。

母の言葉には、今より結婚後の方が酷い日々が待っていると仄めかしているようだった。それなのに結婚しろと言う。私がどんなに嫌がっても、アロイシャス侯爵家に嫁げと言う。

同じ女だというのに母は敵だった。
思い返してみれば、母が私の味方だった事なんてない。

私は誰にも愛されず、決して私を愛してはくれない人の元へ嫁ぐのだ。

「……っ!」

ベッドに突っ伏して私は何度目かもうわからない涙を流した。

結婚がこれほど残酷なものだなんて。
誰も教えてはくれなかった。

まさか、あの姉なら耐えられたと言うの?

イデア
イデア
イデア

醜い顔になって修道院へ逃げた姉が、今度は特別なシスターになるため修行しているですって?

「……くぅっ」

私への当てつけのつもり?
自分だけはずっと一人で勝ち続けるとでも言うの?

「!」

ノックもなく唐突に扉が開き、フランクリン様が断りもなくずかずかと部屋の中へ入ってくる。
私は床に座り込んでベッドのシーツにしがみつきながら、憎しみのすべてを夫になる冷たい男にぶつける。

「お姉様を連れ戻せなくて残念でしたわね!私の事を邪険にしても、ご自分だってお姉様に相手にされていないのだわ!私の気持ちがおわかりになった!?」
「……」

フランクリン様は冷たい視線を私に注ぐ。
私は、笑った。泣きながら笑いが洩れた。

「可哀相なフランクリン様!どんなにお姉様にぶら下がろうと、ご自分の結婚相手はこの私!散々馬鹿するような私がお似合いなのよ!!」
「……」

言い返せないの?
悔しいの?

私が相手で悔しい?

だけどそれだけじゃ済まさない。
私を傷つけた罰は受けてもらうから。

「フランクリン様は不幸な結婚をなさるのです!それは相手がお姉様じゃないからではありません。あなたは生涯を通して自分の妻から決して愛される事はないからです!あなたは愛されずに老いて孤独に死ぬのよ!!」

傷つけてやりたかった。
私を蔑ろにして傷つけた分、傷ついてほしかった。

そうすれば、ほんの少しでも痛みを分け合って、夫婦としてわかりあえるのではないかと淡い期待を抱いていた。

でも違った。
フランクリン様は今までより遥かに冷酷な眼差しでひたと私を見据え、呪いの言葉を呟いたのだ。

「僕が妻に望むのは愛じゃない。服従だ」

涙が止まった。
絶望が過ぎると涙さえ出てこないのだと知る。

「勘違いするな。結婚したら妻として僕に傅け。もう令嬢じゃなくなる。グレンフェル伯爵のように甘やかしはしない。アロイシャス侯爵家の一員として義務を果たせ」
「……」

そして言葉を失う私に更に残酷な一言が降り注ぐ。

「ああ。イデアならこんな事、言うまでもないのに」
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