恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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爽やかな秋晴れの日。
鏡台の中の私は右へ左へと顔を傾けつつ注意深く目を走らせる。

忌々しいキャタモールが優秀な宮廷医師である証拠が私の顔と全身によって示された。あの肌を這うようだった赤い斑点が寛解した後の肌荒れが、ついに跡形もなく姿を消したのだ。

信じられないという感情と同時に納得せざるを得ない。
だからキャタモールは宮廷から追い出されないのだと。

私は皮膚病と肌荒れを解消したわけだが、中には深刻な体調不良を救われた者が少なからずいるだろう。

感謝や恩情だけではない。
キャタモールを失いまた再発乃至悪化するのを恐れている。

今の私のように。

散々感情を掻き乱されはしたものの、一度の激しい衝突を経てからは穏便な関係性を維持していた。事実としてキャタモールと私は各々が多忙な為、顔を合わせる機会が少ない。目の前にいない人間をわざわざ思い出して不快になるなど不毛極まりないのだから、揉める必要がなかった。

キャタモールの姿を見なくて済む忙しい日々の間に、嬉しい変化もあった。

シャーロット姫が徐々に打ち解けて意欲を示し、積極的に各レッスンに取り組むようになっていた。流れている王家の血の賜物か、やる気を出したシャーロット姫はなかなか飲み込みが早く、私とカール殿下をいい意味で驚かせている。

それに泣き虫でなくなったシャーロット姫の控え目ながら柔らかな笑顔は上品で優しく、対峙する人間の心を和ませる。強く凛とした妃殿下にはならないだろうが、充分、国民の心を引き付けるだけの魅力になるはずだ。

さて。
午前中、座学の時間に初めてベール無しの顔を晒し現れた私を王族の二人は盛大に褒めた。勉強中も各々が度々私の顔に目をやって、場合によっては見惚れているように視線を留めていた。

「集中してください」

何度も言わなければいけなかったが、悪い気はしなかった。
昼食を経て、歓談して体を落ち着けた後、私は満を持して立ち上がる。

「さあ、姫様。ダンスのお時間です」

立ち居振る舞いや所作のレッスンを経て、今日はついに社交界の必須スキルであるダンスのレッスンを始める。

「はい。よろしくお願いします、先生」

シャーロット姫も大人しいながらわくわくしているようで、頬をほんのりピンクに染めて私をじっと見つめていた。

私は元来、他者に故意に優しく接しようと取り繕う質ではないのだが、接する機会が多い事も手伝ってか、泣き虫から素直な生徒へと変貌したシャーロット姫にはついつい甘くなってしまう。
私が褒めるとそれだけ努力するシャーロット姫の健気さに完全に絆されていた。

カール殿下も同じ。
今日も目尻を下げて、年の離れた腹違いの妹に優しい笑みを注いでいる。

「大好きなイデア先生の動きをよく見てしっかり真似をするんだよ」
「はい!」

驚くべき事にカール殿下の言う通りシャーロット姫はレッスンを通して私に懐いた。
シャーロット姫は私の動作を真似て貴族らしく振舞えるようになってきたが、それをカール殿下は私への憧れが良い形で作用していると考えているようだ。

私に続きカール殿下が腰を上げる。
そして私の傍まで来ると、姿勢を正して準備を整えた。

私はカール殿下の正面に立ちシャーロット姫に笑みを向ける。

「まずは見て、こういうものだと知ってください」

シャーロット姫の瞳は期待に輝いている。
きっとシャーロット姫は踊れるようになるだろう。私が指導するのだから当然という思いと同じだけ、私も今や隠し子の姫君を信頼していた。

カール殿下を見上げる。

「お願いします」
「光栄です。イデア先生」

短い挨拶の後、カール殿下は私に手を差し伸べた。

「……」

一瞬、私情で心が乱れる。
社交界で完璧なダンスを踊ってきたが、その相手を思い出したのだ。

「踊って頂けますか?」

声に導かれ我に返る。
目の前で微笑む高貴な男性は、王太子カール殿下。そして私は姫君の教育係。

俄然、やる気が沸いてくる。
下らない過去など塵のように吹き飛ばせばいい。

「はい、喜んで」
「……!」

私が誘いを受けた令嬢の手本として謙虚且つ可憐な笑顔で応じると、カール殿下は少し驚いたように眉を上げた。
だがそれも一瞬で、私がカール殿下の手を取ると完璧なリードで優雅にステップを踏み、王太子然とした気品と美しさで場の空気を変えた。

さすが。
圧巻の王子。正真正銘の王太子。

とんでもない相手と踊っているものだと我ながら驚きつつ、レッスンである事を意識した上で、久しぶりのダンスを私も心の底から楽しんだ。
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