恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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大広間に戻ると変わらぬ賑わいがそこにあった。
主役はシャーロットではなく、姫を送り出す王子と、妃を迎える王子。番狂わせを仕掛けたのはアンセルム殿下だ。しばらくは矢面に立ち続けてもらおう。

「やあ、イデア」

真っ先に気づき声を掛けてくる。
カール殿下がふり向いた。その視線は焦燥と寂寥が渦巻き、螺旋の杭のように私に突き刺さる。胸に走る痛みは私の恐怖の為か、裏切りの罪悪感か。だが今は感傷に浸る暇はない。

「失礼しました」

私が合流するとアンセルム殿下は頬を上気させて満面の笑みで喜び、カルネウスも控えめながらに歓迎の笑みを刻んで目礼する。

「シャーロットは?」

カール殿下の気遣いを疑いはしない。
ただこの獣がいつ爪を研ぎ牙を剥くのか、私は忘れるわけにはいかない。

だから微笑む。

「私の部屋でお休みです」
「君の部屋で?」
「ええ。チチェスター伯爵夫人の傍なら安心ですし、静かですから」
「そうか」

カール殿下は私を疑わない。

「今、カルネウスと話していたところなのですよ。あなたは医学にも明るいそうですね。宮廷医師の助手として宮廷に入ったとか」

アンセルム殿下が早速私を話の輪に引き入れて主導権を握った。

「どこでお聞きになったのです?」

カルネウスに尋ねる。
油断は禁物としても、今この場で気楽に笑みを交わせるのはこの末端の王子だけだ。知的且つ優美な眼差しはそれだけで私の緊張をほぐした。

「自然と耳に入りました。あなたの噂は絶えません」
「噂?」

楽しくはない。
微笑みを浮かべたまま多少眉を寄せ怪訝そうな顔を見せるくらいが人間らしいはずだ。私は心に従った。

噂の詳細を不承不承尋ねようとした私の腰に、カール殿下の手が添えられる。結局私はただ笑みを深めた。
アンセルム殿下の満面の笑みがやや強張る。如何にしてカール殿下から私を捥ぎ取るか策を練っているのかもしれない。

「皆、シャーロットと同時に現れた美しい令嬢に夢中なのさ。あれは誰だ、とね」
「まあ、それは」
「突然現れた姫の教育係であり、皆が待ち侘びた女性の宮廷医師になる貴族令嬢と」
「殿下が仰ったのですか?」
「私と陛下以外誰が言うんだ」
「ええ、まあ、そうですね」

カール殿下がしきりに顔を覗き込んできても、私は目を合わせなかった。噂話の的になっているという戸惑いで周囲を見渡している。きっとそう見える。見えてもらわなくては困る。

「仲がおよろしい事で」

誰に釘を刺したいのか、カルネウスが知的な声で余計な事を言った。
微妙な緊迫感が三人乃至四人の間で漂い、やはり沈黙を破ったのはカール殿下。

「イデアは誰よりも信頼に値する人物です。彼女と二人でシャーロットお披露目の準備に当たりましたが、正直、イデアがいなければ今日この日はありませんでしたよ」
「そうですか。あなたは素晴らしい方だ」

アンセルム殿下がカール殿下に相槌を打ってから私を褒め、そこへ更にカール殿下が畳みかける。

「本当にそうです。だから私はイデアに誓ったのですよ」
「私、役職を頂けるそうです」

結局、私が発言しカール殿下の口を塞いだ。
無邪気に、意気揚々と。教育係イデアの野心という共通認識で微妙な空気を和らげたい。しかし……

「役職?」

アンセルム殿下が眉を顰めた。
更には自国の言葉で私に直接問いかけてくる。

「〈それが理由?〉」
「〈何の理由ですって?〉」

間髪入れずにカール殿下が返す。
アンセルム殿下は微笑を絶やさず目を光らせた。

「〈私はイデアに聞いたのですが〉」
「〈イデアの事なら私が答えます〉」
「〈何故?〉」

その一言でカール殿下は私の腰から手を退けた。
アンセルム殿下はまた満面の笑みを浮かべ、再びこちらの言葉でこう締め括った。

「リムマーク大公国は自由ですよ、イデア」
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