恐ろしい仮面の王妃様 ~妹に婚約者を奪われた私が国王陛下に愛されています~

希猫 ゆうみ

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若き国王陛下は仮面の王妃を溺愛している。
微笑ましく感じる者もいれば奇妙だと受け取る者もいるのは当然だ。事もあろうに仮面を被っているのだから。

但し理由は明白であり、不要な懸念や邪推を招きはしなかった。
仮面の王妃は王家に纏わりつく蛇を退治し、負傷した。美しい顔に毒薬を噴き掛けられた。だから仮面を被っている。

噂は監獄にも届いているだろうか。
祝福の鐘の音は聞こえたはずだ。

「いいですか?陛下はイデア妃が噴き掛ける瞬間は必ず壁際に寄って、布で鼻を塞いでおいてください」
「わかった」

何度も繰り返されるカルネウスの指示にその都度しっかり答えているカールは、実に優しい国王だと妃の私でも思う。

ちなみにリムマーク大公国の感覚では王妃の私も陛下と呼ばれて然るべきらしく、こちらの現状とは差異がある為、二人の賓客は私をイデア妃と呼んでいる。私は妃殿下で違和感がないが、カールはこれもリムマーク大公国に倣い改めていくつもりらしい。

それはさておき。

「あなたも本当に気を付けて」

カルネウスが私にも念を押した。
いくら調合した本人とはいえども外国人が尋問に立ち会うわけにはいかない。

「ええ。この仮面どう?似合います?」
「馴染みない悪魔という感じですね」

外国人医師の的確な感想に私も頷き返した。

この日の為にカールが作らせた土色の仮面は、一言で現せば悪魔のように醜悪で見る者の恐怖を煽る造形をしている。
漆黒よりこちらの方が太陽光や燭台の灯を受け変化が見られ恐怖心を掻き立てるという事で採用したそうだが、効果は覿面でシャーロットとチチェスター伯爵夫人などはあからさまに恐がり近寄ってさえくれない。つまり逃げてしまう。

狂人キャタモールを如何にして追い詰めるかが私たちの課題だ。
あの男はもう鎖に繋がれ逃げる事は叶わない。

監獄長と看守の協力を得て城内に尋問の場を整えてもらった。
さすがに国王夫妻が揃って監獄へ下りていくのは誰もが眉を顰める異常事態であり、即位一年目結婚一月目にして闇の歴史も築いている私たちだ。

エルズワース3世の同席は断固として拒否させてもらった。
精神的に軟弱で不安定な老人はいつまたキャタモールに悪い影響を受け発狂するかわからない。キャタモールという宮廷医師を失った後、エルズワース3世はカルネウスの調合した安定剤を服用している。

その人生のほとんどを宮廷で生き憎悪を募らせ死んでいく、自身が悪魔と成り下がった男が今、私の前で椅子に繋がれている。椅子も本人も厳重に鎖で繋がれているが、肘から先だけ自由にしてあるのも指示通りだ。

「ああいえやあおう!!」

私とカールの姿を見て、何か叫んで笑った。
その後も判別できない言葉で恐らくはこちらを罵ったり、あの鬱陶しい馴れ馴れしさで挨拶か揶揄をしているのだとは思うが、咥内を損傷し治療を拒否している口から発せられる言葉など全く聞き取れない。

「全然わからない」

仮面の下から私は答える。
カールが壁際で待機した。あくまで付き添いという風を崩さないが、彼にとっては腹違いの妹の居場所を聞き出す場なのだから私より余程当事者である。

「どう?似合うかしら。人目に晒せない顔にして頂いて、あなたには本当に憎悪と嫌悪しかないわ」

実際はしつこい肌荒れ程度まで回復し、間もなく完治する。
ただ今はキャタモールを喜ばせ私に注視させるのが目的だ。

室内を歩き回る私をキャタモールは醜悪な笑顔で追っている。

「とても痛かった。陛下が結婚してくれたのは奇跡よ。聞こえたでしょう?鐘。私、王妃になった。あなたの望んだ通りね。でもあなたには何の恩恵もない。残念ね」
「げへ!あええがあおう!!」
「だから、わからないって言っているでしょう」

キャタモールは涎を垂らしながら笑っている。
室内を右往左往しながら距離を詰め、適正範囲まで近づいた所で後手に隠し持っていた香水の小瓶をキャタモールの眼前に据えた。

そして一噴き。

「ごっ!」

土色の悪魔の仮面で守られている私も、カルネウスの指示通り即座に離れる。
カールと並んで壁際に佇み、変化を観察した。

最初あれこれ喚いていたキャタモールは次第に勢いが弱まり、目は虚ろ、首を左右に揺らし、手首から先を忙しなく上下させるようになる。
そして暫く待てば、噴霧した自白剤も床に落ちきり近寄っても影響は受けない。

監獄長に予め用意させた手頃な板とチョークを持ち、再び詰め寄った。

「キャタモール」

仮面越しに低く名を呼ぶ。

「ひいっ!」

朦朧とした狂人は、私を覚えているだろうか?
それとも悪魔が迎えに来たと錯覚してくれるだろうか?

尋問を開始する。

「娘は何処だ」
「あ……あ、がぅ……」
「クリスティーンが産んだエルズワース3世の娘は──」

さほど時間はかからなかった。
チョークを持たせると、キャタモールは極度の怯えで涙を撒き散らしながら居場所を板に書きつけた。

「…………」

不格好にうねる狂人の文字を私は食い入るように見つめる。

書き記された居場所。
それはグレンフェル女子修道院だった。
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