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出会い編
心を癒す演奏
しおりを挟む教会の前には、大きな広場がある。メルは、今、教会の入り口の前に椅子を置き、帽子を深くかぶり、座ってる。今日は、メルの手作りの楽器ホープの演奏会だ。
メルの椅子の前には、大きな敷物が敷いてあり、そこには、子供や小さな子供を連れた親子、老人が靴を脱ぎ、座っている。レオナードとアレルが用意した。レオナードとアレルは、気が利く。その後ろには、沢山の大人が立っている。二〇分ほどの演奏会だが、広場には、老若男女問わず大勢の人が集まっている。
メルは、演奏を始めた。
ポロン、ポロン、ポロポロポロン……
ポロポロ……
きれいで、透き通るような、心地いい音色。メロディーに合わせて暖かい優しい風が吹いている。その風に合わせて、教会の周りにある木や花の葉は静かに揺れている。
みんな、静かに聞いている。教会の木の周りには、犬や猫、小鳥やりすなどの動物も集まり、聞いてくれている。
演奏が終わると、沢山の大きな拍手をもらった。
(うふふ、良かったわ。喜んでもらえて)
この演奏会のきっかけは、メルに孤児院のマリーが、夜、怖い夢を見て寝れないと眠そうな顔をして言ってきたことだ。他にも何人か嫌なことや怖いことを思い出し、寝れないという子供たちもいた。
そこで、メルは、ホープを使って、動物たちが好きな曲を演奏した。以前、レオナードとアレルも喜んでくれた曲だ。レオナードとアレルが喜んでくれたから子供達にも大丈夫なはず。子供たちからは絶賛だった。もちろん、神官、レオナードとアレルもいて、メルの演奏は、絶賛だった。
子供たちは、心癒されたようで、その夜からぐっすり眠れるようになった。それからは、メルが孤児院に行くと必ず子供たちに頼まれて、演奏するようになった。いつの間にか、外に漏れていたホープの音色は、他の人たちの耳にも入り、このように、沢山の人が聞きに来るようになった。孤児院の中では、狭いため、教会の前の広場で演奏している。本当は、知り合いに見つかりたくないメルは、孤児院の中で演奏したいのだが……。
「なぜ、教会の前の広場で演奏したくないのだ?」
レオナードが、鋭く聞くため、メルは、しぶしぶ広場で演奏している。
どうか見つかりませんように。と思いながら……。
(皆、優しい気持ちになれる。心が癒されると言ってくれる。うふふ、嬉しいわ。)
メルは、ホープを抱え、微笑む。
メルの演奏を聴き、夫婦げんかがなくなったり、兄弟げんかがなくなったり、おこりっぽくなくなったり、心が豊かになったと好評だった。
メルは、街の治安が良くなったと、レオナードに感謝された。
(なぜ、レオナードが感謝するの? でも、治安が良くなったのはいいことだわ)
メルは、自分の演奏が、この国の人の心の癒しになっていると聞いて嬉しかった。
***
「お前ら、貴族だろう。最近、貴族の連中が、ここによく来るんだよな。なんか孤児院訪問が貴族の連中のブームなのか?」
ダルがレオナードとアレルに声をかけてきた。
レオナードとアレルは、顔を見合わせた。
「どういうことだ?」
「ほら、今も来てるぞ。なんとか侯爵令嬢とか言ってたな。昨日も、なんとか公爵令嬢とか言うのが来てた。どいつも、にこにこして、何もせずちび達の様子を見てるだけだけどな」
女児達は、メルに教わった帽子やバックをヤシの木の葉と花を使って作っている。それをそのなんとか侯爵令嬢は、椅子に座って見ていた。その令嬢は、カトレア侯爵令嬢だ。宰相の娘だ。
すると、
「さぁ、もう三〇分もいたんだから、もういいでしょう。帰りましょう」
と言って、立ち上がり、カトレア侯爵令嬢は、侍女とともに帰っていった。
レオナードとアレルは隠れてダルと見ていた。カトレア侯爵令嬢は、レオナードの婚約者候補のひとりだ。
「メルと違って、貴族の令嬢達は、来ては、見ているだけ。自分の為にここに来てるんだろう。自分の評判をあげるために。迷惑だよな。それに対して、メルは、孤児院のために動いてくれている。 俺たちの生活がよくなるようにな。メルだって多分、いいとこの娘だろう? なんかわけがあって洞窟に住んでるんだろう。見てればわかるよ」
レオナードは、ダルの言葉が心に突き刺さった。
(メルは、自分の為ではなく、孤児院の子供たちのために来ている。それに対して私はどうだろう。私もここに来ている他の令嬢達と一緒だ。自分の為に来ている。メルに会いたくて、メルの側にいたくて、メルに慕ってもらいたくて)
レオナードは、ダルに心を見透かされているような気がした。
それに気づいたのかダルは、
「ここに来ている動機はどうあれ、お前たちもメルと同じだよな。俺たちに本を提供してくれたり、文字や計算、剣術を教えてくれたりしている。感謝してるよ」
笑顔で言ってきた。
ダルにはレオナードのメルへの気持ちはばれているよう。レオナードは、ダルに聞かずにはいられない。
「ダル、君は、その……、メルのことを慕っているのか?」
「あぁ、ここの孤児院の連中は、皆、メルが大好きさ。でも、それは、恋愛の好きではないさ。家族愛みたいな? うまく言えないけど。先生? うん、姉? 俺たちは、初めっからメルとは育ちが違うって思ってるから、そういう対象には見てないよ。ははっ。メルもだろう。お前たちのような育ちの良い奴がメルには合うだろう。お前らいい奴だから、応援してる。頑張れよ!」
ダルは、笑いながら言うと子供達のところへ行ってしまった。
レオナードは、まさかのダルからの応援をもらい拍子抜けしてしまう。アレルと顔を見合わせ、苦笑する。
(ダル、いい奴ではないか)
レオナードの頬は、自然と緩む。
***
メルは、今日も孤児院で、子供たちと勉強したり、リースや帽子、バックを作っているとき。
孤児院の外から、
「きゃあ!」
悲鳴が聞こえた。
メルたちは、孤児院の外にむかう。そこには、深緑のバンダナをつけた四人の男たちがいた。一人はマリーを捕まえ、抱きかかえている。マリーは、恐怖で涙を流している。他にもマリーと一緒に外で遊んでいた女児二人も深緑のバンダナをつけた男に捕まって、泣いていた。
「何をしているんだ」
孤児院の最年長の少年ダルとトムが睨みながら、男たちの前に出ていく。神官も外に出てきた。
「そこの女に用がある。そこの女を渡したら、こいつらは返す。逆らえば、こいつらの命はない」
女児達を捕まえていない男が言う。
そこの女とは、メルのことだった。
「私に用なのですね。子供たちを放してください。私は、一緒にあなた達と行きます」
メルは、堂々と一歩前に出る。わずかに足は震えている。
(彼らの目的は、私。皆を巻き込んではいけないわ)
男はメルの腕をとり、子供たちを解放した。
子供たちは、神官のところへ走っていった。そして、ダルとトムだけ残し、神官は、外にいた子供たちを孤児院の中へ避難させた。
その様子を見て、メルは、ほっとする。ダルとトムは、男たちを睨み、メルを助けられるチャンスはないかと様子を伺う。と、クゥーがメルを助けるため、男たちを威嚇し、飛び掛かった。すると、どこからか、矢が降ってきて、クゥーの体に刺さった。クゥーは、倒れたが、立ち上がり、男に襲い掛かろうとしたが、ふらふらしながら倒れた。
「「クゥー」」
ダルとトムとメルの声が響く。ダルとトムはクゥーのところに駆け寄り、男たちを睨む。
「毒が効いてるようだ」
メルの腕をつかんでいた男が言う。矢に毒がついていたようだ。メルは、男を睨みつけ、ダルに目で、薬を飲ませるようにうったえた。ダルは頷いていた。伝わったのだろう。
メルは、孤児院に小さい子も多くいるため、突然の病気に対応できるよう薬を常に置いてある。メルは、これ以上、被害がでないよう指示された通り、近くの馬車に乗り込もうとした。
その時、どこからか女の騎士があらわれ、男に向かって剣を振り上げた。が女の騎士もどこからか放たれた矢に背中を刺され、倒れてしまった。
「いやー!」
メルは悲鳴をあげた。
彼女は、メルを助けようと剣を振ってくれたのだ。
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