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出会い編
立ち読み
しおりを挟む「あっ、ちょっと、本屋に寄ってもいいですか?」
レンガ造りの小さな本屋の前だ。本屋は、貴族や裕福な平民が利用している。レオとアレルが頷く。
「ボブさん、また本を読ませてください」
「メルかい、もちろん、いいぞ。読んでいきなさい」
ここの本屋の店主はなんと肉屋のボブと同じ名のボブだった。ボブは、薄く、短い黒髪に眼鏡をかけた小柄な男性だ。ボブの妻は、胸が苦しくなって倒れてしまった。それが、メルの薬を飲んで治り、今は、元気になって、近くのパン屋で働いてる。ボブも腰痛がひどく、杖をついていたが、メルの薬で治り、今は杖を使わず歩くことができるようになった。スキップもできるようになった。
薬のおかげかボブは、メルの立ち読みを許してくれている。いつも、読んでる側に椅子まで持ってくる。
メルは、椅子に座り、『畑づくり大辞典』という分厚い本を本棚からとり、本を読む。今お気に入りの本だ。
「何を読んでるんだ?」
レオナードが本を覗き込む。
「えぇ、孤児院の裏地にサトウキビを植えようと思って。私の森の庭に治療したリスがお礼に持ってきた種を植えたんです。そしたらサトウキビが育ったんですよ。私の庭は、植物が育ちやすい土のようで、手入れしなくてもどんな植物も育つんですが、孤児院の裏地はそうでもないんです。もし、サトウキビが育てば、砂糖が取れます。砂糖は高価なので、孤児院の収益になりますし、今裏地で取れているベリーを使ってジャムを作って売ることもできると思うんです」
「そうか。それはいい」
とレオナードは笑顔で言うと、アレルと店の中を見て回っていた。
「レオナード様、これ」
アレルが本を本棚から取り、小さい声で言う。『公爵夫人の日常』という小説だった。
「なぜ、この本がここに……」
とレオナードは、小さい声で言う。
「メルが森で言ってた通り、立ち読みしてますし、この本もありますよ。店主の名もボブさんです。メルは本当に平民なんですかね?」
レオナードは、そうなのだろうかと不安になる。いや、そんなことはないはずだ。メルに似ているし、アマリリス嬢であってほしいという気持ちの方が強く、信じたくなかった。偶然だろう。そう思いっていたかった。
すると、店主のボブが声をかけてきた。
「この棚は、中古の本を置いてるんだよ。この本は、お金に困った貴族が売ってきた本の中に混ざっていたものだよ。これは、貴族令嬢に配られる本だろ? 非売品だから、置いてはいるが買い取ってもいないし、売ってもいないよ。ほら、裏に、非売品と札がついているだろう。私らには珍しい本だから置いてるだけだ」
アレルは、頷き、本を戻す。
「メルの付き添いかい? メルは読み始めると、時間がかかるぞ」
三人でメルの方を見る。真剣に本を読み進めている。こちらの視線にはまったく気付いていない。
「メルの読んでる本をいただこう。それと、子供向けの本と絵本もいただこう。これは、孤児院に届けてくれ」
レオがメルの読んでる本を突然、取り上げる。
「その本を持って、帰るぞ」
「えっ、ちょっと待って。どういうこと」
レオナードは、メルの読んでた本を持って本屋を出て行ってしまった。メルは、慌てて、レオナードの後を追う。
「買ってくれたんですよ」
メルの後ろにいたアレルが言う。
(待って、あの本、金貨一枚もする超高価な本なのよ。超高価だから、立ち読みしてたのよ。いいのかしら。子供たちの服と本や絵本、ペンに紙を頼んだのに……)
金貨一枚は、銀貨一〇枚に相当する。メルは、アレルと本屋を後にした。
「お買い上げ、ありがとうございました」
ボブの嬉しそうな声が聞こえた。
「本を買っていただいてありがとうございました」
メルは、深々と頭を下げた。
「いや、気にしないでくれ。贈り物が見つかって良かったよ。メルが一番興味を持ってたものだったからね。本当は、ドレスや宝石を贈りたかったけど……」
レオナードは笑顔で言うが、最後の方は声が小さくよく聞こえなかった。
「あっ、そうだ。私の母がメルのクリームを買いたいと言っているんだ。メルのクリームを塗ってから肌荒れなく、しっとりとした肌になってる私を見て欲しいそうだ。すまない」
申し訳なさそうにレオナードが言う。
「私も母に頼まれて、クリームを買わせてもらえないだろうか」
アレルも申し訳なさそうに言う。
(二人とも、すぐ、クリームが売れてしまうのを知ってるから遠慮しているようね。超高価なお気に入りの本を買ってもらったんですもの、今回は特別に優先販売よね)
「もちろんです。クリーム二つ用意しておきます。明日は、街には行かないので、明後日、取りに来てください」
メルは、一日おきに街に来ている。街に行かない日は、けがした動物たちの治療や薬を作っている。
今日もレオナードの馬に乗せてもらい、森の入り口まで送ってもらった。
***
「メル」
レオナードとアレルが孤児院にきた。二人で両手に大きな手提げ袋を持っている。中には、新品の服が沢山入っていた。別の袋には、ぬいぐるみや遊び道具、ペンや紙も入っていた。絵本や本、図鑑は、本屋のボブが孤児院に届けてくれた。子供たちは、大喜びだ。中には早速、絵本をあけ、覚えたての文字をゆっくり読んでる子もいる。
レオナードとアレルは笑顔で、子供たちの様子を見ている。メルも嬉しくなる。
「子供たちが文字を学ぶのに絵本は最適なんですよ。あっ、クリームを渡しますね」
メルは、微笑んで、二人に頼まれてたクリームを渡した。
レオナードとアレルは、その後も一緒に孤児院で子供たちに文字の読み書き、計算を一緒に教えてくれていた。男児に頼まれて剣術も教えていた。
(二人は、本当いい人だわ。でも、二人は、多分、高位の貴族よ。私の身元がばれないよう距離を置かないといけないのに……)
メルは、ため息をつく。
そして、今日もレオナードの馬に乗せてもらい、森の入り口まで送ってもらった。メルが、断っても、通り道だからと言って、レオナードは、譲らないのだ。
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