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第2章 主要人物として
第39話 「愛に溺れた憤怒の魔術師」
しおりを挟む壁際の席だったので、そのまま建物の外まで吹き飛ばされてしまった。
正確な被害までは分からないが、竜の装甲を貫通するほどの攻撃魔術なら複数人の生徒にも被害が及んでいるはずだ。
それすら気に留めないユキナの狂人っぷりに圧倒されながら、砕けた石畳の上で痛みを堪えながら立ち上がる。
竜だった父の血が流れているおかげで死なずに済んだ。治癒力も常人よりも数十倍も速いので、じきに治るはずだ。
護衛のない今、俺に出来ることは逃げることだけ。
魔王の討伐に貢献した主力の一人であるユキナとまともに戦ったら勝ち目はない。
「待てぇえええええええ!!!!」
耳鳴りするほどの雄叫び。
両耳を塞ぎながら振り向くと、血眼で追ってくるユキナがすぐそこにいた。
あまりにも素早く、避けることができず体当たりされてしまう。
左腕を犠牲にしてダメージを最小限に抑えようとしたが、想像を絶するほどの威力に敵わず、ふたたび吹き飛ばされていた。
「あああああ!!」
訳が分からなくなり叫んだ。
すぐに体勢を立て直し、今度はこちらから攻撃をする。吹き飛ばした俺を追っていたユキナの動きを注意深く観察しながら右腕を広げる。
そのままそれを彼女の喉に思いっきり叩きつけた。
竜の鱗を纏った腕でのラリアットだ。
首の骨を簡単に折るほどだが、ユキナ相手ではその程度で済まされてしまう。数年も最前線で戦ってきた歴戦の猛者なのだ。物理耐性も規格外なのだろう。
————
クラスの人気者の風紀委員ユキナ。
数多くの女性から好意を寄せられるリュートは中でもライザ、エミリア、ユキナ、なによりドロシーを特別視していた。
最戦力でもあるため四人の同行は必須。
リュートとの付き合いが長いため特別視されるのは必然。
戦力で言えばエミリアが群を抜いていたが、能力単体であれば最も恐るべき存在がユキナだ。
魔王軍からは『憤怒の魔術師』と呼ばれ恐れられていた。普段の温厚な彼女でも、何かの拍子で爆発すれば止まらなくなってしまう。
それはまるで『悪魔』のように、周囲の人間や仲間ですら巻き添えにするのだ。
彼女自身そう簡単には怒るほど短気ではないが、好き好んで爆弾を抱え込もうとする物好きは居ない。
そんなユキナを受け入れたのがリュートだった。
いつ爆発してもおかしくない少女に手を差し伸べたのだ。
そのときユキナは彼を守れるだけの力を欲した。
欲望によって得たのは『結界魔術』。
防御、攻撃、状態異常、身体強化、等。
汎用性の高いこの能力のおかげで、リュートと肩を並べるほどまでユキナは成長したのだ。
人類の脅威たる数々の敵を屠ってきた彼女の憤怒は、まだ始まったばかりである———
————
右腕の装甲が砕け散った。
さらされた腕にまでダメージが及ぶ。
周囲を見ると俺とユキナを囲うように結界が張られていた。
まさか『弱体効果』か。
俺の打撃を抑えられた原因もコレか。
すぐに逃げなければと走りだすが、張られた結界によって既に逃走経路を失っていた。
逃げ場はないと確信すると同時に、地面から這い上がるユキナと目が合う。
そこには先ほどの温厚な彼女はいない。
ただ狂ったように嘲笑い、顔を返り血で濡らした狂人がそこにいた。
「お前を!! お前を!! 殺す!! じゃないと、誰も!! 誰かが傷つく!! 誰も傷つかない世界にするんだ!!!!」
耳を塞ぐも、鼓膜に直接触れられているかのような叫びだ。
そんな悲痛な想いが込められた声に、俺は微かな違和感を覚える。
「誰も私の話を聞かない!! リュートもライザも!!!」
やはり何かがおかしい。
どうして二人だけの名前なのか。
もう一人いただろ、リュートの取り巻き三人トリオが。
それを何故、端折ったのか意味が分からなかった。
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