悪癖

二一

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察知

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 ここから引っ越そう。いつの間にか薄暗くなった部屋で我に返った。
「美玲。いるかい?」
 部屋から出て居間にいるはずの妻を呼ぶ。返事がないことで台所に入ると、そこには無数の空き瓶が転がっていた。いつからこうなっていたのだろうか。台所なんて久しく入っていないから気づかなかった。
 妻が戻ったらすぐに引っ越そう。荷物なんかあとでもいい。とにかく数日分の着替えを持って、ホテルにでも……。
 とにかくすぐに妻に伝えて、それからだ。家の電話から妻の携帯電話の番号に発信する。呼び出し音が鳴り続き、やがて留守番電話の応答が始まった。
「なんで、出ないんだ……あ」
 そのとき、廊下に足音が近づき、鍵を回す音が聞こえた。
 ガチャ……重たい鉄のドアが開く。
「美玲。今すぐ引っ越そ……」
 廊下に顔を出して迎えたのは妻ではなかった。ドアの上部に頭をぶつけそうなほど大柄な青年がふたり、玄関に立っていたのだ。
 ひとりはにこやかな笑みを浮かべ、ひとりは気だるそうな様子を隠さない。その姿は瓜二つだ。
「お邪魔します」
 馬鹿丁寧な挨拶で双子の青年たちが入ってくる。その足は靴を履いたままだ。
「……来るな!」
 廊下を後ずさりしながら叫ぶ。侵入者はそんな命令を聞く必要はないし、聞かなくても何ひとつ不都合がないだろう。それでも、せめてもの意思表示だと何度も叫んだ。
 双子たちがずんずんと中へ入ってくる。
 逃げる先は自室しかなかった。
「袋のネズミってやつをナマで見るとは思わなかった」
 気だるそうなほうが嘲笑う。
 部屋に逃げ込み鍵を閉める寸前で、その主導権を奪われた。
「つっかまえた。弦さん」
 大きな身体がのし掛かり、いとも簡単に自由を奪う。
「なん、で……名前……」
 表札なんか上げてもいないのに。その疑問に答えるものはいなかった。
「この前も思ったけど、ここおもしれぇよな」
 ひとりが壁にずらりと並ぶ飼育ケースを順に観察していく。
「これ、なんて虫?」
 オオヤスデを指差しての質問に、答えようとした唇は震えて言葉にならなかった。
「すごいね。生物学の教授だったっけ?」
 背後から自由を奪うひとりが、感心したように机のうえを眺めた。
「世界でも有名なんだって聞いたよ」
 飼育ケースを見ていた片方が、近寄って机の上を物色する。
 それはまだ研究途中だ。
「さ、触るな……それは……」
 二対の視線が突き刺さる。息が止まりそうだ。
「芋虫の内臓ってこんなんだったのか」
 気だるそうにプレパラートを光にかざしたひとりが、こちらを見て笑った。その視線が紙魚を閉じ込めたケースへと注がれる。
 その指先がケースの中に入った。
「ふは。くすぐってぇ」
 青年の指先に紙魚が纏わり付く。気だるげな顔が子どものように笑みを作った。
「……気持ち、悪くはないのか……?」
 青年が指を戻して振り返った。そして、動けないままの獲物へと近寄ってくる。
「く、来るな……」
 怯える様子にわざとらしく両手を上げてから、その手が尻のポケットに入った。青年の手には、最新型の携帯端末が収まってる。
 目の前に小さなディスプレイがかざされた。
 それは、端末に保存された写真だった。
 生々しい性器の結合。女の性器に二本のペニスがねじ込まれている。そして、次に表示されたのは、高く突き出した尻のあいだにペニスが埋め込まれている。その奥に映っているのは、この部屋の床と同じ――。
「あ、あ……ぁ……」
 青年がさらに写真を繰った。構図が遠くに離れ、その全体が映し出される。
 大きく股を開いて男を受け入れる妻と、犯される自分。
 その相手はどちらも、双子の青年だった。
「コッチのほうが気持ち悪くねぇ?」
 青年が局部を拡大する。見ていられなくなって瞼を閉じた顔が強引に引っ張られた。
「気持ち悪いよね? けど、俺たちはこの気持ち悪いやつが好きなんだよね」
「気持ち悪いのが嫌だなんて誰が決めたんだ?」
「あなたも気持ち悪いのが好きなんだよね?」
「コレを見て興奮するんだろ?」
 耳元で囁かれ、必死で頭を振った。笑い声が重なる。
「想像するだけで、こんなになるのに?」
 諭すような声は優しく、それなのに無遠慮な手が股間を強く揉みしだく。暴れようとする身体は難なく押さえ込まれた。
「また気持ちよくなろうぜ? 俺らと」
 恐怖で声が出なかった。自分は無力だ。ガタガタと震える身体から、衣服が剥ぎ取られていく。
 そのとき、玄関でまた重い鉄の扉が開いた。
「あれ、もう起きちゃった」
 足音が真っ直ぐに近づいてくる。
「弦さん、お電話をくれていたけれど、どうかしましたの?」
 いつも通りの妻の声だった。
「引っ越……んん!」
 今すぐ引っ越しをしよう。改めて考えれば、馬鹿なことを口にしようとしていた。この状況で悠長に引っ越しの話などできるはずがないのだ。
 背後の青年が、無情にもスラックスをずり下ろした。興奮に勃ちあがったそれを、やわやわと揉み扱く。もう片方がヘタのドアノブに手をかけた。
 全裸を見せつけるように立たされ、さらに股間を突き出すかのように腰を押されている。
 妻に見られてもいいのか。そんな脅しが聞こえるようだった。
「弦さん?」
「いや……飼育ケースを落として……ゴキブリが逃げ出してしまったんだ」
 だから、部屋を開けないでくれ。
 表で息を飲む気配がした。
「どうして、そうなるのよ……もう嫌! どうして私だけがこんな不幸なの!?」
 ドアの向こうで妻が叫んだ。
 不幸? 不幸なら、今まさに自分以上に不幸な人間はいないだろう。
「なにかを選ぶとき、自分以外の誰がその選択をするというんだ?」
 結婚を決めたのだって自分自身だったはずだ。妻は結婚しないという選択肢もあったし、この生活が嫌なら逃げることだってできたのだ。
「そうだね。決めたのは自分自身だ」
 耳元でひとりが囁いた。その意味を汲んで背筋が冷える。
 つまりは、この不幸でさえ自分の選択肢だというのか。そんなものはあり得ない。なぜなら、自分は選ぶことなんかできなかった。
 ドアの向こうで妻が泣き崩れている。
 ドアのこちら側にいた青年が、しょうがないとばかりに両手を上げて見せた。
 背後から拘束され、前方からもうひとりが近づいた。
「や、め……」
 ドアは鍵さえかけられていない。
「楽しいなぁ?」
 大きな手が顎を捕らえ、強引に唇が塞がれる。
 一瞬放された片手が、自由に気づいた途端、また捕らえられる。
 無防備な尻のあいだに、それは押し付けられた。あの日の恐怖が甦る。
「ん……ん」
 助けを求めていいのか、求めたくないのかさえ決められない。
 どの選択肢も残酷な結果を見せつけている。
 立ったまま串刺しにされていく苦しさに息が詰まった。
 ギチギチと尻の穴が、奥へと拡げられていく。叫びそうになる口がさらに強く封じられる。息ができなくて、目からも鼻からもだらしなく体液がこぼれていく。
 背後からなんども突き上げられ、悲鳴を奪われ、呼吸を奪われる。
 だれひとり言葉は発しない。ガサガサという物音は、ゴキブリを捕まえているように聞こえているだろう。
 虫嫌いの妻はドアを開けないだろう。
 だけど、もし開けたら?
「……気持ちよくなってきたね? 弦さん?」
 消えそうな掠れ声が耳に入る。
「アンタ細いから、腹の皮……こんななってるぜ?」
 前から下腹部を押さえ込まれ、また苦しさに喘いだ。
 体内を犯すペニスの形が、腹に浮かび上がる。そのデコボコを外側から抑え込まれ、鋭い痺れに全身が痙攣を起こした。
 ゴリゴリと肉壁が擦られている。崩れそうになる身体は、力強い腕に助けられ、倒れることさえ許されない。
 いったいいつまで犯され続けるのだろう。苦しみから逃げるように身体の力を抜いて、その蹂躙者に身を任せる。
「なぁ陽。俺も犯してぇんだけど?」
 前から腰を擦りつけていた青年がパンツをずり下げた。そそり立つ欲望が鈍く光っている。
「まだイッてないよ?」
「一緒にヤろうぜ? そのほうが早ぇじゃん」
 なぁ? 意地悪な選択肢がまた突きつけられた。
「早く終わるほうがいいだろ?」
 思考なんかもう無くなって、正常な判断などできるはずもない。
 うんうん、と必死に頷いて許しを乞うた。
 双子たちが低く笑う。
「じゃあ、一緒にシようか?」
 優しげな背後の声が確認を求めた。それにも頷いて同意を示す。
 大きな身体がのし掛かったかと思うと、震える膝裏が抱え上げられた。持ち上げられたことで、さらに深くまで串刺され、ガクガクと身体が痙攣する。
「月。おいで」
 すでにいっぱいいっぱいに支配されたそこに、同じ質量がねじこまれる。ギチギチと筋が嫌な音を立てた。
「ヒ……ギ……ぃ」
 痛みと恐怖に叫ぶ口は、またもや強く押さえつけられる。大きな手のひらが、鼻までを覆った。息苦しさに身もだえするたび、新たな蹂躙者が中へと入り込んでいった。
 二本のペニスに貫かれ、逃げ場のない空中でされるがままに揺らされる。
 意識がどんどん遠くなっていった。
 カタン……。
 表で物音がする。その瞬間、全身が粟立って、なにかが血管という血管を通り抜けていった。
 目の前が真っ白になる。
「ア゛……ァ……ガ……」
 冷水を浴びせられたように身体は震え続けている。それなのに、血液が沸騰しそうなほど身体が熱い。
「ふふ。イクの止まんなくなっちゃったね」
「あー……サイッコー……キモチイイ」
 痙攣を繰り返す身体を容赦なく拡げられ、その奥深くに何度も精液を流し込まれる。
 優しさなんか欠片もないキスで声を奪われ、ただひたすらに犯し続けられた。
 どこで、選択肢を間違えた――?
「タス……ケテ……」
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