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17.ライアン・ガーネット②
しおりを挟む*今話,ショッキングでセンシティブな内容があります。
メンタルが弱い、もしくは不安定な方、苦手な方は読まない方がいいかもしれません。
読まれる方は自己責任でお願いします。
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そう…ラフレシアと出会わなければ…。
学園を卒業後、家を継ぐ為の領主教育もほぼ終わり、父の仕事を手伝うようになった俺は以前にも増して忙しく、自由になる時間も減った。
その日俺は何とか時間を作り、婚約者であるニアに贈る誕生日プレゼントを買う為に町まで来ていた。
通りから店内を覗きつつ、彼女が喜んでくれそうな物はないかと探しながら歩いていたら誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ!」
と女性の声がしたので見ると、ぶつかった拍子に転んでしまったのだろう若い女性の姿が目に入った。
「すまない。」
そう言って手を差し伸べたら
「あら?ライアン様じゃありませんか?」
自分の名を呼ぶ声に、相手の顔を見るとラフレシアだった。
『げ、参ったな…。』
学園時代、“ 色々な男子生徒達に媚びて言い寄る非常識な女 ”と噂され、馴れ馴れしく腕を絡めてきたりする彼女の事が苦手だった。
当時のようにまた纏わり付かれて面倒な事になると思ったのだが、かと言って、ぶつかって転んだ相手に差し伸べた手を引っ込める訳にもいかなかった。
手を引いて立たせ
「すまない。大丈夫か?怪我は?」
と聞いたら
「尻餅を突いただけなので大丈夫ですわ。」
と言う。
ホッとして、これ以上絡まれないうちに立ち去る事にした。
「怪我が無くて良かった。じゃあ、私は急ぐからこれで失礼するよ。」
そう言って、この場から立ち去ろうとしたが手を離してくれない。
「何か?」
つい苛立ってトゲのある声で言ってしまった。
目を潤ませ上目遣いで俺の顔をじっと見ている。
『あ、コレって泣き出すやつだ。面倒くさいな。』
そう思ったが、こんな人目のある所で泣き出されては敵わない。
「用があるから急いでいるんだが…。」
「あ…。」
胸の前で左右の手を重ねて握っている。
やれやれと思いながらも、やっと手を離してくれた事にホッとして
「では、ご機嫌よう。」
と早口で言い、残り少なくなってしまったプレゼントを選ぶ為の時間を一秒たりとも無駄にしたくなくて急いだ。
だが、この日以降、町にでかけると何故かラフレシアに出会し、付き纏われる事が増えた。
学園にいた頃は、彼女の婚約者が回収してくれていたから良かったものの、卒業後は彼も忙しい所為かそんな事もなくいつも一人でいる彼女。
『婚約者はどうした?』
そう思っていたが、彼女の婚約が解消されたという噂を耳にした。
『あー。そりゃあ、あれだけ婚約相手に尻拭いさせてたら婚約を解消されるわな。破棄されなかっただけましか。』
だからと言って、付き纏われても困るから町に出る用が有っても、従僕で間に合う物については従僕に任せていた。
そんな俺の所に、男爵家から使いの者が来た。
火急の用があるから男爵家まで来て欲しいと言うのだ。
『怪しすぎるし、嫌な予感しかしない。』
固辞するも、必死の形相でしつこく食い下がってくる。
『仕方がない。警戒だけは怠らずにいるしかない。』
そう考え、従僕を連れて行く事を条件に渋々行ったのだが…。
まさかこんな大事になっているとは思わなかった。
ラフレシアが自死しようと大量の睡眠薬を飲んだと言うのだ。
幸い発見が早く、吐き出させ、大量の水を飲ませ胃洗浄した為、命に別状はないらしい。
その理由を問い質せば、婚約解消されて以降は部屋に引き籠もっていた彼女だったが、昨日はラフレシアの元婚約者とサマンサ・ターコイズ男爵令嬢の結婚式だったようで悲観して自死しようとしたらしいと言う。
「元婚約者に対する当てつけのように自死しようとするなど何を考えているんだ。しかも、此処に俺が呼ばれた理由が分からない。」
そう言ったら男爵は、
「娘が会いたい、会いたいと貴方様の名前ばかり口にする。生きていこうと思えるように娘を励まし、元気づけててやって欲しい。」と言う。
「はあ?何故俺の名を?俺は無関係だ!寧ろ付き纏われて迷惑していたんだぞ!」
冷たいようだが事実なので、そんな言い分など認められるかと激昂して言えば男爵も渋々引き下がった。
早々に帰ろうと玄関へ向かった時、けたたましい悲鳴が聞こえた。
俺の見送りに玄関へ向かっていた男爵の元にラフレシアの妹アマリリスが泣きながら駆けてきた。
「お、お姉様が…わあぁぁぁ。」
尋常でない娘の様子に男爵が(恐らく)ラフレシアの部屋がある二階へと向かう。
「お願い、お願いします。お姉様を止めて!」
俺の腕を引っ張り泣きながら言う彼女。
このまま帰るのも寝覚めが悪いので、しょうがないと思いつつ俺も男爵の後を追って二階に駆け上がった。
二階へ行くと廊下の向こう側が騒がしい。使用人達がバタバタと走り回り、「医者だ!医者を呼べ!」という声が聞こえてきた。
慌てて部屋に飛び込んだ俺の目に映ったのは、ベッドの上に飛び散った血、ベッド脇に立ち、血が流れている手首に何かをあてがい泣き喚いているラフレシア。
そんな娘を見てオロオロしている男爵夫妻。
『何なんだコレは?』
よく見ると、ラフレシアが手首にあてがっている物がガラスの破片のようだと気づいた。
俺は彼女に素早く走り寄ると、手首を掴みガラスの破片を振り落とさせた。
「わああぁぁぁ。」
泣き崩れる彼女の体を抱き止めると、俺の胸に縋って幼子のように声を上げて泣く。
仕方がないと、そのまま落ち着くまで胸を貸したのだが、その事を後で後悔する羽目になった。
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