35 / 60
35. 失意と希望
しおりを挟む青い顔をして、まるで胸の中に溜まった物を吐き出すかのように、一気に捲し立てるみたいに、俺と会えなかった間の話をする彼女。
失意のどん底にいた俺は、
「ごめんなさい。」 と言って走り去った彼女を追いかける事が出来なかった。
お前に会えないのを他の女で埋めていたつもりなんてなかった。
寧ろ、お前がいない辛さを他の女で埋められないと思い知らされた。
お嬢様が血塗れで倒れてた。って、何だよ。わかんねぇよ。俺がいない間に何があったんだ?
俺が…俺が寝た女が…お前に言った?あ”ぁ” ッ?!誰だよそいつ!二度とそんな事言えねぇようにしてやるよ!
クソッ!? …誰だよ…。
…分かってる…俺が悪いんだって事は…。あの時の俺は、恋人がいて、仕事でも認められて…調子に乗ってたんだ…。色んな女が寄ってきて、自惚れて、舞い上がってたんだ…。
で…お前からの手紙に、“別れて欲しい”って書いてあるのを見て…どれだけお前が大事だったか…気付かされたくせに…。
砦に配属されてからも、色んな女の間を渡り歩いてたなんてな…。お前が苦しんでたのに…。
いや、苦しんでたなんてもんじゃないよな…。
車椅子に乗ったお嬢様を思い出して、彼女が言っていた事と関わりがあるとわかった。
そして、箝口令が敷かれ、俺の所にも情報が下りてこなかった事も…。
お嬢様と王太子の婚約が解消されている事も。
全て繋がっている。
王家からの口止め。
そんなもんに巻き込まれてたなんてな。
これ以上、彼女の傍にいても苦しめるだけだとわかった。
そして、もう赦してもらえないのだと。彼女に触れる事も話をする事も…笑顔を見る事も…。
彼女を笑顔にする事も、俺には二度と赦されない…。
砦に帰るか…。 独り言ちると、別荘の建物の方へ向かった。
執事にローランドへの伝言を頼み、俺は領都に戻る為に馬を走らせ、別荘からかなり離れた場所で止まる。
彼女の泣き顔が眼に浮かび、苦しくて胸に手をやった。上着の内ポケットに入れていた物を取り出した。
そっと握り締めた手を広げ、手の平に乗った物を見る。
彼女に渡す筈だった物…指輪だ。真ん中にルビーがあり、その回りをサファイアが取り巻いて、花のように見えるそれを彼女に渡し、結婚を申し込むつもりだった。
それを投げ捨てようと振りかぶった。
…が、出来なかった。
諦めきれない。
彼女を諦める事など出来ない、無理だ。
みっともなくたっていい。
スージーをこのまま失うぐらいなら、カッコ悪くても、縋りついてでも、もう一度…。
馬の頭を今来た方へ向け、駆け出した。
もう、逃がさない。
~~~~~
いくらお嬢様に二人だけにして欲しいと言われても、別荘の中に戻る訳にはいかない。
遠回りをするような形で、遠目にテラスが見える位置まで戻って控えた。
ついさっきの事を思い出していた。
これまで彼に言えなかった事を、一方的に捲し立てた私に、言い訳も反論も何一つ言わなかった彼は、今まで見た事がないほど傷付き、苦しんでいた。
そして、彼にそんな顔をさせたのは私だ。
彼を赦せなかった。今更目の前に現れた彼に腹が立った。けれど、一番赦せなかったのは私自身だ。
彼は、何も言えなかったのではなく、言う前に私が逃げ出したのだ。傷付くのが怖くて…。
ふと、テラスの様子を見て不味いと思い、お嬢様の所へと駆け寄った。
「何やってるんですか!」
お嬢様とローランドの間に、無理矢理割り込んで引き剥がす。
赤い顔をして固まっているお嬢様を支えたまま叫ぶように言った。
「ボーッとしてないで、車椅子をこっちに。早く!」
慌てて押してきた車椅子にお嬢様を座らせる。まだ顔は赤く、両手で頬を押さえている。
「お嬢様、お話はお済みでしょうか?」
「… え?、ええ。」
「風も冷えて来ましたし、中に戻りましょうか。」
そう促した言葉に彼女が頷いたのを見て、ローランドに車椅子を押すように言うと、破顔した。
一瞬、彼のお尻に左右にブンブンと千切れんばかりに振っている尻尾が見えたような…。勿論、見間違いだ。
少し後ろから二人を見ながら付いて歩く。
良かった。
二人が元の関係に戻れそうなのを見て、ひとまず安堵する。
会話の内容までは聞き取れないが、楽しそうなので良かった。
と、安心していたら、サロンに戻ってお茶を再開したあと、なんだか自分が“お邪魔虫”になったみたいで、居たたまれなかった。
嵐の前の静けさとはよく言ったもので、スージーはこの後すぐ、恥ずかしさで、のたうち回る事になるのであった。
1
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!
若松だんご
恋愛
「キサマとはやっていけない。婚約破棄だ。俺が愛してるのは、このマリアルナだ!」
婚約者である王子が開いたパーティ会場で。妹、マリアルナを伴って現れた王子。てっきり結婚の日取りなどを発表するのかと思っていたリューリアは、突然の婚約破棄、妹への婚約変更に驚き戸惑う。
「姉から妹への婚約変更。外聞も悪い。お前も噂に晒されて辛かろう。修道院で余生を過ごせ」
リューリアを慰めたり、憤慨することもない父。マリアルナが王子妃になることを手放しで喜んだ母。
二人は、これまでのリューリアの人生を振り回しただけでなく、これからの未来も勝手に決めて命じる。
四つ違いの妹。母によく似たかわいらしい妹が生まれ、母は姉であ、リューリアの育児を放棄した。
そんなリューリアを不憫に思ったのか、ただの厄介払いだったのか。田舎で暮らしていた祖母の元に預けられて育った。
両親から離れたことは寂しかったけれど、祖母は大切にしてくれたし、祖母の家のお隣、幼なじみのシオンと仲良く遊んで、それなりに楽しい幼少期だったのだけど。
「第二王子と結婚せよ」
十年前、またも家族の都合に振り回され、故郷となった町を離れ、祖母ともシオンとも別れ、未来の王子妃として厳しい教育を受けることになった。
好きになれそうにない相手だったけれど、未来の夫となる王子のために、王子に代わって政務をこなしていた。王子が遊び呆けていても、「男の人はそういうものだ」と文句すら言わせてもらえなかった。
そして、20歳のこの日。またも周囲の都合によって振り回され、周囲の都合によって未来まで決定されてしまった。
冗談じゃないわ。どれだけ人を振り回したら気が済むのよ、この人たち。
腹が立つけれど、どうしたらいいのかわからずに、従う道しか選べなかったリューリア。
せめて。せめて修道女として生きるなら、故郷で生きたい。
自分を大事にしてくれた祖母もいない、思い出だけが残る町。けど、そこで幼なじみのシオンに再会する。
シオンは、結婚していたけれど、奥さんが「真実の愛を見つけた」とかで、行方をくらましていて、最近ようやく離婚が成立したのだという。
真実の愛って、そんなゴロゴロ転がってるものなのかしら。そして、誰かを不幸に、悲しませないと得られないものなのかしら。
というか。真実もニセモノも、愛に真贋なんてあるのかしら。
捨てられた者同士。傷ついたもの同士。
いっしょにいて、いっしょに楽しんで。昔を思い出して。
傷を舐めあってるんじゃない。今を楽しみ、愛を、想いを育んでいるの。だって、わたしも彼も、幼い頃から相手が好きだったってこと、思い出したんだもの。
だから。
わたしたちの見つけた「真実の愛(笑)」、邪魔をしないでくださいな♡
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる