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「碓氷先生」
「なんだ」
生徒指導室で、黙々と数学のプリントに取り組む吉野が唐突に名前を呼ぶ。
18時
まだ、外は明るくグラウンドから野球部の声が聞こえてくる。
「今日の先生は、煙草の匂いがしますね」
帰りのホームルームが終わってから、黒田&若王子の喫煙組と居たせいだろう。
それに加え、自分も少しだけ吸ってしまったからか...。
眉間にシワを寄せ眼鏡をかけ直す。
「悪い、今後は気を付ける」
「別に気にしなくていいですよ。先生は煙草吸わないですよね?」
「まあ...そうだな。今日はたまたまだ」
「へぇ、...いいことあったって顔してるのも、たまたま?」
吉野から手渡されたプリントを受け取り、胸ポケットから赤ペンを取り出した。
「...ああ」
...最近は授業も集中して聞いているし、明らかに問題を解くペースも上がってきている。
しかも、満点。
「ん...。ここの範囲、よく理解できているな。期末の範囲は授業で伝えた通りだが、分からないところが無ければ毎日俺のところに来る必要はないぞ」
「...」
「きっと今回の期末ではいい点数が取れる。自宅での予習復習さえしっかりすれば、何も心配は要らない。だから次からは...」
「来ない方がいいですか?」
顔を上げた吉野の澄んだ瞳がこちらに向けられると、うっ、と息を詰まらせた。
来ない方がいいって...。
こう言う時はなんて言うのが正解なのだろう。
違う、そうじゃない。と否定したい気持ちは山々だが、友達付き合いも大事にして欲しいのだ。
高校を卒業し、大学や専門学校、あるいはそのまま就職に進んだ場合でも、人付き合いは必ずしも必要になってくる。
人間は、1人で生きていくことが出来ない動物だからこそ、他を犠牲にしてまで1つの事柄に囚われないで欲しいと、切に思った。
「分からない時だけ聞きに来ればいい。
毎日カラオケやらボーリングやらに誘われているところを見かけているから、たまには友達とも遊びなさい」
「...はい。
先生って、やっぱり優しいですね」
「...」
赤い丸がついたプリントをクリアファイルにしまった彼が、珍しく笑って「優しい」なんて口にするものだから、調子が狂ってしまう。
「別に、優しくない...」
ーーーーー
ーーーーーーー
「...はぁ」
「...も、いいだろ...あんまり...見るなよ...」
土曜日
黒田家で購入したばかりの浴衣に腕を通す。
滑らかで白い、陶器の様な肌に紺色の布がよく映える。
帯もしていない肌蹴た布の合間から垣間見えるうっすら線の入った腹筋と、ほぼ紐と言っても過言ではない下着を見て黒田は思考停止していた。
いつも以上に布面積が少ない本当に自分自身だけを隠す下着は、サイドと後ろが細い紐になっており、少し大袈裟に動くだけでも玉に紐が食い込んでしまう程である。
正直これは、下着の役割を果たしていない。
それに加え、乳首を噛むニップルクリップが胸に装着されているせいで、祭どころではないだろう。
「浴衣...早く着せてくれ...」
「あと10分だけ」
「そう言い続けて、もう30分経ってんだよ...!」
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