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第7話
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「──そんで? どうすんのあいつ。殺す?」
「いやいやいやリュンテさん。ルーカスさん強いし魔人だからきっと味方になってくれますて」
「けどこいつ沢山私達魔人殺したんでしょ? なら敵じゃん」
「だからそれは従わないといけない事情があったんだて」
あの後俺達は転移魔法を使い、出会った場所まで移動して都を出て、一日かけて魔人の国デルタについた。しかしデルタは国と言っても荒廃しきっていて、案内された議事堂はもともとこの辺りに住んでいた豪族の家らしいが、木造建ての議事堂はまだ木は腐ってはいないが所々蜘蛛の巣が張っていて、あまり使われていないのか埃が溜まっていた。だからまずは議事堂の掃除、そしてこれからこの国を運営するにあたっての会議もその日中に終わらせた。
現在時刻夜10時くらい。皆の(なぜか俺も)共同寝室にて、リュンテがルーカスの処遇について話し始めたところだ。
「ほらマルナ、あんたもなんか言いたいことあるんじゃないの?」
俺の左側にいるマルナは眠そうに「ほわぁ……」と欠伸をし、めんどくさそうに答える。
「……人間じゃないからどうでも良いです」
眠くなるのも仕方ない、何せ3日間ほどずっと動き続けたからだ。ていうか俺も眠い。今にも瞼が落ちそうだ。
「な、なぬっ……ならベレッタ! べレッタはどうなのよ!?」
かくして、今のところルーカス処刑案に誰も賛成しておらず、リュンテはベレッタに助けを求めたのだが……
「すやぁ……すぴぃ……さけ……うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…………」
熟睡してらっしゃる……。
「リュンテさん。あなたルーカスさんに負けたままでいいんですかぁ……ふわぁ……」
「うぐ……確かに……」
「だから生かしといていいんじゃないですか……?」
「…………うぬぬぬ……」
リュンテは腕を組んで考え込んでいる。
早く決めてくれ……!! もう……もう限界なんだよ……。
そんな願いも裏腹に、リュンテは今もなお「うぬぬぬぬ……」と腕を組んでいる。
…………寝よう。もういいや明日で。
そう心に決めた瞬間、俺は「お休みぃ……」といって布団(普通はベットらしいが数がないため)に入った。
──────────
布団に入って数十分後。リュンテもマルナも寝た。だが俺だけはどうしても寝付けずにいた。理由は複雑で沢山ある。一言でまとめたら、後悔だ。
俺は異世界に転生した。もちろん嬉しかった。憧れの異世界転生、嬉しくないわけが無い。だが同時に、俺は元の世界を捨ててしまった。まだ何も出来ていない。終わっていない。やり残したことや、色々な問題を抱えたまま俺は死に、異世界に転生してしまった。
なのに今の俺は異世界転生できて良かったと、そう思ってしまっている。俺が死ぬ事で親や友達が、そして俺の後輩、田中が悲しんでしまう。色々な苦労をかけてしまうのにも関わらず……。
「う……ぐっ……」
喉からそんな声が出る。目からはポロポロと涙が出る。
俺は昔から、夜一人で泣いていることが多かった。特に兄弟ができ、母が忙しくなってくるとなかなか甘やかしてくれることが少なくなっていき、俺も気を使ってあまり甘えようとは思わなかった。その為、明かりがあるうちは他人に迷惑をかけないように涙を我慢したり、自分の気持ちを抑え続け、真夜中の布団の中誰も見えないところで、俺は静かに泣いていた。そんな日々が続いたからか、いつしか最も効果的なストレス解消方法が「夜、涙を流すこと」になっていた。
社会人になってからも多大なストレスを抱えていた。しかし不思議なことに涙や悲しみは無かった。
吹っ切れたのだろう。
寂しさ? 別に寂しくない。1人だからといって寂しくなる訳では無い。
上司から叱られた? 全部俺のせいだ。俺が上司の気に入らないことをしたのだから叱られるのも仕方ない。例えどんなに不満があっても……。
親の介護? 当たり前のことだ。今まで養ってもらったのだから人として当然だ。例えどんなに忙しくとも…….
「っ…………」
父は厳しい人で、優しかった。俺がまだ小さい頃は、何かやらかす度に怒鳴られ叱られ、時には殴られもした。その影響もあってか、何か注意を受けた時や叱られたときに勝手に涙が出たりなど、異常に体が反応してしまうこともあった。
しかしその反面、何かあればすぐに駆けつけてくれるし、イライラしながらも助けてくれる。欲しい物があったら勝手に買ってきてくれる。そんな素晴らしい父だった。だからか家族の思い出も、なぜか父との思い出ばかりを記憶している。
でもそんな父に、俺は心の底からの「ありがとう」が言えなかった。恥ずかしいし、怖いから。いつも「ありがとう」と言うときは目をそらし、小さな声でボソッと言っていた。今思い返せば、一度くらいは目を見て笑顔で「ありがとう!!」と元気に伝えればよかったのに──と、今更どうしようもない後悔が頭を巡る。
「………………レイン……さん」
「ぇ…………?」
──まだ誰か起きていたのか……。
俺は涙を腕で拭い、頭を内側に向ける。するとマルナと目が合った。俺はすぐに目を背けるとマルナも同じように目を背ける。
「…………こんなじかん、に、どう、したんだ…………?」
できるだけちゃんとした声で返そうとしたが、俺の口から出た声は今にも泣きだしそうな子供のようにか弱く、揺らいでいた。
俺の情けない声を聴いたであろうマルナは一瞬目を大きく開けるとすぐに閉じ、また涙が出てきそうな俺の瞳をじっと見つめ、言った。
「そ、その……。……ありがとう、ございました…………!」
言い切ったマルナの表情は笑顔で、真っすぐ俺を見てくれていた。
俺は何とも言えない気持ちに包まれた。「ありがとう」なんて言葉言われたのは、田中意外だと数十年ぶりだ。だからだろうか、素直に嬉しかった。幸せな気持ちになれた。さっきまでの暗い気持ちが一気に晴れていく。
いつの間にか俺の目からは再び涙が流れていく。だが俺はそれを拭おうとせず、ただ一心にマルナを見つめていた。以外にもマルナはさっきとは違い、ずっと俺の目を見続けてくれている。その時間が増すごとに、俺の心は救われていく。
そうだ、俺は感謝されたかったんだ。そして、俺を真っすぐ見つめてくれるような人と出会いたかった、関わりたかったのだ。
「ぅ…………」
涙が止まらない。けど、ただ悲しい涙ではない。悲しさが、寂しさが、後悔が……涙とともに流れていく。心が洗われていく。たった一言の「ありがとう」で。ただ、真っ直ぐ見つめてもらえるだけで……。
「…………よしよし……」
そんな俺を見て、マルナが頭を撫でてくれる。
頭を撫でられるなんていったい何年ぶりだろうか。ちょっと恥ずかしいと思いつつ、俺はされるがままに頭を撫でられる。
その時間が何分続いただろうか、しばらくしてやっと落ち着いてきた。
──前世じゃ大切なことを伝えられなかったけれど、これからは──この世界ではちゃんと伝えよう。俺の全てを、そして感謝の気持ちを。
涙を拭い、俺は真っ直ぐマルナを見つめて言った。
「──ありがとう……」
「……別に私は何もしてませんよ……? ……でも……どういたしまして」
マルナ大きな可愛らしい笑みを浮かべた。そして俺の顔も大きな笑みを浮かべている。
──どれだけ過去を後悔しても、悔やんでも、恨んでも、思い出しても、何をしたって過去は過去。今更変えようが無い。それなら今からでも変えられる……いや作ることができる未来を見よう。臨もう。想像しよう。歩もう。たとえそれがどれだけ難しくても、辛く険しい道でも、一歩一歩が小さくても、輝く未来、そして笑顔が溢れる未来に向かって着実に進んでいこう。
「…………もう、夜も遅いですし寝ましょう。おやすみなさい。レインさん……」
「あぁ。おやすみ。マルナ……」
俺はマルナの寝顔を
──俺はもう過去を後悔しない。過去を思うことはあっても振り返らず、皆が幸せに暮らせる未来を目指して、前を向いて生きる。俺は俺なりに、この世界の恒久平和を目指そう。これから俺は過去の自分を切り離して新しい自分に、松村暦矢ではなくレインとして生きていく。今日が……いや今が、そのターニングポイントだ。
決意を新たに、俺は目を閉じる。未来の、そしてこれから始まる新たな生活を、冒険に希望を抱いて──
──────────
翌日、色々話し合った結果ルーカスは強制的に戦わされていたとして処刑は免れた。だが殺した魔人の数が余りにも多いために、現状幹部以上の役職には付けないことになった。
ちなみに俺はというと……魔人国家デルタから多種族国家リリーナスとなったこの国の最高権力者、つまり王になってしまった。もちろん抵抗した。俺が国をまとめるなんて無理ですよ──と。だが──
──レイン様は私たちを、魔人の皆を救ってくれました。だからその後の事も責任をもって後始末をちゃんとしてもらいたいのです。あ、もちろん感謝の意を込めての推薦でもありますよ。
ついでに
──今やレイン様は私達よりも高い立場です。なので我々に敬語を使う必要はありません。それに下から目線だと、外交の場で舐められるかもしれないですし。
俺まだ王様なるって決めてないんですけど!!?? ……とまぁ、結局なんやかんやで俺が多種族国家リリーナスの王になってしまったのだ……。
そして今、俺は髪を結んでもらっている。
「なんか……変な感じだな……」
髪が長いなんて、とんでもない違和感だ。………………だがなぜだろう、初めてではない。絶対にそんなことはないのだが、このように長い髪を結んでもらったり、誰かに触られることはとても初めてのように感じられないのだ……。
俺はなんとも言い難い違和感を感じてると、髪を結んでくれていたベレッタが話しかけてきた。
「終わりましたわ、レイン様」
「ありがとうベレッタ!」
ベレッタにお礼を言う。もちろん目を見て笑顔で、だ。
ベレッタが結んでくれた髪型はいわゆるポニーテルで、これなら後ろ髪があまり邪魔にならなそうだ。
ついでに服装も軍服からベレッタ達と同じような服装に着替えた。色は白と水色で、着心地も良い。ちなみに後ろの髪を結んでいるリボンの色も水色だ。
「レイン様~まだですか~?」
外でチハたんが呼んでいる。いつの間にかベレッタ以外の三人もこの家の前に集まっている。
──ちょっと……恥ずかしいな……。
俺は恐る恐るドアを開けた。
「どうも~……」
「遅いわよ!」「よくお似合いですね」「かわいい……」
……と、ドアを開けた瞬間リュンテ、シャーリス、マルナの順に言われる。なんか……いや無茶苦茶恥ずかしい。けどちょっとうれしい。
ふと、チハたんの反応がないことに気が付いた。普通真っ先に何か言ってきそうなのだが……。
「……チハも……」
「?」
「チハも同じリボンがつけたいのですっ!!」
「お、おう……。分かったよ」
すかさず俺は俺と同じようなリボンをイメージする。滑らかな生地で触り心地が良く、美しいリボンだ。生成されたリボンは、面白いくらいに思い通りの形や質感で、今更ながらにこのスキルのすごさを実感する。
そして俺は生成したリボンを持ち、チハたんの特徴的な鉢巻きアンテナに結んだ。
「ありがとうございます! レイン様!」
「なに、こんなことちょちょいのチョイだよ!」
「お取り込み中失礼します、レイン様。すこし、お話というか確認して欲しいことがあります。」
「? わかった」
ルーカスに呼ばれ、俺はチハたんの車体から飛び降りる。
なにやらルーカスは真剣な眼差しで俺を見ている。
「レイン様は何歳でしょうか?」
「は……?」
予想していたよりも何百倍も軽い質問だ。しかしルーカスはもう一度「確認してください」と言うので、何か理由があるのだろうと察し、すかさず能力掲示板を開く。
──そういえばまだちゃんと見てないな。
能力掲示板にはまず名前、性別、MP、年齢、習得済みスキル、習得済み魔法が順に示されていた──のだが、1箇所だけおかしな部分がある。
「……外見年齢と精神年齢……?」
年齢の欄に外見年齢と精神年齢が示されているのだ。
見ると外見年齢は10……まじか、前世の俺より29歳も若い。それも少女ではないか──。そして精神年齢は……31……!?
おかしい、俺の精神年齢は前世の記憶があるから39のはずだ。だから何の理由もなく減るはずがない。原因を挙げるとしたらそれは……
「──創造叡智……か?」
「やはりですか……。という事なので、これからは創造叡智の使用するときは本当にそれが必要かどうかを考えた上で使用してくださいね」
「お、オッケっす」
──マジか……。やっぱりここまで強いスキルとなると代償も大きいんだな……。
無駄遣いせんとこ……と、俺がしっかりと頭に刻んでいると、
「ルーカスさん。それはレイン様がチハの為に作ってくださった、このリボンを作るのはスキルの無駄だと言いたいのですか?」
「ん? レインって30代以上なの?! ……うっわ……」
「レイン様、眠いです……責任取ってください……」
「レイン様、早く国の復興をせねばなりません。ご命令を!」
等々……いっぺんに言われ、もちろん聞き分けることなどできない俺は耳を抑えて言った。
「俺は聖徳太子じゃないんだから一人ずつ喋ってくれよ~……!」
俺はこれから忙しくなるだろうなと覚悟しつつ、そんな未来が楽しみに想うのであった。
「いやいやいやリュンテさん。ルーカスさん強いし魔人だからきっと味方になってくれますて」
「けどこいつ沢山私達魔人殺したんでしょ? なら敵じゃん」
「だからそれは従わないといけない事情があったんだて」
あの後俺達は転移魔法を使い、出会った場所まで移動して都を出て、一日かけて魔人の国デルタについた。しかしデルタは国と言っても荒廃しきっていて、案内された議事堂はもともとこの辺りに住んでいた豪族の家らしいが、木造建ての議事堂はまだ木は腐ってはいないが所々蜘蛛の巣が張っていて、あまり使われていないのか埃が溜まっていた。だからまずは議事堂の掃除、そしてこれからこの国を運営するにあたっての会議もその日中に終わらせた。
現在時刻夜10時くらい。皆の(なぜか俺も)共同寝室にて、リュンテがルーカスの処遇について話し始めたところだ。
「ほらマルナ、あんたもなんか言いたいことあるんじゃないの?」
俺の左側にいるマルナは眠そうに「ほわぁ……」と欠伸をし、めんどくさそうに答える。
「……人間じゃないからどうでも良いです」
眠くなるのも仕方ない、何せ3日間ほどずっと動き続けたからだ。ていうか俺も眠い。今にも瞼が落ちそうだ。
「な、なぬっ……ならベレッタ! べレッタはどうなのよ!?」
かくして、今のところルーカス処刑案に誰も賛成しておらず、リュンテはベレッタに助けを求めたのだが……
「すやぁ……すぴぃ……さけ……うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…………」
熟睡してらっしゃる……。
「リュンテさん。あなたルーカスさんに負けたままでいいんですかぁ……ふわぁ……」
「うぐ……確かに……」
「だから生かしといていいんじゃないですか……?」
「…………うぬぬぬ……」
リュンテは腕を組んで考え込んでいる。
早く決めてくれ……!! もう……もう限界なんだよ……。
そんな願いも裏腹に、リュンテは今もなお「うぬぬぬぬ……」と腕を組んでいる。
…………寝よう。もういいや明日で。
そう心に決めた瞬間、俺は「お休みぃ……」といって布団(普通はベットらしいが数がないため)に入った。
──────────
布団に入って数十分後。リュンテもマルナも寝た。だが俺だけはどうしても寝付けずにいた。理由は複雑で沢山ある。一言でまとめたら、後悔だ。
俺は異世界に転生した。もちろん嬉しかった。憧れの異世界転生、嬉しくないわけが無い。だが同時に、俺は元の世界を捨ててしまった。まだ何も出来ていない。終わっていない。やり残したことや、色々な問題を抱えたまま俺は死に、異世界に転生してしまった。
なのに今の俺は異世界転生できて良かったと、そう思ってしまっている。俺が死ぬ事で親や友達が、そして俺の後輩、田中が悲しんでしまう。色々な苦労をかけてしまうのにも関わらず……。
「う……ぐっ……」
喉からそんな声が出る。目からはポロポロと涙が出る。
俺は昔から、夜一人で泣いていることが多かった。特に兄弟ができ、母が忙しくなってくるとなかなか甘やかしてくれることが少なくなっていき、俺も気を使ってあまり甘えようとは思わなかった。その為、明かりがあるうちは他人に迷惑をかけないように涙を我慢したり、自分の気持ちを抑え続け、真夜中の布団の中誰も見えないところで、俺は静かに泣いていた。そんな日々が続いたからか、いつしか最も効果的なストレス解消方法が「夜、涙を流すこと」になっていた。
社会人になってからも多大なストレスを抱えていた。しかし不思議なことに涙や悲しみは無かった。
吹っ切れたのだろう。
寂しさ? 別に寂しくない。1人だからといって寂しくなる訳では無い。
上司から叱られた? 全部俺のせいだ。俺が上司の気に入らないことをしたのだから叱られるのも仕方ない。例えどんなに不満があっても……。
親の介護? 当たり前のことだ。今まで養ってもらったのだから人として当然だ。例えどんなに忙しくとも…….
「っ…………」
父は厳しい人で、優しかった。俺がまだ小さい頃は、何かやらかす度に怒鳴られ叱られ、時には殴られもした。その影響もあってか、何か注意を受けた時や叱られたときに勝手に涙が出たりなど、異常に体が反応してしまうこともあった。
しかしその反面、何かあればすぐに駆けつけてくれるし、イライラしながらも助けてくれる。欲しい物があったら勝手に買ってきてくれる。そんな素晴らしい父だった。だからか家族の思い出も、なぜか父との思い出ばかりを記憶している。
でもそんな父に、俺は心の底からの「ありがとう」が言えなかった。恥ずかしいし、怖いから。いつも「ありがとう」と言うときは目をそらし、小さな声でボソッと言っていた。今思い返せば、一度くらいは目を見て笑顔で「ありがとう!!」と元気に伝えればよかったのに──と、今更どうしようもない後悔が頭を巡る。
「………………レイン……さん」
「ぇ…………?」
──まだ誰か起きていたのか……。
俺は涙を腕で拭い、頭を内側に向ける。するとマルナと目が合った。俺はすぐに目を背けるとマルナも同じように目を背ける。
「…………こんなじかん、に、どう、したんだ…………?」
できるだけちゃんとした声で返そうとしたが、俺の口から出た声は今にも泣きだしそうな子供のようにか弱く、揺らいでいた。
俺の情けない声を聴いたであろうマルナは一瞬目を大きく開けるとすぐに閉じ、また涙が出てきそうな俺の瞳をじっと見つめ、言った。
「そ、その……。……ありがとう、ございました…………!」
言い切ったマルナの表情は笑顔で、真っすぐ俺を見てくれていた。
俺は何とも言えない気持ちに包まれた。「ありがとう」なんて言葉言われたのは、田中意外だと数十年ぶりだ。だからだろうか、素直に嬉しかった。幸せな気持ちになれた。さっきまでの暗い気持ちが一気に晴れていく。
いつの間にか俺の目からは再び涙が流れていく。だが俺はそれを拭おうとせず、ただ一心にマルナを見つめていた。以外にもマルナはさっきとは違い、ずっと俺の目を見続けてくれている。その時間が増すごとに、俺の心は救われていく。
そうだ、俺は感謝されたかったんだ。そして、俺を真っすぐ見つめてくれるような人と出会いたかった、関わりたかったのだ。
「ぅ…………」
涙が止まらない。けど、ただ悲しい涙ではない。悲しさが、寂しさが、後悔が……涙とともに流れていく。心が洗われていく。たった一言の「ありがとう」で。ただ、真っ直ぐ見つめてもらえるだけで……。
「…………よしよし……」
そんな俺を見て、マルナが頭を撫でてくれる。
頭を撫でられるなんていったい何年ぶりだろうか。ちょっと恥ずかしいと思いつつ、俺はされるがままに頭を撫でられる。
その時間が何分続いただろうか、しばらくしてやっと落ち着いてきた。
──前世じゃ大切なことを伝えられなかったけれど、これからは──この世界ではちゃんと伝えよう。俺の全てを、そして感謝の気持ちを。
涙を拭い、俺は真っ直ぐマルナを見つめて言った。
「──ありがとう……」
「……別に私は何もしてませんよ……? ……でも……どういたしまして」
マルナ大きな可愛らしい笑みを浮かべた。そして俺の顔も大きな笑みを浮かべている。
──どれだけ過去を後悔しても、悔やんでも、恨んでも、思い出しても、何をしたって過去は過去。今更変えようが無い。それなら今からでも変えられる……いや作ることができる未来を見よう。臨もう。想像しよう。歩もう。たとえそれがどれだけ難しくても、辛く険しい道でも、一歩一歩が小さくても、輝く未来、そして笑顔が溢れる未来に向かって着実に進んでいこう。
「…………もう、夜も遅いですし寝ましょう。おやすみなさい。レインさん……」
「あぁ。おやすみ。マルナ……」
俺はマルナの寝顔を
──俺はもう過去を後悔しない。過去を思うことはあっても振り返らず、皆が幸せに暮らせる未来を目指して、前を向いて生きる。俺は俺なりに、この世界の恒久平和を目指そう。これから俺は過去の自分を切り離して新しい自分に、松村暦矢ではなくレインとして生きていく。今日が……いや今が、そのターニングポイントだ。
決意を新たに、俺は目を閉じる。未来の、そしてこれから始まる新たな生活を、冒険に希望を抱いて──
──────────
翌日、色々話し合った結果ルーカスは強制的に戦わされていたとして処刑は免れた。だが殺した魔人の数が余りにも多いために、現状幹部以上の役職には付けないことになった。
ちなみに俺はというと……魔人国家デルタから多種族国家リリーナスとなったこの国の最高権力者、つまり王になってしまった。もちろん抵抗した。俺が国をまとめるなんて無理ですよ──と。だが──
──レイン様は私たちを、魔人の皆を救ってくれました。だからその後の事も責任をもって後始末をちゃんとしてもらいたいのです。あ、もちろん感謝の意を込めての推薦でもありますよ。
ついでに
──今やレイン様は私達よりも高い立場です。なので我々に敬語を使う必要はありません。それに下から目線だと、外交の場で舐められるかもしれないですし。
俺まだ王様なるって決めてないんですけど!!?? ……とまぁ、結局なんやかんやで俺が多種族国家リリーナスの王になってしまったのだ……。
そして今、俺は髪を結んでもらっている。
「なんか……変な感じだな……」
髪が長いなんて、とんでもない違和感だ。………………だがなぜだろう、初めてではない。絶対にそんなことはないのだが、このように長い髪を結んでもらったり、誰かに触られることはとても初めてのように感じられないのだ……。
俺はなんとも言い難い違和感を感じてると、髪を結んでくれていたベレッタが話しかけてきた。
「終わりましたわ、レイン様」
「ありがとうベレッタ!」
ベレッタにお礼を言う。もちろん目を見て笑顔で、だ。
ベレッタが結んでくれた髪型はいわゆるポニーテルで、これなら後ろ髪があまり邪魔にならなそうだ。
ついでに服装も軍服からベレッタ達と同じような服装に着替えた。色は白と水色で、着心地も良い。ちなみに後ろの髪を結んでいるリボンの色も水色だ。
「レイン様~まだですか~?」
外でチハたんが呼んでいる。いつの間にかベレッタ以外の三人もこの家の前に集まっている。
──ちょっと……恥ずかしいな……。
俺は恐る恐るドアを開けた。
「どうも~……」
「遅いわよ!」「よくお似合いですね」「かわいい……」
……と、ドアを開けた瞬間リュンテ、シャーリス、マルナの順に言われる。なんか……いや無茶苦茶恥ずかしい。けどちょっとうれしい。
ふと、チハたんの反応がないことに気が付いた。普通真っ先に何か言ってきそうなのだが……。
「……チハも……」
「?」
「チハも同じリボンがつけたいのですっ!!」
「お、おう……。分かったよ」
すかさず俺は俺と同じようなリボンをイメージする。滑らかな生地で触り心地が良く、美しいリボンだ。生成されたリボンは、面白いくらいに思い通りの形や質感で、今更ながらにこのスキルのすごさを実感する。
そして俺は生成したリボンを持ち、チハたんの特徴的な鉢巻きアンテナに結んだ。
「ありがとうございます! レイン様!」
「なに、こんなことちょちょいのチョイだよ!」
「お取り込み中失礼します、レイン様。すこし、お話というか確認して欲しいことがあります。」
「? わかった」
ルーカスに呼ばれ、俺はチハたんの車体から飛び降りる。
なにやらルーカスは真剣な眼差しで俺を見ている。
「レイン様は何歳でしょうか?」
「は……?」
予想していたよりも何百倍も軽い質問だ。しかしルーカスはもう一度「確認してください」と言うので、何か理由があるのだろうと察し、すかさず能力掲示板を開く。
──そういえばまだちゃんと見てないな。
能力掲示板にはまず名前、性別、MP、年齢、習得済みスキル、習得済み魔法が順に示されていた──のだが、1箇所だけおかしな部分がある。
「……外見年齢と精神年齢……?」
年齢の欄に外見年齢と精神年齢が示されているのだ。
見ると外見年齢は10……まじか、前世の俺より29歳も若い。それも少女ではないか──。そして精神年齢は……31……!?
おかしい、俺の精神年齢は前世の記憶があるから39のはずだ。だから何の理由もなく減るはずがない。原因を挙げるとしたらそれは……
「──創造叡智……か?」
「やはりですか……。という事なので、これからは創造叡智の使用するときは本当にそれが必要かどうかを考えた上で使用してくださいね」
「お、オッケっす」
──マジか……。やっぱりここまで強いスキルとなると代償も大きいんだな……。
無駄遣いせんとこ……と、俺がしっかりと頭に刻んでいると、
「ルーカスさん。それはレイン様がチハの為に作ってくださった、このリボンを作るのはスキルの無駄だと言いたいのですか?」
「ん? レインって30代以上なの?! ……うっわ……」
「レイン様、眠いです……責任取ってください……」
「レイン様、早く国の復興をせねばなりません。ご命令を!」
等々……いっぺんに言われ、もちろん聞き分けることなどできない俺は耳を抑えて言った。
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