正義のミカタ

永久保セツナ

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正義のミカタ第2章~北の大地の空の下~

第5話 旅館での一幕2・卓球編

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ぼくと崇皇先輩が卓球で汗を流していると、お嬢とおやっさんがやってきた。
「あ、お嬢も温泉入ったんだ」
「いいお湯だね~。月下君と一緒に入りたかったよ」
「あ~はいはい」
ぼくはお嬢の悪ふざけを軽く流した。
「へえ、卓球か」
おやっさんは、部屋に並んだ卓球台を見ながら、たいして興味もなさそうに言った。
「警部もやりませんか?」
崇皇先輩はニコニコ笑いながらおやっさんに声をかけた。崇皇先輩の笑顔は、捜査一課の強面の刑事達すら悩殺する威力があり、普通、先輩に誘われて断る人間はいない。
「あのなあ、せっかく風呂入ったのに、また汗流してどうすんだ」
「また入ればいいじゃないですか」
「やだよ面倒くせえ。俺は見学でいいよ」
「え~……」
――誘われて断る例外人間など、おやっさんくらいだ。
お嬢とおやっさんは部屋にある椅子に座った。おやっさんは、ぼくと崇皇先輩の卓球をぼんやり眺め、お嬢は自分の脚を外して丁寧に拭いている。……風呂を出てすぐに拭かないと錆びるのはわかるが、ここで拭いて大丈夫なんだろうか。他の客が見たら卒倒するんじゃないのか。
しかし、ぼくはそのうち卓球に熱中して、お嬢に注意を向けられなくなった。
ぼくと崇皇先輩が卓球しているのを見飽きたおやっさんは、ふと、お嬢に目を向けた。
六花りかちゃん、何か手伝おうか?」
「じゃあ、ボクは脚を拭いてるから、おやっさんは腕を拭いてもらってもいいかな。ここをチョメチョメすると外せるから」
「了解、と。ふーん、よくできてんな、これ」
お嬢とおやっさんはパーツの人工皮膚をはがして、しばらく黙って拭いていた。
「――六花ちゃん、お風呂入るたびにコレじゃ、大変だな」
「まあね。でも、大事なことだから。
いざって時に体がうまく動かないと、『正義のミカタ』としてマズイからね」
「正義のミカタ……か。ったく、父親のくせに、凍牙とうがのヤツ、娘に何させてるんだか」
「仕方ないよ、父上は父親だけど、同時に悪を憎む警視総監だから。それに、ボクが自ら選んだ道だし」
「六花ちゃんはいい子だなあ。月下も、いい加減気づきゃいいのにな。――このままでいいのか? あいつ、崇皇といい感じだぜ?」
「いいんだよ。ボクは、月下君が幸せなら、それでいい。ボクはこんな体だし、月下君には色々と嫌なところ見せちゃったし。せめて、人並みの幸せはつかんでほしいしね」
「……そうか」
「なんなら、おやっさんが崇皇さんを嫁にもらっちゃえばいいんじゃない?」
「は? なんで?」
「……おやっさんも気付けばいいんじゃないかな……」
――こんな会話も、ぼくには聞こえなかった。
「おお、やってますね」
亀追さんが部屋にやってきた。……ああ、いなかったのかこの人。
「この僕を差し置いて、崇皇さんと一緒に卓球とは、いい度胸だね、月下君……」
「え? あ、はあ……」
「崇皇さん、僕と組んで、一緒に月下君を倒しましょう」
「え? あ、うん……。足引っ張らないでね」
「じゃあ、いきますよー」
ぼく対崇皇先輩+亀追さん、試合開始。
「ふふふ、月下君、これでも食らうがいい――あれ?」
「ちょっと、何空振ってんのよ!」
「こ、今度こそ……いけえっ!」
「今度はホームランしてるし! もう、足引っ張るなって言ってるでしょ!」
「す、すいません……」
函館に来た初日は、最後までグダグダで終わった。

〈続く〉
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