悪役令嬢は男装して、魔法騎士として生きる。

金田のん

文字の大きさ
15 / 103
第2章 入団までの1年間(1)、新たな攻略対象との出会い

15:いざ、南の領地へ

しおりを挟む
「け・・・剣がない・・・・・・ッッ!!!」


レイ皇国王都にある屋敷から馬車で1週間ほどの距離にあるフランシス公爵家の<南の領地>。
そこにある大きなお城の一室で、私は愕然としていた。

すでにあの襲撃事件から1ヶ月以上経過している。

あの後・・・、私が<フレデリックの代わりに魔法騎士になる>と発言した後、父・コドックが肝心の提案を忘れていないか不安だったが、さすが「皇国の鬼才」といわれるだけあるのか、彼はきちんと私の発言を覚えていた。

翌日、わざわざ部屋を訪ねてきた父は、私の提案を有難いと言って、強く抱きしめたのだ。

だが、父いわく、私が兄・フレデリックに成り代わるためには、乗り越えねばならない2つの壁があるらしい。

1つ目は、騎士団入団までに最低限、公爵子息として相応しい教養を身につけること。
これからフレデリックの代わりに公爵子息として、6年間は過ごさなきゃいけないのだから、当然の壁ともいえる。

2つ目は、講師による魔法騎士向けの厳しい鍛錬を乗り越えること。
元々フレデリックも入団前の一年間は、元騎士団長による鍛錬を予定していて、私が代わりに受ける必要があるそうだ。
ただ、この鍛錬に耐えられないようであれば、騎士団に所属すること自体、難しい。
そのため、もし鍛錬を乗り越えられないようであれば、成り代わり自体を無しにすると言われた。

まぁ、これも当然の壁といえば、その通りだ。


その2つの壁を提示されてからの1ヶ月。

私は、王都にある屋敷でフレデリックや父・コドック、執事のセバスから、公爵子息としての最低限の教養やダンスを学んだ。


そしてついに一昨日。
2つ目の壁をクリアするために、意気揚々と鍛錬場所である<南の領地>に一週間かけてやってきたのだった。


(本格的に魔法と剣を学べるなんて、転生してラッキーだったな!)


なんて周囲の心配をよそに、思いつつ。


「レティシア・・・いえ、フレデリック様、どうされたのですか?」


部屋のソファに腰かけながら、うな垂れた様子の私を見て、侍女のメアリが駆け寄ってきた。

彼女が先ほど、私のことをフレデリックと呼んだように、もうすでにこの南の領地では、私は兄・フレデリックになりきって過ごしている。

この城で、領地で、私がレティシアだと知るのは、<本物の>フレデリックとジン、侍女のメアリと領主代行をしている叔父のハワード・フランシスの4人だけだ。

…まぁ、鍛錬に挫折したとき、いつでも令嬢に戻れるようにと、まだ髪は長いままなのだけれど。

私は、メアリに目線を向ける。


「いや、ちょっとショックな出来事があったんだ……。父上からもらった大事な剣を、あの襲撃事件のときの男に盗まれたらしくてな。それにいま、気づいたんだよ」


兄の口調を真似ながら、そう言って、私は肩を竦める。


「ええっ!!公爵様の剣と同じデザインのあの剣を・・・ですか!?」


メアリには、盗まれた・・・・・・と言ったが実際は、少し違う。
襲撃事件の男の右手に愛剣を貫いたのは私であり、「とっとと去れ」と愛剣を右手に突き刺したままの男に言ったのも・・・・・・私だ。

だから、まぁ・・・・・・男が転移する前に回収し忘れた私のせいといえば、私のせいなのだが・・・・・・。


(結構気に入ってたのにな)

「今日から、講師の方が来るのですよね?剣がなくて鍛錬は大丈夫でしょうか・・・?」


そう。今日から父に言われていた1年間の<講師による魔法騎士向けの厳しい鍛錬>が始まるのだ。
心配そうなメアリに、おもむろに近づく。そして、髪をひとすくいして口付けた。


「可愛いメアリ。私のことを心配してくれるの?」


そう言って視線を合わせたら、メアリの顔は真っ赤になっていた。


「……ッ!…レティ……フレデリック様!公爵家子息が、そのような…侍女に…そのようなぁ…あああッ!!!」


どうやら男装した私は、メアリの好みドンピシャらしく、公爵子息として習った教養を駆使して接触すると、このようによく錯乱する。


「レティ・・・フレデリック様・・・・・・!!!」


いまだに真っ赤な顔で、髪を持つ私を潤んだ目で見つめるメアリ。


「……」


しかし、私の前世は元引きこもり。さらに基本「スルーする」対応が身についてしまっているため、そんなメアリの無言の訴えをついつい無視してしまう。


(プレゼントされた剣がなくなったのはショックだが、まぁ、初日だしな。
鍛錬に剣が無くても大丈夫だろう。もし、剣がいると言われたら、公爵家所有の剣を取りにいけばいい)


私は無言で頷きながら、いまだ錯乱状態のメアリを放置して、鍛錬場のある城の庭に向かう。
もうそろそろ講師がやってくる時間だからだ。

このとき、私は完全に油断していた。
兄・フレデリックの死亡が、なくなったことで、この世界が「乙女ゲーム」であっても、もうなんの影響もないような気分でいたのだ。

だから・・・まさか、こんな王都から離れた場所で<あの>攻略対象者に会うことになるなんて、思ってもみなかったのだ・・・・・・。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

処理中です...