悪役令嬢は男装して、魔法騎士として生きる。

金田のん

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第4章 入団までの1年間(3)、グラナダ迷宮と蓋をした私の思い

90:勇者の過去(10)王都の拠点

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ストンという軽快な音と共に、オレの両足が地面についた。
周りを見渡すと大小さまざまな木々が見える。

ここはルナリア帝国の隣国、そして今回の暗殺ターゲット<フレデリック・フランシス>が住むと言われたレイ皇国。その王都郊外にある「常陽の森」だ。

ちょうど転移した場所にいたのだろう、この異世界でよくいるというE級の犬型の魔獣「ファングドッグ」がオレの眼前で目を白黒させていた。

襲ってくる前に<サムド>のすばやさを活かし、王都方面へと一気に駆け抜ける。
後ろでは、一歩遅れてオレを襲おうとしたのだろうファングドッグの「グオォオオオ」という鳴き声がする。

足を動かしながら上空を見上げると、木々の隙間から太陽が見えた。
太陽の位置は、まだ高い。日の出から数時間・・・午前10時ごろに王座の間に呼び出されたのだから当然だろう。


(転移してからの一ヶ月、午前は勉強・午後は訓練・・・オレが誰の目も気にせず動ける自由時間は深夜だけだったけど・・・・)


ぐっと足を踏み込み一気に森を駆け抜け、街道へと躍り出る。少し勢いが良すぎた。
ズザッという大きな音が鳴り響く。


(昼に行動できるのが嬉しくなって、テンションか上がりすぎたな・・・)


「ぎょっ」とした顔で街道にいた行商人とその護衛らしき冒険者がこちらに目を向けていた。


「なんだ、サムドか!魔獣が森から出てきたのかと思ったぜ。お前が夜じゃなくて、こんな真っ昼間にいるなんて珍しいな」

「ああ、たまには昼に活動したくてな」


オレに手をあげながら、親し気に話しかけてきたのは、少し粗野な雰囲気のひげを生やした二十代前半だという冒険者の<ロダン>だ。

偶然の出会いに内心、驚きながらもオレは手をあげかえして、朗らかに返事をする。

この男がオレのことを<サムド>と呼ぶのは、単純な話・・・ルナリア帝国には秘密で冒険者登録をしたオレの登録名が<サムド>だからだ。


万が一、<光輝>で登録して帝国に冒険者登録をしていたのがバレたら厄介だし、だからといって苗字の<仲川>の方を登録するのもはばかられ、結局はゲームキャラクター名である<サムド>を使用することにしたのだ。

だからオレのことを知る、ここレイ皇国の冒険者はみんな<サムド>と呼ぶ。

ちなみに秘密で冒険者登録をしたのは、何かあった時のために、ルナリア帝国に知られていないお金と身分証、そして隠れ住めるような拠点を手に入れたいと思っていたから。

実力さえあれば、それらが得られる冒険者ギルドに登録をするのは、ある意味必然だった。ギルドが24時間営業だったのも後押しした。

ロダンとその一行と共に街道を歩き、レイ皇国の王都へと入る。
彼らと手を振り合い、別れた後に冒険者ギルドの資料室で「隷属」関連の魔道具について書籍で調べる。

ついでにこの国の王族・貴族についても。

<トーマス・レイ>に<アルフォンス・レイ>、<ユリウス・ レーガー>、そして<レティシア・フランシス>
・・・・・乙女ゲームに出てきていた名前を見つけるたびに、ストレスからか片眉がピクリと痙攣した。

こめかみに手をやり、一度息を吐きだす。

冒険者ギルドをあとにして、この王都に置いてあるオレの拠点へと向かうことにした。

この異世界での拠点が、今回の暗殺ターゲット<フレデリック・フランシス>のいるレイ皇国の王都に置いていたのは、全くの偶然だ。

信用しきれないルナリア帝国に拠点を置くのは論外。人の多い場所のほうが目立たないから首都がいい。
そうして、残った選択肢の中で選んだのが、レイ皇国の王都だった・・・・・・ただそれだけの理由。

だけど、今日の出来事を思うとちょうど良かったのかもしれない。
王都の中流層の住む道を行き、裏路地にたたずむ小柄な家の扉に手をかける。

冒険者ギルドから1年契約で借りた、そのオレの拠点に入る。


(帝王から命じられたのは、「<フレデリック・フランシス>の暗殺」と「暗殺遂行のために、チェスターに従う」こと、この2点だけだ。

つまり、<フレデリック・フランシス>を殺した後は、命令の効果は切れる)


隷属関連の魔道具について調べたところ、すべての魔導具で、つけたものを洗脳するような効果はなかったし、命令遂行後はその命令自体なくなるようだった。

オレはこの世界に来てからの自分の能力を思い出す。

実験では、かなり魔力を消費したが<ヒーリング>さえかければ、真っ二つになった魔獣や、首を落として絶命した魔獣も、元通りになった。

だから・・・・・様々な可能性を考えた結果、オレは<フレデリック・フランシス>を殺し・・・・そして、殺した後に生き返らす、そうすることに決めた。

だけど、確実に人間でもそれが再現できるのか確かめる必要があった。

そしてもし再現できたとしても、一緒に暗殺任務に行くであろう<ルナリア帝国・第9兵団・3番部隊隊長>チェスター・バシュラールをどうするかが問題だった。

オレがこの世界にきて・・・ずっと躊躇っていたことは・・・・罪のない人への<人殺し>。

でも、罪があっても、正当防衛でも・・・・人を殺したくないのが、本音だ。
アクションゲームをしていたとしても、オレは一介の大学生でしかないのだから。

何かのためにと冗談半分で買った黒装束を身にまとい、余った布で顔を隠す。

拠点においてあった愛用の片手剣をぐっと握りしめると、オレはすぐさま転移魔法を発動した。

この異世界で、<人を殺す>。

その決意がブレる前に・・・・。
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