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7.涙とは悲しい時や嬉しい時にも出るが、自分が情けない時にも出るものだ

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媚薬に魔法分解をかけ、じっと見つめる。

「これって……」

念のため再度魔法分解をかけ、同じ結果を確認し自分の中で結論を出す。
そしていつもの外出用ローブを羽織り、そのまま家を飛び出した。



「パン屋にいるのかしら?」
咄嗟に家を飛び出したものの、エドが今どこにいるわからない。
そもそもエドは今仕事中である。
飛び出した手前一応エドを探してはみるが、見つけたところで話しかける事も出来ないかもしれない。

「無計画にも程があるな…」


自分の浅はかさに苦笑する。
せっかくエドが保存魔法をかけてくれたご飯も食べそびれていることにも気付き、気付いてしまうと空腹は襲ってくるもので。


「よし!パン屋へ行こう!」

べ、別にエドがいるかなって思った訳じゃないけどね!
お客さんとして行くだけだから!!


「私はお腹がすいてるだけ、それだけ…」
そう言い聞かしパン屋に入る。
そこにエドも若い娘さんもいなくて、少し拍子抜けしてしまったが、私の目的は空腹を満たす事だから!と言い聞かし適当に惣菜パンをいくつか取りレジへ向かった。


「あれ、ルールリアさんじゃないですか、わさわざどうされたんですか?」
「!!!」

思わずひゅっと息を飲む。
そりゃそうだ、護衛対象がいなくたって依頼主はいるよね?!

「いや、そのっ、パンが食べたくなってっ」
「お、それは嬉しいですね!ありがとうございます、オマケにこのラスク入れときますねっ」
「あぁあ、あぁあ、ありがとうございます…」
うわぁ、優しさが痛い…!


変な汗をかきながらそそくさと外へ出る。
本当に何をしてるんだ私は…!!
思わず頭を抱え項垂れた私の肌に、チリッとした違和感を感じた。

「…魔力?」

どこかで大きな魔法が展開された?

その場で少しキョロキョロ見回すがおかしなところは何もない。

普段のルールならば気のせいかとそのままパンを貪り食べていただろう。
やけ食いとも言う。

しかしその時は何故か胸騒ぎがして…


ふう、とゆっくり息を吐く。
感知魔法なんて繊細な魔法は使えないが、少しでも何かわかればと目を閉じ神経を集中させ感じた違和感を探す。



「…………。」
「…………………なっんもわからん……!」

くそぅ!とおもむろにパンを鷲掴みした時だった。


バチン!


それはこの街と隣街の境を繋ぐ街道の方だった。

「えっ、か、雷?」
こんな天気いいのに?

思わず空を見上げる。
街の人もさっきの光と音に気付いたらしく少しザワついていた。


その時その街道に走り出したのは本当になんとなくで、何かを察したとか第六感が働いたとかではなかったのだが、結果としては正解だった。



「エド…?!」
「えっ、ルール?」

どうしたんですか、とキョトン顔で振り向いたエドの周りには何人かの男が倒れていた。

「えっ、何、エド、えっ?この人達誰?!」

誰、と焦ったがその相手にすぐにピンと来た。

「まさか隣街の…?!」
「そうなるね」

あまりにもあっさり言われ少し気が抜けたが、すぐに周りを見渡す。
エドがここにいると言うことは、どこかにパン屋の娘さんが隠れているはずだ。

「エド、護衛対象は…?!」
「?多分パン屋のキッチンじゃないかな、表には出ないようにお願いしてきたから」
「…………は?」

さも当然のように伝えられた事実に思わず剣呑な声が出てしまったのは仕方ないと思う。

「だ、だって依頼内容は、外出時は一緒に…って話だったわよね?」
「そうだね、彼女が外出する時は側で護衛する契約だったね。つまり、俺が単独で外出する時は彼女を連れていく必要はないってことだよね?」

それは確かにそうなのだが。

「じゃあ、なんでこの人達が倒される事になったの…?」
パン屋の娘さんが側にいないなら何故エドが襲われる事になったのだろう、と疑問に思い確認する。
何日も一緒にいて、恋人だと勘違いされた後ならわからなくもないが、今日が護衛初日なのだ。

「あぁ、隣街の領主の息子にお願いしに行ったんだよ」
「お、お願い?」

その時のエドの笑顔は、本当に優しい微笑みだったのだが何故か私の背中が震え上がった。
なんだかどす黒い何かを見た気すらする。

「迷惑なんで、やめてくださいって」
「そ、そうなんだ…」

相手はストーカーだ、それで納得して引き下がる事はなくきっと雇っているゴロツキに襲わせ返り討ちにしたのだろうと理解する。

ひくひくと頬がひきつる感覚がし、とりあえず手で頬を伸ばす。
その時ルールの視界の端にキラッとした動く何かを捉えた。

「ッ!」

それは刃物を持った男だった。
それは反射的な行動で、気付いたら両手を広げてエドの前に立っていた。

「ルールっ?!」
背にかばったエドの声がなんだか遠くに聞こえる。

何か、何か魔法…っ!
バリアでも張れれば…!

しかし咄嗟にそんなことが出来る訳もなく、発動した魔法は。


「ま、まぶしっ?!」

突然の強い光に相手が怯む。
その隙を見逃さず直ぐに捕縛の魔法をかけた。

…もちろんエドが。


「ルール、さっきの魔法ですが」
「はい」
「ただ光っただけだとわかってますよね?」
「……はい」

そう、光るだけ。
主に薬草畑に侵入してきた猪を驚かせて追い払う程度の魔法。
もちろん刃物を防ぐ効果なんてない。


エドの雷で気絶しているゴロツキと、捕縛され木にくくりつけられている男と、少し離れた土の上で弟子に正座で説教されている師匠の私。

もうこの状況が情けなくて泣きそうである。
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