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最終話:それがきっとはじまりの魔法薬だから

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「あの時言った“薬”は、普通の薬の事であって魔法薬の事ではないのよ…」
「でも、魔女や魔法使いにも効く魔法薬が出来たら最高じゃないですか」

そう言って笑うエドはまさしく“いつも通り”だった。


念のため、としばらくはパン屋さんへ毎朝様子を見に行き、何も異変がないかを確認したが面白いくらいにピタリとストーカー被害はなくなったようだった。

「また何か異変があればご連絡ください」と、そう穏やかに伝えエドと私の日常が戻ってきた。

というか、むしろずっと日常だった。
様子見はしたが撃退したのは護衛初日の午後。
つまり仕事自体は半日で終わったのだから。



そして今日も私とエドの間には小さな小瓶が置かれていて。

「……これは何かしら?」
「魔法薬ですね」

だから何の魔法薬なのよッ!
大事な部分隠さないで!というか、魔法薬は効かないって何度も何度も言ってるのにッ!

心の中でブーイングを送るが、知ってか知らずかエドはいつも通りの澄ました顔で微笑んでいた。

「えーっとね、エド、この魔法薬は何の魔法薬かしら?」
「この間は飲んで貰えませんでしたが、俺がルールにはじめて飲ませた魔法薬ですね」
「あぁ、あのはじめて媚薬を飲んじゃった日に飲ませようとしていたアレね」

そういえばそんな事もあった。
あったが、いまだに“アレ”の正体は思い出せていない。


うんうん唸って、もはや睨んでいると言っても過言ではないくらい小瓶を眺めるが一向に思い出せない。
そんなルールの様子を見ていたエドが突然小さく吹き出して。


「材料は、炭酸水にすりつぶしたストロベリーとハチミツ、シナモンを少々入れた特製ドリンクです」
「え?」

教えられた材料はどう考えても魔法薬とはほど遠くて。

「それ以外入ってないの?」
「あと1つ入っています」
「!」

最後の材料はなんだと気になり、瓶の蓋を開け香りを嗅ぐがおかしな匂いなんかしない。

ま、まぁ私は犬じゃないしそんなに鼻に自信がある訳でもない平凡な魔女ですし?!
わからなくても仕方ない。多分。

だからせめて最後の材料を教えて欲しい、もしかしたらそれで何の魔法薬かわかるかもしれないし!


「最後の材料って…?」

おずおずとエドにそう確認すると、エドはまるでご機嫌だというような甘い笑顔で微笑んでいて、思わずドキッとしてしまう。

師匠は私なのに!
こっちばかりなんだか振り回されてて面白くないのだが、もちろん嫌だという訳もなくて。
それにヒントがないとわからないのでここは大人しく降参することにした。


「思い出せないので教えてください」
「実はこの魔法薬、はじめて飲ませた時効果が出たかは聞きましたが何の魔法薬かは伝えてなかったんですよね」

思い出せるかいっ!
あっさり言われ心の中で盛大につっこむ。

教えられてないんだからわかるはずがなかったのか、と少しほっとし、エドからの答え合わせを待つ。


「最後の材料は、俺のたっぷりの気持ちです」
「………は?」

気持ち…?

エドから言われた材料に思わずぽかんとしてしまうが、そんな私の様子にはお構い無しに更なる爆弾を落とす。

「その魔法薬は、俺特製の惚れ薬ですよ」
「ッ!?」

もちろん魔女の作る惚れ薬とは材料も全然違っており、おそらくどれほどの魔力を込めて作ったとしてもエドの言った材料ではその惚れ薬に効果はないだろう。
それは魔法薬だから魔女に効かないのではなく、根本的に魔法薬にはなっていないからだ。


でも、だからこそこれはエドの特製で、ルール専用なのだろう。


「救われたあの時から、今もずっと好きなんです。ずっとルールの背中に憧れ、隣に立ちたいと望んできました。」
「エド……?」
「これからもずっと、俺にはルールだけだと誓います。そして逃がす気もないので諦めてください」

少し顔を赤らめたエドにつられて自分も赤くなってしまう。

「飲んでくれますか?」

そう言われ、置かれている小瓶に視線を戻す。

「魔女に魔法薬は効かないのよ?」
「これが世界で最初の魔女にも効く魔法薬になるかもしれません」


これは惚れ薬。
世界にただ1つの、魔女にも効く魔法薬。


「ほんと、まだまだ一人前にはしてあげれないわ。だって効くのはこれが最初で最後なんだから」

少し早口にそう伝えると、目の前の小瓶を一気に呷る。

「ちょ、なんて顔してるのよっ?!」

飲めと言ったのは自分のくせに、その海色の瞳を目一杯開けたエドを見て思わず笑ってしまう。
そしてその瞳が少しだけ赤く潤んだことは、気付かない事にしてあげた。

「ほんと、海色の綺麗な瞳なんだから」



「ルールお気に入りのその瞳には、ずっとルールしか映ってませんけどね」


照れ隠しも兼ねたエドの反撃をモロに受けたルールが、真っ赤に染まった顔を隠すように机に突っ伏したのも、きっとこれからの二人の日常になるのだろう。






魔女狩りなんてのは遠い昔。
今では普通に街で暮らしている者もいるほど認知されている、そんな時代。

もし何か困ったことがあったら、街のはずれにある木の香りのする家に行くといい。

大雑把なところはあるがお人好しな魔女と、そんな魔女の元弟子の優秀な天才魔法使いが温かく出迎えてくれるはずだから。
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