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3.いつもの日常に増えた、新しいソレは
しおりを挟む残党の情報は段々減り、逆にこの混乱に乗じた強盗が増えた。
騎士というより衛兵に近い仕事が増え、とうとうこの地域に残る騎士団は第8騎士団のみとなった。
そしてそういった仕事の他にひとつ増えた事がある。
「アーシャ、奢る」
「ん」
はじめてカロルと体を重ねた次の日の朝、カロルに金貨を渡された。
「は?なにこれ」
「アーシャを買うって言っただろ」
いやいやいや!
金貨て!!
「え、専属の娼館ってこんな高いの?最高級な感じだった?てか、相手は私だし、というかそもそもいらないしっ」
一気に捲し立て金貨を返す。
「私も気持ち良かったし、お互いの利害、一致してたでしょ?」
それになんだかカロルからお金は貰いたくないと思った。
しかしその理由を考える前にカロルのデリカシーの無さが爆発した。
「いや、俺は買うって言ったから払う!これは専属指名料込みだから受け取ってろ」
専属指名料って、ますます私、娼婦じゃない···!!
思わず苛立ち、金貨をカロルの顔面に投げつけて怒鳴った。
「いらないっつってんでしょ!そんなに払いたいならご飯奢るとかでいいわよ金貨なんて貰い辛いわッッ!!」
そんなやり取りから、「奢る」という単語が二人の誘い文句になった。
最初はそれに戸惑っていたものの体の相性が良く、また大切に抱かれるのが嬉しいこともありアーシャの方から「奢る」とおねだりする事もあった。
もちろんアーシャからねだった時はご飯代をアーシャが払おうとしたのだが、カロルは頑なに支払いたがり、どっちが払うかを言い合いすぎて酒屋から追い出された為に支払うのを諦めた。
どんな時も頑なに払うカロルに、たまに本当に娼婦になったような錯覚を起こし気持ちが沈み、しかしまるで恋人のように抱かれて沈んだ気持ちが浮上する。
そんな二人は、カロルいわく『最高の友達』だ。
共に訓練し、実戦で背を預ける。仕事が終われば二人でご飯を食べ、軽く啄むようなキスから深く求める口付けに変わり、合間には可愛いと囁かれ丁寧な愛撫をされる。
そして壊れ物のように大事に体を暴かれる。
それでも二人は“友達”なのだ。
信頼して、大切で、お互い好きなのは間違いない。
不満なんてないはずなのに、大事に触れられれば触れられるだけ胸が詰まるように感じるのは何故なのか。
友達なのに友達が普通はしないことを何度もしてしまっているからなのか。
お互いの好きが、友達に対する好きだから引っ掛かっているのか。
私の好きは、本当にカロルの好きと同じなの?
どうせなら酷く、機械的にしてくれたらいいのに。
そうしてくれてたら、私だって···
その日は特にどこかで誰かが暴れただとかの連絡がまだ入っていなかった為、半数が見回りに出て残りの半数は駐屯基地にて訓練を行っていた。
答えのない自問自答を繰り返していたせいで訓練に身が入っていなかったのは事実。
そしてそれに気付いたローザが話しかけてきた。
「なーに、アーシャってばカロルが一緒じゃなくて寂しいの?」
「はぁ?!何言ってんのよローザっ」
ローザは同じ第8騎士団所属の数少ない女騎士の一人で私の友達でもある。
「それとも見回りに出てるカロルが心配とか?」
ニヤニヤと笑いながらからかってくるローザに思わず顔が赤くなった事に気付き、そしてしまったと思った。
こんな反応をしてしまっては肯定しているようなものだ。
これ以上失態を重ねる訳にはいかない、と気を取り直し冷静に言葉を選んだ。
「私達騎士は与えられている任務をこなす、それが全てよ」
「でも気持ちまでは決められてないわよ?好きなんでしょ?」
しかしそうあっさり言われ反射的に怒鳴ってしまう。
「違うっ!そりゃカロルの事は好きだけど、だけどカロルは友達でっ」
一瞬キョトンとしたローザは、そんなアーシャの態度をむしろ微笑ましいとでも言うように笑い、言葉を重ねた。
「友達で、同期で、仲間よね?」
「そ、そうよ。だから···」
「友達の側面と、同期という立場と、仲間という信頼があって、そこに好意の面もあってはいけないの?」
「···え?」
それはアーシャにとっては考えてもみない事だった。
「自分にとっての相手の存在が1つだけだなんて決まってないのよ、友達のように近くにいれる、そんな恋人だってアリでしょう?好きだと思うならその気持ちをそんな理由で消さなくてもいいのよ」
その言葉はストンとアーシャの心に落ちてきた。
カロルにとってのアーシャは『最高の友達』で、だからアーシャにとってもカロルは『最高の友達』でいなくてはならないと決めつけていたのは自分自身だったのだろうか。
最高の友達、そして、好きな人。
そういう考えも許されるなら、私はーーー···
そんな時、訓練所に見回りに出ていた騎士の一人が転がり込むようにして叫ぶ。
「敵襲だ!既に戦闘に入ってる!全員来てくれ!」
それは敗戦国である敵国の元騎士団の副隊長が、残った兵力を集めて来たという知らせだった。
それはあまりにも無謀で、あまりにも無意味だと感じた。
何故ならここは王都でもなんでもなく、ただの最前線だった地域なのだ。
ここで何人殺そうと終わった戦争の結果が覆ることはなく、そしてここには命をかけてまで取らなくてはならない首などないのだから。
そしてそんな事は十分承知の上で相手が来たことも即座に理解する。
そういう相手こそが最も厄介であることを今までの経験で知っていた。
「弔い合戦のつもりか?ここで命を散らしたいのは勝手だが、巻き込まれるこっちの身にもなってくれ···!」
くそ、と小さく舌打ちをし装備を整えて騎士達に続く。
“お願いだから、無事でいてカロル···!!”
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