-私のせいでヒーローが闇落ち!?-悪役令息を救え!

春瀬湖子

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フロルルート

39.優しく愛しい答え合わせ

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「レオ⋯?」

様子がおかしい⋯のは割りといつものことだが、それでもどこかいつもとは違っていて。

「どうしたの⋯?」

慌てて私はレオの両頬を両手で包むように手を伸ばす。
そんな私の両手をギュッと握ったレオは。


「捕まえた」
「え?」

少し翳った瞳を灰暗く揺らめかしてこちらを見る。
反射的に両手を引こうとするが、掴まれた腕はびくともしなかった。


「ねぇ、どうして僕の元から去っていくの⋯?」
「レオ⋯?」

いつもの丁寧なレオとはどこか違う、少し幼いと感じる言葉遣い。

「なんで?なんでなんでなんでなんで?」
「レ⋯んんっ」

そのままグイッと引き寄せられた私は、無理やり唇を奪われて。

「もう守れないなんて嫌なんだ⋯っ、また目の前でセリが消えるなんて、居なくなるなんてそんなこと⋯っ」

その濃い灰色の瞳から涙が一筋流れる。
それは先程想像したよりも何故だかずっと痛々しくて。


「ーーーっ!?」

その涙を掬うように、そっと私は舐めとった。


「セリ⋯?」
「れ、レオが両手を離してくれないから、その⋯唇でしか涙を拭ってあげられなかっただけよ」
「ど⋯して⋯」
「?」

どうして、と問われ思わず怪訝な顔を向けてしまう。

“どうしてって言われても⋯”

「レオが泣いたから⋯?」

よくわからないままそう伝えると、唖然としたレオと目が合った。


「セリは逃げ出したんですよね?」
「え?」
「毎回助けられない僕に幻滅して、だから去ったんですよね?」

溢すようにそう話すレオの言葉に呆気に取られる。

“逃げ出した⋯?間に合わないレオに幻滅して?”

「何を言ってるの⋯?」
「だって⋯」
「私は⋯っ!」

不安そうに揺れる彼の瞳を見て、失くしたピースが埋まるように、足りなかった記憶がパチリと嵌め込まれた。


“私、この瞳を知ってるわ⋯”


「ーーあの時も、今も。来てくれたじゃない」
「セリ⋯?」
「そもそも狙われたのは私で、レオは巻き込まれただけ⋯貴方が罪悪感を抱く必要は最初から無かったのよ」
「それは違いますっ!セリを守れなかったのは僕で⋯っ!僕が、弱かったから⋯」

“あぁ、だからー⋯”

だから貴方は、騎士になったのね⋯


「レオ、手を離して」

真っ直ぐレオを見つめてそう告げる。
ビクリと肩を跳ねさせたレオは、私から顔を逸らしながら手を離して。


「ーー⋯これで、貴方を抱き締めてあげられるわ」

そのままふわりと私はレオの首に両腕を回し抱き締めた。

「ッ、セリ⋯!?」
「ありがとう、私の騎士様。レオが守ってくれたから私は今も⋯そしてこれからもずっと貴方の側にいられるわ」

頬を擦り寄せると、涙で濡れたからか少ししっとりとしていて。

“それすらも愛おしいだなんて⋯”


「あの時セリを拐ったのは、第二王子派のブルゾ侯爵に近しい者達でした」
「ブルゾ侯爵⋯?」

それはつい先日のイリダル殿下毒殺未遂事件の黒幕として捕まったその人で。

「彼の領地での犯罪行為を、フローチェ公爵家が一部取り締まった事による逆恨みです。セリがどちらかの殿下と婚姻を結べばフローチェ公爵家がもっと力をつけますから」
「甘い蜜が、より一層吸えなくなる⋯という事ね」

“そんな理由で5歳の私は拐われたのね⋯”

婚約を結んだのはネストル伯爵家で安心していたところに抜擢されたアリスの教育係という立場。
ブルゾ侯爵は再び焦って、私にイリダル殿下の毒殺容疑をかけようとしたってところなのだろう。

“もちろん、誤って私が毒に倒れてもブルゾ侯爵には損がない⋯”


そして殿下の『護衛』騎士であるレオがそこまで詳しく知っているということは。


「ずっと、調べてくれてたの⋯?」
「⋯あの時一緒にいたのに、セリを拐わせてしまったのは僕の責任なので」

私が当時5歳ということは、レオだってまだ7歳という幼さだったはずだ。


“あの時私の目の前に広がった血は、レオの血だったわ”

私を守ろうと戦って。
でも人数のいる大人には敵うはずもなくて。

血の海に倒れながらも必死に私に手を伸ばし助けようとしてくれた少年のその姿が、その少年を失う事が⋯私はとても恐ろしくてー⋯


“私は、拐われたという記憶ごと全て忘れてしまったのね⋯”


助け出された娘が全てを忘れて笑っていたら。
何をキッカケにその辛い過去を思い出すかわからないと、今まであったネストル家との交流もまるで初めから無かったかのようになるだろう。


「レオこそ、私のせいであんなにいっぱい血を流したのにどうしてまた出会ってくれたの?」
「それは僕の我が儘ですよ。あの時からずっと僕のヒロインはセリだけだから⋯」


婚約の打診はフローチェ公爵家から。
つまりレオは、再び私と関わる事がないかもしれないのにずっと当時を忘れず調べ、守ってくれていて⋯


「きっと、そんなレオの努力を見ていたからお父様は私の婚約者に選んでくれたのね」
「ですが僕は⋯、いつもあの時のようにセリを助けられなくて⋯」
「そんな事ないわよ」

触れあっている頬から、レオが悲しみ後悔しているのが伝わってくる。
そんなレオを包みたくて、私は抱き締める腕により力を込めた。

「あの軟禁だって、私を守るためだったんでしょう?」

レオは答えなかったが、その無言が最大の肯定で。

「そうやっていつも守ってくれていたし、今日だって助けに来てくれたじゃない」
「⋯⋯⋯」
「ここ、王族しか知らない隠し通路なのよ?どうやって来たの?」
「⋯それは、お金持ってないと叫ぶセリの声が聞こえて⋯」
「あ、あぁ⋯」

“確かに叫んだわね⋯”

まさかその叫びでレオが助けにきてくれるとは。
もう少しましな事を叫べば良かったと私は少し後悔した。


「ま、まぁ、その。とにかくレオは来てくれたし、私が帰りたいのはレオのところだけよ」
「それって⋯」
「元々、私の忘れてしまった過去を聞いたらすぐに戻るつもりだったのよ。レオが勝手に逃げ出したと勘違いしただけで」
「また、出られないかもしれないのに⋯?」
「たまには買い物にも行きたいし家族にも会いたい⋯けど、そうね。それでも、私はレオのところに帰るわ」
「帰る⋯」

『帰る』という言葉が不思議だったのか、ぽつりとレオがそう溢す。

「そう、帰るの。私が帰る場所は、とっくにレオのところなんだから」
「セリ⋯」
「迎えに来てくれてありがとう。私達の家に帰りましょう?」


私がそう言うと、安心したのか力一杯抱き締められて。


「はい⋯。セリが望むなら⋯」


そう言うレオの言葉が震えていて、そんなレオが愛おしくて。
涙を流すレオとは対照的に、私は思わず笑ってしまうのだった。

対照的な私達は、それでも同じ幸せに浸ってーー⋯





「ーーあのさ、いい雰囲気なのはいいんだけど、鍵だけは開けてってくれる?俺餓死しちゃうから⋯」
「あ⋯」

完全に忘れてしまっていたフロル様に気付き、羞恥から私の頬は真っ赤に染まるのだった。
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