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だったらお家に帰ります!夫婦喧嘩からはじめる溺愛婚(続行)
5.天使は未来のヒーローだったようで
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「ら、ライトンッ!!!」
そこに立っていたのは、紛れもなく探し求めていた少年と。
「…………まずは俺の名前を呼んで欲しかったなぁ」
「バルフも!!」
そして喧嘩して領地に置いてきた最愛の夫・バルフだった。
“やっぱり来てくれたのね、バルフ……!”
突然進路を変えた私を追うのは大変だっただろう。
それなのに今ちゃんとバルフの実家まで迎えに来てくれて――
“しかも、こんな場所にまで……!”
貴重な怒り顔は、狩猟会で私をアレクシス元王太子から庇ってくれた時以来じゃないかしら?なんて思うと、気合いを入れるために叩いた頬が更に熱を持つような錯覚に――……
「あ」
ハッとした私は、慌ててバルフの近くまで駆け寄って。
「ご、誤解よバルフ!この頬は……っ」
「大丈夫だよ、シエラ。怖かっただろ?すぐに家に帰ろう」
「え、えぇ。それはもちろん帰るけど……」
「すぐ頬も冷やさなくちゃね。でも、流石にこのまま見過ごす事は出来ないから……もう少しだけ待ってくれるかな」
「えっ!?えっと、だからね?バルフ……」
“どうしよう。完全に私が乱暴されたと思ってるわね?”
ハッキリ言ってそれはただの誤解である。
むしろ客として丁重に案内されていただけで、彼らもとんだとばっちり……ではあるのだが……
“ま、まぁいいわ。『違法』なことには違いないし、怒ってるバルフも素敵だし……”
誤解がキッカケだとしても、黒に近いグレーの団体が消えるのは決して悪くはないわけで。
「……で、お前たちは彼女がシエラ・ビスターだとわかっていて手を出したのか?」
「え?ええっと……、そ、そうですね……まぁ客として……」
“えぇ、私客だったわ”
「あぁ、そうだろうな。知っていたら彼女に手を出すなんて愚かな真似はしなかっただろう」
「いや、ですから理解した上で客としてですね……!?」
“そうね、客だったわね”
「うわ、恋は盲目ってこういうことですかぁ?バルフ様まで脳溶けてません?」
失礼なことを言うクラリスの言葉……どころか、怒りで男たちの言葉もちゃんと聞いていないバルフ。
「やだ、余裕がない姿も格好いいわ……」
そんなバルフは周りを軽く見渡して。
「そこにあるのは?」
「……お、おぉ、流石シエラ様の従者!お目が高いですね!こちらは幻の宝石、アレキサンドライトでございます!」
「……………………そう。少し見ても?」
「ちょっと!バルフは夫……」
何故か従者と勘違いされ、私が思わず言い返そうとするのを片手で制したバルフは、そのまま男が出した宝石をじっと眺めて。
「へぇ、凄く良くできた………………イミテーションだね」
「なッ、変なことを言わねぇでくだせぇ!これは紛れもなく……」
「ニセモノ、だ」
「ッ」
「本物の特徴はその変色性だけど、そこのケースの中と今この太陽光の下で色の変化は見られない。本物と偽る行為は違法だね」
サックリ指摘したバルフは、更に視線を動かす。
「あそこの毛皮も見ていいかな?」
「あ、あれですか!」
バルフが指差した先にあったのは毛皮で作られたコートのようで。
「これはリンクスの毛皮でして、紛れもない本物ですぜ!しかもこの黒い斑点があるものは……」
「リンクスベリーと呼ばれ、価値が高い」
「ですよぉ!目利きもですが知識もお有りのようで……」
「あぁ、もちろんだ。そしてリンクスはマーテリルアでは輸入禁止物だが、どうしてここにあるんだ?」
「……っ!」
「生息地もマーテリルアにない。他国から仕入れることを『輸入』と呼ぶんだがな……まさか知らなかったのか?」
指摘された男は、何かを言おうと口を開いたが……正論相手には言い返せなかったのだろう、そのまま口をつぐんだ。
「そもそも、我が国は奴隷を認めていない。それなのにお前たちは彼女を商品として売ろうとしたと?それだけでも重罪だとわかっているのか」
「で、ですが客側で……!」
“紛れもなく客ね”
男が必死に説明しようとした、その時だった。
「全員動くなッ!今この瞬間を持って立ち入り調査を開始する!!」
「なッ」
ダダダ、と足音を響かせてやってきたのは王宮警備隊のマントをはためかせていて――
「どうしてここにっ!?」
「シエラ?」
「あ、い、いえ、なんでもないわっ」
“客だけどまだ買ってない、買ってないからセーフよ……!”
万一ライトンが出品されていたら買ってでも取り返そう、なんて思っていたせいで少し後ろめたく、思わず口ごもってしまう。
そんな私たちの元にも王宮警備隊が駆けてきて、私は思わず肩をビクリと跳ねさせた。
“ま、まさか未遂でも罪になる……!!?”
ひえっと声を漏らし、私の額にじわりと嫌な汗が滲んで――……
「通報と足止めのご協力、ありがとうございます!」
そんな彼らは目を泳がせている私ではなく、バルフの前に並びサッと敬礼した。
「え……?」
戸惑う私に、バルフはやっといつもの穏やかな微笑みを向けてくれて。
「シエラが飛び出したって聞いて、万一を考慮して警備隊を呼んでおいたんだ。そもそも“ここ”の情報は持っていたし、証拠も十分あるからね」
「そうだったの……?」
どうやら時間稼ぎの為の茶番だったことを知りホッと胸を撫で下ろしていると、私の服が軽く引っ張られた。
なんだろう、と視線を下げた先にいたのは……
「ライトン」
完全に俯いてしまっているライトンだった。
そんなライトンの隣にしゃがんだバルフは、優しく彼の背中を撫でていて。
「……ほら、言うことあるだろ?」
「…………、き、危険な目に合わせてごめんなさい」
「!!」
“わ、私が勝手に来ただけなのに!!?”
ここにライトンが居なかったことや、そもそもキーファノで暮らしているバルフがこの闇市を知っていたことを考えるとネイト家にいるライトンも知っていただろう。
完全に私の突っ走った行動だったはずなのに……
「女の子が、危ない目に合うのはその、ダメだから……」
「現にシエラは売られそうになっていたしね。もう少し自分が可愛いってことを自覚してくれると助かるんだけど」
“どちらかといえば客……というか、黒髪にオリーブ色の瞳の少年を探して買おうとしていたし紛れもなく客側だけど……”
それでも、心配してくれた二人の気持ちが堪らなく嬉しくて。
「無事で良かったよ、シエラ」
「ごめん、なさい……」
「いいの、いいのよっ」
私はドレスが汚れることも気にせずその場に膝をつき、ライトンをぎゅうっと抱き締めた。
子供の体というのはとても小さく華奢で、バルフとは全然違っていて――……
けれど、生命力に溢れていて、そして少し太陽の匂いがして。
「怒ってない?」
「ないわ。貴方が無事ならそれでいいの」
「それは、バルフ兄の弟……だから?だから仕方なく追いかけてきたの?僕、嫌な態度取ってたのに」
「違うわよ」
“確かにバルフの弟だから仲良くなりたいって気持ちもあるけど……”
でも、それ以上に『ライトン』だったから。
「ライトンが私に冷たかったのは、ライトンがご両親を、そしてバルフを凄く大好きだからでしょう?」
話ながらそっと頭を撫でると、腕の中の小さな体が少し強張って。
「……私も同じよ」
「?」
「私もね、大好きなの。バルフも……義両親もバルフの弟妹たちも……そして、ライトンも」
「で、でも……」
「私の気持ちに好かれてるか好かれてないかは関係ないわ。私が出来るのは、好きな人に好かれる努力をすることだけだもの」
バルフと婚姻を結んだ時も、そして今も。
私に出来るのはいつも同じで――――
「ライトンにとって私は人攫いなのかもしれないけれど、私にとってライトンは……とっても可愛い義弟なんだから」
そう言って笑うと、そんな私に釣られたのかライトンの強張った体から力がスッと抜けて。
“!”
小さな腕が私の首を周り、頭を抱えるようにぎゅっと抱き締めてくれた。
“………………か、”
「かっわいいわ!可愛いわ!!!本当になんて天使なのかしらッ!!」
「ちょ、シエラっ、落ち着いて……!」
そのあまりにも可愛らしい行動に張り裂けそうなくらい胸が高鳴った私は、思わず顔を擦り付けるようにライトンを更に抱き締め――……
「…………まぁ、こんなに素直に好意を向けられたらバルフ兄が陥落するのもわからなくないよ」
「ら、ライトン……」
何故か少し呆れにも似た笑いが降ってきたのだった。
そこに立っていたのは、紛れもなく探し求めていた少年と。
「…………まずは俺の名前を呼んで欲しかったなぁ」
「バルフも!!」
そして喧嘩して領地に置いてきた最愛の夫・バルフだった。
“やっぱり来てくれたのね、バルフ……!”
突然進路を変えた私を追うのは大変だっただろう。
それなのに今ちゃんとバルフの実家まで迎えに来てくれて――
“しかも、こんな場所にまで……!”
貴重な怒り顔は、狩猟会で私をアレクシス元王太子から庇ってくれた時以来じゃないかしら?なんて思うと、気合いを入れるために叩いた頬が更に熱を持つような錯覚に――……
「あ」
ハッとした私は、慌ててバルフの近くまで駆け寄って。
「ご、誤解よバルフ!この頬は……っ」
「大丈夫だよ、シエラ。怖かっただろ?すぐに家に帰ろう」
「え、えぇ。それはもちろん帰るけど……」
「すぐ頬も冷やさなくちゃね。でも、流石にこのまま見過ごす事は出来ないから……もう少しだけ待ってくれるかな」
「えっ!?えっと、だからね?バルフ……」
“どうしよう。完全に私が乱暴されたと思ってるわね?”
ハッキリ言ってそれはただの誤解である。
むしろ客として丁重に案内されていただけで、彼らもとんだとばっちり……ではあるのだが……
“ま、まぁいいわ。『違法』なことには違いないし、怒ってるバルフも素敵だし……”
誤解がキッカケだとしても、黒に近いグレーの団体が消えるのは決して悪くはないわけで。
「……で、お前たちは彼女がシエラ・ビスターだとわかっていて手を出したのか?」
「え?ええっと……、そ、そうですね……まぁ客として……」
“えぇ、私客だったわ”
「あぁ、そうだろうな。知っていたら彼女に手を出すなんて愚かな真似はしなかっただろう」
「いや、ですから理解した上で客としてですね……!?」
“そうね、客だったわね”
「うわ、恋は盲目ってこういうことですかぁ?バルフ様まで脳溶けてません?」
失礼なことを言うクラリスの言葉……どころか、怒りで男たちの言葉もちゃんと聞いていないバルフ。
「やだ、余裕がない姿も格好いいわ……」
そんなバルフは周りを軽く見渡して。
「そこにあるのは?」
「……お、おぉ、流石シエラ様の従者!お目が高いですね!こちらは幻の宝石、アレキサンドライトでございます!」
「……………………そう。少し見ても?」
「ちょっと!バルフは夫……」
何故か従者と勘違いされ、私が思わず言い返そうとするのを片手で制したバルフは、そのまま男が出した宝石をじっと眺めて。
「へぇ、凄く良くできた………………イミテーションだね」
「なッ、変なことを言わねぇでくだせぇ!これは紛れもなく……」
「ニセモノ、だ」
「ッ」
「本物の特徴はその変色性だけど、そこのケースの中と今この太陽光の下で色の変化は見られない。本物と偽る行為は違法だね」
サックリ指摘したバルフは、更に視線を動かす。
「あそこの毛皮も見ていいかな?」
「あ、あれですか!」
バルフが指差した先にあったのは毛皮で作られたコートのようで。
「これはリンクスの毛皮でして、紛れもない本物ですぜ!しかもこの黒い斑点があるものは……」
「リンクスベリーと呼ばれ、価値が高い」
「ですよぉ!目利きもですが知識もお有りのようで……」
「あぁ、もちろんだ。そしてリンクスはマーテリルアでは輸入禁止物だが、どうしてここにあるんだ?」
「……っ!」
「生息地もマーテリルアにない。他国から仕入れることを『輸入』と呼ぶんだがな……まさか知らなかったのか?」
指摘された男は、何かを言おうと口を開いたが……正論相手には言い返せなかったのだろう、そのまま口をつぐんだ。
「そもそも、我が国は奴隷を認めていない。それなのにお前たちは彼女を商品として売ろうとしたと?それだけでも重罪だとわかっているのか」
「で、ですが客側で……!」
“紛れもなく客ね”
男が必死に説明しようとした、その時だった。
「全員動くなッ!今この瞬間を持って立ち入り調査を開始する!!」
「なッ」
ダダダ、と足音を響かせてやってきたのは王宮警備隊のマントをはためかせていて――
「どうしてここにっ!?」
「シエラ?」
「あ、い、いえ、なんでもないわっ」
“客だけどまだ買ってない、買ってないからセーフよ……!”
万一ライトンが出品されていたら買ってでも取り返そう、なんて思っていたせいで少し後ろめたく、思わず口ごもってしまう。
そんな私たちの元にも王宮警備隊が駆けてきて、私は思わず肩をビクリと跳ねさせた。
“ま、まさか未遂でも罪になる……!!?”
ひえっと声を漏らし、私の額にじわりと嫌な汗が滲んで――……
「通報と足止めのご協力、ありがとうございます!」
そんな彼らは目を泳がせている私ではなく、バルフの前に並びサッと敬礼した。
「え……?」
戸惑う私に、バルフはやっといつもの穏やかな微笑みを向けてくれて。
「シエラが飛び出したって聞いて、万一を考慮して警備隊を呼んでおいたんだ。そもそも“ここ”の情報は持っていたし、証拠も十分あるからね」
「そうだったの……?」
どうやら時間稼ぎの為の茶番だったことを知りホッと胸を撫で下ろしていると、私の服が軽く引っ張られた。
なんだろう、と視線を下げた先にいたのは……
「ライトン」
完全に俯いてしまっているライトンだった。
そんなライトンの隣にしゃがんだバルフは、優しく彼の背中を撫でていて。
「……ほら、言うことあるだろ?」
「…………、き、危険な目に合わせてごめんなさい」
「!!」
“わ、私が勝手に来ただけなのに!!?”
ここにライトンが居なかったことや、そもそもキーファノで暮らしているバルフがこの闇市を知っていたことを考えるとネイト家にいるライトンも知っていただろう。
完全に私の突っ走った行動だったはずなのに……
「女の子が、危ない目に合うのはその、ダメだから……」
「現にシエラは売られそうになっていたしね。もう少し自分が可愛いってことを自覚してくれると助かるんだけど」
“どちらかといえば客……というか、黒髪にオリーブ色の瞳の少年を探して買おうとしていたし紛れもなく客側だけど……”
それでも、心配してくれた二人の気持ちが堪らなく嬉しくて。
「無事で良かったよ、シエラ」
「ごめん、なさい……」
「いいの、いいのよっ」
私はドレスが汚れることも気にせずその場に膝をつき、ライトンをぎゅうっと抱き締めた。
子供の体というのはとても小さく華奢で、バルフとは全然違っていて――……
けれど、生命力に溢れていて、そして少し太陽の匂いがして。
「怒ってない?」
「ないわ。貴方が無事ならそれでいいの」
「それは、バルフ兄の弟……だから?だから仕方なく追いかけてきたの?僕、嫌な態度取ってたのに」
「違うわよ」
“確かにバルフの弟だから仲良くなりたいって気持ちもあるけど……”
でも、それ以上に『ライトン』だったから。
「ライトンが私に冷たかったのは、ライトンがご両親を、そしてバルフを凄く大好きだからでしょう?」
話ながらそっと頭を撫でると、腕の中の小さな体が少し強張って。
「……私も同じよ」
「?」
「私もね、大好きなの。バルフも……義両親もバルフの弟妹たちも……そして、ライトンも」
「で、でも……」
「私の気持ちに好かれてるか好かれてないかは関係ないわ。私が出来るのは、好きな人に好かれる努力をすることだけだもの」
バルフと婚姻を結んだ時も、そして今も。
私に出来るのはいつも同じで――――
「ライトンにとって私は人攫いなのかもしれないけれど、私にとってライトンは……とっても可愛い義弟なんだから」
そう言って笑うと、そんな私に釣られたのかライトンの強張った体から力がスッと抜けて。
“!”
小さな腕が私の首を周り、頭を抱えるようにぎゅっと抱き締めてくれた。
“………………か、”
「かっわいいわ!可愛いわ!!!本当になんて天使なのかしらッ!!」
「ちょ、シエラっ、落ち着いて……!」
そのあまりにも可愛らしい行動に張り裂けそうなくらい胸が高鳴った私は、思わず顔を擦り付けるようにライトンを更に抱き締め――……
「…………まぁ、こんなに素直に好意を向けられたらバルフ兄が陥落するのもわからなくないよ」
「ら、ライトン……」
何故か少し呆れにも似た笑いが降ってきたのだった。
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