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ルルの願い、僕の願い(R18
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お風呂から上がると布団が少し離して敷いてあったので、ピッタリとくっつけた。
「僕、布団って初めて」
「私もです」
「そうなんだ」
長く生きている割には、ルルって初めてなことが多いよな。
確かに悪魔が布団に入ってる姿は想像できないけど。まだ、洞窟の中とか木の上とかで寝てるほうがイメージしやすい。
「タオルで拭いただけですから、まだ濡れていますね」
ルルがまだ雫の残る僕の髪を指先で一房すくい取る。
「髪の毛をドライヤーで乾かしましょう」
「ルルのほうが長くて大変じゃない? ルルの髪は僕がドライヤー……する?」
「ご迷惑でなければ……」
「むしろ、したい」
部屋についた途端がっついてしまうかと思っていたけど、自分でも驚くほど落ち着いている。髪を乾かしあう余裕があるくらいだ。
想像よりもふかふかした布団の上に座って、ドライヤーをかけながらルルの髪をクシでとかす。
僕は不器用だし、ぎこちない手つきだからたまに痛くしちゃってると思うけど、ルルは何も言わずおとなしくしている。
「ルルの髪、柔らかいね」
乾いたとこからサラサラしていって気持ちいい。
「貴方に髪を乾かしてもらうというのは、なんだかおかしな感じがします」
「いつもはルルがやる側だもんね」
手のひらからこぼれる感覚がなんともいえない手触りで、ずっと触っていたくなる。いい匂いもする。いつかこの綺麗な髪にチンコを絡ませて扱いてもらうみたいなプレイができるだろうか。なんて、ムードぶち壊しなことを考えてしまった。声に出さなくてよかった。さすがのルルでもドン引きだよ。ドライヤーの音に混じって、たまに風鈴がチリンと音を立てるようなイイ雰囲気なのに、台無しになってしまうところだった。
乾かし終わって今度は交代、いつも通り。
ルルに髪を触られるの好きだな。気持ちいい。僕がドライヤーをかけながら妄想していたように、ルルも何かを考えているんだろうか。これからの、こととか。
「これが終わったら、いよいよセックスするけど、ルルは本当に後悔しない?」
「貴方のほうが、後悔しそうな顔をしています。死なないとわかったら、もっと手放しで喜ぶだろうと思っていたのですが」
「それは……」
覚悟を決めていただけに、突然『魂は取りません』っていうの、ちょっと拍子抜けというか。嬉しいよりは、ホッとしたっていうのが素直な感想。
それに、ルルにリスクがあるなんてわかったら、手放しでは喜べない。後悔、させたくない。
「だってさ。ルルはお弟子さんとかにも、もう会えなくなっちゃうんだよ? それとも向こうから来てもらえるとか?」
「……そういえば、貴方は私の弟子に会いたがっていましたね」
「え。う、うん」
かちりという小さな音がして、僕の髪に吹き付けられていた温風がやんだ。
ルルはクシとドライヤーを横に置いて立ち上がり、僕の前へ向かい合うように正座した。
え。ちょっと待ってよ。まさか今から連れてくるとか、そういう展開? 僕、殺されたりしないよな。そんな死に方は勘弁願いたいぞ。
「どうぞ」
「あ、写真か。大きいし堅いね。悪魔の世界の写真って、こんな……」
手渡された写真に映っていたのは、顔のない男だった。いや、あるにはあるけど認識できない。浴衣……着てる。ってこれ、写真じゃなくて鏡じゃん!
「髪型なんかおかしかった?」
ルルがセットしてくれた髪型を鏡を見ながら整えつつ、顔を上げる。
「会うことは不可能ですが、顔は見られましたでしょう? ああ、認識ができないのでしたね」
「は?」
僕は手鏡とルルの顔を交互に見比べた。
「なんの……冗談」
そうは言ってみたけれど、ルルが冗談を言うようなタイプじゃないのはわかっていた。
ルルはいつも通りの無表情。僕は言われた内容を、頭の中で整理する。何度考えても、ルルの言葉の意味は。
「ちょっと待って。混乱してるんだけど……。つまり僕は本当は悪魔で、ルルのお弟子さんってことなの? 僕はそれを忘れてる?」
「そうなります。悪魔にとっては人間でいう『風邪』のようなものなのですが……自分の中に世界を創り上げ、目覚めなくなって、こじらせると死に至るのです」
「つまりここは、夢の中? 僕は夢を見てるの?」
「人間のそれとは規模が違いますが、そう思っていただいて構いません」
匂いも、感情も、記憶も。過ごしてきた長い年月も。これがすべて、夢だというのか。
視界にうつるものすべてが、僕が創り上げたものなのだと。
「あ……。それで僕のことを、神って?」
「はい。この創られた世界では、貴方が強く願ったことが叶うのです」
「いや、いやいや。ちょっと待ってよ。願いが叶うも何も、僕の人生ハードモードだよ? 自分で創った世界でコレってマゾすぎじゃない?」
「それが、こじらせるということなのでしょう。貴方の好きなゲームで言うならば、目覚める条件はハッピーエンドを迎えることですから」
ハッピーエンド。
そうか。ルルが僕を幸せにしたいと言っていたのは、僕を……不肖の弟子を、目覚めさせるためだったのか。
「つまりルルは、僕を治しに来てくれたんだ。この、世界に」
「そのはず、でした」
膝の上で組まれたルルの手が震えてる。
正直、突然すぎる展開で頭がついていかない。ルルの存在そのものがファンタジーだし、旅館までの交通手段なんて空飛ぶじゅうたん。今更何が起こっても驚くようなことじゃないけど、自分という存在が足元から崩れていくこれとでは、話が違う。今の僕は創られた存在で、本当の僕は寝ているなんてさ。そして、それを思い出せすらしないんだ。
「……あのね、まだ混乱してるけど、なんとなくわかるよ。僕は目が覚めたら、この世界で起きたすべてのことを忘れちゃうんでしょ?」
「はい。つらい過去も、私と暮らした日々も、すべて」
たとえ作り物であっても、ここで過ごした日々は今の僕にとっては現実だ。それに僕が忘れても、きっとルルは覚えてる。
目が覚めた僕は、つらい過去もルルと過ごした時間もすべて忘れて、眠そうにおはようなんて言うんだろう。そんな僕を見て、ルルは涙を流すのかもしれない。
「確かにそれは、死ぬみたいなもんだよねえ」
思わずのんびりした口調で言ったのがいけなかったのか、ルルが無表情のまま、ぽたりと涙をこぼした。
「る、ルル……」
「願ってください」
「なっ、何を!?」
「私と一生……ここで暮らしていきたいと。目覚めたくないと、心の底から」
それが、今の僕が消えずに済む方法なのか。そんな話を聞かされたら、ルルに言われるまでもなく普通はそれを願うよね。だからこそ、ルルは今までそれを言わなかったんだろう。僕を『治す』ために。
やたらさっさと幸せにしようとしてたのは、早く僕の記憶を取り戻したかったから?
「で、でも、その。ルルは本当にそれでいいのかな。ある意味、弟子としての僕は死んだままになるってことじゃない? 今の僕は、まったく覚えていないんだから」
一番近いたとえをあげるなら二重人格の片方を潰すようなもの。どちらの僕を選ぶにせよ。
僕の中で眠っているかもしれない存在。でも、気配すらない。
確かにルルに対して親しみや懐かしさを感じることはあったけど、本当にそれくらいだ。
「……どう答えていいのか、わかりません。ただ、私は今の貴方を、失いたくない」
「ルル……」
こうして治しにきてくれるくらいだ。弟子だって言ってたし、愛情もあっただろう。好意を抱いてくれたきっかけも、そこにあるような気がする。
「情がわかないように、気をつけてはいたのですけれど。ダメでしたね」
話を聞かされてもピンとこないし、ほんっとに半信半疑でわかったことといえばルルの今までの行動理由くらいなんだけど。
ただ、とりあえず。今後どうするかはおいといて。
僕が幸せになっても、気の持ちようひとつですぐに死んだりはしないという重要な事実が明らかに。
そしてルルはこの箱庭の中で僕と暮らしてくれることを選んでくれたんだ。
「じゃあ、僕が……気の済むまで、一緒にいて?」
「はい。貴方が望む限り、ずっと」
そんなこと言われたらずっと望むし。というかコレ、プロポーズ、みたいじゃない?
「あ、あの。じゃー……。話も済んだところで、ルルを抱いてもいいかな」
ルルは可愛らしくこくんと頷いた。
「あっ、抱きしめたいって意味じゃなくて、セックスしたいって意味だよ」
「言い直されなくてもわかります」
「えー……」
この前まで通じなかったくせに。僕がいちいち言い直すから意味を学習したのか。
「ですが、こういう話をしたあとに、その……よく、する気になれますね」
「どーして? 言っとくけど、一度は死ぬ覚悟までしたんだから、ルルがやっぱり僕なんか好きじゃないとか、えっちなんてしたくないとか言わない限り、僕にとっては何を言われようが些細なことだから!」
「さ、些細な……こと、ですか?」
ルルは僕の言葉に少し目を見開いて、それからくすりと笑った。
「貴方のそういうところも好きですよ。面白くて」
隠し事が暴かれた今なら、その言葉もようやく素直に受けとめられる。
何しろあれだよ、ルルは今の僕を。今の僕を! 選んでくれたんだからさあ!
まあ……相変わらず、少しも楽しそうではない表情なんだけど、面白いと思ってくれていたのか。
ちなみに僕自身は面白いことを言っているつもりはまったくない。
している話はヘビーでも、僕らは布団の上で見つめあって愛を告白しあってるわけ。その気にならないほうがおかしくない?
……ちょっと愛の告白っていうには、軽い言い方だった気もするけど。
「僕のこと、ほんとに好き?」
「はい」
「もっかい言って!」
「貴方のことが、好きです」
「僕も、ルルのこと好き。大好き」
傍にいるのに手が出せない。そんな日々をどれだけ耐え抜いたことか。
ようやくルルの……深いところに触れられる。
近づけた唇は僕が押し当てる前に重なった。
キスだけならもう何度もしたけれど、何回目になってもドキドキする。
「はふ……。ちゅー気持ちい……」
舌が口の中の柔らかい粘膜に触れると、腰の下あたりからぞわぞわした快感がかけあがる。
ルルが僕の眼鏡を外して、更に深く入り込んできた。
積極的なルルとかヤバイ。嬉しい。求められてる気がする。
でも、できたら主導権は僕が握りたい。だって僕がルルを抱くんだもの。
キスの合間に、えいやっとルルを押し倒すと浴衣がしどけなく乱れ、長い髪がさらりと布団の上に散った。白い肌にほんのり朱が透けて見えるような気がするのは湯上がりだからなのか。
ああー……。もうこの姿を見ているだけで、僕イキそう。
「ルルが僕を好きになってくれたなんて、本当に夢みたい」
首筋にキスをすると、ルルがくすぐったそうに身をすくめた。
「夢ではありませんよ……タツキ」
ルルが、僕の。僕の名前を、呼んだ。完全に不意打ち。
「あ……」
そう。好きになったら僕のことを名前で呼んでって約束した。
好きだとは言ってくれていたけど、実際に呼ばれたのはこれが初めて。
凄い。たかが名前なのに、こんなにも特別に響くものなんだ。
「また、泣くのですね」
「だって……ル、ルルが……。僕の名前、呼んでくれ、たから……」
ルルが下から指先を伸ばして、僕の涙を拭って舐めた。
「貴方の涙は甘い気がします」
「う、嘘だあ」
「確かめてみますか?」
誘われるように口づけると、本当に甘かった。でも、これは涙の味じゃなくてルルの唇だからだと思う。
キスの甘さにくらくらしながら、ルルの肌をまさぐる。
……いつもひんやりしているルルの身体が今日は温かい。
舌で舐めてみたら、ようやくいつもの冷たさを感じた。
「ルルの身体のほうが、甘い。どこを舐めても……」
お返しとでもいうように、ルルが僕の首筋にキスして舐めた。
「タツキの身体も、甘いです」
「ッ……。き、気持ちよくするから! ルルのこと、たくさんたくさん。そんで、僕が君を幸せにするっ」
「はい」
いつも聞くその短いフレーズは、いつもと違ってとっても甘い。
ただ。どこに触れても舐めてもルルの反応は薄くて当然のように勃たなくて、まあ現実はそう甘くないなと思った。
「こ、こういうのはさあ、僕のことを好きだって自覚したら、感じるようになるものなんじゃないのかな……」
「感じていますよ」
「ほんと!?」
「……幸せは」
「それは凄い嬉しいけど、今違うから! 感じてほしいの快感的な気持ちよさだから!」
「別に私が気持ちよくなくても、挿れて擦って出せばいいと思うのですが」
真顔で言われると突き放されているような気がして悲しくなるのに、大胆すぎる台詞に下半身は反応しちゃう悔しい。挿れて擦って出したいです。
でも、身体はそれで満足するとしても、心までそうはいかない。
「良くないよぉ……。僕はルルにも気持ちよくなってほしいもん」
「私も同じですよ。貴方が私の身体で快感を得る姿を見ることができるのなら、私も気持ちよくなれる気がするのです」
「ほんとに?」
ルルが目を逸らした。相変わらず嘘が下手。
触ってもないのに張りつめて痛そうな僕のチンコを哀れに思ってくれたんだろう。
僕のことを想ってくれるのも嬉しいし、こんな状態の時にこんなふうに誘われたら、もう……正直、我慢の限界。
「ごめん。挿れる」
「どうぞ」
ルルが入りやすいように足を持ち上げる。ろくに慣らしていないのに、そこはじっとりと濡れてひくついていた。
あまりのやらしさに視界が沸騰したみたいにゆらめく。考える前に身体が本能に従って動いた。
僕の熱がルルの中にずぶずぶと飲み込まれていく。そこは僕を溶かすように甘く受け入れた。ねっとりと絡みつく肉襞に、腰が引けそうになる。
……気持ち、良すぎて。
「は、あ、あっ……。ルル……。ルル」
「ご主人様、気持ち良さそうで可愛いです」
「う……、んんっ。ほっぺ撫でたらダメ。も、出ちゃう……」
ルルを気持ちよくさせたいのに、僕、僕ばっかりこんな、恥ずかしいとこ見せて、翻弄されて。
ああ。でも気持ちいい。気持ちい。
「あっ、ルル……!」
ほんと、秒殺。まだ全然擦れてない。絞り取られるみたいに吐き出して、そのまま中に出しきった。
「あー……。ごめん」
「意外と早く終わるものなのですね」
なんという追い討ち。
僕は力尽きて、入ったままルルの上に倒れ込んだ。
ルルが宥めるように、僕の頬にキスをしてくる。
そ、それくらいでごまかされたり……。
「もう少しご主人様の気持ちよさそうな顔を見ていたかったので、残念です」
何これ可愛い。宥められちゃう。我ながらちょろすぎ。
「僕が気持ちよさそうだと嬉しいの?」
「はい」
「ルルー!」
愛を感じて嬉しくなって、ルルをぎゅうぎゅう抱き締めた。
「あっ、でも気持ちよくはなれなかったんだよね。ごめんね」
「ここは貴方の世界ですので、異物である私には制限がかかっています。感覚が鈍いのはそのせいもあるのでしょう」
「じゃあ、ここを出たら超敏感でアンアン喘いじゃうような感じのルルが!?」
「どうでしょうか。性的接触をしたことがありませんから、なんとも……」
この顔でこのルックスで僕より年上でハジメテって。何度聞いても衝撃的だしグッとくる。
そういうルルが乱れる姿がすっごい見たいな。僕の想像力に従って制限がかかっているなら、意識的にどうにかないなんのかな。
「っ……や、ご主人様」
「えっ?」
ルルの中が急に動いて、入ったままの僕のモノをしめつけた。
「うぁ、ルル、急に締めないで……ッ」
「ん、ん……。は……。こ、れはやめてくださいと、言ったじゃ、な……いですか」
えっ。これ、ア、アレ!? 僕がルルに感じてほしいって願っちゃった的な!?
「ぼ、ぼんやりとは、思ったけど……そんな、強くは……」
ルルがはあはあ息を荒げながら僕の腕にすがりつく。正直たまらない。
深く願わなかったなんて断言できる? だって僕は、もうずっとこんなルルが見たくてしかたなかった。
でも同時に恐れもあったし、ルルが元の世界に帰れなくなってるかもしれない今、ルルの身体に負担はかけさせられない。どちらかというと、こっちの想いが欲望を上回ってると思う。
屋上から逃げ出そうとした時だって、ルルに空へ放り出されるまで空を飛べなかったくらいなんだぞ。ちょっと思っただけで、ルルがこんな状態になるなんてこと。
「あっ、そうか! きっと一回やったことで、ルルの感度がめちゃくちゃ上がったんだ!」
「い、いえ。さすがに……。んっ。そんなことは、ないと思います。触られてもいないのに、全身を舐めまわされてれるような……、かん、かくが」
ねっとりとした大きな舌で全身を舐めまわされるルルを想像して、反応しかけていた僕のチンコは見事に限界値へ。体積が増した分、締め付けや震える内壁の動きが伝わってきて腰が砕けそうになった。
「すご、ルル……。っ、さっきと全然違うよぉ。僕、またイッちゃう。中に出しちゃ……」
「あ、あっ、あッ……。う、動かさないでください」
ルルが足で、僕の腰を固定しようとする。でもそれ、多分逆効果。それに、僕を離したくないって言ってるようにも思えて。
あー。これ、だいしゅきホールドってやつか。身体の気持ちよさに加えて、胸の奥からギュッとくる。
もっと、ルルの中、かきまわしてぐちゃぐちゃにしたい。だしたい。中で全部。深い奥のところで……。
さっき一回出しているせいか、すっごいエッチな音がする。
ルル、可愛い。色っぽい。普段あまり表情を変えないルルが、唇を噛みしめたり眉根を寄せたり頬を染めたりしてる様は本当にたまらない。中は僕のを吸ってるみたいにぎゅうぎゅうしてくるし。気持ちよくてとろけそう。
「も、や……嫌です」
「ごめんね、ルル。ごめん」
謝りながらも腰を押しつけてしまう。ルルが固定してるからガンガン突くことはできないけど、多分動けたとしても腰が引けてゆっくり中をかきまぜるくらいしかできなかったと思う。
さっき一度イッたばかりなのに、正直もうヤバイ。今度はルルも早く僕が出してくれたほうが助かるって思ってるかも。だから平気って、そんな言い訳が頭を掠める。
少しだけ堪えたあと、結局すぐにルルの中へ吐き出した。
多分量はさっきより少ないけど、全部注ぎ込む。ルルが僕のモノになったような気がした。
「はぁ、は……。ルル、平気? 身体、おさまった?」
「はい……」
ルル涙目だ。可愛い。
目元にちゅっちゅっとキスをすると、身体が震えた。
僕が射精する間にルルは何度出したのか、お互いのお腹の間は漏らしたようにびっしょり濡れている。
僕も3分もったか、もたないかくらいだったから、ルルは相当なペースで……。余裕なかったけど、もっとちゃんとイクとこ見たかった。
でも、やっぱり相当体力を消耗したみたいで、かなりぐったりしている。
「ま、また勃っちゃうといけないから、今度は抜いておくね」
さすがにこれ以上はルルの身体がヤバそう。僕はまだまだイケるけど。
名残惜しさを覚えながら萎んだソレをルルの中から引き抜く。
「っ……」
「感じちゃった?」
「いえ……。平気みたいです」
平気って言われるとちょっと微妙だな……。いや僕もエロ的に言ったわけじゃなく、ルルの身体を気遣っただけだからいいんだけど。
でも、もう不感症に戻ってるってことは……ちゃんとしたセックスがしたいなあって思ったから、僕がイッたらルルもおさまったってことなんだろうか。
わー。でも、凄い感動。なんだかんだでちゃんとセックスできたし! 脱童貞だし!
「あ。これで魔法使いじゃなくなって、ルルが消えちゃったりなんてことは」
「魔法使い、ですか?」
「なんでもない、なんでも」
「ご主人様は……一応は、ここでは人間ですよ」
真面目に答えてくれてるとこ申し訳ないけど、僕の発言はそういうアレではないんだよぉぉ。
30まで童貞だと魔法使いになれるっていう、慰めみたいな開き直りみたいな、都市伝説的な。
僕はルルの上から身体を退けて、隣の布団へ身体を投げ出した。
ルルが甲斐甲斐しく、僕のお腹を拭き始める。
「ふふ、くすぐったい」
この前はぶっ倒れたのに今回は僕のお腹を拭く余裕があるんだなあと思いながら横を見ると、酷い顔色をしていた。
「ちょっ、いいよ。少し横になってなよ!」
「ですが、汚してしまいましたから……」
「いいって、気になるなら僕が拭くから」
いつもなら断られただろうけど、ルルは実際かなり憔悴していたみたいで、おとなしく身体を横たえる。
やっぱり、少し……熱もあるみたい。上気した肌に潤んだ目とかヤバイなー。それにこの、後始末ってエロイ。エッチしてる人たちはみんなこんなことしてんのかな。あっ、僕がゴムつけなかったからか。
ルルは女でもないし人でもないから失念しちゃってたけど、ちゃんとしなきゃダメだったかな……。
「ありがとうございます」
「ん、僕こそ……。凄く気持ちよかった」
浴衣は前だけはだけた状態だったから、閉じてあげれば見た目だけは取り繕える。まあ、帯とかおかしいし、生地に皺はできてるし見える肌にはキスマークだらけと、ナニかあったことは一目瞭然なんだけど。
「幸せになれましたか?」
「すっごく!」
「私も、幸せですよ」
は、と少し苦し気な息を吐き出しながらも気持ちを伝えてくれるルルにきゅんとする。
えっちできたことも幸せだけど、こうして二人でまったりできるのが何よりかも。
本来ならピロートークなんてできなかったんだろうし……。
「やっぱり、ルルに聞かされてなかったら、これ僕死んじゃってたの? あんまり、こう、現実味がないんだよね」
だって僕はぴんぴんしてるし、むしろルルのほうが虫の息で不安になってくる。
「死ぬ……というと語弊がありますが、貴方の意識は消えていたと思います」
「そっか。でも、ここって僕が創りあげた世界なんでしょ? なんでわざわざ人生ハードモードにしたのかなあ。30まで童貞とかさあ」
そのおかげでルルに会えたからいいけど、わざわざ自分が不幸になる場所でひきこもるなんて、元の僕はどんだけマゾなんだよって話。このあたりに違和感を覚えるから、ストンと落ちてこないのかも。僕にとっては、これが現実でしかないってことも、もちろんあるけど。
もし僕がイケメンハイスペックでモテモテなお金持ちだったりしたら、確かに漫画みたいな人生だし都合よく作られた世界なのかもって素直に思えた気がする。
「この病気にはストレスが深く関係していて、創り上げた世界で幸せになることで『気が済む、晴れる』のだろうとされています。こじらせなければ、どこかで逆転劇が始まったのではないでしょうか?」
「逆転劇……なんだかゲームみたいな展開」
実際、創り上げたというならこの世界そのものがゲームみたいなものなのかもな。クリアしたことを忘れてしまうなんて寂しいけど。とか考えるから、こじらせてしまったんだろうか。
「元々の貴方も、そういうのが好きでしたからね」
「ゲームとか?」
「はい」
「……あの、もしかして、ルルが前に言ってたゲームや漫画を好きな知り合いって」
「貴方のことです。この世界を創る前の」
や、やっぱり。
なんだこの、弟子も僕だし知り合いも僕で、もう全部僕みたいな。
「引きこもった中でもゲームや漫画ばかりとは。本当に情けない」
「な、なんかごめん」
ルル、ちょっと僕に対してあたりが厳しくなったな。僕を幸せにする必要がなくなったからか……。いつもは従順なのに、今日はそれこそ親とか師匠みたい。
「あの……僕はもう、幸せになっても、ずっとこの世界に居られるのかな?」
「はい」
「なら、もうルルが僕を幸せにする必要はないってことだよね」
「そうなります」
「じゃあ、どうして僕とセックスしてくれたの?」
無表情なルルの顔から、更に表情が消えた。
「それは、私に言わせたくて尋ねているのでしょうか。それとも素ですか?」
「言わせたくて?」
「必要はなくても、理由ならあるでしょう」
「理由?」
「……貴方は私を幸せにしたいと言ってくれましたが、その理由を教えてください」
「何言ってるの。そんなの愛してるからに決まってるじゃん!」
躊躇いなく口にしてから、ようやくルルの言った『理由』に気付いて腹の奥から燃え上がるような熱と感動が沸き上がってきた。
何これジワジワ凄い……。というか、ハッキリ言われるまでわからないって僕どんだけ鈍いんだ。ルルのことを笑えないぞ。
片想いだと思ってた時間、長かったしなあ。ルルが僕のことを好きだなんて、今だって夢でも見てるみたいで……。
「それってつまり、僕のことが好きだからってこと?」
「はい」
「ちゃ、ちゃんと言葉で言って」
「……好きだから、幸せにしてさしあげたいです」
「うわあああー! ルル、大好きぃー!」
ぎゅうぎゅう抱き締めると、ルルが苦しそうにケフッと咳をした。
「あっ、ごめん。身体、まだつらい?」
「そうですね。ここは貴方の世界ですから力が戻りにくくて……」
「もしかして、それでエネルギー切れ起こしたり、得意じゃないことが多かったりしたの? 落ちこぼれじゃなかったんだ……」
「貴方の口からそれを聞いた時は酷い衝撃をうけました。病気の弟子を助けにきた私に対してこの台詞かと」
「ご、ごめん」
落ちこぼれって言った時はぶっ倒れちゃったし、不出来な弟子に言われて本当にショックだったんだろうな……。
「今日は謝ってばかりですね」
「だって、色々迷惑かけてるし。きっと僕が知らないところでも……。ううん、僕が今の僕じゃなかった時から、ずっとそんな感じだったんだろうなって」
実感がないとはいえ、ルルから見たら同じ僕である以上、申し訳ない気分になってくる。
僕がしょげつつ縮こまっていると、ルルが身を起こして額にキスをしてくれた。
「貴方にかけられる迷惑は、嫌いではありませんよ」
「でも、結局は迷惑なんでしょ?」
「ではない、とは言えませんが……。まあ、いい意味で刺激的ですし。色々と」
それは今のことなのか。それとも過去のことなのか。
ルルの心境は凄く複雑なんだろうなとは思う。僕はそれを想像することしかできないけど、すっごく愛されてるなっていうのは、ようやく実感できた。
「身体、平気になってきました」
「ほんと? 良かった」
ルルが僕の頬から顎までを優しく撫でる。そのまま猫にでもするように喉をちょいちょいとさわられて、背筋が伸びる。尻尾があったら、きっとピーンと真っ直ぐになってると思う。
「このままもう少し、ゆっくり寝ていますか? それとも、せっかくですから花火でもしましょうか」
どちらもかなり、魅力的なお誘い。
年代を感じさせる古めかしい旅館の庭で花火とか、漫画や映画で見るような雰囲気を味わえそう。まさか自分で体験できるとは思わなかった。
でも……。
「明日もあるし、今日はこのまま寝ようよ。ルルも疲れたでしょ」
僕はごろんと横たわって、ルルの膝に顔を寄せた。
「そうですね。もう、急ぐ必要はないですから」
「うん。また、明日……」
次の約束ができる幸せ。
魂を取られるなんてこともないし、ルルが帰ってしまうこともない。好きな人が僕を好きでいてくれる。
あまりにも都合が良すぎて、それこそ僕の力が働いてるんじゃないかって……不安に、なる。
だってルルは、僕の世界だから力に制限が出るんだろ? なら、感情にも影響が出てる可能性は充分あるじゃないか。
気づいてしまった不安を、ルルに告げることはできなかった。話したら我にかえってしまうかもしれないと思うと怖かった。
「眠いですか?」
「少し」
本当は興奮と不安で眠れそうにはなかったけれど、嘘をついた。
僕は、ルルが好きだ。どうしようもなく。これだけは揺るぎようのない真実だ。
「眠りたくないとか、夜が明けなくていいとか願ったら、その通りになるのかな」
「世界がひっくり返るようなことはできないと思います。ですが睡眠のほうは、気合い次第でかなり起きていられるのでは?」
「気合い……。気合いか。空を飛ぶのも、死ぬ間際になってやっとできたもんね」
しかも夜には地獄の筋肉痛。僕が作った世界なのに、ままならない……。
まあ、自力で治せず師匠が助けに来るような、不肖の弟子が創り上げたんだもんな。しかたないか。
「眠いなら、無理せずゆっくり寝ましょう。それとも、やはり花火をしますか?」
「い、いいよ。たとえばで言ってみただけだから!」
ルルにいらん気を遣わせてしまった。
僕は隣の布団の中にもぞもぞと潜り込んで、ルルを呼んだ。
「そっちの布団汚れちゃったし、こっちで一緒に寝よう」
力を使って綺麗にするには、きっと疲れすぎていたんだろう、おとなしく僕の隣におさまった。いつもの無表情が緊張しているように映って、思わず喉を鳴らした。
ああ……なんか、やらしい。僕の布団に入ってくるルルとか。
「狭くはないですか?」
「むしろもっとぎゅっとくっついて寝たい。でも、ルルのほうが寝にくいかな?」
「……いえ。今日は私も……貴方を抱きしめて寝たい気分ですから」
肩を抱き寄せられた。腕枕とか、彼氏力高いんですけど! むしろ僕がするべきでは? 閨での立場的には。でもときめいちゃう。こんなの興奮して眠れないというか、寝たくない。ずっとこうして、寝顔を見ながら体温を分けあっていたい……。
そう考えた僕の気合いは全然足りてなかったらしく、5分も立たないうちに意識が遠のいた。
「僕、布団って初めて」
「私もです」
「そうなんだ」
長く生きている割には、ルルって初めてなことが多いよな。
確かに悪魔が布団に入ってる姿は想像できないけど。まだ、洞窟の中とか木の上とかで寝てるほうがイメージしやすい。
「タオルで拭いただけですから、まだ濡れていますね」
ルルがまだ雫の残る僕の髪を指先で一房すくい取る。
「髪の毛をドライヤーで乾かしましょう」
「ルルのほうが長くて大変じゃない? ルルの髪は僕がドライヤー……する?」
「ご迷惑でなければ……」
「むしろ、したい」
部屋についた途端がっついてしまうかと思っていたけど、自分でも驚くほど落ち着いている。髪を乾かしあう余裕があるくらいだ。
想像よりもふかふかした布団の上に座って、ドライヤーをかけながらルルの髪をクシでとかす。
僕は不器用だし、ぎこちない手つきだからたまに痛くしちゃってると思うけど、ルルは何も言わずおとなしくしている。
「ルルの髪、柔らかいね」
乾いたとこからサラサラしていって気持ちいい。
「貴方に髪を乾かしてもらうというのは、なんだかおかしな感じがします」
「いつもはルルがやる側だもんね」
手のひらからこぼれる感覚がなんともいえない手触りで、ずっと触っていたくなる。いい匂いもする。いつかこの綺麗な髪にチンコを絡ませて扱いてもらうみたいなプレイができるだろうか。なんて、ムードぶち壊しなことを考えてしまった。声に出さなくてよかった。さすがのルルでもドン引きだよ。ドライヤーの音に混じって、たまに風鈴がチリンと音を立てるようなイイ雰囲気なのに、台無しになってしまうところだった。
乾かし終わって今度は交代、いつも通り。
ルルに髪を触られるの好きだな。気持ちいい。僕がドライヤーをかけながら妄想していたように、ルルも何かを考えているんだろうか。これからの、こととか。
「これが終わったら、いよいよセックスするけど、ルルは本当に後悔しない?」
「貴方のほうが、後悔しそうな顔をしています。死なないとわかったら、もっと手放しで喜ぶだろうと思っていたのですが」
「それは……」
覚悟を決めていただけに、突然『魂は取りません』っていうの、ちょっと拍子抜けというか。嬉しいよりは、ホッとしたっていうのが素直な感想。
それに、ルルにリスクがあるなんてわかったら、手放しでは喜べない。後悔、させたくない。
「だってさ。ルルはお弟子さんとかにも、もう会えなくなっちゃうんだよ? それとも向こうから来てもらえるとか?」
「……そういえば、貴方は私の弟子に会いたがっていましたね」
「え。う、うん」
かちりという小さな音がして、僕の髪に吹き付けられていた温風がやんだ。
ルルはクシとドライヤーを横に置いて立ち上がり、僕の前へ向かい合うように正座した。
え。ちょっと待ってよ。まさか今から連れてくるとか、そういう展開? 僕、殺されたりしないよな。そんな死に方は勘弁願いたいぞ。
「どうぞ」
「あ、写真か。大きいし堅いね。悪魔の世界の写真って、こんな……」
手渡された写真に映っていたのは、顔のない男だった。いや、あるにはあるけど認識できない。浴衣……着てる。ってこれ、写真じゃなくて鏡じゃん!
「髪型なんかおかしかった?」
ルルがセットしてくれた髪型を鏡を見ながら整えつつ、顔を上げる。
「会うことは不可能ですが、顔は見られましたでしょう? ああ、認識ができないのでしたね」
「は?」
僕は手鏡とルルの顔を交互に見比べた。
「なんの……冗談」
そうは言ってみたけれど、ルルが冗談を言うようなタイプじゃないのはわかっていた。
ルルはいつも通りの無表情。僕は言われた内容を、頭の中で整理する。何度考えても、ルルの言葉の意味は。
「ちょっと待って。混乱してるんだけど……。つまり僕は本当は悪魔で、ルルのお弟子さんってことなの? 僕はそれを忘れてる?」
「そうなります。悪魔にとっては人間でいう『風邪』のようなものなのですが……自分の中に世界を創り上げ、目覚めなくなって、こじらせると死に至るのです」
「つまりここは、夢の中? 僕は夢を見てるの?」
「人間のそれとは規模が違いますが、そう思っていただいて構いません」
匂いも、感情も、記憶も。過ごしてきた長い年月も。これがすべて、夢だというのか。
視界にうつるものすべてが、僕が創り上げたものなのだと。
「あ……。それで僕のことを、神って?」
「はい。この創られた世界では、貴方が強く願ったことが叶うのです」
「いや、いやいや。ちょっと待ってよ。願いが叶うも何も、僕の人生ハードモードだよ? 自分で創った世界でコレってマゾすぎじゃない?」
「それが、こじらせるということなのでしょう。貴方の好きなゲームで言うならば、目覚める条件はハッピーエンドを迎えることですから」
ハッピーエンド。
そうか。ルルが僕を幸せにしたいと言っていたのは、僕を……不肖の弟子を、目覚めさせるためだったのか。
「つまりルルは、僕を治しに来てくれたんだ。この、世界に」
「そのはず、でした」
膝の上で組まれたルルの手が震えてる。
正直、突然すぎる展開で頭がついていかない。ルルの存在そのものがファンタジーだし、旅館までの交通手段なんて空飛ぶじゅうたん。今更何が起こっても驚くようなことじゃないけど、自分という存在が足元から崩れていくこれとでは、話が違う。今の僕は創られた存在で、本当の僕は寝ているなんてさ。そして、それを思い出せすらしないんだ。
「……あのね、まだ混乱してるけど、なんとなくわかるよ。僕は目が覚めたら、この世界で起きたすべてのことを忘れちゃうんでしょ?」
「はい。つらい過去も、私と暮らした日々も、すべて」
たとえ作り物であっても、ここで過ごした日々は今の僕にとっては現実だ。それに僕が忘れても、きっとルルは覚えてる。
目が覚めた僕は、つらい過去もルルと過ごした時間もすべて忘れて、眠そうにおはようなんて言うんだろう。そんな僕を見て、ルルは涙を流すのかもしれない。
「確かにそれは、死ぬみたいなもんだよねえ」
思わずのんびりした口調で言ったのがいけなかったのか、ルルが無表情のまま、ぽたりと涙をこぼした。
「る、ルル……」
「願ってください」
「なっ、何を!?」
「私と一生……ここで暮らしていきたいと。目覚めたくないと、心の底から」
それが、今の僕が消えずに済む方法なのか。そんな話を聞かされたら、ルルに言われるまでもなく普通はそれを願うよね。だからこそ、ルルは今までそれを言わなかったんだろう。僕を『治す』ために。
やたらさっさと幸せにしようとしてたのは、早く僕の記憶を取り戻したかったから?
「で、でも、その。ルルは本当にそれでいいのかな。ある意味、弟子としての僕は死んだままになるってことじゃない? 今の僕は、まったく覚えていないんだから」
一番近いたとえをあげるなら二重人格の片方を潰すようなもの。どちらの僕を選ぶにせよ。
僕の中で眠っているかもしれない存在。でも、気配すらない。
確かにルルに対して親しみや懐かしさを感じることはあったけど、本当にそれくらいだ。
「……どう答えていいのか、わかりません。ただ、私は今の貴方を、失いたくない」
「ルル……」
こうして治しにきてくれるくらいだ。弟子だって言ってたし、愛情もあっただろう。好意を抱いてくれたきっかけも、そこにあるような気がする。
「情がわかないように、気をつけてはいたのですけれど。ダメでしたね」
話を聞かされてもピンとこないし、ほんっとに半信半疑でわかったことといえばルルの今までの行動理由くらいなんだけど。
ただ、とりあえず。今後どうするかはおいといて。
僕が幸せになっても、気の持ちようひとつですぐに死んだりはしないという重要な事実が明らかに。
そしてルルはこの箱庭の中で僕と暮らしてくれることを選んでくれたんだ。
「じゃあ、僕が……気の済むまで、一緒にいて?」
「はい。貴方が望む限り、ずっと」
そんなこと言われたらずっと望むし。というかコレ、プロポーズ、みたいじゃない?
「あ、あの。じゃー……。話も済んだところで、ルルを抱いてもいいかな」
ルルは可愛らしくこくんと頷いた。
「あっ、抱きしめたいって意味じゃなくて、セックスしたいって意味だよ」
「言い直されなくてもわかります」
「えー……」
この前まで通じなかったくせに。僕がいちいち言い直すから意味を学習したのか。
「ですが、こういう話をしたあとに、その……よく、する気になれますね」
「どーして? 言っとくけど、一度は死ぬ覚悟までしたんだから、ルルがやっぱり僕なんか好きじゃないとか、えっちなんてしたくないとか言わない限り、僕にとっては何を言われようが些細なことだから!」
「さ、些細な……こと、ですか?」
ルルは僕の言葉に少し目を見開いて、それからくすりと笑った。
「貴方のそういうところも好きですよ。面白くて」
隠し事が暴かれた今なら、その言葉もようやく素直に受けとめられる。
何しろあれだよ、ルルは今の僕を。今の僕を! 選んでくれたんだからさあ!
まあ……相変わらず、少しも楽しそうではない表情なんだけど、面白いと思ってくれていたのか。
ちなみに僕自身は面白いことを言っているつもりはまったくない。
している話はヘビーでも、僕らは布団の上で見つめあって愛を告白しあってるわけ。その気にならないほうがおかしくない?
……ちょっと愛の告白っていうには、軽い言い方だった気もするけど。
「僕のこと、ほんとに好き?」
「はい」
「もっかい言って!」
「貴方のことが、好きです」
「僕も、ルルのこと好き。大好き」
傍にいるのに手が出せない。そんな日々をどれだけ耐え抜いたことか。
ようやくルルの……深いところに触れられる。
近づけた唇は僕が押し当てる前に重なった。
キスだけならもう何度もしたけれど、何回目になってもドキドキする。
「はふ……。ちゅー気持ちい……」
舌が口の中の柔らかい粘膜に触れると、腰の下あたりからぞわぞわした快感がかけあがる。
ルルが僕の眼鏡を外して、更に深く入り込んできた。
積極的なルルとかヤバイ。嬉しい。求められてる気がする。
でも、できたら主導権は僕が握りたい。だって僕がルルを抱くんだもの。
キスの合間に、えいやっとルルを押し倒すと浴衣がしどけなく乱れ、長い髪がさらりと布団の上に散った。白い肌にほんのり朱が透けて見えるような気がするのは湯上がりだからなのか。
ああー……。もうこの姿を見ているだけで、僕イキそう。
「ルルが僕を好きになってくれたなんて、本当に夢みたい」
首筋にキスをすると、ルルがくすぐったそうに身をすくめた。
「夢ではありませんよ……タツキ」
ルルが、僕の。僕の名前を、呼んだ。完全に不意打ち。
「あ……」
そう。好きになったら僕のことを名前で呼んでって約束した。
好きだとは言ってくれていたけど、実際に呼ばれたのはこれが初めて。
凄い。たかが名前なのに、こんなにも特別に響くものなんだ。
「また、泣くのですね」
「だって……ル、ルルが……。僕の名前、呼んでくれ、たから……」
ルルが下から指先を伸ばして、僕の涙を拭って舐めた。
「貴方の涙は甘い気がします」
「う、嘘だあ」
「確かめてみますか?」
誘われるように口づけると、本当に甘かった。でも、これは涙の味じゃなくてルルの唇だからだと思う。
キスの甘さにくらくらしながら、ルルの肌をまさぐる。
……いつもひんやりしているルルの身体が今日は温かい。
舌で舐めてみたら、ようやくいつもの冷たさを感じた。
「ルルの身体のほうが、甘い。どこを舐めても……」
お返しとでもいうように、ルルが僕の首筋にキスして舐めた。
「タツキの身体も、甘いです」
「ッ……。き、気持ちよくするから! ルルのこと、たくさんたくさん。そんで、僕が君を幸せにするっ」
「はい」
いつも聞くその短いフレーズは、いつもと違ってとっても甘い。
ただ。どこに触れても舐めてもルルの反応は薄くて当然のように勃たなくて、まあ現実はそう甘くないなと思った。
「こ、こういうのはさあ、僕のことを好きだって自覚したら、感じるようになるものなんじゃないのかな……」
「感じていますよ」
「ほんと!?」
「……幸せは」
「それは凄い嬉しいけど、今違うから! 感じてほしいの快感的な気持ちよさだから!」
「別に私が気持ちよくなくても、挿れて擦って出せばいいと思うのですが」
真顔で言われると突き放されているような気がして悲しくなるのに、大胆すぎる台詞に下半身は反応しちゃう悔しい。挿れて擦って出したいです。
でも、身体はそれで満足するとしても、心までそうはいかない。
「良くないよぉ……。僕はルルにも気持ちよくなってほしいもん」
「私も同じですよ。貴方が私の身体で快感を得る姿を見ることができるのなら、私も気持ちよくなれる気がするのです」
「ほんとに?」
ルルが目を逸らした。相変わらず嘘が下手。
触ってもないのに張りつめて痛そうな僕のチンコを哀れに思ってくれたんだろう。
僕のことを想ってくれるのも嬉しいし、こんな状態の時にこんなふうに誘われたら、もう……正直、我慢の限界。
「ごめん。挿れる」
「どうぞ」
ルルが入りやすいように足を持ち上げる。ろくに慣らしていないのに、そこはじっとりと濡れてひくついていた。
あまりのやらしさに視界が沸騰したみたいにゆらめく。考える前に身体が本能に従って動いた。
僕の熱がルルの中にずぶずぶと飲み込まれていく。そこは僕を溶かすように甘く受け入れた。ねっとりと絡みつく肉襞に、腰が引けそうになる。
……気持ち、良すぎて。
「は、あ、あっ……。ルル……。ルル」
「ご主人様、気持ち良さそうで可愛いです」
「う……、んんっ。ほっぺ撫でたらダメ。も、出ちゃう……」
ルルを気持ちよくさせたいのに、僕、僕ばっかりこんな、恥ずかしいとこ見せて、翻弄されて。
ああ。でも気持ちいい。気持ちい。
「あっ、ルル……!」
ほんと、秒殺。まだ全然擦れてない。絞り取られるみたいに吐き出して、そのまま中に出しきった。
「あー……。ごめん」
「意外と早く終わるものなのですね」
なんという追い討ち。
僕は力尽きて、入ったままルルの上に倒れ込んだ。
ルルが宥めるように、僕の頬にキスをしてくる。
そ、それくらいでごまかされたり……。
「もう少しご主人様の気持ちよさそうな顔を見ていたかったので、残念です」
何これ可愛い。宥められちゃう。我ながらちょろすぎ。
「僕が気持ちよさそうだと嬉しいの?」
「はい」
「ルルー!」
愛を感じて嬉しくなって、ルルをぎゅうぎゅう抱き締めた。
「あっ、でも気持ちよくはなれなかったんだよね。ごめんね」
「ここは貴方の世界ですので、異物である私には制限がかかっています。感覚が鈍いのはそのせいもあるのでしょう」
「じゃあ、ここを出たら超敏感でアンアン喘いじゃうような感じのルルが!?」
「どうでしょうか。性的接触をしたことがありませんから、なんとも……」
この顔でこのルックスで僕より年上でハジメテって。何度聞いても衝撃的だしグッとくる。
そういうルルが乱れる姿がすっごい見たいな。僕の想像力に従って制限がかかっているなら、意識的にどうにかないなんのかな。
「っ……や、ご主人様」
「えっ?」
ルルの中が急に動いて、入ったままの僕のモノをしめつけた。
「うぁ、ルル、急に締めないで……ッ」
「ん、ん……。は……。こ、れはやめてくださいと、言ったじゃ、な……いですか」
えっ。これ、ア、アレ!? 僕がルルに感じてほしいって願っちゃった的な!?
「ぼ、ぼんやりとは、思ったけど……そんな、強くは……」
ルルがはあはあ息を荒げながら僕の腕にすがりつく。正直たまらない。
深く願わなかったなんて断言できる? だって僕は、もうずっとこんなルルが見たくてしかたなかった。
でも同時に恐れもあったし、ルルが元の世界に帰れなくなってるかもしれない今、ルルの身体に負担はかけさせられない。どちらかというと、こっちの想いが欲望を上回ってると思う。
屋上から逃げ出そうとした時だって、ルルに空へ放り出されるまで空を飛べなかったくらいなんだぞ。ちょっと思っただけで、ルルがこんな状態になるなんてこと。
「あっ、そうか! きっと一回やったことで、ルルの感度がめちゃくちゃ上がったんだ!」
「い、いえ。さすがに……。んっ。そんなことは、ないと思います。触られてもいないのに、全身を舐めまわされてれるような……、かん、かくが」
ねっとりとした大きな舌で全身を舐めまわされるルルを想像して、反応しかけていた僕のチンコは見事に限界値へ。体積が増した分、締め付けや震える内壁の動きが伝わってきて腰が砕けそうになった。
「すご、ルル……。っ、さっきと全然違うよぉ。僕、またイッちゃう。中に出しちゃ……」
「あ、あっ、あッ……。う、動かさないでください」
ルルが足で、僕の腰を固定しようとする。でもそれ、多分逆効果。それに、僕を離したくないって言ってるようにも思えて。
あー。これ、だいしゅきホールドってやつか。身体の気持ちよさに加えて、胸の奥からギュッとくる。
もっと、ルルの中、かきまわしてぐちゃぐちゃにしたい。だしたい。中で全部。深い奥のところで……。
さっき一回出しているせいか、すっごいエッチな音がする。
ルル、可愛い。色っぽい。普段あまり表情を変えないルルが、唇を噛みしめたり眉根を寄せたり頬を染めたりしてる様は本当にたまらない。中は僕のを吸ってるみたいにぎゅうぎゅうしてくるし。気持ちよくてとろけそう。
「も、や……嫌です」
「ごめんね、ルル。ごめん」
謝りながらも腰を押しつけてしまう。ルルが固定してるからガンガン突くことはできないけど、多分動けたとしても腰が引けてゆっくり中をかきまぜるくらいしかできなかったと思う。
さっき一度イッたばかりなのに、正直もうヤバイ。今度はルルも早く僕が出してくれたほうが助かるって思ってるかも。だから平気って、そんな言い訳が頭を掠める。
少しだけ堪えたあと、結局すぐにルルの中へ吐き出した。
多分量はさっきより少ないけど、全部注ぎ込む。ルルが僕のモノになったような気がした。
「はぁ、は……。ルル、平気? 身体、おさまった?」
「はい……」
ルル涙目だ。可愛い。
目元にちゅっちゅっとキスをすると、身体が震えた。
僕が射精する間にルルは何度出したのか、お互いのお腹の間は漏らしたようにびっしょり濡れている。
僕も3分もったか、もたないかくらいだったから、ルルは相当なペースで……。余裕なかったけど、もっとちゃんとイクとこ見たかった。
でも、やっぱり相当体力を消耗したみたいで、かなりぐったりしている。
「ま、また勃っちゃうといけないから、今度は抜いておくね」
さすがにこれ以上はルルの身体がヤバそう。僕はまだまだイケるけど。
名残惜しさを覚えながら萎んだソレをルルの中から引き抜く。
「っ……」
「感じちゃった?」
「いえ……。平気みたいです」
平気って言われるとちょっと微妙だな……。いや僕もエロ的に言ったわけじゃなく、ルルの身体を気遣っただけだからいいんだけど。
でも、もう不感症に戻ってるってことは……ちゃんとしたセックスがしたいなあって思ったから、僕がイッたらルルもおさまったってことなんだろうか。
わー。でも、凄い感動。なんだかんだでちゃんとセックスできたし! 脱童貞だし!
「あ。これで魔法使いじゃなくなって、ルルが消えちゃったりなんてことは」
「魔法使い、ですか?」
「なんでもない、なんでも」
「ご主人様は……一応は、ここでは人間ですよ」
真面目に答えてくれてるとこ申し訳ないけど、僕の発言はそういうアレではないんだよぉぉ。
30まで童貞だと魔法使いになれるっていう、慰めみたいな開き直りみたいな、都市伝説的な。
僕はルルの上から身体を退けて、隣の布団へ身体を投げ出した。
ルルが甲斐甲斐しく、僕のお腹を拭き始める。
「ふふ、くすぐったい」
この前はぶっ倒れたのに今回は僕のお腹を拭く余裕があるんだなあと思いながら横を見ると、酷い顔色をしていた。
「ちょっ、いいよ。少し横になってなよ!」
「ですが、汚してしまいましたから……」
「いいって、気になるなら僕が拭くから」
いつもなら断られただろうけど、ルルは実際かなり憔悴していたみたいで、おとなしく身体を横たえる。
やっぱり、少し……熱もあるみたい。上気した肌に潤んだ目とかヤバイなー。それにこの、後始末ってエロイ。エッチしてる人たちはみんなこんなことしてんのかな。あっ、僕がゴムつけなかったからか。
ルルは女でもないし人でもないから失念しちゃってたけど、ちゃんとしなきゃダメだったかな……。
「ありがとうございます」
「ん、僕こそ……。凄く気持ちよかった」
浴衣は前だけはだけた状態だったから、閉じてあげれば見た目だけは取り繕える。まあ、帯とかおかしいし、生地に皺はできてるし見える肌にはキスマークだらけと、ナニかあったことは一目瞭然なんだけど。
「幸せになれましたか?」
「すっごく!」
「私も、幸せですよ」
は、と少し苦し気な息を吐き出しながらも気持ちを伝えてくれるルルにきゅんとする。
えっちできたことも幸せだけど、こうして二人でまったりできるのが何よりかも。
本来ならピロートークなんてできなかったんだろうし……。
「やっぱり、ルルに聞かされてなかったら、これ僕死んじゃってたの? あんまり、こう、現実味がないんだよね」
だって僕はぴんぴんしてるし、むしろルルのほうが虫の息で不安になってくる。
「死ぬ……というと語弊がありますが、貴方の意識は消えていたと思います」
「そっか。でも、ここって僕が創りあげた世界なんでしょ? なんでわざわざ人生ハードモードにしたのかなあ。30まで童貞とかさあ」
そのおかげでルルに会えたからいいけど、わざわざ自分が不幸になる場所でひきこもるなんて、元の僕はどんだけマゾなんだよって話。このあたりに違和感を覚えるから、ストンと落ちてこないのかも。僕にとっては、これが現実でしかないってことも、もちろんあるけど。
もし僕がイケメンハイスペックでモテモテなお金持ちだったりしたら、確かに漫画みたいな人生だし都合よく作られた世界なのかもって素直に思えた気がする。
「この病気にはストレスが深く関係していて、創り上げた世界で幸せになることで『気が済む、晴れる』のだろうとされています。こじらせなければ、どこかで逆転劇が始まったのではないでしょうか?」
「逆転劇……なんだかゲームみたいな展開」
実際、創り上げたというならこの世界そのものがゲームみたいなものなのかもな。クリアしたことを忘れてしまうなんて寂しいけど。とか考えるから、こじらせてしまったんだろうか。
「元々の貴方も、そういうのが好きでしたからね」
「ゲームとか?」
「はい」
「……あの、もしかして、ルルが前に言ってたゲームや漫画を好きな知り合いって」
「貴方のことです。この世界を創る前の」
や、やっぱり。
なんだこの、弟子も僕だし知り合いも僕で、もう全部僕みたいな。
「引きこもった中でもゲームや漫画ばかりとは。本当に情けない」
「な、なんかごめん」
ルル、ちょっと僕に対してあたりが厳しくなったな。僕を幸せにする必要がなくなったからか……。いつもは従順なのに、今日はそれこそ親とか師匠みたい。
「あの……僕はもう、幸せになっても、ずっとこの世界に居られるのかな?」
「はい」
「なら、もうルルが僕を幸せにする必要はないってことだよね」
「そうなります」
「じゃあ、どうして僕とセックスしてくれたの?」
無表情なルルの顔から、更に表情が消えた。
「それは、私に言わせたくて尋ねているのでしょうか。それとも素ですか?」
「言わせたくて?」
「必要はなくても、理由ならあるでしょう」
「理由?」
「……貴方は私を幸せにしたいと言ってくれましたが、その理由を教えてください」
「何言ってるの。そんなの愛してるからに決まってるじゃん!」
躊躇いなく口にしてから、ようやくルルの言った『理由』に気付いて腹の奥から燃え上がるような熱と感動が沸き上がってきた。
何これジワジワ凄い……。というか、ハッキリ言われるまでわからないって僕どんだけ鈍いんだ。ルルのことを笑えないぞ。
片想いだと思ってた時間、長かったしなあ。ルルが僕のことを好きだなんて、今だって夢でも見てるみたいで……。
「それってつまり、僕のことが好きだからってこと?」
「はい」
「ちゃ、ちゃんと言葉で言って」
「……好きだから、幸せにしてさしあげたいです」
「うわあああー! ルル、大好きぃー!」
ぎゅうぎゅう抱き締めると、ルルが苦しそうにケフッと咳をした。
「あっ、ごめん。身体、まだつらい?」
「そうですね。ここは貴方の世界ですから力が戻りにくくて……」
「もしかして、それでエネルギー切れ起こしたり、得意じゃないことが多かったりしたの? 落ちこぼれじゃなかったんだ……」
「貴方の口からそれを聞いた時は酷い衝撃をうけました。病気の弟子を助けにきた私に対してこの台詞かと」
「ご、ごめん」
落ちこぼれって言った時はぶっ倒れちゃったし、不出来な弟子に言われて本当にショックだったんだろうな……。
「今日は謝ってばかりですね」
「だって、色々迷惑かけてるし。きっと僕が知らないところでも……。ううん、僕が今の僕じゃなかった時から、ずっとそんな感じだったんだろうなって」
実感がないとはいえ、ルルから見たら同じ僕である以上、申し訳ない気分になってくる。
僕がしょげつつ縮こまっていると、ルルが身を起こして額にキスをしてくれた。
「貴方にかけられる迷惑は、嫌いではありませんよ」
「でも、結局は迷惑なんでしょ?」
「ではない、とは言えませんが……。まあ、いい意味で刺激的ですし。色々と」
それは今のことなのか。それとも過去のことなのか。
ルルの心境は凄く複雑なんだろうなとは思う。僕はそれを想像することしかできないけど、すっごく愛されてるなっていうのは、ようやく実感できた。
「身体、平気になってきました」
「ほんと? 良かった」
ルルが僕の頬から顎までを優しく撫でる。そのまま猫にでもするように喉をちょいちょいとさわられて、背筋が伸びる。尻尾があったら、きっとピーンと真っ直ぐになってると思う。
「このままもう少し、ゆっくり寝ていますか? それとも、せっかくですから花火でもしましょうか」
どちらもかなり、魅力的なお誘い。
年代を感じさせる古めかしい旅館の庭で花火とか、漫画や映画で見るような雰囲気を味わえそう。まさか自分で体験できるとは思わなかった。
でも……。
「明日もあるし、今日はこのまま寝ようよ。ルルも疲れたでしょ」
僕はごろんと横たわって、ルルの膝に顔を寄せた。
「そうですね。もう、急ぐ必要はないですから」
「うん。また、明日……」
次の約束ができる幸せ。
魂を取られるなんてこともないし、ルルが帰ってしまうこともない。好きな人が僕を好きでいてくれる。
あまりにも都合が良すぎて、それこそ僕の力が働いてるんじゃないかって……不安に、なる。
だってルルは、僕の世界だから力に制限が出るんだろ? なら、感情にも影響が出てる可能性は充分あるじゃないか。
気づいてしまった不安を、ルルに告げることはできなかった。話したら我にかえってしまうかもしれないと思うと怖かった。
「眠いですか?」
「少し」
本当は興奮と不安で眠れそうにはなかったけれど、嘘をついた。
僕は、ルルが好きだ。どうしようもなく。これだけは揺るぎようのない真実だ。
「眠りたくないとか、夜が明けなくていいとか願ったら、その通りになるのかな」
「世界がひっくり返るようなことはできないと思います。ですが睡眠のほうは、気合い次第でかなり起きていられるのでは?」
「気合い……。気合いか。空を飛ぶのも、死ぬ間際になってやっとできたもんね」
しかも夜には地獄の筋肉痛。僕が作った世界なのに、ままならない……。
まあ、自力で治せず師匠が助けに来るような、不肖の弟子が創り上げたんだもんな。しかたないか。
「眠いなら、無理せずゆっくり寝ましょう。それとも、やはり花火をしますか?」
「い、いいよ。たとえばで言ってみただけだから!」
ルルにいらん気を遣わせてしまった。
僕は隣の布団の中にもぞもぞと潜り込んで、ルルを呼んだ。
「そっちの布団汚れちゃったし、こっちで一緒に寝よう」
力を使って綺麗にするには、きっと疲れすぎていたんだろう、おとなしく僕の隣におさまった。いつもの無表情が緊張しているように映って、思わず喉を鳴らした。
ああ……なんか、やらしい。僕の布団に入ってくるルルとか。
「狭くはないですか?」
「むしろもっとぎゅっとくっついて寝たい。でも、ルルのほうが寝にくいかな?」
「……いえ。今日は私も……貴方を抱きしめて寝たい気分ですから」
肩を抱き寄せられた。腕枕とか、彼氏力高いんですけど! むしろ僕がするべきでは? 閨での立場的には。でもときめいちゃう。こんなの興奮して眠れないというか、寝たくない。ずっとこうして、寝顔を見ながら体温を分けあっていたい……。
そう考えた僕の気合いは全然足りてなかったらしく、5分も立たないうちに意識が遠のいた。
応援ありがとうございます!
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