300年狩られ続けた《禁忌》持ちの令嬢は、三日で処刑を覆す。

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第七話

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「やめて......もうやめてちょうだい......」
オデットの声は、もはや懇願だった。
床に膝をついたまま、両手を胸の前で組み合わせ、震える声で訴える。涙が頬を伝い、顎から滴り落ちた。床に小さな染みができる。
「オデット様......」
傍聴席の貴族たちが、嫌悪を隠さない声で囁き合った。
それまでは驚愕と困惑が支配していた空気が、今や軽蔑と嫌悪に変わっている。
「あれほど優雅で聡明な方だと思っていたのに」
ある貴婦人が、扇で口元を隠しながら囁いた。その目には、明らかな軽蔑の色が浮かんでいる。
「妹への嫉妬で、ここまで堕ちるとは」
別の貴族が、首を横に振った。
「モンフォール家の恥だな。名門の名が泣くというものだ」
その言葉の一つ一つが、オデットの心に突き刺さっていく。
オデットの顔が、さらに青ざめた。唇が紫がかり、まるで凍傷にかかったかのような色になる。
これまで築き上げてきた評判。
優雅な令嬢として。宮廷魔導師として。モンフォール家の誇りとして。
その全てが、音を立てて崩れていく。積み上げてきた塔が、一瞬で瓦礫の山に変わる。
「それだけではない」
アクセルの冷徹な声が、再び響いた。
彼は従騎士から手紙の束を受け取り、リボンを解いた。羊皮紙が擦れる音。最初の一通を手に取り、開く。
「この往復書簡には、お前とジャン・デュボワの共謀が詳細に記されている」
アクセルは手紙を掲げて見せた。
「読み上げようか?」
「や、やめて!」
オデットが叫んだ。
顔を上げ、必死に手を伸ばす。しかし距離があり、届くはずもない。ただ空を掴むだけ。
だがアクセルは容赦しなかった。
冷たい灰色の瞳で手紙を見下ろし、淡々と読み上げ始めた。
「『エリーズを処刑すれば、父の全財産は私のものになる』」
その言葉に、法廷の空気が一変した。
「『あの子は母の血を引いているというだけで、特別扱いされてきた。魔力もないくせに、なぜ父はあの子ばかりを可愛がるのか』」
アクセルは一拍置いて、続けた。
「『許せない。あの子さえいなければ、全ては私のものだったのに』」
傍聴席がざわめいた。
「財産目当てだったのか......」
「なんという浅ましさ」
「実の妹を殺そうとするなんて......人として終わっている」
囁き声が波のように広がっていく。オデットに向けられる視線は、もはや同情のかけらもない。ただの軽蔑と嫌悪だけが、そこにあった。
「続きがある」
アクセルは次の手紙を開いた。インクの文字が、蝋燭の光に照らされて浮かび上がる。
「『ジャン、あなたも協力すれば書庫の管理官補佐に推薦する。給料は三倍だ』」
ジャンの体が、ビクリと震えた。
「『それに、フィリシア様の婚約者候補を脅迫で外した件も、私が揉み消してあげる。心配しないで。全て上手くいくわ』」
その瞬間、ジャンの顔から血の気が完全に失せた。
蒼白を通り越して、灰色に近い色になる。
「ひっ......」
喉の奥から、小さく悲鳴のような音が漏れた。
「ジャン・デュボワ」
アクセルの視線が、今度は鋭くジャンに向いた。
獲物を捉えた猛禽のような、容赦ない視線。
「お前は男爵家の三男、エティエンヌ・ド・ボーモンに賄賂を渡し、フィリシア様の婚約者選考から降りるよう脅迫した。そうだな」
ジャンは騎士に両脇を抱えられたまま、激しく首を横に振った。
「ち、違います! それは......誤解です! 私は何も......」
言葉が震え、途切れる。額から汗が噴き出し、首筋を伝って襟元を濡らしていく。
「証拠はある」
アクセルは感情を排した声で告げた。
「エティエンヌ本人から証言を得ている」
従騎士が、別の書類を取り出した。封蝋が施された、正式な証言書だ。
「彼はお前に脅され、泣く泣く選考を辞退した」
アクセルは証言書を開き、一部を読み上げた。
「『ジャン・デュボワは私の弱みを握り、それをばらすと脅迫してきた。私はフィリシア様を心から慕っていたが、家族を守るため、選考を辞退せざるを得なかった』」
証言書が裁判長に渡される。裁判長はそれを受け取り、目を通した。顔が険しくなり、深く眉をひそめる。
ジャンの膝が、がくがくと激しく震え始めた。もはや自分の体重を支えることができず、騎士にしがみつくようにして立っている。
「あ......あぁ......」
言葉にならない音が、口から漏れた。
「さらに」
アクセルは容赦なく続けた。
「お前は書庫の蔵書を横流しして金を得ていた」
別の従騎士が、黒い帳簿を取り出した。
「古文書を闇市場に売り捌いた記録が、お前の帳簿から見つかった。一年間で三十冊以上。総額にして金貨五百枚相当だ」
帳簿が開かれ、そのページが法廷に見せられた。細かく記された数字と日付。売却した書物の名前。取引相手の名前。
全てが、ジャンの犯罪を証明していた。
「うわああああ!」
ジャンが絶叫した。理性が崩壊したかのような、獣じみた叫び声。
「やめてくれ! もう許してくれ! 私は......私は生きるために......!」
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっている。みっともなく、哀れで、誰も同情しようとは思わない姿だった。
「許すかどうかを決めるのは、俺ではない」
アクセルは無表情のまま、裁判長を見た。
「グレゴワール伯。判決を」
裁判長は深く、深く息を吐いた。その吐息には、疲労と失望が滲んでいた。
木槌を手に取り、しばらく見つめる。その重みを、改めて感じているかのように。
「......オデット・ド・モンフォール、ジャン・デュボワ」
裁判長の声が、法廷に響いた。厳格で、重々しい声。
「お前たちの罪は明白である」
木槌が持ち上げられる。法廷全体が、息を呑んだ。
そして木槌が、重く叩かれた。
――ゴン。
その音が、法廷の隅々まで響き渡る。
「王太子妃候補への呪詛、証拠偽造、無実の者への冤罪、公文書偽造、横領、脅迫」
裁判長は一つ一つの罪を数え上げた。
「これらの罪により、お前たちを――」
最後の一拍。全員が、次の言葉を待った。
「死刑に処す」
宣告。法廷に、裁判長の声が響き渡った。その瞬間、オデットの目が見開かれた。
「ひ......」
声にならない悲鳴。
「いやああああああ!」
絶叫。
金切り声が、法廷中に響き渡った。
完璧だった計画。築き上げた地位。優雅な令嬢としての評判。宮廷魔導師としての栄光。
全てが、一瞬で崩壊した。灰となって、風に吹き飛ばされていく。
「お、お父様! お父様、助けて!」
オデットは床から這い上がろうとして、傍聴席に向かって手を伸ばした。涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃ。髪は乱れ、ドレスは床の埃で汚れている。かつての優雅さは、もうどこにもなかった。
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