300年狩られ続けた《禁忌》持ちの令嬢は、三日で処刑を覆す。

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第十四話

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「いいのか。危険だぞ」
アクセルの声には、わずかな躊躇いが滲んでいた。
「大丈夫です」
私は頷いた。もう迷いはない。
「アクセルが一緒にいてくれるなら、怖くありません」
アクセルの表情が、ほんの少しだけ和らいだ。厳格な顔立ちに、柔らかな光が差し込む。
「......そうか」
そして、照れたように視線を逸らしながら、小さく付け加えた。
「頼りにしてくれて、嬉しい」
その不器用な言葉に、私の胸が温かくなった。
この人は、本当に素直じゃない。
でも、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも優しい。
「じゃあ、作戦を立てよう」
アクセルはテーブルに地図を広げた。王宮の見取り図だ。書庫、秘宝庫、主要な通路が細かく書き込まれている。いつの間に用意していたのだろう。
「まず、リュシアンが次にお前に接触してくる時、お前は協力することを承諾する」
指が地図上の秘宝庫の位置を示す。
「はい」
私は真剣な表情で頷いた。
「そして、奴が何を要求するか確認する。おそらく秘宝庫への侵入を手伝わせるはずだ」
アクセルの声は低く、冷静だった。まるで戦場で作戦を練る将軍のようだ。
「私が、秘宝庫に......?」
秘宝庫は王家の至宝が眠る場所だ。厳重な警備と魔法障壁で守られており、限られた者しか立ち入れない。
「お前は管理官補佐だ。書庫だけでなく、秘宝庫への立ち入り許可も申請できる。リュシアンはそれを利用するつもりだろう」
なるほど。だから私を選んだのか。
私の地位と、『真実ノ眼』の力。その両方が、リュシアンの計画には必要不可欠なのだ。
「奴がお前を秘宝庫に連れて行ったら、俺が尾行する。そして現場を押さえる」
アクセルの指が地図上を滑り、秘宝庫への経路を辿る。その動きは迷いがなく、既に何度もシミュレーションしているようだった。
「でも、秘宝庫は厳重に警備されているはずです。アクセルが侵入できますか」
私は不安そうに尋ねた。いくら辺境伯とはいえ、秘宝庫は別格だ。

「できる」

アクセルは揺るぎない声で答えた。深い蒼の瞳が、静かな自信に満ちている。
「俺は辺境伯だ。王宮内のほとんどの場所に立ち入る権限がある。それに」
アクセルは懐から小さな紋章を取り出した。銀色に輝く、翼を広げた鷲の紋章。
「これは王直属騎士団の紋章だ。俺は北方の治安維持のため、この騎士団にも所属している。これがあれば、秘宝庫にも入れる」
さすがアクセル、抜かりがない。

「では、三日後にリュシアンが来たら......」
「お前は協力すると伝えろ。そして奴の指示に従え。俺は影から見守っている」
アクセルは私の肩に手を置いた。大きな手のひらから伝わる温もりが、不思議と心を落ち着かせる。
「安心しろ。絶対に、お前を守る」
その眼差しには、揺るぎない決意があった。嘘も誇張もない、純粋な約束。
「......ありがとうございます、アクセル」
胸が熱くなる。この人が傍にいてくれるなら、どんな困難も乗り越えられる気がした。
「礼はいらん。これは、俺がやりたくてやっていることだ」
アクセルは少しだけ照れたように、視線を逸らした。耳が、ほんのり赤くなっている。
そして、ぽつりと呟いた。
「お前を、泣かせたくないからな」
その言葉に、私の胸が高鳴った。

この感情は、何だろう。
温かくて、切なくて、でも嬉しい。
友情とは違う、もっと特別な何か。

「アクセル」
「ん?」
アクセルが無表情のまま、首を傾げる。その仕草がどこか可愛らしい。
「あなたは、どうして私をそこまで......」
言葉が、上手く続かない。聞きたいことは山ほどあるのに、何から聞けばいいのか分からなくて。
「お前の母親との約束だと言っただろう」
アクセルは相変わらず無表情のままだった。でも、その声は少しだけ優しかった。
「それに」
少しの間を置いて、アクセルが小さく付け加えた。
「お前は、俺が守りたいと思った初めての人間だ。それだけだ」
守りたいと思う人間。
その言葉が、心に深く刻まれた。特別な響きを持って、胸の奥に沈んでいく。
初めて、と彼は言った。
私が、この人にとって特別だと。
「......私も、アクセルを信じていますから」
声が震えそうになるのを、必死で堪える。
「ああ」
アクセルは満足そうに頷いた。その横顔は相変わらず無愛想だが、どこか穏やかだった。
そして、私たちの反撃が始まった。
リュシアン・ド・ヴァロワの野望を打ち砕くための、静かな戦いが。
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